フィル・バーネットは勇者に憧れていた。悪に屈せずに悪を倒す姿に夢を見ていた。そんな彼は異世界に勇者と召喚された。
彼は喜んで勇者になる事を承諾した。しかしその世界には二人の勇者が存在していた。一人はまさに憧れる勇者レオン。もう一人はそのレオンを殺したはぐれ勇者暁月。
一人は死に一人は元の世界へと帰って行った。フィルは激しい嫉妬を覚えた。勇者として召喚されたにも関わらず何も出来なかったのだ。
だからレオンの墓を破壊し、暁月が連れ帰った魔王の娘を殺そうとした。しかし結局失敗してしまった。このままではアレイザードへ帰還出来ない。
そんな時に転移した世界で聞き覚えのある名前を聞いた。はぐれ勇者の腰巾着と呼ばれた少年の名前を。
フィルは作戦を変更した。魔王の娘ではなくはぐれ勇者の弟分の首を持ち帰り、勇者の墓の破壊の件を帳消しにしようとした。
フィルは一誠の実力を完全に下だと思っていた。腰巾着なんて二つ名が付けられるほどだ、戦闘を暁月ばかりに任せて安全な場所から見ていただけだと。
しかし戦ってそれが間違いだと思い知らされた。むしろ暁月よりも強いとさえ思ったほどだ。それがフィルには許せなかった。
(僕が勇者でもない餓鬼に負けるなんて、絶対にあえりない!!)
勇者に憧れているのだ。それだと言うのに勇者でもない年下の男に負ける事がフィルには許容出来る事ではなかった。
そして頭の中が怒りで満たされた時、フィルは邪龍ザーハックへと姿を変えるのであった。そのまま一誠へと襲い掛かった。
「死ネェェェ!!」
「おっと……薄汚いお前にはお似合いな姿になった」
「ナンダト!?死ネェェェ!!」
ザーハックとなったフィルは一誠を踏み付けようとしたが、体が大きくなった所為かモーションが大きく、一誠にとって回避しやすかった。
「神剣!―――何!?」
「ハハハッ!ソンナ攻撃ガ効クカ!!」
「マジか……」
一誠は神剣でザーハックの鱗を破壊する事が出来なかった事にショックを受けていた。的が大きく、動きも予想出来たので隙が大きな大技で決めきれなかった。
それだけザーハックの鱗が頑丈だったという事だ。これでは攻撃が無意味になってしまう。
「なら試してみるか……海鳴り!」
「ハハハッ!ソンナこうげ……ガハッ!?」
一誠は拳に氣を溜めてフィルに殴りつけた。するといきなりフィルが吐血した。フィルは一誠が攻撃した場所を見たが、鱗は健在であった。
つまり鱗が破られた訳ではない。それなのに吐血するほどのダメージを受けてしまったのだ。フィルは前足で一誠を踏み潰そうと何度も叩きつけた。
「コノ!コノ!」
「体が大きくなった分、スピードが遅くなったんじゃないか?」
「ナンダト!?」
「海鳴り!」
一誠の挑発にフィルはさらに踏み付けをしたが、事ごとく避けられてしまった。一誠は避けてまた海鳴りでフィルに確実にダメージを与えていた。
「コノ!」
「怒っていては俺には勝てないぞ」
「バカメッ!!」
「しまっ―――」
「ガブッ!」
一誠はフィルの尻尾のなぎ払いをジャンプで避けた。しかしそれが不味かった。ジャンプした瞬間に無防備になった一誠を一口で丸呑みにした。
「イッセー君!」
「兵藤一誠!」
(やった!……後はあのはぐれ悪魔を倒すだけだ!)
イリナとゼノヴィアは心配のあまり声を出したが、一樹は心の中で一誠が喰われた事に喜んでいた。後はフィルさえ倒せばいいのだけど、満身創痍でという事をすっかり忘れていた一樹だった。
「ハハハッ!勇者デアル僕に勝テルハズナインダ!!ハハッ―――ギャアアアァァァ!!?」
「な、何!?」
「苦しんでいるのか?」
(何が起こったんだ!?)
