駆王学園旧校舎の屋上に二人の男子生徒が居た。一人は生徒会書記、匙元十郎と現白龍皇の兵藤一誠の二人だ。
彼らは朝錬部活の生徒しかいない時間帯に集まっていた。
「旧校舎の屋上は普段、立ち入り禁止だけど。会長が特別に使っていいってよ!」
「そうか……ここなら問題ないな」
「それで兵藤!修行は何からしたらいいんだ?」
「ちょっとは落ち着け」
匙は一誠の修行を心待ちにしていた。強くなる事は思い人のソーナの役に立つからだ。匙はソ-ナの力になろうと覚悟を決めていた。
「修行を始めるにあたって。やっておく事がある」
「やる事?それは?」
「お前の氣孔を開ける事だ」
「きこう?」
匙は初めて聞く言葉に首を傾げていた。一誠は匙の反応に予想通りと言わんばかりに何も言わなかった。
一誠は指を二本立てた。
「なあ、匙」
「何だよ?」
「安全だけど時間が掛かるのと危険だけど時間が掛からないだとどっちがいい?」
「時間が掛からない方で」
「即答だな」
一誠は匙の即答に思わず驚いてしまった。この手の質問は悩んでしまう場合が殆んどだ。即答出来る人間などそれほど多くはない。
匙は少し前まで一般人だったのだ。人外の世界には来たばかりだ。そんな人間がこれほどまでにすぐに応えられるものではない。
「少しでも早く会長の夢のために頑張りたいんだ。俺は!」
「会長の夢?なんだ、それは?」
「レーティングゲームの学校を作る事なんだよ」
「えっ!?無いのか?悪魔が考えたゲームだろ?」
「あるにはある。ただし貴族専用なんだ。でも会長が作りたいのは平民でも入れる学校なんだ!」
冥界にはレーティングゲームの学校がある。しかしそれは貴族だけと言う限定的なものだ。平民では入る事すら出来ない。
ソーナはそんな平民のための学校作りを考えていた。そんな考えに匙は感銘を受けた。
(この人のために頑張りたい!)
それは恋の始まりでもあった。だが、相手は貴族の令嬢で自分は下級の転生悪魔。これと言って優れたものはない。
伝説の『神器』を持っていればステータスになっていただろう。しかしそんなものは持ってはいない。
ならする事は限られている。努力をする事だ。強くなるために修行しかなかった。でも元一般人の匙が修行してもすぐに行き詰った。
そんな時に出会ったのが、リアスとライザーのレーティングゲームの録画映像だった。非公式だった事もあって、この事を知っているの極限られた者たちだけだ。
そんなものを入手出来たのはソーナの姉が現四大魔王の一人だからだ。ゲーム研究のために姉に無理を言って貸してもらったのだ。
ソーナは眷属全員にレーティングゲームとはどう言ったものかを知ってもらうために録画を見せた。
(すげぇ……)
その中で匙は一誠に目を奪われていた。圧倒的な力でライザーや眷属たちを次々と倒していった。
まさに匙が目指している者だった。そこから匙は一誠について調べ始めた。同級生で女子からの信頼が圧倒的に高い。
先輩、後輩と顔が広く男子からも恋愛相談を受けている。分かる事はそこまであった。強さなどの秘密があるとは思えなかった。
そこで匙は尾行して秘密を探ろうとして、尾行初日にあっさりバレてしまった。
「匙。それじゃ行くぞ」
「ああ、やってくれ」
「では……」
一誠は匙の頭を掴んで氣を送り込んで氣孔を強引に開けた。一誠が手を離すと匙は不思議な感覚に陥っていた。
「なあ、兵藤。お前から変な靄のようなものが出ているんだけど」
「これが氣だ。お前も自分の身体を見てみろ。もう見えるはずだぞ」
「え?うわぁ!?なんだ、これは?」
「氣。言い換えればオーラってやつだ。これからお前にはそれをコントロールしてもらう」
