りあリズむ   作:箱女

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 いやほら、ぼくだってさ、謝罪の意と反省の態度を示すためとあらば正座だってするよ? でもさ、このアジアンテイストでエキゾチックな部屋の敷物のないところの床にずっとそうしてると膝から下がだんだん痛くなってくるんだって。ぶっちゃけもう明らかに痺れが来ててすぐ立つのは無理だよ。ってなったからぼくはちょっとの期待を込めて家主殿の顔色をちらりとうかがう。だめそう。やむ。まあ事前に連絡してたとはいえアパートのドアを勢いよく開けていきなり騒ぎ始めたんだから百パーセントぼくが悪いんだけど。

 

「聞いて聞いて聞いて聞いて!! ねえ、今日ね、ぼくね、すごいことがあったんだよ!!!」

 

 わかるよ。ドアを開けるなりこんな感じで叫んで乱入してくるやつがいたら友達だって頭ひっぱたくよふつう。日も落ちてそれなりの時間経ってるってのにね。あの、だからそろそろ無言やめてもらっていいですか。

 

「……で、なんでそんなにテンション上がったんだ? これまで見たことないレベルだぞ」

 

「あの、ちゃんと話しますからもう足崩していいですか……」

 

 そっけない感じで海ちゃんが手で促した。こういう扱いホント救われる。

 

「あのね、お仕事の話だからけっこう秘密度高いと思うんだけど、いいよね?」

 

「りあむはそれ自分から話そうとしてんのに違和感持て」

 

「そこはほら、うみんちゅだから大丈夫かなって」

 

 ぼふん、と衝撃が来てぼくはその勢いのまま後ろに倒れこむ。ひえー。わかるぜうみんちゅ、照れ隠しだよね! 飛来した物体の正体はぼくがあまりにもこの部屋に居座るもんだから海ちゃんが折れてぼく用に買ってくれたクッション。海ちゃんがぼくっぽさを意識してくれたらしく、なんか攻撃的にカラフルでこのエキゾ感あふれる空間にはぜんぜん似合ってない。似合っていないからこそぼく用っていうこのロジックな。おんなじ感じでヒナ先の持ってきたフィギュアがタンスの上に飾ってある。やっぱ似合ってないね。クリアケースに入ったやつで、ヒナ先が情熱を込めて語ってくれたって理由で “これがアツいクン” って呼ばれてる。本名もあったはずなんだけど忘れちゃった。こんな感じでぼくたちは海ちゃんの家を浸食中。そんでもってこんなことしてんのぼくたちだけ。わお、ぼくたちったら特別ぅ。

 

「それでね、あのね、今日ぼく、鷺沢文香ちゃんに会ったんだよ!」

 

「鷺沢文香って、あの?」

 

「うん」

 

「おいおい、それセクションどうこうの話じゃ……」

 

 うん、海ちゃんがびっくりするのもわかるよ。って、うわ、こんなに目開いている海ちゃん初めて見たかも。やっぱり誰から見てもかなり衝撃の出来事なんだなあ。本当にPサマってどんな人脈持ってんだろうね。いやいや社内のPサマたちのつながりはあるんだとは思うけど、それでも文香ちゃんだぜ?

 クッションを抱えて座り直す。いつものおしゃべりスタイル。でっかいぼくの乳はこうすることですごくラクになるのだ、とは他の人にはあまり言えないんだよね。前に海ちゃんに言ったら、そういうの話す相手は選べよ、って超真面目な顔で諭されたし。相手によってしゃべる内容に気をつけなきゃいけないなんてやんじゃうよう。世の中みんなそんな感じで頑張ってんのか? そうならすごいよ世間、そりゃぼく炎上するわけだよ。

 

「でも本当だよ。連絡先おしえてもらったし」

 

「はぁ、そりゃ驚いた。そんでそれがどう仕事の話とつながるんだ?」

 

「あのね、今度から小説の書き方のコーチしてもらうことになったんだ」

 

「は?」

 

「小説のコーチ」

 

 今度は目が点になって、ちょっと間が空いて、風船にちょうどいい穴をあけたみたいに口から空気が漏れてきた。そしたら今度は一気に爆笑だよ。なんだよさっきの間は情報が脳に浸透するまでの時間かよ、目の前で見ててありありと伝わってきたよ! やむぞ!

