学園に張られた結界内に入った一誠と匙は椅子に踏ん反り返っている堕天使コガビエルと両手長剣を持つフィル・バーネット、聖剣を扱う事の出来るフリード・フルゼン、そして『聖剣計画』で被験者たちを殺した『皆殺し大司教』のバルパー・ガリレイたちとリアスたちグレモリー眷属と二人の聖剣使いのイリナとゼノヴィアの間に立ち塞がった。
「アルビオン。あの三つ首の犬ってまさか……」
『ええ、あの犬は地獄の番犬のケロベロスですね』
「あれがそうなのか……」
学園内にはコガビエルが連れてきた魔獣ケロベロスが数多くいた。リアスたちの近くに数匹のケロベロスの死体が転がっていた。
一誠が来る前にリアスたちが倒したのだ。しかしリアスたちでは数匹が限界で全てを倒す事は出来ない。
「よし匙。お前はケロベロスを倒せ」
「いや無理無理無理!あんなのどう倒せばいいんだよ!?」
「まったくお前は……もう少し自信を持てよ」
一誠はケロベロスを匙に任せようとしたが、当人は自分には無理だと首を高速で左右に振った。一誠が相手にしても良かったのだけど、フィルや後ろに控えているコガビエルまで相手にすると周りの者たちを守りながら戦う事が出来ない。
「なら俺がケロベロス対策を授けえよう」
「ガアァァァ!!」
「兵藤!後ろ!!」
一匹のケロベロスが一誠の背後から勢いよく突っ込んできた。もちろん一誠には来るのは分かっていた。氣を探知出来る一誠は学園内に誰がどの位置居るか目を瞑っても分かる。
「まずケロベロスの攻撃を懐に潜る事で回避する」
「ガアァァァ!!」
「そして側面に移動して……熊張り手!」
「ガァ……!」
ケロベロスは絶命した。一誠の熊張り手がケロベロスの肺を潰したのだ。本来、張り手は手を広げてやるものだが、熊張り手は指の関節を曲げて、手の面積を小さくする。
小さくするのは氣の分散を防ぐためだ。そして面積を小さくした張り手から繰り出される氣が対象の体内を一直線に貫通する。
そのため線上にある内蔵は無事では済まない。だからケロベロスは一撃で倒せたのだ。
「さて、匙。頑張れ」
「だから無理だって!」
「お前な……何のために俺が修行をつけたんだ?実践で感覚をつかんで行くステージまでお前は来ているんだよ」
「そ、それは嬉しいけど……俺には」
「だったら無事にこの件が終わったら会長の口説き方を伝授してやろう」
「本当か!?」
匙は一誠からの思わぬご褒美に飛びついた。匙の思い人であるソーナのガードは固くどうアプローチしていいのか匙には分からないでいた。
「俺が入学してからどれだけの女子と付き合ったと思っている?」
「5~6人か?」
「いや、22人」
「……はぁ!?ふざけんな!どんだけモテるんだ!!」
匙は大声で叫んだ。一誠が女子からモテるのは前々から男子の間で話にあがるほどだ。まさか一年で20人以上の女子と付き合ったと思いもしなかった。
「一ヶ月に二人と付き合って捨てたのか!?」
「安心しろ。別れる前に趣味が合う男子を紹介している」
女性に対してのアフターケアもちゃんと整っている。一誠は付き合う前に事前にお試し期間を設けていた。
お試し期間を過ぎても付き合うたい女子とだけ関係を続けたいと思っていたが、中々そんな女子は現れなかった。
それゆえに一誠は多くの女子と付き合ったのだ。
「これが無事に終われば、俺がクール系年上女子の口説き方を教えてやる」
「ま、マジなんだろうな!?」
「ああ、精々頑張ってこい」
「よしゃぁぁぁ!!やってやるぜ!覚悟しろ犬っころ!」
匙は氣を全身に巡らせてケロベロスへと向かっていった。そして一誠はフィルへと視線を向けた。
「待たせたな。始めようかフィル・バーネット」
「そうですね。兵藤一誠」
「始まる前に聞きたい。お前がアレイザードでした失態ってのは何だ?」
「どうしたんですか?急に」
「何、気になっただけだ」
一誠はずっと考えていた。フィルがアレイザードで犯した失態とは?魔王の娘ミユを諦めて一誠の首を持ち帰るほど事をしたのか。
(こいつはどう見ても完璧主義者のはずだ……)
一誠はフィルの言動から性格を予想した。プライドが高く勇者にかなり拘りがある男だ。そんな男が自分から失態を犯すとは思えなかった。
「勇者の墓を破壊したのですよ」
「……勇者の墓だと?まさかレオンさんの……」
「ええ、勇者レオンの墓ですよ」
「お前!自分が何をしたのか分かっているのか!?」
アレイザードにある勇者の墓は一つしかない。暁月と一誠が世話になり、リスティの元婚約者である男、レオン・エスぺリオだ。
一誠はレオンには大きな恩がある。魔王打倒の途中に何度も命を救われたし、剣の修行にも付き合ってもらった事がある。
(こいつは……絶対、殺す!!)
