りあリズむ   作:箱女

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「おりゃああああ! 元気かオタクどもぉおおおおお!!」

 

 何度目かのオン・ステージも舞台袖から出てきてキャットウォークの先のまるいステージを目指して駆けていくスタイル。ぼくがしっとり出て行ってもそんなの別に面白くもなんともないよね、知ってる。こんなトコに来るような、ぼくと似たような趣味をした連中が相手なんだ、ちょっとくらい雑に扱ったって誰も文句なんか言いやしないよね、知ってる知ってる。

 足もとは想像以上に感触が悪い。これたぶんセッティング変えやすくするために空洞になってんな、中。あと下から照らすためにつけられたライトのせいでギラギラしてるけど、形としてはなんかファッションショーの舞台に似てる感じ。規模はもうちょっと小さいけどさ。ぼくのセクションのシアターはなんかそういうコンセプトなんだって。ファンとの一体感とかなんかそういうことをPサマは言ってたけど、それがこの造りとどうつながっているのかはわからない。柵はあるけど近いから、声も届けばオタクどもが投げてくるあのやわらかいやつもガンガン当たる。こいつら遠慮とか自重って知ってんの? 知らなそう。

 へぶっ。なんだよう、せめて名前くらい言わせろよう。いつもみたいに名乗って、すこれ! って叫びたかったのにさ。タイミングとコントロールいいなこんにゃろ。あ、そこ! 笑うなよ! そうじゃなくてもっとちやほやしろ! りあむちゃんかわいいって称えてぼくを有頂天にさせるんだよ! 役目でしょ!

 

 二十分にも届かないったってひとりでステージに立ち続けるのはどうしたって大変で。ふたつの曲とトークで場をつなぐことの苦労なんて客席にいたときには考えもしなかったよ。あの頃のぼくは曲のときにはオタ芸打ってコール入れて、こっちに声をかけてくれるときには力いっぱいぎゃあぎゃあ騒いでいればそれでよかった。振り返ってみればぼくが追っかけてたアイドルはみんなぼくたちのことを考えてくれてたんだってわかる。うおやべ、なおさら尊い。尊いのはいいんだけど、ぼくにはそれができん。そんな余裕もないし、こないだからはぽこぽこやわらかいやつぶつけられてるし。そんな状態で満面の笑顔、ってなったらそれは狂ってない?

 だからぼくはオタクどもを大事になんかしてやんない。オタクどももぼくを大事にしない。ちょうどいいでしょ。スラム街みたいな感じか、違うか。面白いのはぼくの曲が始まるとサビに備えてそろってみんながあれを投げるのをやめるところ。変にわきまえてるっていうか、別のノリに変えるっていうか。まあぼくの曲ってどっちもアッパーでノリやすいうえにコールの概念を体得してるぼくが歌うもんだから、それはもうわかりやすいんだ。初めてぼくのステージを見るオタクでも二番に入れば余裕で合わせられるね、ふふん。

 一曲盛り上がったあとにやわらかいあれを投げつけられながらわめき散らしてまた一曲ビシッと決めて。いや決まってんのかはわかんないけど。それ終わったら飛び交うあれの中を追いやられるようにして帰るのさ……、ってあれ、なんかおかしくね? っていうかあれ一袋十個入りで50円で売ってんだよね、100円で二十個も投げられんのかーい。採算取れてんの?

 

「いいか!? 次も来いよ! 一時間経ったら推し変しまーすとか言ったらやむからな!?」

 

 わりとガチのセリフを残して控室に引っ込む。ぼくの出番のあとはまたちょっと時間が空いて別の子たちが出てくる。オタクどもの入れ替わりもあるし、トイレ休憩とか物販とか考えないといけないしね。

 衣装を脱いでそれ用の洗濯機にぶち込んで回す。めっちゃ近い位置にライトがたくさんあるからすっごい暑くて汗だらだら。おっぱいしぼんだと思う。着替え持ってシャワー浴びてほっと一息。いやだって控室って本番前の子たちもいるからなんか緊張しちゃうんだって。

