一誠は休日の学園に来ていた。夜にサーゼクスから連絡があったからだ。リアスとライザーのレーティングゲームで不死が発動しなくなったライザーの魔力の流れを元に戻すためにサーゼクスはライザーを人間界に連れてきた。
場所は体育館。そこに居るのは一誠、サーゼクス、グレイフィア、ライザーとその眷属と少し年配の男性が一人が集まっていた。
「サーゼクスさん」
「何だね?イッセー君」
「ライザーの父親が居るなんて、聞いてないんだけど?」
年配の男性はライザーとレイヴェルの父で現フェニックス家当主の悪魔だ。心配そうにライザーを見ていた。
「念のためだよ。ライザー君がパニックを起こした際にね」
「なるほど……なら始めるぜ」
「ああ」
一誠はライザーに近づき、頭を掴んだ。周りの者には一誠が何をしているのか分かっていない。そもそも悪魔は魔力を使うが氣を使わない。
だから一誠がライザーの頭を掴んでいるにしか見えない。そして10秒も経たない内に一誠はライザーの頭を離した。
ライザーの顔は先ほどまで苦しんでいたのが嘘のように穏やかな寝顔になっていた。その事にフェニックスの当主とライザーの眷属たちは胸を撫で下ろした。
「これで魔力の流れは元通りになったぜ。不死が発動するのかはそいつ次第だ」
「ああ、ご苦労様。フェニックス卿、これでライザー君次第で不死は発動するでしょう」
「あ、ありがとうございます。サーゼクス様」
フェニックスの当主はサーゼクスに深く頭を下げた。相手がいくら魔王といえ、やり過ぎと言えるだろう。
しかしそこは息子を心配する一人の親でしかなかったのだ。しばらくしてライザーの傷が元に戻った。
「これでもういいはずだ」
「あ、ありがとう!!」
「礼を言われる筋合いはない。元々俺がやった事だしな。それじゃ俺はこれで」
「ああ、ご苦労様。それと例の情報はどうだい?」
一誠が体育館から出る際にサーゼクスは例のテロ組織の情報について一誠に聞いた。出来るだけ早めに情報を知っておきたいからだ。
身内が、しかもそれなりに権力を持っている人物が関わっているなら尚更だ。
「今日、これから聞く予定だ」
「そうか……分かったよ」
一誠はそのまま体育館を後にした。
▲▲▲
「…………」
一誠は学園から真っ直ぐアパートに行かずに例の駄天使を倒した廃工場に向かっていた。向かうまでは良かった。
しかし学園を出てから一誠の背後を一定の距離を保ちながら尾行している者が居た。
(この気配は確か生徒会の……)
一誠は尾行者の正体が生徒会のメンバーだと氣ですぐに分かった。一誠としても別について来られても問題はないのだけど、これから会う人物が問題だった。
主殺しのSS級のはぐれ悪魔だ。まだはぐれ解除は済ませていない。もし見つかれば、ややこしい事になるのは目に見えていた。
「にゃぁ……」
「黒」
一誠の肩に一匹の黒猫が飛び乗ってきた。黒歌だ。一誠が尾行されているを察した黒歌は猫の姿で一誠の下までやって来たのだ。
これなら別に見られても猫とじゃれているだけにしか見えない。
「イッセー。付けられているにゃ」
「ああ、気配丸出しの悪魔が俺たちのように氣を探れる者を尾行とか無理だろ」
「確かに。見てて、こっちが恥ずかしくなるにゃ」
「お前を見られると厄介だから、後で俺のアパートにでも資料を置いておいてくれ」
「分かったにゃ」
黒歌は一誠の肩から塀に飛んだ。一誠は黒歌が離れたら走って廃工場に向かった。追跡者もそれに釣られて見失わないように走った。
そして廃工場に着いた一誠は後ろに振り返った。
「野郎に追われる理由がないんだけど?いい加減、出て来いよ」
