一誠はこの日、学校の屋上でぼんやりと空を眺めていた。今日は授業参観の日で両親が一誠と一樹を見に来ていた。
一誠としては何も気にする事無く授業を受けているので代わり映えしなかった。これでも一誠の学力は上から数えた方が早かったりする。
どうして一誠の学力が高いかと言うと馬鹿より勉強を教えられる男子の方がモテるからだ。過去に付き合っていた子達の学力は一誠に教わるようになって上がったりしている。
(来たか……)
一誠は目的の人物が来たのを感じていた。後ろを振り返ると駆王学園の制服を着た人物が立っていた。日本人と言うより中国や韓国系の人種と思われる。
見た目の年齢としては一誠より先輩だろう。その人物が一誠に近づいてきた。
「ここで授業をサボってもいいのか?」
「問題ないさ。まだ時間じゃない」
「そうか。それで何か面白いものでも見えるか?」
「面白いものは見えないけど、不法侵入者なら俺の側にいるぞ」
「酷いな。俺はここの生徒だぞ?」
「嘘を付くならもっとマシな嘘にしな」
一誠は目の前の生徒がここの生徒でないと分かっていた。制服は間違いないく駆王学園のものだ。しかしそれを着ている生徒が違うのだ。
「君は全校生徒の顔と名前でも覚えているのか?」
「顔や名前は女子なら全員言えるが、男子は無理」
「女子はいけるのか……」
「ああ。それでお前の氣はこれまで学校で感じた事がない」
「氣……なるほど」
一誠は一度、感じた事のある氣は忘れない。そして目の前の生徒の氣は今日まで感じた事がない。もしかしたら休みがちでなのかもしれない。
しかしそれだと進級は難しいだろう。だからここの生徒の線は薄くなったのだ。そして一誠は目の前の男の氣を改めて感じてみると以前に感じた事のあるものだった。
「この氣は……さっきの言葉は取り消すぜ。お前の氣はコカビエルと戦っている時に感じた事がある」
「あの激戦の中で外に意識を向けるだけの余裕があるとは驚きだ」
「それでお前は一体何者だ?」
「三国志の末裔で曹操と言う。よろしく兵藤一誠」
目の前の生徒もとい曹操は黄金の槍だ出現させた。それに対して一誠はデュランダルを腕輪から長剣に形を変えて、曹操に向けた。
『イッセー、気をつけてください。あれは「黄昏の聖槍」ですよ』
「聖槍……聖遺物、レリックってやつか」
アルビオンが一誠に黄金の槍について教えた。あれこそが神の子イエス・キリストの心臓が穿った神を殺す槍だ。
十三種神滅具の中でも上位に位置する神器だ。神はもちろん、悪魔や魔が付く者に絶大のダメージを与える事が出来る。
しかし一誠は人間とドラゴンだ。悪魔よりダメージはないに等しい。
「それで?三国志の末裔が俺に何の用だ?」
「俺たちの仲間にならないか?」
「仲間だと?」
「俺は今、ある組織に身を置いていてね。そこで仲間を集めているんだ」
もちろん一誠は曹操が言う「ある組織」について知っている。曹操の名前を聞いて以前に黒歌が教えてくれた名前だったのをすっかりと忘れていたのだ。
「生憎と俺は今のポジションが気に入っているんだ。今更どこか別の組織に身を置くつもりはない」
「そうか。それは残念だ……なら死んでくれ」
「俺の命は安売りした覚えはない」
曹操は「黄昏の聖槍」で一誠の左胸を狙って突きを繰り出したが、一誠は腕輪状態たったデュランダルを盾にして防いだ。
紛い物とはいえ聖剣だ、聖槍を防ぐには十分だ。それに一誠が氣を送り強度を強化していた。
「そんな物を持っているとは知らなかったよ!」
「天使長からの贈り物だ!」
「そうか!これなどうかな?」
「なんの!」
一誠と曹操はお互いの得物をぶつけた。一誠はデュランダルを振るう度に形を変えていた。太刀から短剣、短剣から槍、槍から鞭と完全に一誠はデュランダル(模造品)を扱えていた。
曹操も一誠に負けじと聖槍を振るっていた。突きからなぎ払い、なぎ払いから突きと狙う箇所を変えて攻めていた。
(まったく厄介だな……結構な実力者かよ!?)