 洗濯が終わったら決まったスペースに干しておくと、あとはスタッフの人が対応してくれる。実際に見たことあるわけじゃないからどうなってんのかは知らんけど。それでぼくのやることは終わり。物販に立ったり握手会やったりはなし。これはセクションじゃなくて事務所全体の方針だってPサマが言ってた。距離が近いのはいいことだけど、本当に触れられるかどうかのところでは一線を引かないと幻想が壊れるんだって。正直ぼくには何のことだかさっぱりだよ。

 

 

 歩きスマホはさ、場所とか状況を選ぶんだよ。とくにぼくみたいにすぐ声に出ちゃうようなタイプはね、うるさいし危ないし不審に見えるから。TPOが何なのかってのは知ってたけど、それをPサマに会ったその日に頭に叩き込まれたなあ。文字通りだぜ? ぽこじゃかぶつんだもん。いくらぼくでも覚えるよ。

 だから外でスマホ見るのは少なくとも電車か近所の住宅街。でも人がいっぱいいるときはダメなんだよね。通報されるとかならまだいいほうで、たとえば海ちゃんとかヒナ先のお仕事の話バラすようなことになっちゃったら冗談じゃ済まないじゃん。ぼくはザコメンタルのクズだけど、そんなのを言い訳にして友達を引きずり落としちゃうのはやっぱ違うと思うんだ。

 と言いつつタイムラインチェック~。今は条件満たしてるもんね、それなら当然見るよ。まだぼくは公式アカウントみたいなのはもらってないけど一回ボヤ騒ぎ起こしてるから、わざわざ新規でアイドル情報収集用アカウント取り直したんだよね。アイドルオタクどもの情報網って何より早いのが特徴でさ。ぼくが厳選したやつらが作るタイムラインはかなりガチ。日本全国どこでどんなことがあったかほとんどリアルタイムでわかる。事前のスケジュールなら調べられるっちゃ調べられるのかもしれないけど情報量が多すぎて無理無理の無。SNS文化の申し子・りあむちゃんだからね、誰かに頼らなきゃやってられないよ、ホント。それにサプライズとか突発で起きる事態もなくはないし。

 

 って、おいおいおいウソだろ、ウソって言ってよ。え、まじ、文香ちゃんがあっちのシアターに参戦したの? あああああああああああ、ちょ、うわ待って、しかもカカオバター歌ったの!? 超レアじゃん! 生で聴いたことないよぼく……。ええ、うそ、時間戻したい。そんで出番ブッチしてあっちのシアター行きたい……。ひえっ、タイムラインが歓喜の声と怨嗟の声で埋まってる。まあでもそりゃそうだよな、だって文香ちゃんって基本的に舞台に立つ予告しないんだもん。たまたま当たればラッキーで、歌ってもらえたら超ラッキー。お気に入りの曲が聴けたら神に感謝ってレベル。舞台袖から顔だけちらっと覗かせてそのまま引っ込んじゃうパターンもあるしね。ぼくもファンとして二回経験してるよ。

 

 文香ちゃん推せ推せのすこすこ侍なんだよぼく。アルバム二枚ともは必携として、うちわに法被にブロマイドと限定タオルも持ってるくらいにはさ。そのぼくがあのカカオバターを聴き逃すってまずいでしょ、アイデンティティがクライシスじゃん。

 いやね、たしかに個人的にご指導いただいてる身ではあるんだけどさ、ぼくはその前にアイドルオタクなわけで。どちらかといえばステージの下がぼくのポジションなんだって。生歌聴いて号泣してるのが本来の姿なの。たしかにPサマに拾われて人生一発逆転わくわくりあむちゃん成り上がり物語開幕したか!? って思いもしたけど、ぼく自身が信じきれてない部分もあるんだよ。そう考えたらぼくの目がぼく以外に目移りしちゃうのって自然じゃね?

 だから文香ちゃんの個人的な連絡先なんていうチートアイテム持ってるぼくが、そういう予定とかは聞いちゃいけないの。それやっちゃうとアイドルオタクでもいられないし、文香ちゃんと今の感じでお話できなくなっちゃうから。そのせいでぼくと文香ちゃんのメッセージのやり取りって超事務的なんだよね。何日何時空いてますか、大丈夫ですよ、って。ぐひー、つまらないやつとかって思われてないかな。

 ああでも、ちくしょう、生歌聴けなかったのは冗談でなく悔しいからおうち帰って文香ちゃんのアルバム聴こ。

 

 

 

 

 

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