アヴェンジャーとセイバー、ランサーが浅草で戦い始めたころ。それを傍観している一組の主従があった。
ライダーとアカツキである。
「天才結界師、吉川糸美ちゃんも忘れてもらっては困りますよ!」
「頭が決壊してんじゃないの?」
アカツキは鳩に話しかける。最初こそ吉川は拠点でおとなしくしていると言っていたのだが、ごねた結果使い魔を出して結局アカツキたちと行動しているのだ。
「まあまあ、お二人とも。そろそろ始まるみたいですよ」
ライダーは酒と思しき何かと奇妙な缶詰を差し出してくる。
「何これ?」
「薬用エタノールとスールストロミング…?読めませんね」
「私気になります!」
「ライダー、絶対開けないでね。あと、吉川さんは余計なこと言わないで」
アカツキは段々雑になるツッコミにやや自己嫌悪を覚えつつも、頭の中で考えてしまう。ライダーの持っている缶詰はどこから見つけてきたのだろうか?もし、本物ならば武器として使ったほうがいいんじゃないだろうか。如何なサーヴァントでも悪臭で悶絶することだろう。
「あと、天丼はやめた方がいいと思うよ」
「食事だけに?」
「うまいこと言ったつもりかもしれないけど、全然うまくないからね」
「それも、食事だからですか?」
アカツキは鳩に銃を突きつける。鳩は引きつった笑いを出しながら、冗談ですよと返してくる。魔術師と言えども、然るべき手順を踏めば死ぬし、死への恐怖がある。それを知れただけでこのやり取りは有意義だったのだろう。
そう思わなければやってられない。
「まあ、茶番はその辺にしておいて。そろそろ始まるみたいですよ」
お前が言うか、というツッコミを飲み込んでアカツキはセイバー達の戦いを見る。最初こそ、セイバーと鼠色のスーツの男たちがアヴェンジャーと呼ばれる鬼の奇襲によって追い込まれていたが、すぐに彼らが反撃に出る。
「天から降ってくる鉄の雨。そして、それを切り払う鬼」
それは正しく、異形とはいえ神話の戦いだった。瞬く間にも、周囲のビルの廃墟が崩れ、砂塵が舞う。
「ライダー、どう思う?」
アカツキは尋ねる。彼もこうした戦闘の数をこなしてきたが、しかし、これは彼が経験してきた如何なる戦争の形とも異なる。
「いい酒のつまみになりますね。…冗談です。だから、右手を翳すのはやめてください」
ライダーは一回咳払いをして話し始める。
「私も真面目な話驚いているんですよ。ガチな神秘と神秘のぶつかり合いなんて初めて見ますし」
彼は二十世紀後半のサーヴァント。確かに彼は呪術師の家系ではあったが。ここまでの代物は見たことはない。
「だから、そういう方面の話は吉川さんに譲るとして、私は戦術面をお話ししましょう」
「わかりやすく頼むよ」
変な話、アカツキは戦闘は理解していても、戦術はからきしだ。だから、いい勉強になるかもしれない。
「まず、ランサー?と思しきサーヴァントによる砲撃はそれだけで強力ですね。当たれば即死の上、的確に相手を狙っている。そして、傭兵たちはサーヴァントを攻撃していますが、アレは明らかに何かの狙いを持ってやっている感じですね」
ライダーが生前率いたゲリラ部隊ではやれない、正規軍だからこそできる動きだ。惚れ惚れする。
「それで、今の俺らで勝てるの?」
「まあ、無理でしょうね」
彼は盃を呷る。乗騎を召喚して、更にアカツキの残った仲間を集めても勝てないだろう。練度が違いすぎる。アカツキを狙い打たれて終わりだ。
「ただ、ランサーの火力が大きすぎますから、あの鼠色のスーツの男を捕縛できれば交渉に持ち込めます」
そこまで行くのが難しいでしょうが、とライダーは付け加える。とはいえ、仮に交渉でランサーを奪取なり、なんなりできたら大きなアドヴァンテージになるだろう。
「いずれにせよ、今は戦いを避けた方が賢い」
「とりあえず、大体わかった。…それで、大して期待してないけど、吉川さん、何か情報ある?」
「流石に、失礼すぎませんか!この現代魔術科の屈指の天災に対して!」
「それはひょっとしてギャグで言っているの?」
アカツキは鳩を見ながら話す。鳩には本来表情というものはないはずだ。ところが、吉川の使い魔たる鳩はそれがあるように見えるから不思議なものだ。
「…と言っても、私がお教えできることはそんなにないんですよね」
彼女はそう前置きをしつつも、ランサーの正体が恐らくは軌道衛星の類であることを話す。
