悪魔、天使、堕天使の三大勢力の会談を目前に一誠はサーゼクスから呼び出されていた。場所は一誠が以前、サーゼクスと来た焼肉屋の個室だ。
店員に案内されて個室に入ってみるとすでにサーゼクスとグレイフィアが来ていた。しかし格好がいつもと違っていた。
サーゼクスは魔王ぽい服装ではなくサラリーマンのようにスーツを着て、グレイフィアはメイド服ではなく私服で髪を三つ網からポニテにしていた。
「やあ待っていたよ。イッセー君」
「ここに呼び出すとか何のようだよ?」
「まあ、座ってくれ。一先ず食べようじゃないか」
「……今回も奢りか?」
「もちろんだよ」
「なら遠慮なく」
話を始める前に三人は焼肉を食べて腹を満たした。一誠は前回と同じ量を平らげた。サーゼクスは以前に見たのでそれほど驚かなかった。
「それでどうしてここに?会談の準備で忙しいじゃないのか?」
「もちろん忙しいよ。でもその前に君と誰にも知られずに話しがしたくてね」
「なるほど……」
「まずギャスパー君の事だけど、上層部が会談への参加をしないように言って来てね」
「それはそうだ。まだ完全に力を制御出来ていないんだぞ」
ここ数日のトレーニングのおかげかギャスパーは自分の「神器」の制御が以前より格段によくなっている。だが、それでも人前に連れて行けるまでには早い。
「ギャスパー君の参加しないように言ってきたのは例のテロ組織に加担している者たちだ」
「それは話が違ってくるな……」
「恐らくギャスパー君の『神器』を利用してこちらの動きを封じるつもりなのだろう」
「確かに防戦一方になれば有利だな」
攻めるより守る方が難しい。それも近くに人質がいれば下手に動く事は出来ない。いずれはジリ貧なって負けるだろう。
しかし最初から相手の情報があり、対策出来ればやり方はいくらでもある。
「ギャスパー君が君の下にいる事はリアスたちを除けば、私にグレイフィア、ソーナ君だけしか知らない」
「そして当日、何も知らない間抜けたちはギャスパーの神器を利用しようとオカ研部室にノコノコやって来ると」
「ああ。来れば、上層部が情報を流していた事は明白だからね。会談と同時に彼らを拘束する準備を秘密裏に進めている」
サーゼクスは今日までに着実かつ秘密裏で作戦を練って進めてきていた。全てはテロリストと繋がった者たちを一網打尽にするためだ。
「それで当日、会談に来るテロリストの首魁を生け捕りにしてもらいたい」
「俺の命が危うい時は?」
「それは君の命を優先してもらって構わない。だが、出来る限り生け捕りにしてもらいたい。情報を得たいからね」
「了解……頑張りますよ」
本当なら情報は全てあるので生け捕りにする必要はないのだが、サーゼクスとしては慈悲を与えたいのだ。敵対する彼らと分かり合えないかと思っている。
かつて敵対していたある女性悪魔と分かり合えたからだ。
「そうだ。渡すの忘れていたよ」
「なんだよ?」
「冥界で放送予定の戦隊もののパンフレットだよ」
「『龍天戦隊リュウオウジャー』……凄いな、アルビオン。お前、冥界で人気者になれるぞ」
『冗談ではないですよ!!』
サーゼクスが一誠に戦隊もののパンフレットを渡してきた。そこには『白龍皇の光翼』や『赤龍帝の籠手』を装備したイケメンがポーズを決めていた。
これは神滅具をモチーフにした冥界で放送予定の戦隊番組だ。まさか白龍皇の光翼が子供向け番組登場するとは思わなかった一誠は内心、笑っていた。
一誠とは真逆でアルビオンは憤慨したい。本来なら恐れられる存在のはずが何をどうしたら子供に人気になるのだと言いたい。
「それにしても何だかな……」
「どうしたんだい?」
「いや、そっちの銀髪メイドが私服ってのが違和感で……」
「しょうがないさ。グレイフィアは今日は一応、プライベートだからね」
プライベートならどうして連れて来た?とは一誠は言わなかった。そこまで深入りするつもりはないからだ。
しかし気になる事があった。それは二人の左薬指に嵌められている指輪だ。
「そもそも既婚者同士密会とか浮気とか疑われるんじゃないのか?」
「何か勘違いしていないか?」
「何を?」
「私とグレイフィアが夫婦さ」
「…………はぁぁぁ!!?」
一誠はサーゼクスの発言に思わず素っ頓狂な声を出してしまった。それもそうだ。まさか二人が夫婦とは思いもしなかったからだ。
「ならどうしてメイドなんてやっているんだ?魔王の妻なら王妃だろ?」
「今の魔王の名と言うのは役職みたいものなのだよ。だから王族とはならないんだ」
「それでも魔王の妻だろ?メイドってのは可笑しいだろ?」
「私とグレイフィアの過去に関わってくる」
サーゼクスは一誠に説明した。先代魔王が大戦で亡くなり、次の魔王を決めようとした。その際に魔王の血族を祭りたてる者たちとそれに反対した者たちがいた。
サーゼクスは反対派の筆頭でグレイフィアは血族派だった。最初、二人は本気で戦っていたが、いつの間にかお互いに惹かれあうようになってしまった。
そして今の政体になった時にサーゼクスとグレイフィアは結婚した。しかしグレイフィアは旧政体の筆頭だったゆえにそのケジメとしてサーゼクスの妻と同時にメイドとなった。
「……書籍か劇にでもしたら儲かるんじゃないか?」
「もう本や劇にはなっているよ。これが中々好評でね」
「……まったく何をやっているんだよ」
一誠は何も言わない事にした。まさか過去のサーゼクスとグレイフィアの事が書籍化しているとは思わなかったからだ。
するとサーゼクスが一冊の本を差し出してきた。
「これは?」
「さっき言っていた私とグレイフィアの話だよ」
「……マジか。前、中、後編となっているのか」
「ぜひ、読んでくるかな」
「気が向いたなら……」
一誠はサーゼクスから渡された分厚い三冊の本を嫌な顔をしながら受け取った。まさか本を当人から渡されるとは想像も出来なかった。
一誠はそのまま店を後にした。残されたサーゼクスとグレイフィアは〆の料理を頼んでいた。
「ふぅ……会談が終われば一息出来るよ」
「お疲れでしたね。サーゼクス」
「まったくだよ。ここ数ヶ月で数十年分の仕事をしたようだよ……」
「主にリアスの事ですね?」
「ああ……」
愛すべき可愛い妹リアス。彼女を中心に起こった出来事は思い出すだけでも眩暈を起こしてしまいそうな事ばかりだ。
赤龍帝を眷属にして、双子の白龍皇に出現、ライザーの婚姻破棄、コカビエルの聖剣奪取、異世界からの訪問者。
上げればキリがないだろう。さらにはここに三大勢力の会談と来れば卒倒しても可笑しくはないだろう。
「さて、帰ってゆっくりしようか?」
「そうですね。その前に仕事は?」
「もちろん終わらせたさ」
「なら結構です」
サーゼクスとグレイフィアは店を出て冥界へと帰った。グレモリーの屋敷にいる一人息子に会いに向かった。
そしてその息子にこれまでの事を機密以外に色々と喋ってしまい、サーゼクスはグレイフィアからキツいお仕置きを受ける事になるのだけど、それはまた別のお話だ。
ついに白き龍の皇帝と神を殺す槍を持つ者たちが出会う。戦いを求める若者である彼らは何を持って最強へと至るのかは誰にも分からない。
しかしこれだけは言えるだろう。歴史が変わり、世界へと波紋を広げていく。