Fate/abnormalize   作:Zinc3125

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三日目 夜:明治神宮

アーチャーと枝川が神宮に通された時、来ていたのはキャスター陣営だけだった。

「ういっすって、そういう雰囲気じゃないっすよねえ…」

 入って挨拶をしてみたものの少し反省をする。いつもは明るいアーチャーだが新陣営の出現という異常事態とあらば色々考えてしまう。目の前の茶髪の青年もこの異常事態に当たってかなり緊張した面持ちである。

「忙しい中集まってくれてありがとな。お礼つったらなんやけど、粗茶とみんな大好き虎屋の羊羹やで」

 急須と色とりどりの羊羹が入った木製の皿をお盆に置いた平等韻がやってくる。彼はへらへらとした笑みでそれを勧めてくる。

 正直モノが首を通る状況ではないと思うのだがアーチャーは抹茶味の羊羹を手に取り一飲みし、そしてその後お茶を一気に流し込む。

「ぷはー。美味いっすねえ、これ」

「…はしたないですよ、アーチャー」

 枝川は上品にお茶をすすりながら、アーチャーを窘める。

「だってワタルさん、この周辺には日高屋がないんすよ。そんな中でこんなにおいしいものを目の前に出されたら誰かに盗られる前にがっつくしかないじゃないっすか!」

「にしたって、もう少し味わって食べるとかあるでしょう。第一誰も貴女のものを取ったりはしませんよ」

 キャスターやライトですら目を丸くして彼女の食べっぷりに目を丸くしているのだがアーチャーはそれに気づく様子はない。

「ま、喜んでくれるのはこっちとしても有り難いこっちゃ。あんまり固い空気になるのも困るし」

 平等韻は自身の湯呑にお茶を入れて飲むが、どうやら濃すぎたようだ。如何にもまずそうな顔をする。

「あの、少しいいですか」

「まだ時間もあるしええで」

「ルーラーさんはどこに行ったんですか?あと、こんなに人が少ない理由も」

 真剣そうな顔をするライトにそこまで心配することは無いと笑って前置きしてから平等韻は話し始める。

「ルーラーは変なやつが入り込まないよう周囲の警戒に当たってるだけや。で、人が少ない理由なんやけどな」

 平等韻は一転して首をひねり出す。

「どうしたんですか?」

「いや、連絡がそもそも取れへんアサシンと休む言うてきたライダーとセイバーはええんや」

 ライダー陣営は風邪、セイバー陣営は昨日の傷と吐き気が酷いらしい。アーチャーはぼんやりと彼らを心配していたが、ライトの心底深刻そうな顔を見て釣られて急に心配になってくる。だが、平等韻はそれを吹き飛ばすかのように呵々大笑する。

「ワイも昨日のアヴェンジャー討伐の件で色々聞きたかったから残念やけど、そこまで気にすることじゃないと思うで?」

「なら、安心ですわね」

 キャスターはわざわざ羊羹をどこからか出した黒文字を使って食べている。なかなか器用なのだが、しかしそのいかにも西欧系の風貌のせいでかなり違和感がある。

「でも、ランサーやバーサーカー陣営はどうしているのでしょう?」

「うーん、それが問題なんよなあ。連絡がこういう時に限って無い。ま、これも多少遅れている程度だと思うからそこまで心配することやないと思うで?」

 

 遠くから、乾いた銃声の音が二発突如として響く。

 

