「冗談じゃないわ!」
コカビエルの事件から一週間が経過した頃、オカ研部室にて部長のリアスの怒号が響いた。部室にはリアスを始め、グレモリー眷属にグレイフィアに一誠が集まっていた。
ただし部室には大きめのダンボールが一つあり、ダンボールの隙間から誰かの目が覗いていた。
「どうしてギャスパーを彼に預けないといかないの!?」
リアスが言うギャスパーとはダンボールの中で蹲っている人物の事だ。小猫と同じ一年で一樹やアーシアのグレモリー眷属の先輩になる。
グレモリー眷属の中では一番の稼ぎ頭だったりする。普段は「開かずの間」と呼ばれる部屋に軟禁されているのだが、コカビエルの事件でリアスたちの評価が上昇して、今なら大丈夫と上層部の判断により軟禁状態を解除されたのだ。
「リアスお嬢様。これは魔王サーゼクス様のご命令です」
「でも!私の可愛い眷属をこの男に預ける必要があるの!?」
「それはお嬢様たちがギャスパー様の力を制御出来ていないからです」
ギャスパーが軟禁されていたのはギャスパーの「神器」が原因だ。目に関する神器をもつギャスパーは神器を制御が出来ていないのだ。
ギャスパーの潜在能力はグレモリー眷属の中でもトップだ。しかしギャスパーの精神が幼いのか、制御がロクに出来ていないで周りに被害が及ぶために部屋に閉じ込めていた。
「そ、そんな事はないわ!」
「イッセー様より報告を受けています。制御に進展がない、と」
「彼が嘘を言っているのよ!」
「ですのでここ二日ほど私自身で監視させてもらいました」
「…………」
リアスはグレイフィアが監視していた事を言われて何も言えなくなった。一誠だけならまだ嘘だと言い切ればなんとかなると思っていたからだ。
しかしグレイフィアにも見られていたとは思いもしかったリアスはぐうの音も出なかった。
「私やイッセー様のご報告を聞いて、サーゼクス様が下したのです」
「で、でも……」
「これ以上、我がままを言うのでしたら冥界に強制帰還も辞さないとサーゼクス様が仰っていました」
「そ、そんな!大学卒業までと話はついた筈よ!」
ライザーとの婚姻が無くなって晴れて自由の身となったリアスは今度はきちんと両親と書面での約束を確約させた。
(折角、手に入れた自由なのに!)
一誠から学んだ知恵だ。口約束では簡単に破られてしまう。ならきちんと書面に残そうと。そこでリアスは今度こそ、大学卒業までと約束させたのだ。
「早くしてくれないか?俺だって暇じゃないんだ」
「うるさいぞ!一誠!」
「ホント、お前っていつもキレいるよな?」
「だからうるさいんだよ!黙っていろ!」
「力の制御が出来ないからって俺に当たるなよ」
「このっ!」
一樹は一誠に殴りかかろうとしたが、途中で動きを止めた。それは一誠から出ている殺気だ。濃厚であと一歩でも進めば殺されるのではないか。
そんな事を考えさせるほどの殺気を放っていた。それに手を出すほど一樹はバカではない。ゆっくりと上げた拳を引っ込めた。
「多少は利口になった」
「この!」
「喧嘩を売る相手は選べよ」
「くっ……」
一樹は乱暴に扉を開けてオカ研部室から出て行った。そして一誠はダンボールに近づいた。
「ギャスパー。お前はどうしたい?」
「ぼ、僕は……」
「このままダンボール生活をするか、俺の下で強くなるかだ」
「…………」
「暴走する力で周りに迷惑を掛けてきたんだろ?なら制御してみせろよ」
ギャスパーはダンボールから出て来た。そして一度リアスの方を見た。これまでにどれだけの迷惑を掛けてきた分からない。
(このままじゃ……ダメだ!)
