その場にいる者全員が声の主に注目した。紅髪が特徴で強い魔力を放っている悪魔はこの世に一人しかいない。
リアスの兄にして冥界最強の悪魔、サーゼクス・ルシファーだ。後ろには彼の『女王』のグレイフィアが控えていた。
サーゼクスは周りを一通り確認した後、シェムハザに近づいた。
「古の大戦以来ですね。副総督シェムハザ殿」
「ええ、サーゼクス・ルシファー殿」
「コカビエルを止めに来たのですね?」
「はい。ですが、我々が来た時にはすでに終わっていました……」
サーゼクスとシェムハザはコカビエルを仰向けにしてから顔を殴り続けている一誠に目を向けた。コカビエルは気絶してピクリとも動かないが、それでも一誠は殴るのを止めない。
白い鎧がコカビエルの血で真っ赤に染まっていた。
「イッセー君。その辺で終わってくれるかな?君からも詳しく話を聞きたい」
「ああ。ちょっと待ってくれ。他の堕天使が見た時にドン引きするくらい痛めつけておかないとまた来るかもしれないからな」
「もう十分、ドン引きするほどの怪我だよ」
「そうか。ほらよ」
一誠はコカビエルをシェムハザの近くまで蹴り飛ばした。シェムハザは何か言いたげだったが、言葉を飲み込んだ。ここで何か言えばどうなるか分からないからだ。
「……正式な謝罪はアザゼルから後日、あるでしょう。我々はこれにて」
「ええ、では……」
シェムハザはサーゼクスにそれだけ言って部下にコカビエルを担がせて、この場を後にするように飛び去った。
その際にバラキエルが朱乃へ視線を送っていた。当の朱乃は目を合わせないようにそっぽを向いていた。
「リアス。どうしてコカビエルが来た時点で私たちに連絡しなかったんだ?」
「それは……私の管理している土地で起こった事で魔王であるお兄様にご足労していただく訳にはいかなく……」
「君は馬鹿なのかな?君程度の実力でコカビエルをどうにかできると思ってたいのか?」
「そ、それは……」
普段はリアスに甘いサーゼクスとは思えないほど言葉に棘があるように感じるグレモリー眷属一同であった。だが、それも無理もない。
高々十数年生きた悪魔が数千年を生きて大戦するら生き延びた堕天使に勝てる訳がなかった。コカビエルが最初から本気だったならリアスたちは生きていなかっただろう。
「君の処分については後日だ。グレイフィア、学園の修復を頼むよ」
「承知しました」
「私はイッセー君と話してくる。リアスたちは今夜はもう帰りない」
「はい。分かりました……」
グレイフィアは学園の修復を始めて、リアスは眷属たちは外に居るソーナたちと合流してトボトボと学園を後にした。サーゼクスは一誠に近づいた。
「ご苦労様だったね」
「これくらい屁でもない」
「流石だよ。今回の事がリアスにとってプラスになるといいのだが……」
「いや~あの性格じゃ無理だろ」
「一度、両親と話す必要があるな……」
サーゼクスはリアスの性格や今後の事を考えて憂鬱な気分になっていた。表情はどこか落ち込んでいるのが分かる。
「それであそこで真っ二つになっているドラゴンは?」
「あれは邪竜ザーハックだ」
「聞かない邪竜だね……」
「それはそうさ。異世界のドラゴンなのだから」
「異世界!?どうしてそんな存在がこの世界に」
「フィル・バーネットが連れてきたんだよ」
「フィル・バーネットだって!?彼はどこに?」
「あそこで真っ二つになっているだろ」
一誠は真っ二つになっているザーハックを指差した。サーゼクスは一誠とザーハックを交互に見た。そして首を傾げた。
「どういう事だい?」
「フィル・バーネットが自分の中に封印して連れてきたんだよ。そして変身したんだよ」
「……なるほど。しかしどうして君はザーハックと言うドラゴンが異世界から来たと知っているんだい?」
サーゼクスは疑問に思っていた。どうして一誠は自分すら知らないドラゴンの名前を知って、異世界から来たと教えてくれるのか。
「まさか君は異世界から?」
「いや、俺はこっちの世界の人間だ。俺は行った事があるのさ、異世界に」
「そうなのかい!?」
「ああ。サーゼクスさん、俺の強さに疑問は思わなかったか?」
「君の強さの疑問?」
サーゼクスは疑問に思わなかった事はない。リアスやライザーすら足蹴し、コカビエルさえも圧倒するほとの実力がある。
(しかしこれと言って特質すべきものは見つからなかった)
一樹がリアスの眷属になる時にサーゼクスは確認した。兵藤家が魔術師の家系でもなければ、人外との接触した記録はどこにもなかった。
先祖が何かしらあると思い、遡るだけ遡ったが見つからなかった。
「まさか!?君の強さの秘密は異世界に?」
「ああ、そうだ。俺は異世界で魔王打倒の勇者のパーティメンバーだったのさ」
「魔王打倒……」
「あ、言っておくけど。魔王は魔族の王って意味だから」
「なるほど……」
サーゼクスはどこか納得した。サーゼクスは以前から一誠の実力について疑問を持っていた。兄一樹と血を分けた兄弟なのに実力があまりにも離れているからだ。
(スッキリした……)
サーゼクスは心の隅にあった棘のようなものが取れた感覚になっていた。そしてサーゼクスは一誠に生温かい視線を送った。
「なんだよ、気持ち悪い……」
「酷いな。純粋に心配しているのに」
「はん!俺より妹の心配をしたらどうなんだ?」
「そうだね。リアスは学園を卒業したら冥界に強制帰還してもらおう」
「まだ一年近く猶予があるとか甘いんじゃないか?」
「少しくらい猶予がないとまた予想出来ない行動をしそうでね」
「確かに!」
リアスは癇癪が酷い。もしすぐにでも冥界に帰還させたらなどんな癇癪を起こすか分かったものではない。それに赤龍帝の一樹がいる、一樹までも暴れたら手が付けられない。一誠がいなければの話だが。
「これから大変だよ……天使側と堕天使側とも連絡をする必要がある」
「組織のトップってのは大変だな」
「そうだよ。なんなら君が私の後を継ぐかい?」
「冗談。俺はドラゴンだぜ?自由と欲望を愛してやまない」
「それは残念だ」
一誠とサーゼクスは冗談話に華を咲かせていた。一誠はある方向を見た。
(気配が消えたな……覗き見とは趣味が悪いな)
コカビエルやフィルとの戦いをずっと離れて見た者の気配が消えた事に一誠は警戒心を高めていた。氣の大きさからそれなりの実力者である事は分かっていたからだ。
それから校舎が直されるのを見届けてからゼノヴィアとイリナを連れてマンションへと帰るのであった。
▲▲▲
「あれが今代の白龍皇か。コカビエルを圧倒するとは恐ろしい」
「その割には声が明るいが?」
「そうだな。赤龍帝は正直、期待外れだったからな」
「確かにあれは強くはなれないだろう」
「戦って見たいものだよ。兵藤一誠」
学園から少し離れた場所で二人の男性が先ほどの戦闘を見て話をしていた。一人は黄金の槍を持ち、もう一人はローブを着ていた。
二人は白龍皇の一誠の話で盛り上がっていた。一誠が感じていた気配の正体はこの二人だ。
「近々会ってみよう。俺のライバルになってくれると嬉しいのだけどな」
黄金の槍を持った男が槍を空に掲げて笑みを浮かべていた。まるで欲しいオモチャを見つけた子供のように楽しいそうに見えたとローブの男は思った。
二人は霧に包まれるといつの間にか消えていた。痕跡すら残さずに。