一誠は殺気をフィルにぶつけていた。恩人の墓を破壊した目の前の外道をここで確実に殺すために。一誠は自分の中から熱い何かがグツグツと湧き上がってきているを感じた。
「面白いですね」
「何が面白いんだ?」
「あの男はこれを聞いた途端、殴りかかってきたのに。君はそうではないのですね」
「……俺は兄貴ほどレオンさんに複雑な感情を持っていないからな」
一誠がレオンに持っているのは憧れである。だが、暁月は違う。彼はレオンを殺めてしまった。しかしそれには理由があった。
レオンは魔族を惨殺していた。それも子供や老人など戦えない者たちを中心にだ。そしてリスティを含めた王族を殺して、それを魔王の所為にして国を乗っ取ろうとしたいたのだ。
だからと言って暁月がレオンを殺してしまったのは紛れもない事実だ。だから暁月はフィルをすぐに殴ったのだろう。
「分かりませんね。死人がなんだと言うのですか?」
「黙っていろフィル・バーネット。死んで地獄で詫びて来い」
「死ぬのは貴様の方だ!」
「ふん!」
一誠は腰に仕舞っていたサバイバルナイフを二本を逆手持ちにして構えた。フィルは両手長剣の魔剣を構えた。
そして最初に一誠の方から仕掛けた。本来なら真剣を持つフィルにサバイバルナイフで立ち向かうなど無謀にもほどがあるが、一誠なら問題はなかった。
「ちっ……あの男と同じ業とはつくづく面倒ですね」
「それはどうだろう!斬り鼬」
「このっ!」
一誠はナイフに氣を込めて放った。氣は斬撃となってフィルに迫った。フィルは足で砂煙を起こして、斬撃を回避した。
氣による攻撃は殆んど見えない。ただし同じく氣を扱う者なら見る事が出来る。だがフィルには見えない。
しかしフィルは砂煙を起こす事で斬撃を回避した。見えないと言うだけで攻撃自体が無い訳ではない。
(やはり氣を使う者との戦い方を理解しているな……)
一誠フィルの懐に潜り込んだ。得物の長さから一誠は近づいた方が有利なのだ。フィルは長剣なのである程度振る距離が必要だ。
一誠が近づき過ぎると致命傷を与える事が出来ない。それが分かっているので一誠は近づきナイフでフィルを切り裂いた。
「どうした?フィル・バーネット。この程度なのか?」
「くそがっ!!」
「兄貴に負けたのも納得だ」
「ふざけるな!」
「ほら隙だぞ?」
「ぐっ!?」
一誠はフィルの鎧の隙間を狙って軽く切り裂いていた。ナイフで鎧を着たフィルに致命傷を与えるのは無理だ。
だが、切り傷が多ければ出血多量で時間は掛かるが倒せる。しかし理由はそれだけではない。小さな攻撃ばかりでフィルの堪忍袋は限界が近かった。
「とことん切り裂いて地獄に落ちろ!!」