「次にアヴェンジャーですが…。まあ、倒されるので別に解説しなくても」
「さらっとひどいこと言うね」
「多勢に無勢。今はどうにか互角に戦ってますが、勝つことは難しいでしょうね」
ライダーはそう話す。逆に言うと、一時的とはいえ同盟を押し返せるアヴェンジャーの身に宿った神秘の濃さはすさまじいものがあるということだろう。
だが、しかし。
「それよりも姿の見えないセイバーが気になるんです。アカツキさんの言っていたステータスが真実ならば、かなり霊格の高い英霊だと思うんですよね」
かつての騎士王やギリシャ最大の英雄をも凌ぐステータスの高さ。それ即ち、主神クラスの神霊サーヴァントなどが可能性として考えられる。
「でも、そんなこと可能なの?」
「無理ですね」「無理でしょうね」
異口同音に否定するライダーと吉川。神霊そのものの召喚はまず無理として、次善の策として依り代を使ってのそれがある。だが、これもかなりの条件がそろわないと難しいだろう。まず、依り代を見つけるのが難しい。
「そうすると、主神クラスの力を持つ英霊。例えば、救世主系のサーヴァントが考えられますね」
例えば、拝火教におけるサオシュヤントや聖堂教会における神の子。仏教における転輪聖王もその亜形ととらえることができるかもしれない。
彼らの多くが持つ共通点が存在する。
「そんな未来に生きている奴らを召喚できるの?」
触媒を得ることは難しい、というか不可能だろう。それ即ち、やはり召喚の難易度がかなり高いということを意味する。
「それは、その…。キリエさんでしたっけ?とそのセイバーさんの相性が非常に良かったとしか…」
「それずるくない?俺のところには、こんな薬中しか来なかったんだけど」
「マスター、最近私へのアタリが強くありませんか?」
「ライダーとそこのアーパー女が馬鹿なことを言ったり、やらかしたりしなかったら俺はもう少し優しいよ。というか、俺は基本他人に対して優しいよ」
「さっき、私に銃突きつけてきませんでした?」
それどころか、ライダーとアカツキが出会った場所は血の海だったりする。人間は多面的な生き物だが、しかし今のエピソードを聞いてアカツキを優しいと言い切れる人間がこの世にどれほどいるだろうか。
そんな視線を感じ取ったのか、アカツキはさらに小言を言いたくなる。
「それより、マスター。セイバーが何か仕掛けたようですよ!」
「無理やり話をそらしやがったな」
ライダーが指をその方向へ指し、アカツキたちもそちらへ視線を向ける。
「虚偽、偽り、滅せ、正せ、滅せ…」
目と鼻の先には筋骨隆々の男が鎖をいじりながら、ライダーを睨みつけていた。
「不覚…!」
ライダーはアカツキを守るように前へ出る。確かに目の前の男の筋肉がすごいが、彼もそう簡単に負ける気はしない。少なくとも、マスターを逃がす時間は稼げるだろう。
「ぐおおおおお!」
ライダーは、懐の銃を固く握る。
「やめなさい、バーサーカー」
気だるげな少女の声。それを聞いて、バーサーカーは不承不承といった様子ではあるがライダーへの攻撃をやめる。
「うちのサーヴァントが迷惑をかけたみたいね。…私はアリス。そっちは?」
「マスターのアカツキとライダーです。…月が綺麗ですね」
一応言っておくと、ライダーはアリスは綺麗だと思うが、ディフェンスの対象外だ。それ故、これは彼なりの世間話というか場を和ませる清涼剤のようなものなのだが。
「貴方、死んでもいいわ」
ライダーは如何せん日本の知識に乏しかった。
「くたばってしまえ」
そして、アリスは相手の気持ちを読み取ろうとする努力が足りなかった。
「まあまあ、そんなくだらない漫才をやってないで用事を教えてくださいよ」
「そうだよ。相手を理解する努力は怠ってはいけないと思う」
相手のことを考えないという意味で、実はアカツキ、アリス、吉川の三人は存外似た者同士やもしれない。ライダーは自らを棚に上げて勝手なことを考える。
「…話を進めるわよ」
「うん」
「変なとこで素直ね…。まあ、でも貴方、イイ目をしているわね」
少なくとも、ライトやあのキリエとか言う少年よりは骨がありそうだ。
「?売らないよ」
一つ誤算があったとすれば、この聖杯戦争には色んな意味でアリスと相性の悪い人間が多く参加していたことだろう。
「買わないわよっ!!!…ったく、全くどいつもこいつも調子狂うわねっ!」
「そうなのか、結構買う奴いるけど。売る奴もね」