匙は自分の身体から出ている氣と一誠の氣を大きさを見て違和感を持った。実力では一誠の方が上なのに出しているオーラの大きさがどう見ても匙の方が大きかった。
「兵藤のオーラ、俺より小さくないか?」
「それは今は戦闘をしていないからな。出しぱなしにするとすぐに氣が枯渇して死ぬからな」
「どうしてそんな大事な事を先に言ってくれないんだ!?じゃあ、俺はこのままだと死ぬのか!?」
「理解が早いな。だからまずは落ち着け。興奮した分だけ氣が余計に出るぞ」
「お、おう。落ち着く。すぅ……はぁ……」
匙は深呼吸で落ち着きを取り戻してきた。そして氣も落ち着き段々出るオーラの量が減ってきた。
「そうだ。落ち着く事が重要だ。氣は感情でブレるからな」
「ああ……兵藤はすげぇよ……この状態で一歩も動けない」
「最初の内はそんなもんだ。まずは手の型を覚えておかないとな」
「手の型?」
「ああ」
一誠は人差し指と中指で親指を抑えた手を匙に見せた。匙も真似して同じように指を押さえた。
「指ってのは身体を流れる氣を操るには適しているんだ。だから型でイメージしろ。自分の中の氣を」
「指でイメージ……」
「それで慣れてきたら型をしなくても氣を操れるようになれる」
「お、おう。やってやる!」
匙は一誠から教わった指の型をさっそくして自分の中の氣を操る修行を始めた。もちろん最初から上手く行く訳も無く苦戦していた。
そんな匙を見兼ねて、一誠は匙の頭に手を乗せた。
「最初は俺が協力してやるからイメージをしっかりと持て」
「分かった」
「匙。試しに俺の胸を殴ってみろ」
「ああ。おら……い、いってぇ~~!!?兵藤、胸に鉄板でも仕込んでいるのか!?」
「そんな訳あるか。氣を胸に集中させて防御力を上げたんだよ」
「そんな事も出来るのか!?」
匙は一誠の胸の硬さに驚いていた。そして自分が今、習っている業の事が段々と理解してきた。
そこから20分ほどの修行が始まった。そして一誠は匙の氣孔を少し閉じた。開けっ放しでは氣を垂れ流しにして匙が死んでしまうからだ。
氣の開け閉じはまだ匙には無理だ。だから一誠が開けたり閉じたりしなくてはならない。
「今日の修行はここまでだ」
「も、もう少し出来るぞ!」
「休憩もまた修行だ。それに無理して身体を壊したら修行が出来ないんぞ」
「……分かった」
「今日の修行内容は誰にも喋るな」
「会長にもか?」
「ああ。お前は俺にとってお試しの弟子なんだ。中途半端に興味を持たれるとこっちが困る」
一誠が匙を弟子にしたのはあくまでお試しに過ぎない。一誠のいい刺激として匙を弟子にしたに過ぎない。
だから今はこれ以上弟子を取るつもりは無い。だから他の人が興味を持たれても困るのだ。
「明日も同じ時間に来い。今日より厳しくしていく」
「おう!それじゃあな兵藤!」
匙はご機嫌に屋上から出て行った。一誠から習っている錬環勁氣功をものに出来ればソーナの夢に貢献出来るからだ。
匙は理解していた。ソーナ眷属はテクニックはあっても敵を倒すだけの火力が無かった。しかし眷属で自分が最大の火力を出せれば、きっとソーナの隣に立つ事が出来るのではないか。
(その時が来たら会長に告白するんだ!)
今はそんな事は出来ない。そもそもそんな度胸も勇気もない。だけど、強者である一誠に鍛えられたらいつか告白出来るのではないかと。
匙は強くなった時にソーナへの告白を考えていた。その日は匙は悪魔の仕事がいつもより上手くいき、ソーナに褒められるのだった。
「匙。今日はよく頑張りましたね」
「はい!俺、会長の夢の手助けをしたいんです!」
「それは期待していますよ」
「はい!」
匙はガッツポーズを心の中で決めていた。