グレモリー眷属のギャスパー・ヴラディは走っていた。後ろから恐怖がやって来ているからだ。数日前にグレモリー眷属から一時的に別の人物に預かられる事になり、その人物にギャスパーは鍛えられている。
その内容はあまりにも過酷であった。聖剣デュランダルを片手に残酷の笑みを浮かべなら追いかけてくる人物、兵藤一誠。
グレモリー眷属の赤龍帝兵藤一樹の双子の弟で白龍皇である。そんな彼にギャスパーは暴走する神器をコントロールのためにトレーニングをさせられていた。
「ひぃぃぃぃぃ!!?」
「さあ走れ!ギャスパー!そのもやしボディをボディービルダー並みに筋肉モリモリにしてみせろ!」
「そ、そんなの……無理ですぅぅぅぅぅ!!」
「泣き言言っている暇はないぞ!筋肉繊維が千切れるギリギリまで酷使しろ!」
「い、いやぁぁぁぁぁ!!?」
この日もギャスパーは一誠に追い回されていた。近くにはゼノヴィアと元十郎が見守りながら自分たちのトレーニングに励んでいた。
しかしギャスパーの悲鳴を聞いては集中する事が出来ないでいた。
「今夜もイッセーはスパルタだな」
「……そうだな」
「どうしたのだ?あまり元気がないように見えるが?」
「元気がない……それはそうだぜ。どうしてあんなにも可愛いのに男なんだよ!!」
「そこを気にしていたのか?」
「当たり前だ!」
元十郎は涙を流しながら膝から崩れ倒れた。最初に見た時に女子かと思いきや男子だったと知った時のショックは元十郎にとんでもない衝撃を与えた。
ギャスパーの性別を見分けられない自分に一誠が向けた哀れみの視線は今でも鮮明に覚えている元十郎だったりする。
「よし、五分休憩したら次のメニューにするぞ」
「はひぃ……はぁ……はぁ……し、死ぬますぅぅぅ……」
「安心しろ。一ヶ月後にはお前はさらに強くなっているさ」
「い、一ヶ月も続けるんですか!?」
「もちろん。続けなければ意味がないだろ?」
「そ、そんなぁ……」
ギャスパーは一ヶ月もこの地獄が続く事に絶望した。今更ながらあの時に断っていればこのような地獄はなかっただろう。
しかし選択したのは他ならぬギャスパーだ。自分の選択を後悔しても後の祭りだ。ここは腹を括るしかないが、ギャスパーは逃げ出そうとした。
「おっと。どこにいくつもりだ?」
「ぼ、僕はもう部長の下に帰るんですぅぅぅ!」
「そうか。ならそこに隠れている堕天使には気をつけろよ」
「……へ?だ、堕天使!?」
「ほれあそこだ」
一誠は指差した。そこには誰もいないように見えたが、建物の影からゆっくりとスーツを着た40代そこそこのおっさんが現れた。
ゼノヴィアと元十郎はすぐさま戦闘態勢になった。一誠とのトレーニングのおかげかすぐさま戦闘態勢にする事が出来た。
「ひょ、兵藤。このおっさんが堕天使なのか!?」
「ああ、間違いない。しかもコカビエル以上だな」
「マジか!?」
ゼノヴィアと元十郎は臨戦態勢で構えた。まだ氣をそれほど感じ取れない二人では目の前の堕天使の実力を測る事はできない。
一誠はそんな二人の前に出て、堕天使の相手をするためにデュランダルを構えた。
「お前は何者だ?」
「俺はアザゼル。堕天使どものボスをしている。アルビオン、久しぶりだな?」
『アザゼル。久しぶりですね……ですが、貴方と言葉を交わす事はしませんよ。ヴァーリを裏切った貴方とは』
目の前の堕天使―――アザゼルは一誠と言うより一誠の内にいるアルビオンに話かけたがアルビオンはどこか怒りが篭った言葉でアザゼルとの会話を否定した。
先代ヴァーリの件はまだアルビオンの中では終わっていない。育ての親でありながら最後はヴァーリを裏切ったアザゼルの事を恨んでいた。