高笑いをしていたフィルがいきなり苦しみだした。イリナもゼノヴィア、一樹も誰もが何が起こったのかまったく理解出来ないでいた。
(ナ、ナニガ!?)
フィルは激痛のあった場所を見たが、傷らしい傷は見られなかった。そして一樹たちを見た。あの中に自分を傷つけられる者はいない。
もし傷つけられるとしたら一人しかいない。しかしその人物は先ほど喰ったばかりだ。
(兵藤一誠ハモウ居ナイ。僕ヲ倒セル者ハイナイ。サキホドノダメージハ蓄積シタモノガ遅レテ来タダケダ)
一誠以外に自分を倒せる者がいない事を確認したフィルはダメージは気のせいだと意識の外へ追いやった。あとは地べたに這いつくばっている者たちを殺すだけだ。
「ギャアアアァァァ!!?」
またしてもフィルは激痛が襲ってきた。今度は激痛の場所を見たが、傷は見られなかった。しかい確かに痛みはある。まるで内臓でも引き裂かれたような痛みが。
そこでフィルは気がついた。自分の腹に何が入っているのかを。そこでフィルの腹は十字に切り裂いた。
「ギャアアアァァァ!!!」
十字に切られた腹から白い何かが飛び出して、プールに着水して大きな水柱を立てた。そして戻ってきた。
そこには『白龍皇の鎧』を着た一誠であった。体を震わせて、水滴を払った。
「くっさ!胃酸が思いのほか臭かった!」
「ド、ドウシテ!?」
「胃酸は半減し続けたから殆んど溶けていないんだよ」
「ナン……ダト?」
「俺の宿している龍の能力でな。対象の力を半分にして吸収するものなんだ」
「コ、コノッ!!」
フィルは怒りに任せて、一誠を踏み潰そうとしたが冷静さを欠いている攻撃なんて、一誠にとって見え見えの攻撃だ。避けるのは簡単だ。
「熊張り手!」
「ナッ!?」
「海鳴り!」
「ガハッ!?」
「神剣!」
「ギャアアァァァ!!」
一誠の攻撃がフィルにダメージを与え始めた。胃袋の中で半減したので、防御力が落ちたのだ。一誠は攻撃を畳み掛けた。
「ゼノヴィア。聖剣、借りるぞ」
「あ、おい!」
一誠はゼノヴィアから強引に聖剣デュランダルを借りて、フィルに切りかかった。聖剣のオーラをコントロールして切れ味をさらに上昇させた。そしてザーハックの硬い鱗が豆腐のように簡単に切った。
「あの硬い鱗を意図も簡単に……」
「凄い……」
(一誠の奴、まだ本気じゃなかったのか!?)
ゼノヴィアとイリナは一誠の聖剣の扱いに感動していた。一方、一樹は一誠の実力に愕然としていた。まだまだ余力が残っているのだ、どうすれば一誠を亡き者に出来るのかイメージが湧かなくなった。
「これで終わりだ、フィル・バーネット」
「ク、クソガッ!!」
「一刀両断!はっ!!」
「ガッ!?」
一誠はディユランダルをフィルの頭の上から振り下ろした。フィル―――ザーハックの体は綺麗に真っ二つになり、左右に倒れた。
「地獄でレオンさんにきちんと謝罪してこい。外道勇者が……」
一誠は念のため、ザーハックの体を聖剣で細切れになるまで切り裂いた。もう二度と復活出来ないように。
(これだけすればいいだろう……うん?)
フィルの細切れな姿に満足したのか一誠は切るのを止めた。そしてある気配が学園に近づいてくるのを感じた。
「イリナ、ゼノヴィア。動けるか?」
「む、無理かも……」
「済まないが、手を貸してもらえないだろうか?」
「そうしたいのは山々だけど、堕天使が数人近づいてきているんだよ」
「そうなの!?」
「何だと!?」
イリナとゼノヴィアは一誠の指差す方向を見た。そこには十翼五対の堕天使を筆頭に数人の堕天使が空中で佇んでいた。
「これはどういった状況なのですか!?」