一誠は曹操の実力に驚いていた。年齢はそれほど変わらないはずだが、食らい付かれていた。それほど修羅場を掻い潜ってきたのだろう。
(まったく楽しいな。全力を出せるのは!)
曹操は心から喜んでいた。これまで全力を出せる相手が居らず、聖槍の力を出し切れていなかった。だが、目の前の男は全力を出さなくてはこちらがやられてしまいそうな実力を持っていた。
「分からないな……」
「何がだ?」
「それだけの実力を持っているのに……兄である赤龍帝を倒さない?」
「…………」
これまで何度も聞かれた質問だ。一誠にとって一樹は瞬殺出来るほど実力差がある。なのに今日まで一樹を倒そうとはしなかった。
魔王の部下になったのはただの言い訳だ。理由ではない。
「確かに俺にとって一樹なんて瞬殺出来る。二天龍の運命ってもので家族を殺すつもりはない!」
「……家族の情か」
「ああ、そうだ。あれでも俺の兄なんでな」
家族の情。これが一誠が一樹を倒さない最大の理由だ。運命に身を任せるなんて事は一誠の掲げる美学とは離れている。
あくまで気高く美しい心をもって生きる。それが一誠の美学だ。運命の一つや二つで家族を手にかける訳はない。
「思ったより厄介だな」
「それが俺なんでな」
「―――イッセー!」
「兵藤!」
一誠が笑っているとゼノヴィアと元十郎がやってきた。氣を探知出来るようになった二人は一誠の氣が大きくなったのを感じて急いできた。
学校で一誠が本気で戦っているのだ。一大事と思い、二人は駆けつけたのだ。
「ゼノヴィア、匙。お前ら……遅い!」
「し、仕方ないだろ!途中で先生に捕まってしまったのだ」
「俺は生徒会の仕事がやっていたんだよ!」
一声は二人が遅れた事を指摘した。ゼノヴィアは先生に捕まり用事を頼まれ、元十郎は生徒会の仕事をしていて遅れた。
二人とも一誠と話しながら曹操を前にすでに戦闘態勢をしていた。曹操とは適切な距離を保っていた。
「一対三か……目的は果たしたから今日はここで退散させてもらうよ」
「逃がすと思うか?」
「では……」
「待て!……ちっ」
曹操の周りにいきなり霧が現れて曹操を包む、霧が晴れると彼の姿はどこにもなかった。まるで神隠しでも目撃したのような状態だった。
ゼノヴィアも元十郎も何がなんだか分かっていなかった。
『あれは「絶霧」ですね』
「神器なのか?」
『正確には「神滅具」ですよ』
「二つの神滅具の所有者は手を組んでいたか……」
一誠はアルビオンから先ほどの霧について聞いて、戦闘態勢と解いて教室に戻った。その後、曹操と接触した事をサーゼクスに報告した。その際、サーゼクスは開いた口が塞がらなかった。
それもそうだ。神を確実に殺せる神滅具が二つもあったのだから。しかも学園に侵入していたなんて、思いもしなかった。
三大勢力の会談を前に学園の警備の見直しと強化が行われた。
「それで彼はこちら側には来ないと?」
「ああ、残念だよ」
「顔が残念がっていないように見えるが?」
「まあな……それで魔王派は計画を実行すると?」
「ああ、準備は終わっているようだ」
「なら高みの見物でもするか」
曹操はローブを着た青年と自分が所属しているテロ組織のアジトで話しながら歩いていた。一誠の勧誘には失敗したのにその顔はどこか嬉しそうだったのを知っているのはローブの青年だけが知っていた。