ギャスパー自身も分かっていた。力に振り回されていてはこれまで以上に迷惑が掛かってしまう事に。いくらグレモリーが情愛の悪魔と言われていても迷惑でしかない存在を置いてくれるか分からない。
「よ、よろしく……お願いします」
「ああ、よろしく。それじゃ俺たちはこれで」
「ま、待ちなさい!」
一誠はギャスパーを連れてオカ研部室をリアスの制止も聞かずに後にしたのだった。部室には何とも言えない重い空気になっていた。
リアスは拳を乱暴に机を振り下ろした。そこには怒りが満ちていた。
▲▲▲
オカ研部室を後にした一誠とギャスパーは屋上に向かっていた。そして屋上に着いた二人より先にここに来ている人物たちがいた。
「イッセー!」
「兵藤。遅かったな」
「ああ、待たせた」
ゼノヴィアと元十郎の二人だった。ゼノヴィア駆王学園の制服に身を包んでいた。転校の手続きが終わり、今日からここの生徒になったのだ。
そして元十郎に続き一誠の弟子となった。二人は一誠の後ろに隠れているギャスパーに注目した。
「兵藤!誰だよ、その可愛い子は!?」
「確かに可愛いな……抱きしめたいな」
「お前ら……」
「ひぃ!?」
ギャスパーはグイグイと近づいてくる二人に持参したダンボールに隠れた。眼帯を付けたどこぞの傭兵のおっさん並みの速度で。
「落ち着け二人とも。こいつはギャスパー・ヴラディ。グレモリー眷属だ」
「どうしてグレモリー先輩の眷属がここにいるんだよ?」
「まさか連れ去ったのか!?」
「違うわ!しばらくの間、預かる事になったんだよ」
一誠はゼノヴィアと元十郎にこれまでの経由を話した。そして話し終わって漸く納得した二人だった。
「それにしてもどうして兵藤だけ可愛い女の子にモテるんだ!!」
「匙……お前、何を勘違いしているんだ?」
「な、なんだよ……」
「ギャスパーは男だぞ?」
「はぁ?……はあぁぁぁ!?男!?」
元十郎はギャスパーの事を凝視した。顔から足をマジマジと観察した。そして一誠を見て、詰め寄った。
「どう見ても女の子だろ!?」
「女装しているんだよ」
「どうして女子の制服を着ているんだよ!?」
「だ、だって……か、可愛いから」
「なんだよ、その理由は!?」
「男の娘と書いて「おとこのこ」と読む」
「そんなの聞きたくなかった!」
元十郎は膝から崩れ落ちた。まさか可愛い女子が可愛い男子だった事にかなりのショックを受けたようだ。しばらくの間は動けないだろう。
「それでイッセー。ギャスパーをどうするのだ?」
「もちろん決まっている。やる事は一つだ」
「ひぃ!?」
ギャスパーは自分に向ける一誠の笑顔に小さな悲鳴を上げてしまった。それだけ残酷で不気味な笑みだったのだろう。
ギャスパーは少しずつ後ずさりして一誠との距離を空けようとした。
「ゼノヴィア。デュランダルを貸してくれ」
「ああ、それは構わないが……」
「サンキュー」
一誠はゼノヴィアから聖剣デュランダルを借りて、ギャスパーに刀身を向けた。ギャスパーは目の前の剣が聖剣だと分かったのか、硬直してしまった。
「せ、聖剣ですか!?」
「ああ、それも切れ味抜群のな!」
「そ、それでどうするんですか!?」
「健全な精神は健全な肉体から……と、いう言葉がある」
「つ、つまり?」
「引き篭もって鈍った肉体を魔改造するんだよ!全力で走れ!」
「ひぃぃぃぃぃ!!?」
一誠はデュランダルを揺るってギャスパーを強制的に走らせた。ギャスパーは斬られない必死になって走った。
それから魔改造されたギャスパーがグレモリー眷属にとって最大の戦力になるのはまた別のお話だ。
「おいおい……今代の白龍皇は鬼畜だな」
そんな一誠たちを一人のおっさんが物陰から見ていた。