平日の昼間に一樹と祐斗は学校の外に居た。しかも神父服を着ていた。どうして神父服を着ているかと言うとはぐれ退魔師であるフリードを誘き出すためだ。
フリードは教会から奪われた三本の聖剣の内一本を持っていた。ならコカビエルの部下である事は明白だ。なら一番接触出来る人物からコカビエルへと近づこうと言うのが一樹の考えた作戦だ。
しかし数時間、街を歩いているがフリードが接触してくる気配はなかった。
「中々出てこないね……」
「だけど、あいつの事だから絶対に食いつくはずだ!」
「そうだね。もう一時間、経ったら交代しよう」
「そうだな」
一樹と祐斗が囮となってリアスたちが周りに隠れて、いつでも二人の援護が出来るようにしていた。
二人がもう少し粘ろうとした時だった。前から鎧を来た人物が近づいてきた。一樹と祐斗はそれぞれ臨戦態勢を取った。
「初めまして兵藤一誠」
「おい!誰が一誠だ!俺は一樹だ!!」
「まさか違うのか?いや、兄弟なのか?だったらちょうどいいか」
「お前は何者なんだ!?」
「そう言えば名乗っていませんでしたね。僕はフィル・バーネット、ディスティアの勇者です」
「どこの勇者だって?」
一樹は聞いた事もない国の名前に首を傾げるしなかった。目の前の人物が言う国には心当たりはなかった。
(一誠の知り合いか?)
一誠の事を知っている様子や名前を間違えた事から一樹は目の前の男が一誠の知り合いだと思った。
「カズキ君!離れるんだ!」
「ど、どうしたんだよ?木場」
「目の前の男は数日前に主と屋敷の使用人を全員殺した事ではぐれ悪魔に認定された者だよ!」
「は、はぐれ悪魔だって!?」
祐斗はフィルの名前に聞き覚えがあった。冥界ではちょっとした話題になった事件だ。転生悪魔が主と使用人を全員殺した事件だ。
事件の詳細までは覚えていなかったが、はぐれ悪魔の名前だけは覚えていた。冥界では草の根まで掻き分けて探しているが一向に見つからなかった転生悪魔だ。
(どうやって人間界に!?)
転生したての悪魔がどうやって冥界から人間界にやってきたのかが不明だった。きちんとした手続きを踏まなければならないのに。
はぐれ悪魔が仮に手続きした所で通してくれるとは思えなかった。
「兵藤一誠ではないが、同じ顔なら彼らも納得するでしょう」
「さっきから何を言っているんだ!?」
「その首、貰います!」
「カズキ君!」
フィルがいきなり一樹へと切りかかった。しかし祐斗が間一髪の所で割っては入った。おかげで一樹は死なずに済んだ。
「た、助かった。木場」
「うん。だけど、部長たちはどうしたんだろう?」
「確かにこの状況は見えているはずなのに……」
一樹と祐斗はいつまでも来ないリアスたちが心配になってきた。襲われたのは見える場所に居るはずなのにいつまで経っても来る気配がない。
一樹はリアスたちの下へと行きたかった。しかし目の前の男に背を向けるのは出来なかった。
「お仲間の心配より自分たちの心配をしたらどうですか?」
「この……!!」
「カズキ君。ここは僕が―――」
「お前には用は無いんですよ!」
「がっ!?」
「木場!!」
フィルは祐斗を払いのけて、一樹へと迫った。一樹はフィルに殴りかかったが、フィルの速度が速くて攻撃が当たらなかった。
そしてフィルは一樹の背後に回り、首に向けて剣を振った。
「っ!?」
あと少しで一樹の首が切られようとした時だった。いきなりフィルがバックステップで一樹から離れた。
そして次の瞬間、一樹の背後に何かが落ちてきた。
「な、何だ!?」
「あれは……」
「―――よぉ、まだ自分と相手の技量すら測れないのか?」
「一誠!!?」