アリスは青筋が立ちそうになるのを必死でこらえて、笑顔を作る。しかし、彼女は基本的に不機嫌な顔でいることが多い。そのせいか、笑顔は恐ろしく引きつって見える。
「貴方は強くて信用できる。少なくとも、他のおバカさん達よりは」
「悪いけど、俺は頭が悪いんだ。もっとわかりやすく言ってくれないか?」
アカツキは結論を急かす。アリスは遠くの戦いを見やる。丁度セイバーがアヴェンジャーに切りかかった様だ。
「簡単に言うとね、セイバー、アーチャー、ランサーの三騎士はわかりやすく私にとって、邪魔なのよ」
セイバーにはフラれ、アーチャーは信用できず、ランサーは天を共に戴くことはできない相手だ。即ち、何れも次に会った際には殺し合いになりかねない。
「へえ。そうなんだ」
アカツキは他人事のように話す。現実問題として、彼は今セイバーに喧嘩を売る気はない。それはライダーや吉川も同じ意見だろう。
「あら。貴方も参加者である以上、彼らを無視できないのよ?」
「そんなに倒したければ、貴方もあの戦いに混ざってくればいいのでは?」
ライダーは質問を返す。アリスは珍しく残念そうな表情を顔に浮かべる。
「無理ね。不意を突いても、バーサーカーの残機を削られてしまう」
アリスはバーサーカーの実力に不安を抱いている部分があった。無論、四騎士には負ける気は微塵もないが、あの三騎士は別格だ。少なくとも、馴れ合いを良しとしない彼女が考えを変える程度には。
「だからね。貴方には差し当たり、あのセイバーのマスターを殺してほしいの」
ただし、自ら介入するような真似はしない。アリスには暗殺技術はないし、そもそも事態がこじれて累が及ぶようなことになったら目も当てられない。
「じゃあ、金と締め切りの日時を教えてほしい。生憎と、俺のタマは舌で転がされるほど軽くないんだ」
アカツキはキリエからもらった触媒とやらを思い出す。だが、人探しをすることとその依頼者を殺すことは別に矛盾していない。少なくとも、アカツキはそう解釈した。
アリスはバーサーカーに持たせていたと思しき、金塊を渡す。恐らく、どこかの廃墟から取ってきたのだろう。出所不明ゆえに価値はだいぶ落ちるが、それでも初期費用の回収は十分できる。
「いいよね?」
アカツキは確認のために吉川に話しかける。
「別にいいですよ。私はライダーさん達と一蓮托生ですし、時計塔の権力闘争ではもっとエグイことが普通だって聞きますしね」
「へえ。意外だね」
吉川は反対するものだとばかり思っていたが、どうやらこういうことにはある程度耐性があるらしい。
しかし、アカツキがそう言ったのはそれだけではない。ライダーが不服そうな顔をしていたからだ。
「セイバーが強いのはわかります。目の上のたん瘤というのも…。ですが、この戦争の胴元もわかっていないのに行動を起こすのは早計かと」
「誰でもいい…。殺せ、滅せ、消せ」
バーサーカーが騒めく。
「別に期間は問わないわ。その代わり必ず約束は果たしてちょうだい」
「…わかりました。ちょっとした策もありますし、協力いたしましょう」
まだ幾つかピースが足りないが、しかしそれはどうしようもない。運を天に任せるか、ライダー陣営が直接動くしかないだろう。
「後、こちらからのお願いなんですが」
「何かしら?」
「アサシンと会ったら、戦わないであげてください」
「…深くは聞かないであげるわ」
そうしてくれると助かるのは事実だ。ライダーに自らの過去をベラベラと話す趣味はないし、決して褒められたモノでないことも承知しているからだ。
「じゃあ、セイバー以外の対策だけれども」
「大変です!アカツキさん!」
「出番が少ないからと言って、無理やり割り込んでこないでもいいんだよ」
アカツキは眠たげに吉川に話しかける。狂化で理性を失っているバーサーカーを目の前に変に騒がないでほしい。
「消えました」
「何がよ?」
アリスは吉川に軽く苛立ちながら話す。
吉川は使い魔を騒々しく羽ばたかせ、むやみに大きい声で話す。
「アヴェンジャーも、セイバーも、ランサーのマスターも!」
「嘘」
「真実。嘘ではない…」
曰く、アヴェンジャーを中心として黒い光が出始め、次の瞬間にはすべて消えていたらしい。にわかには信じがたい話だが、あれだけ虚偽に敏感なバーサーカーが真実といったことは、つまりそういうことなのだろう。
一同は顔を見合わせる。
「…じゃあ、今日はお開きということで」
「そうね、そうしましょう」