「……よく俺の尾行に気が付いたな」
「いや、気配丸出しで見つからないと思っていたの?」
「け、気配?」
氣を理解していない者には一誠が何を言っているのか分からない。そして隠れても意味がないのが分かったのか物影から一人の男子生徒が現れた。
「お前は!?……誰?」
「知らないのにあたかも知っている風に言うな!!」
「もちろん知っている。生徒会の雑用係だろ?」
「違う!俺は匙元十郎で書記だ!」
現れた生徒は駆王学園生徒会のメンバーの一人で一誠と同級生の匙元十郎であった。一誠が学園で出てからずっと付いて来ていた。
「それで何の用だ?生徒会長の使いパシリか?」
「違う。俺個人で兵藤に頼みがあるんだ」
「頼み?俺は女子以外の頼みは基本断っているから」
「俺を弟子にしてください!!」
「弟子?」
匙は見事なまでの土下座で一誠に弟子入りを頼んだ。コンクリの地面でも廃工場なので床は埃まみれなのだが、匙はそれを気にせずに土下座をしていた。
「どうして弟子入りしたいんだ?」
「強くなるためだ!」
「だったら俺でなくてもいいだろ」
「兵藤でないと駄目なんだ!!」
匙は一歩も譲るつもりは無いと言わんばかりだった。それほど一誠への弟子入りに意味があるのだろう。
「俺が強い事はどこで知った?」
「グレモリー先輩がフェニックスの悪魔とレーティングゲームしている映像で」
「あれか……よく手には入ったな?」
「会長のお姉さんが魔王で特別に貸して貰ったんだ」
ソーナの姉は現四大魔王の一人だ。ソーナはその伝手を使い非公式のレーティングゲームの映像を借りたのだ。
一誠の実力を分析するのと将来の自分の夢のために。
「魔王ね……それで話は戻るが、どうして俺なんだ?」
「映像でフェニックスにも引けも取らない兵藤を見て、お前の元で強くなれる気がしたんだ」
(弟子にしてみるのもいいかもな……)
最近、自分の力の伸びしろに限界を感じていた一誠は何か別の刺激を求めていた。異世界で学んだ業をこちらの世界の誰かに教えた所で一誠の秘密まで明らかになる事はないだろう。
「いいぞ。弟子にしてやるよ」
「ほ、本当か!?」
「ああ、ただし俺は弟子なんて取った事がない。加減なんて知らない。途中でへばったら破門な」
「あ、ああ!それで構わない!」
一誠は匙を弟子にする事にした。誰かに教える事で何か新たな道が切り開けるのではないかと思ったからだ。
もちろんそれだけが弟子にした理由ではない。
(アレイザードに行く前の俺に似ているんだよな……)
アレイザードで力を手に入れる前の一誠はどこにでもいる普通の少年だった。ある人物の狂気を止められなかった無力な自分。
一誠は匙にそんな過去の自分を重ねていた。力を手に入れる覚悟を決めて、迷わず進むと決意を。
「一先ず、主の所に帰れ」
「今日は何もしないのか?」
「他人の眷属を勝手に鍛えたら後で文句を言われるだろが。だからちゃんと許しを貰って来い。いいな?」
「分かった!すぐに会長に言って来る!!」
「本格的な修行は明日からだ!」
「おう!」
匙は主であるソーナへ一誠の弟子の件を報告するために全速力で学園に走った。一誠はそれを見送ってからアパートへと歩き出した。
そして黒歌が持ってきた書類を見て、精査したのちサーゼクスに報告したのだった。
しかしこの時、冥界とヴァチカンにて新たな物語の歯車が動き出した事にこの時の一誠は気がついていなかった。
はぐれ勇者に敗れた外道勇者と聖剣を奪取した堕天使が一誠たちの住む街に来るまでもうまもなくだ。
白き龍の皇帝はその時、禁じ手をもって力を示す。