「心配することは無いと言ってましたね?なら、あれは何ですか?」

 枝川がギロリと平等韻を睨み付ける。

「ちいと待ちいや。…おい、ルーラー。あれはなんや?」

 彼は慌ててスマホを起動し、程なくしてルーラーからの返信を受け取る。

『戦闘です。ランサーとバーサーカー陣営が交戦しているのですが、移動方向から見て恐らくはライダー陣営も巻き込む形になるかと思います』

 ライトの顔が青くなる。実際、徐々に遠ざかって行っているとはいえ地を穿ち、鉄の幹と根を持つ大樹が次々と倒れていく音がさっきから聞こえてくるのだ。

 当然それは平等韻にとっても頭痛の種である。

「いくら人の立ち入りがないからって、こんなとこでミサイルぶっぱやらガチの銃撃戦やらかしたら文句言われるのはワイやというのに…。好き勝手しおって」

『文句を言ってもしょうがないでしょう。とりあえずは善後策を』

「ほな、止めに入ってもしょうがないから…」

 平等韻は手と顔だけで集まってきたマスターとサーヴァントに謝罪をして、その場を離れる。どうやら、かなり時間がかかるようだ。

「どうなるんすかね」

「さあ」

 アーチャーが障子に穴を開けてみると、東の方で火の手が上がっているのが見える。

「あー、こりゃガチな方でやばいっすね。なーんでみんな、そんな過剰火力を使いたがるんすかね?」

 斯く言うアーチャーの宝具も街中で発動したらとんでもないことになる代物だが、それでも単純な破壊力はランサーに負けているとは思う。

 だからと言って勝負には決して負けないという確信を持っているのがミソなのだが。

「また、被害が出るんですね」

 ポツリとつぶやくライト。

「出ないことを祈るしかないっすね」

 それはアーチャーなりの善意であった。

「でも、いずれは被害者、そして死人も出る!もし、その時に殺されたのがアリスやキリエだったら、僕は…!」

 それは決して見せてきたことのない、憤怒の顔。この人こんな顔もできるんすねえ、と口に出しこそしないがアーチャーは意外な物を見た気分になる。

 だが、その表情は気づかれていたらしい。ライトは一瞬はっとし、それから申し訳なさそうな顔になる。

「…誰が死んでもそれは悲しむべきですし、それにあまり人に聞かせるような話じゃないですよね。申し訳ありません」

「いや…別に大丈夫ですよ」

 キャスターがその感性を大事にしてください、とライトにいうのを聞きながら枝川は妙な違和感を覚えていた。彼もライトの言ったことを正しいと思うのだが、だからと言ってそれを自分が出来るかと言ったら決してそんなことは無いのだ。

「ところで、枝川様」

「はい」

 残念なことにゆっくり考えている暇は与えられないようだ。

「枝川様はどこから来たのですか?」

「へ?」

「いえ、どこからいらしたのかと」

 キャスターからの思いがけない質問。まあ、真面目に答える気はないが。

「私は新埼玉の出身ですよ」

「うーん、そういうのじゃなくて」

 キャスターの赤く艶やかな唇がまるで蜘蛛が糸を吐くかのように動く。

 

―いったいいつの時代の人間ですか?―

 

「…無論、私はこの時代の人間ですよ」

「そうですか。なら、そういうことにしておきましょう」

 丁度用事が終わったようですし、とキャスターは湯呑を机に置く。

 果たして障子が空き、渋面の平等韻が入ってきた。

「今日は解散や。アサシンのやらかしや戦闘の後片付けやらやることが多すぎる」

「…アサシンが何かしたんですか?」

「魂喰いやったらしいんや」

 ま、未だルーラーとワイは確認してないんやけどな、と彼は付け加える。それを聞いてライトの目にわずかとはいえ炎が入ったのをアーチャーは見逃さなかった。平等韻はそれを意図的か本当に気付かなかったかはわからないが何事もなかったかのように流し、明日ルーラー側から改めて通達を送ると話す。

「じゃあ、今日はお暇いたしましょうか、マスター?」

「ああ。また会えることをお祈りしています、アーチャーと枝川さん」

 キャスター陣営は足早に去っていく。やはり何か思うことはあるのだろうか。

 

「さて、我々もそろそろ拠点に」

「いや、あんたらは残ってもらうで」

 枝川は肩にかなり強い力を覚える。

「…そこまでされる理由がわかりませんね」

 彼はとぼける。

「いいや、あんたらはフォーリナーについて知ってるはずや、枝川さんにアーチャー。…それともこう呼んだ方がいいか?」

 

枝川渡流と立花佐天。

 

 その言葉に枝川は目を細める。

「…いいでしょう。お話ししましょうか」

 

「単刀直入に聞こか。あんたら、ナニモンや?」

 平等韻はバサリと紙の束を机の上に投げる。

「あんたらの氏素性は全て調べたけど、全くと言っていいほど出てこなかったんや。僅かに回収された物品やらルーラーの巫術でわかったのはあんたらの名前くらいや。いくら正体を偽装してたって、これはおかしすぎる」

「…存外性格が悪いのですね」

「あんたらのやってることに比べたら全然や」

 平等韻はアーチャーを睨み付ける。枝川はこうなること自体は既に、名前が割れている以上覚悟していたが、アーチャーにしたこともばれているとは想定外だった。これはいけない。