誰が言うともなく、解散の流れになる。ランサーのマスターを観察して情報を得ようにも対象がいないのではどうしようもない。かといって、他に話すことは特にはない。こうなるのはある種必然だろう。
「じゃあ、俺ギャラ貰って帰るから」
アカツキはアリスからの金塊をバッグに入れ、業務遂行のために携帯電話番号を交換したのち、立ち去ろうとする。
着信音が鳴り響く。
「意外とかわいい曲を着信に設定しているんだね」
アカツキはアリスから流れてくる一昔前の魔法少女物のアニメのオープニングの曲を聞きながら、思ったことをそのまま口に出す。
「う、うるさいわね」
彼女は赤面しながらも、携帯をとる。
「もしもし、早坂ですが?」
『ハジメマシテ、バーサーカートライダーノマスター。ワタシハランサー。スコシショクンラトハナシタイ』
「戦闘中に電話をかけてくるなんて、大した余裕ね」
アリスはアカツキのジェスチュアを見て、通話をスピーカーに切り替える。
『マスターガヘンナヒカリニトリコマレテレンラクガツカナイシ、サガシテモミアタラナイ。ヒマツブシニツキアッテクレ』
ランサーは機械ということもあるのだが、どこまでも無機質な声で話す。とりあえず、自分が存在しているということは即ち、マスターが生きていると判断してそれで良しとしているのだろう。
「そう言っても、俺は話すことないよ。後、話が聞き取りづらいから東北きり〇んの声に変えて」
「マスター、どこで東北き〇たんを知ったんですか!?」
アカツキは臆せず話しかけるばかりか、ずけずけと要求すら出してくる。
『オマエガマカリマチガッテワタシノマスターニナッタラ、ソウシテヤルヨ。マア、ソノバンユウサハキニイッタガナ』
ライダーは、それを聞いてやはり鉄砲玉精神が抜けないか、と呟く。無理もないだろう、アカツキのその遠慮のなさは確かに危険なのだ。
「なんていうか、意外とフランクなんだね」
アカツキは思ったことをそのままいう癖もある。要は考えないで行動してしまうのだ。
『ソウカ?キカイノワタシニソウイッタノハオマエガハジメテダ』
「機会に話しかける人間はそういないから、仕方ないですね!」
吉川は目をいつもの三倍輝かせて話す。英霊化した機械は多くないだろうし、彼女の興奮もむべなるかな、といったところだろうか。
だが、彼らのある種和気藹々とした会話に水を差すものがいる。
「ランサー。貴方の真意は何かしら?」
空気を凍らせる声。アリスはランサーを警戒していた。ランサーはどこにいるかわからないが、こちらの位置を感知している。つまり、いつでもこちらに奇襲を仕掛けられる位置にあるということだ。
しかし、彼は何もせずアカツキたちとの話に興じている。これは裏があってのことではないか?
『ワタシモズイブントケイカイサレタモノダ。ウラハナイ』
ランサーは淡々と否定する。
『…マア。シイテイウナラバ、シムラガホカノマスターヲキニシテイタカラダナ』
志村は実は余程のこと、例えば他マスターによる魂喰いなどが起きない限り、彼等と一回は話すことにしていた。ランサーの目からしても、それは甘い対応だったが、彼には別の狙いがあるらしい。
無論、令呪を使われたわけでもないのでランサーが従う謂れはないのだが、しかし彼はマスターの意向に従うことにしたのだ。
「偽物…神罰の、代行者…」
『マア、バーサーカートワタシハソリガアワナイダロウナ』
バーサーカーの言を聞いてランサーは漏らす。
「私も悪いけど、貴方みたいなサーヴァントは願い下げよ」
圧倒的な力を持ちながら、敵を倒さずに話を交わす。馬鹿にされている様で、その態度が気に入らないのだ。
『ソノセイカクダトミカタヲツクルノガタイヘンソウダナ』
「うっさいわね。殺されたい?」
ランサーはおお怖い怖いと機械のくせにおどけて話す。
『マジメナハナシ、オマエハソノママノホウガイイ』
「どういうことよ?」
アリスは苛立ちながら話す。機械、それも天敵に説教されるとなれば、そう感じるのも仕方ないことだろう。
『カワルコトデツヨクナルヤツモイレバ、カワラナイホウガイイニンゲンモイル。オマエハコウシャダナ』
「だから、もっとわかりやすく言いなさいよ」
「私見ですが、アリスさんは私を同盟相手ではなく飽くまで道具の一つとして見ました。その冷徹さこそが貴女の強さということではないでしょうか。違いますか、ランサー?」
