コカビエルの事件から一夜明けた。一誠のマンションで起きた教会の使徒ゼノヴィアは隣で寝ている相棒のイリナを見た。彼女はまるで起きる気配がない。
それは昨夜、コカビエルから聞かされた『聖書に記されし神』が死亡したと言う事だ。神を信仰した彼女にとってそれは目的を失ったと同義だ。そのショックでこうして寝込んでいる。
(イリナ……)
イリナほどではないがゼノヴィアも神を信仰していた。だから気持ちは分かる。代われるものなら代わりたいほどだ。
しかしそれは出来ない。それがゼノヴィアは悔しかった。共に何度も任務をやってきた相棒に対して何も出来ない自分が情けなかった。
「起きたか」
「イッセー……」
「朝から辛気臭い顔をするなよ。折角の美人顔が台無しだ」
「私は弱い」
ゼノヴィアはいきなり自虐を始めた。一誠は驚いた顔をしていた。彼がこんな表情をするのは滅多にないだろう。
「何を当たり前の事を言っているんだ?」
「そ、そこは慰めて欲しかったのが……」
「事実に対して慰めもないだろ」
「むっ……」
まさに一誠の言う通りだ。人間は弱い。それこそ人外なんて相手に勝てる者などほんの一握りだけだろう。高々十数年しか生きていない少女にコカビエルは倒せる相手ではなかったという事だ。
だから一誠は事実を言ったまでだ。その事にゼノヴィアは何も言えなかった。言えるはずもない。
「それでお前ら二人はこれからどうするんだ?」
「どうとは?」
「お前な……その『聖書に記されし神』の死を知ったんだろ?これからその神に対して信仰出来るのか?って言っているんだよ」
「それは……」
ゼノヴィアはこれまで神を信じて生きてきた。そこにコカビエルからの『神の死』だ。つまり生きていくための目標が無くなったものだ。
それに『神の死』を黙っていた天使やヴァチカン上層部を信用も信頼もする事が出来ずにいた。
「帰る気がないなら俺の眷属になるか?」
「眷属だと?」
「ああ、俺は魔王から『悪魔の駒』を貰っているんだ。聖剣、それもデュランダル使いとなると是非、眷属に加えたい」
「そうだな……よろしく頼む。イッセー」
「オッケー」
一誠はゼノヴィアに『ナイト』の駒を渡した。ゼノヴィアはそれを体内へと入れた。ゼノヴィアの背中にはコウモリを思わせる翼が生えた。
「ゼノヴィア……あなた」
「イリナ!気がついたのだな!」
「ええ……」
目を覚ましたイリナにゼノヴィアは抱きついた。しかしイリナの瞳には生気をまったく感じなかった。彼女の神への信仰はゼノヴィアを上回る。相当ショックだったのだ。
今、精神崩壊しても可笑しくはない。だが、イリナはなんとか持ちこたえた。そこから一誠が準備した朝食を黙々と食べた。
「イリナはどうする、帰るのか?」
「…………」
「イリナも俺の眷属になるか?」
「私はヴァチカンへ帰るわ。まだ何を信じていいのか分からないけど……」
まだ自分の進む道筋すら見えていないが、立ち止まるくらい進んだ方がマシだろう。そのために一先ずヴァチカンへ帰還する事にしたのだ。
一誠は何も言わずにイリナにトランクを渡した。イリナがトランクを開けてみると砕けた聖剣の破片が入っていた。
「イッセー君、これ」
「念のため回収しておいた。一応全部あるはずだ」
「ありがとう……」
イリナはボロボロの服を着替えるために別の部屋へと移動した。ゼノヴィアは一誠が食器を洗い出したので手伝う事にした。二人並んで皿を洗い出した。
「それでゼノヴィア、どうする?」
「何がだ?」
「お前の得物だよ。デュランダルは教会の所有物だろ?」
「そうだな。いや退職金代わりに頂く事にする。今までずっと戦ってきたのだ。これくらいいいだろう!」