 体よじって目には涙なんてためちゃって、くそう、たしかにぼくも自分にそんなイメージないなとは思ったけどこんなにかな!? りあむちゃんと小説ってそんなに遠い!? 東京とアコンカグア山ぐらい遠いのかな!?

 

「あっははははははは! りあむが、小説!? ふふ、すご、はっはは!」

 

「なんだよなんだよぅ、そんなか? そんなにか!?」

 

「そんなにだよ! たとえが思いつかないくらい関連ないって!」

 

 くぅ、自分以外から言われると思ったより刺さる……。

 

「だってさ、だってだよ? いっつもスマホ見つめて炎上気にしてるのに、しょ、小説って!」

 

「ちょっと! ぼくのダメなとこ的確にあげたら反論苦しいじゃんか!」

 

「いや、ふっふふ、まあさ、りあむのセンスみたいのが面白いってのはなんとなくわかるんだけどさ」

 

 えっ意外。そのあたりからちっとも向いてないだろ、って言われるものかと思ってた。でも海ちゃんの笑いはぜんぜん収まってなくて、それはちょっとくぅぅって感じかもだけど、ぼく自身まあ納得できちゃうからむっともできないわけで。あれでも待って待って、いやこれさすがにぼくの思い過ごしか?

 まあいいよ、海ちゃんがぼくに小説は書けないと言ったかどうかはこの際置いておこう。大事なのは、この時点でぼくがまだめげてないことなのだ。ふふふ、すぐに倒れてしまうはずのザコメンタルに文香ちゃんというつっかえ棒をジョイントした結果、ぼくはまだ戦えるようになったのだ! とりあえず海ちゃんの笑いがそれなりに収まるまで待たないと。いちおう話聞いてもらわないといけないし。

 

「あのね、文香ちゃんいろんなこと言ってて、まあよくわかんないのもあったんだけどさ、ぼくでもなるほどなーって思ったのがね、暴力の話でね」

 

「……あー、もしかして鷺沢さんってイメージとかなり違ったり?」

 

「いやいや違う違う。あー、えっと、聞くのはいいけど説明するの難しいな。文香ちゃんが言ってたのはね、小説的な暴力のことで、ぶったり蹴ったりするのだけを言うのとは全然違う話なんだよ」

 

「んー、ちょっとわかんないな」

 

「一方的に与えられるもののことを暴力と呼ぶんだ、って」

 

 海ちゃんはいまいちピンと来てないかな。たしかにお裁縫とかお料理とかの本はすごい読んでるけど、小説読んでるような印象はないもんね。ここはりあむちゃんが導いてあげよう! 生徒になったばっかりだけど!

 

「たとえばね、ほら、見た目とかってそうなんだよ。あ、自分の見た目は選べないとかそういうんじゃなくて、一目惚れとかあるでしょ? 外見が人に与える印象っていうの? それって逆らいようがないじゃん。こういうのもひとつの暴力と捉えることができるって話。全部文香ちゃんの受け売りだけど」

 

「あー、そのたとえならわかるかも。応用が利くかは別だけど」

 

 そうだよねー、実際ぼくも他のたとえ思いつかんもの。ていうかさ、文香ちゃんってスゴくない? アタマ良いっていうかさ、こんな言葉がぼくが教科書の文章読むよりもすらすら出てくるんだよ? あらためて個々人のスペックみたいなものを考えさせられたよね。やっぱぼくが推せると思っただけある! あ、調子こいた?

 はじめはなんか地方をめぐるロケ番組を映してたテレビがいまは音楽番組に変わってて、たぶん海ちゃんの本命はこっちだったんだなって予想を立てる。前に海ちゃんが好きだって言ってたバンドが出てたし。ぼくはアイドルソングを別にすると音楽は本当にわからないから、よく海ちゃんとかに教えてもらってる。流行りものを押さえるのもアイドルの仕事っていうのはPサマのお言葉。言われてみればテレビでよく見るものをアイドルとか芸人の人とかが外してるのあんまり見たことないかも、ってなって、そういうふうに捉えると芸能界って鬼のような情報量だよね、しかも毎日更新されるし。はー、なんかやらなきゃいけないこと感が出ちゃうとねー、なんか。やむ。

 

「で、どんなの書くんだ?」

 

「まだ何にも考えてないよ。文香ちゃんと相談しながら考えようって。今度から」

 

「小説ってどんなふうに書くんだろうな、いや書こうと思ったこともないけど」

 

 ぼくもさっぱり、って苦笑いしてその話はやめにした。

 

 

 

 

 

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