ライダーはランサーに問いかける。ランサーは黙りこくったままだが、ライダーは何となくそれを肯定の意味として取った。
「貴方、思ったより賢いのね。少し見直したわ」
「生前は占い師をやっていたもので、そういうのを見抜くのは自信があるんですよ」
その笑みはマスターたるアカツキをして数奇さを感じさせるものであった。アカツキはライダーからその人生をある程度聞いたが、しかし、知ってなお彼のことは理解しがたいのだ。
そして、アリスも似たような何かを感じ取ったらしい。彼女はライダーに問いかける。
「それは私への予言か何かかしら?」
「そうとっても構いませんよ」
アリスは珍しく不敵に笑う。
「偽預言者、予言者…。我らが真なる道、託宣は一つ…」
「バーサーカーのことはあまり好きじゃないけど。私、宿命とか運命とか、そういう話は嫌いなの。…もしあるなら、踏みにじる」
そして、彼女は崩れかけた廃墟から一歩踏み出し、曇天の夜空の中、輝く星を睨み付ける。
「ランサー。貴方が何者か知らないし、知る気もない。でもね、貴方が私を見下ろしているのはわかる」
『ソウカ。ソレデ?』
ランサーの声はまた、無機質なそれに戻る。だが、わざとアリスを煽っているようにも聞こえる。
「私、相手を見下ろすのは好きだけど、見下ろされるのは嫌いなの。…だから、あんたを叩き落とし、あんたのいけ好かないマスターも跪かせて見せるわ」
大きく出るが、しかしアリスはランサーは仕掛けてこないと踏んでいた。実際、ランサーからの通信が途切れることはなかった。
『ナラ、ソノトキハオマエノハナノヨウナカオトカラダヲチヂニヒキサイテヤルヨ』
ランサーは恐らく自らを兵器として規定している。なれば、撃鉄が引かれるまでは、こちらに銃弾は届かない。
ぽつりぽつりと、肌を刺すような冬の雨が降り出す。
同時に、アリスは忽然とセイバー陣営とランサーのマスターが赤い大きな門から出てくるのを見る。けが人が何人か居り、セイバーのマスターは体の各部から出血し、気を失っているようだ。
アリスはバーサーカーにサインを出す。
「セイバー…。偽なる救世主。我が、敵…」
『バーサーカートソノマスター。オマエハカシコイカモシレナイガ、シカシツネニタダシイトオモウナ』
アリスは苦々しい顔をしながらも、バーサーカーに踏みとどまる様に指示を出す。
『ジャアナ。バーサーカートライダー、ソノマスタートマジュツシ。マタアエルノヲタノシミニシテルゼ』
「じゃあね」
「…」
しばらくして周囲の雨の音を残して、ランサーからの連絡は途絶する。アリスは、舌打ちをして雨の中歩き出す。
「ああ、そうだ」
アリスは振り返らずに話す。
「セイバーのマスターの件、お願いね」
彼女はバーサーカーに自らを抱えさせ、そのまま廃都市の闇を縫うようにして舞台から退出した。
「さて。ライダー。どう思う?」
「…なんというか、若さ故の過ちを思い出しますね」
当然、それは認めがたいものである。そして、それはきっとアリスや吉川、アカツキにはまだ理解できない、あるいはしなくていいものだ。
それゆえ、年上のライダーが言えることは一つだ。
「あまり、彼女と近づきすぎてはいけない気がします。テキトーに協力するふりをしておきましょう」
「ライダーが言うなら、そうしよう」
「私としてはお化粧の仕方とかいろいろレクチャーしたかったんですけどねー。諦めます」
バーサーカーの近くにいるのは怖いですし、と吉川は話す。しかし、逆に言うとバーサーカーがいなくなったら吉川はアリスと接触する可能性がある。それは避けなければならない。
なれば、適当な仕事を与えて彼女との接触をなるだけ奪う必要がある。
「吉川さん、マスターに勉強を教えてください」
「ライダー、何言っているの?頭大丈夫?」
アカツキからすれば、鉄砲玉の彼には考える能力も余分な知識もいらないのだろう。成程、確かにそれは兵士の理想形かもしれない。
けれども。それではこの戦争に勝つのは難しい。勝てたとしても、成果の維持は出来ない。
「本気ですよ」
「貴方は変わることで強くなれるのですから」
ライダーはまるで魔法少女のようにいたずらっぽく笑った。
Fate/Zeroの漫画で使い魔を通しての会話が難しいことを示唆する描写がありました。それからすると吉川が使い魔を通じて話しているのはおかしいのですが、年代も世界線も微妙に違うということでお目こぼし頂けるとありがたく存じます。