「まったく痛い事を突くじゃないか……まあ、今回は兵藤一誠に用があるからな」
「俺に?」
「お前は何者だ?」
「兵藤一誠。高二の17歳の白龍皇で女の好きな部位は胸だ」
「あ、いや……そういう意味じゃなくて……」
アザゼルは一誠の返答に思わず面食らってしまった。アザゼルとしてはもっと別の答えを予想していただけになんだか毒気を抜かれた気分になってしまった。
アザゼルは一誠を真っ直ぐ見つめた。
「昨日、兵藤一樹に会ってきた」
「それで?」
「あいつは間違いなく元一般人だ。魔力は転生悪魔の中じゃトップ級だろう。ただそれだけだ。実践で使えなきゃ意味はない」
「ふ~ん……」
「兵藤一樹は素人だろう。しかしお前は違う。コカビエルと渡り合えるだけの実力を持っている。双子の兄弟でここまで違う事は可笑しいだろ」
アザゼルは昨日、依頼人を装って一樹に接触した。その時、感じたのは『魔力だけは大きいが実践経験の欠ける元一般人」だが、一誠は違う。
アザゼルの存在をすでに分かっており、実力で勝てない事を瞬時に見抜いた。それに臨戦態勢ではないが、隙がまったく無かった。
同じ両親から血を分けた双子の兄弟でここまで差が出るものかとアザゼルは疑問に思っていた。もしかしたら一誠には自分も知らないような秘密があるのではないだろうか?と。
「俺と一樹の実力の違うがあるからと聞かれても答えられない。ただ、言えるのは俺は美学を持っている事だ」
「美学だと?」
「ああ、そうだ。己の人生のおいてこれだけは譲れない何かを俺は美学と思っている」
「それがお前らの双子の実力の差だと?」
「ああ、そうだ!」
一誠は自信満々の顔で答えてみせた。しかしアザゼルはどこか納得がいかなかった。美学一つでここまで実力が違うのだろうか?
だが、これ以上一誠に質問した所で納得のいく答えが得られるとは限らない。
「そうか……俺からアドバイスだ。そこの吸血鬼にお前の血を与えろ」
「血を?」
「そうだ。吸血鬼は血によって能力を発揮する。ドラゴンに体を食わせたお前の血なら最高だろうよ。じゃあな!」
アザゼルはそれだけ言って帰って行った。ゼノヴィアと元十郎は臨戦態勢を解いた。二人は疲れがドッと来たのか、その場にへたり込んだ。
ギャスパーは一誠の後ろに隠れて服を掴んでいた。殺気はなかったが、堕天使のトップが目の前に現れれば恐怖で固まってしまうだろう。
「それでどうする?ギャスパー」
「な、何がですか!?」
「このまま続けるか?それとも逃げるか?俺は強制はしない。選べ」
「ぼ、僕は……つ、続けます!」
「よく言った!まずは血だな」
一誠は腕を龍化させて、少し肌を切り裂いて血を出した。それをギャスパーへと向けた。ギャスパーは顔を青くしていた。
「どうした?ギャスパー」
「ち、血ぃぃぃぃ!!?」
「……もしかして吸血鬼のくせに血が苦手なのか!?」
ギャスパーは世界でも珍しい血が苦手な吸血鬼だったのだ。一誠は思わずギャスパーに哀れみの視線を向けた。
「いいから……とっと飲むんだ!」
「い、いやぁぁぁ!!?」
逃げるギャスパーを一誠が追いかけて血を飲ませてトレーニングを続けるのであった。ちなみに一誠の血を飲んだギャスパーはうっとり顔になっていた。
「い、イッセー先輩の血……とってもまろやかでコクがあって美味しいです!」
「お前はどこのグルメリポーターだよ!?」
「もっと飲んでいいですか?」
「ならトレーニングをしろ!」
一誠の血を飲みたいためにギャスパーは必死になってトレーニングを続けるのであった。動機は何にしてもギャスパーは今まで見た事のないやる気を見せていた。