りあリズむ   作:箱女

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「うわぁん、なんだよダメだろここがヘンだよ日本人!」

 

 ステージ裏に下りてきて、ぼくは誰にあてたわけでもない魂の叫びをぶっぱなす。なんでもなにも曲のサビのところで客席から一斉にモノ投げられたらそういう反応するだろ普通。いや素材はスポンジみたいなのだったけどさ。オタクどもったらそんなのどこで仕入れたのかと思ったら物販で売ってやんの。やむ。それもサインライトより売れ筋だってんだからもっとやむ。いやいやもっとライト振れよ。そんなの売ってる時点で身内も敵確定じゃん。

 おかしいと思ってはいたんだよね。歴代で見てもそれなりのハイスピードでソロで舞台に立つなんてさ。ぼくがだよ? もちろん出だしの子ばっかりなわけだからそこまでハコは大きいわけじゃないし、せっかくなら顔のいい他の誰かと抱き合わせのほうがオタクどもも盛り上がるんじゃないのかと思ってたらこのオチだもん。こんなのハイクラスやむ案件に決まってんじゃん。……まあ、やむくんやむちゃんとめっちゃ近い距離でぎゃあぎゃあ言い合うのちょっと楽しかったんだけど。逆にね。

 うう、スタッフのひとたちがめっちゃ明るく “お疲れ様でーす!” とか言ってんのもやむ。これ本当に大丈夫だよね? りあむちゃんがソロでステージに上がった記念すべき日だよね? ロッカーから突然変な人が大成功の看板持って出てきたりしないよね? そんなことされたら本気でやむぞ、ぼくは。ガチのザコメンタルなんだからな。

 

 そんなぼくを拾い上げたPサマには何を言っても聞く耳持たずで、とにかく面白そうなことならガンガンさせようとしてくる。炎上ごときが何するものぞ、お前のキャラなら大丈夫だ! とかなんとか言いながら。あのね、ぼくだってしたくて炎上してるわけじゃないの。まだ所属したばっかりのときにSNSのプライベートのアカウントで絡みぎみのリプライつけたらなんか一気に本能寺しちゃって、そしたらどっかからぼくが事務所に所属してるみたいな情報が流れてさらにボヤ騒ぎ起きてデビュー前からそんな印象がついちゃって。つまりぼく悪くない! りあむちゃん問題ナシ! ……ならいいんだけど、そんなわけないんだよなー、きっと。

 ふつうに考えたら敬遠されまくるだろうぼくを、なぜかPサマは見捨てていない。それどころかその救い主サマは炎上系ほにゃららなんていう謎の方向性で行こう、なんて笑っててこんなことになってるワケ。あれ、ぼくの人生けっこう詰んでね?

 

 

 アホほど目立つ髪の色してるから頭部分の変装だけはガチる。つむじの辺りで全部まとめてゴムでしばってその上からニット帽。なんか頭皮に悪そう。あとテキトーに買ったデカいサングラスをかけて事務所を目指すのがりあむちゃんのいつものスタイルです。服はまあ、なんかクローゼットから、こう、ね。あーあ、おうち出てからこっち着くまで何回あくびしたっけ。目覚まし止めたと思ったらPサマからメッセージの鬼通知だぜ? ぼく朝弱いんだってば。

 お財布につっ込んである社員証的なアレをかざしてゲートをくぐるりあむちゃん。厳重っぽいこのセキュリティを突破する瞬間はぼくもこの事務所の一員なんだな、ってしみじみするよ。あれだよね、いつかアイドルみたいにVIPルームとか用意されちゃったりなんかしてね、え、想像力貧困すぎ? 大問題ですってか、やかましいわ。

 

 ドアを開けると新聞を読んでるPサマ。メガネなのにいかつくてデカい感じで、ぼくは背ちっちゃいから横に並ぶと落差がすごい。たぶんパンチしても全然痛くないと思う。天は平気な顔して二物も三物も与えるよね。集中力とかヤバいし。

 

「Pサマ、オ、オハヨウゴザイマス……」

 

「おうおはよう、夢見」

 

 お、一発で気付いてくれた。今日はシカトじゃない! ラッキー! だよね?