これまでずっと一緒に戦ってきた相棒だ。別の得物に変えると戦い方を変えなければならない。それに自分に合った得物を手に入れるのは骨が折れる。
ならば、退職金代わりに頂こうとゼノヴィアは思った。そもそも今の教会内でデュランダルを扱えるのはゼノヴィアくらいだ。
なら使える人間が持っていた方が有意義と言うものだろう。
「取り返しに来たらどうするんだ?」
「その時は……『聖書に記されし神』の不在でもぶちまけてやるつもりだ!」
「それは黙っていたいないと大変な事になるな」
教会には神への強い信仰心を持った者が大勢いる。もしその者たちに知られたら教会の信頼は地に落ちるだろう。それどころか暴動すら起きかねない。
そうなれば天使側は大打撃だろう。他の悪魔、堕天使側に隙を作る事になるだろう。それだけは絶対に避けたいはずだ。
「それじゃサーゼクスさんに頼んで学校への編入手続きをしてもらうか」
「私も学校に行くのか!?」
「当たり前だ。俺の眷属になるからにはバカでは困る。しっかり勉強して賢くなるんだぞ」
「うむ……日本語は難しいからな」
「そんな事はないと思うが?」
「そうか?だが、イリナは時々訳が分からない事を言っているぞ?」
一誠はイリナがゼノヴィアに間違った日本語教えていた事に頭を抱えた。思い返してもイリナは幼少の頃からどこかズレていた。
「確かに日本語はひらがな、カタカナ、漢字とあるが慣れれば便利だぞ」
「そうか。分かった、がんばって覚えよう」
「そうしてくれ」
「お待たせ」
一誠とゼノヴィアが話していると着替え終わったイリナが戻ってきた。三人はそのまま空港へと向かった。
▲▲▲
「ありがとねイッセー君」
「俺は自分に掛かる火の粉を払いのけただけだ」
「うん。イッセー君は私が思っている以上に強くなって驚いちゃった」
「生きる目標なんてものなんて簡単に見つかるさ」
「そうだね。そろそろ行くね……」
イリナは荷物を持って登場口へと向かった。段々とイリナの背中が小さくなっていった。
「イリナ!今度は任務ではなくてプライベートで来いよ!」
一誠の声が聞こえたイリナは大きく手を振り替えしてきた。そしてイリナの姿は完全に見えなくなった。
「俺たちも行くか」
「そうだな」
「戻ってサーゼクスさんに連絡しておかないと」
「イッセー。学校に行く前にアーシア・アルジェントに謝罪しておきたいのだが」
イリナとゼノヴィアは日本に来た際にオカ研にいたアーシアへに対して罵声を浴びせたのだ。そこからアーシアに事情を知ったゼノヴィアはアーシアへの謝罪がしたかった。
「もちろんいいぞ。俺の眷属に正式になる前にしておけ」
「どうしてだ?」
「リアス・グレモリーは俺の事を嫌っているからな。俺の眷属と知られたら罵声を飛ばしてくるぞ」
「分かった。帰ったらすぐにしておこう」
これまで散々な事をしてきた一誠をリアスはかなりよく思っていない。だからゼノヴィアが一誠の眷属だと知られたアーシアに会う事すら出来ない可能性が高かった。
一誠はサーゼクスに連絡してゼノヴィアの編入手続きを頼み、ゼノヴィアはアーシアへ謝罪をしたのだった。
堕天使コカビエルが起こした事件は無事に解決し、次なる物語へと進むのであった。
「その槍ではドラゴンは殺せないぞ?」
「心臓を穿てばどんな生物だって殺せるさ」
「ははっ!お前は最高だよ!」
「俺も君のような相手に出会えて嬉しいよ」
白き龍の翼と金色の槍は互いの強さを確かめるべき全力にして本気で相手をするのであった。最強の神殺しを決めるべき二人の若者は持てる全てを出し尽くすのであった。