「どこまで話せばいいのでしょうか?」

「あんたら分かっとらんなあ」

 平等韻は顔を歪める。

「月並みな言葉やが、これは取引ではなく命令や」

「従う義理があるとでも?」

「あんたらも討伐対象に加えたってええんやで?」

 外からまた、爆撃音が聞こえる。

「まだわからんか、罪状はせやな、本来のアーチャーのマスターを殺したこと、いたいけな女性を戦争に参加させたこと、それから…」

「わかった」

 枝川は腕をあげて降参の意を示す。それを見て、平等韻は満足そうに笑う。

「ほな、さっそくお前が誰か言ってもらおうか」

 枝川はお茶を一杯飲んでから逆に見返すようにして話し出す。

「我々は未来から諸君らの言うフォーリナーを討伐しにやってきた人間だ」

 彼はカソックの中からライセンスを出す。

 そこには、”2050年認証 日本国『魔女狩り』第一部隊部長枝川渡流”と書かれていた。

 つまらなさそうな顔をしている平等韻をしり目に彼は話を続ける。

「我々の世界で聖杯戦争は一種の娯楽でした…。まあ、流石に暗闘は前提でしたが」

「それはこっちの世界でも元々は一緒やったな」

 平等韻曰く、前回の聖杯戦争はアメリカでのとある失敗を受けて開催されたものだったらしい。

「ただ、理由は不明ですが…。異物が混入しました」

「それがフォーリナーだった言うことやな」

「ええ」

 フォーリナー。外からの稀人は当初は静かにしていた。

「だが、それが命とりだった」

 最初はライダー、キャスター、次にランサーが篭絡された。対抗してセイバー・アーチャーによる同盟がなされたものの圧倒的な力の前に敗退。

 その後ランサーがライダーとキャスターを潰して願いを叶えた。

「それはつまり…」

「ええ、世界規模の終わらない戦争の勃発です」

 最終的な勝者、志村は暗殺されたが当然それで済むわけがなく。戦争と外なる神によって持ち込まれた異界の常識によって世界は崩壊した。

「私たちはサーヴァントの力を借りて世界を元に戻そうと頑張ってたんすけど、限界があったんすよ」

「乾坤一擲の策が過去の改変やったちゅうことやな」

 アーチャーは深く頷く。

「ですが…我々が戻った際にフォーリナーも追ってきたらしくて」

「それ以降は十年前から大体わかっとる」

 枝川はピクリと眉を動かすが何も言わない。

「ま、これ以上はワイらからは何も言わんわ。ただ、ちょっと、いやほんのちょっとでええから頼みを聞いてくれへんか?」

 アーチャーと枝川は目配せをする。それを平等韻はにやにや笑うだけで何も言わない。

「なんすか?勝負から降りろとか、体を売れとかそう言う、人としてダメなのはなしっすよ?」

「ちゃうねん。ちゅうか、なんでワイがお前みたいなペタン子に欲情せないかんねん」

 平等韻は苦笑いしているが、アーチャーからすれば堪ったものではない。彼女だって一人の女性なのだ。

「単純な話や。あんたらには手前で出したクソの後始末をしてもらいたいってだけや」

「…つまり、フォーリナーを倒せ、と」

 まあ、これは当然のことだろう。

「ただなあ。あんたらがバックレる可能性も考えなきゃいかん訳や。だから、ここで”共闘”するってのはどうや?」

「監督役が露骨に一陣営に肩入れするなんて世も末ですね」

 悪いことばかりではない。例えば、令呪を裏からもらうということも可能だろう。けれども、当然色々口出しされる可能性もある、というか確実なわけで。それだけは避けたい。

「さっきも言うたけど、あんたらのやってきたこと、隠してるつもりのこと、ぜーんぶ洗いざらいバラしてもええんやで?」

「外道が…!」

「被害者に糾弾されるなんて、ワイがまるで悪人みたいやんか」

 平等韻は更にもう一杯お茶を注ぎ、既に色が出すぎたはずのそれを心底美味しそうに飲み干す。

「でも、せやな。あんまりガタガタ言われるのもあれやから、契約文書の一つや二つ交わそうか」

 彼は机の下から紙を一枚取り出し、枝川とアーチャーに見せる。彼らは穴が開くほどそれを見た後、彼に問う。

「これに署名した瞬間、死より苦しい地獄が待っているとかいうことは無いな?」

「当然や…。ちゅうか、そこまで重い類のもんやないから。せいぜい、契約違反したらワイがあんたらに令呪を渡す程度のもんやし、そっちもどのような形であれフォーリナー倒したらおしまいや」

「枝川さん…」

 ややあってから、枝川は契約書にサインする。これで契約は成立だ。

「帰るぞ、アーチャー」

 枝川は憮然とした様子で立ち上がるが、それを平等韻が引き留める。

「契約したやろ?あんたらのお家は今日からここや。まあ、三食昼寝つき。悪くないと思うで?」

「…ッチ」

 露骨に嫌悪感を隠そうともしないアーチャーに彼はダブルサイズのベッドのある寝室を見せる。アーチャーと枝川は心底不愉快そうに寝室へと入るが。

「ああ、せや。最後にワイからの忠告や」

「ぐちぐち、残尿感の残るような物言いをする男は嫌われるっすよ」

「別に好かれようと思っておらんわ。ただな」

 彼は顎に手を当て何か悩んでいたが、やがて口を開く。

「悪いが、ここはあんたらの世界じゃない。そのことをゆめ、忘れるなよ」

 彼はそう言うと、スマホを取り出して神宮の外へと出ていく。

 

「枝川さん…」

 背中をアーチャーはしばらく見ていた。枝川はそんな彼女を抱きしめ、頬にキスをする。

「わかってます。でも我々が願いを叶えてはいけないという法はない。…だからこそ、全てに勝利しましょう」

 

 

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