 

「ね、PサマPサマ! 今日はぼくなんでこんな時間に呼ばれたの? 朝だよ?」

 

「なんだ、急にテンション上げるんじゃない。それと用事は仕事の話だ」

 

「え、お仕事もらえるの?」

 

「今回はちょっと長期スパンで考えててな、話聞いてみる気はあるか」

 

「そりゃまずは聞かないとでしょ。ぼくにもできるお仕事かもしれないんだし」

 

 へいへいもしかしてけっこう悪くない話なんじゃないのこれ。まさかまさかのりあむちゃん真面目にちょっと人気に火ついちゃった? 事務所も認めちゃった? 長期スパンってことはテレビのレギュラーとかラジオのパーソナリティ? それとも掟破りの全国ツアー、はさすがにないか。でもでもそんな感じのお話だったらヤババのバだよね。おいおいぼくの天下が始まるぜ。Pサマありがとう、こんなぼくを拾ってくれて。これから粉骨砕身で恩返しするよ。頑張るよ。

 

「なあ夢見、お前小説書け」

 

「ん?」

 

「小説」

 

「んん? えーっと、それって歯車とか奔馬とか、そういう?」

 

「なんでお前から出てくるのがそのタイトルなのかはわからんが、そういうのだ」

 

 何言ってんだこのおっさん。あ、いやPサマ。前言撤回だよぼく国語の中でも作文とかいちばん苦手なんだけど。読書感想文とか毎年どう逃げるかを夏休みの最初に考えてたくらいに。無理でしょ、無理寄りの無理。まずどこからそんな発想が、って夢見りあむなら夢小説いけるだろみたいな安直な発想じゃないよね、じゃないと思いたいなあ。

 

「いやいやPサマさすがにそれはキツいっていうか、人呼んで歩く金閣寺ことぼくが適役には思えないんだけど」

 

「それだと放火食らってることになるだろうが。まあもちろんお前に自由に書かせてうまくいくとは思ってないよ」

 

「悲しいけれどりあむちゃんも同意だよ」

 

「だからある人にコーチを頼もうと思ってな」

 

「コーチ?」

 

「そうだ。それでその人に今日会ってもらうつもりでお前を早めに呼んだ」

 

「ぼくが遅刻するかも、って思ったから?」

 

「よくわかってるじゃないか」

 

 これでも三回連続で遅刻せずに到着してるのに。信用ないなあ。でもさすがにコーチを頼んだのに遅刻はマズいのはわかる。ただ、こう、その言い方はずれてるっていうか。

 あれ、ていうかちょっと待って。てことはぼくこれから小説家のヒトとお話するの? それこそ危険度高くない? ある種の公人みたいなものでしょ。昔の小説家って私生活ぶっ壊れてるのに立場あるレベルだったし。うへえ、そう考えると急に気が重くなってきたかも。やだようやだよう、豊富な語彙でぼこぼこにされたらぼくのメンタル大変なことになっちゃうよう。

 

「ね、ねえPサマ、やっぱ無理めだし」

 

「先方にお前の話したら相当に乗り気だったよ。何が何でもだってさ」

 

「ウソやん、つーかPサマの人脈どうなってんのさ」

 

「10時から三階の角の応接室押さえてあるからちょっと前にはそこ入っておけ」

 

「えぇ、ぼくの発言権なしかよ、やむ。しかもあと一時間くらいあるじゃん……」

 

 いつの間にかPサマ新聞モードに戻ってるし。くそう打つ手なしか。なんて貧弱なんだ、ぼくの抵抗力。まあ、まあでも? そんなにノリノリだっていうならりあむちゃんも気分悪くないし? 行くのもやぶさかじゃないっていうか?

 

 

 うぅ、時間まであと三十分はあるのにやってきました応接室。なんでってぼく自他ともに認めるザコメンタルだもの。直前になってこの部屋にいなかったら逃げる可能性マジであるからね。なんかいろいろ恨めしいよう。あー、怖い人だったらヤだな。若くて優しい女の人がいいな。

 そういえば話を聞くとは言ったけど小説のコーチってなんなんだろ。はー、あまりにも謎すぎて世界中のいろんなものがイヤになってきた。もうドアの取っ手すらあんまり好きじゃないんだよね、ぼく。帯電体質なのか季節問わずに静電気でバチッとするし。あ痛ァ! ほらぁ!

 

「あ、お邪魔しまーす」

 

 もー、なんなんだよ、ツいてないなあ。静電気のせいで先にいた人にぼくのしょぼ顔見せちゃったじゃんか。うーん、あと三十分も何して過ごそうかな。ま、スマホで時間潰すのがセオリーだよね。あーあ、新譜の発表とかないかな。

 ……ん? ちょっと待った。先に人がいるのおかしくない? いやだってこの部屋にいていいのってぼくとコーチの人だけなわけでしょ。こんな早くにぼく以外の人のはおかしいような。って待った待った。つまりコーチの人確定だこれ! やっべやっべ、さっきすっごいテキトーに挨拶しちゃったよ! わあん、ごめんなさい!!

 

 お、怒ってないかな。烈火のごとくおキレになってたらどうしよう。

 

 ……って、ウ、ウソだろPサマ、そんなバカな……。か、か、顔が、顔がいい!! だと!!?

 

 

 

 

 

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