一樹の背後に落ちてきたのは一誠だった。一誠はフィルに視線を向けた。そこで見た事のある紋章を刻んだ鎧を見た。
「お前、それをどこで手に入れた?」
「これは皇帝陛下から頂いたものですよ」
「皇帝だと?あのハゲ達磨の事か?」
ハゲ達磨。一誠がそう呼ぶのはディスディアの現皇帝バラムの事だ。一誠は彼が嫌いで嫌味を込めてハゲ達磨と呼んでいる。
「ディスディアとは……で、お前は何者なんだ?」
「先ほど名乗ったのですけど……では改めて、ディスディアの勇者フィル・バーネットです」
「勇者だと?ははっ!機械帝国と名乗っておきながら勇者に頼るとはあのハゲはついに耄碌したか!?」
アレイザードで魔法ではなく機械文化を発展させた帝国。それだと言うのに物語に登場する勇者に頼る皇帝に一誠は笑うしかなかった。
その言葉にフィルはイラっとしていた。勇者を馬鹿にされたからだ。
「それでどうして一樹……俺の兄を狙った?」
「簡単の事ですよ。アレイザードに戻るのに手土産の一つも持ち帰らないと僕の残してきた失態が雪げないからですよ」
「失態?まあ、いいや。お前は二度とアレイザードには戻れない。俺が帰さない」
「双子の兄弟なら別どちらでも良かったのですけど、本物が目の前に居るならちょうどいい。あなたの首を貰いましょう」
一誠とフィルはそれぞれ構えた。そして最初に動いたのはフィルだ。一直線に一誠に向かったと思うと、直前で跳躍して一誠を飛び越えた。
そして一樹へと剣を振り下ろした。そこへ一誠が間一髪で一樹を引っ張り助けた。
「お前、なんのつもりだ?」
「だから言ったでしょ。手土産が必要だと。同じ顔があるのですよ?手に入れ易い方を選ぶのは普通でしょ?」
「クソ外道が……!!」
一誠はフィルに対して激しい怒りを覚えたが、すぐに心を落ち着かせた。怒りに任せて、戦うのは愚者のする事だ。
(落ち着け俺。しっかりと対応すれば勝てる相手だぞ)
フィルの目的はアレイザードで起こした失態を挽回するための功績だ。そのため魔王の娘を自分の世界に逃がした凰沢暁月の首を持ち帰ろうとしたが失敗した。
暁月に止めを刺される前に転移をしたが、致命傷を受けていたフィルは転移先で死んでしまった。
しかし幸か不幸か転移した先に暁月の弟分と知られていた一誠がいた。そこで彼は作戦を変更した。暁月ではなく一誠の首を持ち帰ろうとした。
「手土産なら俺だけを狙え!」
「なんですか?弱い兄弟を守るつもりですか?あの男の弟分ですね。弱いなら切り捨てればいいものを」
一誠はフィルを挑発した。そもそも一誠に一樹を守る義理はどこにもない。しかし一樹をフィルが狙っている以上、守る必要がある。一誠はフィルの目的を果たさせないためにも。
一誠は地面に置いていた砕けた剣を拾った。祐斗が『魔剣創造』で作ったものだが、フィルの一撃に簡単に砕けてしまったものだ。
「そんな剣で僕と渡り合えると?」
「物なんて使い手の技量でいくらでも賄える」
「なら木っ端微塵にしてあげましょう!」
「ふん!」
一誠の砕けた剣とフィルの両手長剣がぶつかった。一誠が持つ剣が砕けるかと思われたが、砕けなかった。
それから何度もぶつかっても砕ける気配がまるでなかった。
「流石はあの男と同じ業を使う事はありますね!」
「それはどうも!だが、まだまだ!」
「このっ!」
「そこ!」
「ぐっ!?」
一誠はフィルの隙を見逃さなかった。砕けた剣でも氣を流し耐久力を上げて、流れをコントロールして、剣と剣がぶつかる瞬間にぶつかる位置の氣を増やして消耗を最小限にしているのだ。
そして今、一誠の砕けた剣がフィルに迫ろうとしていた。
「何を遊んでいる?フィル・バーネット」
一誠とフィルの戦いに割っては入ってきた者がいた。