「ふぅ……ありがとう。グレイフィア」
「いえ。しばらくは多忙になりますね」
「そうだね……」
サーゼクスは冥界にある魔王の執務室でグレイフィアが炒れた紅茶を飲んで気分を落ち着かせていた。サーゼクスの目の前には大量の書類が積み上げられていた。
これほどの多忙なのは三大勢力の会談である『駆王同盟』を結んだためだ。各部署との細かい取り決めてをしているといつの間にかここまで書類が積み上がったのだ。
それでも数日前の半分まで減ったのだが、それでももう数日は缶詰をしなければならいだろう。
「それでグレイフィア。イッセー君の事はどうなっているんだい?」
「はい。もう冥界、天界、人間界でかなり噂が流れています」
「そうか……会談の事は公開してまだそれほど経過していないんだが……」
会談で『覇龍』を制御してみせた一誠の話は各勢力で持ちきりであった。歴代の誰もが成し得なかった事をしたのだ。
特に冥界ではサーゼクスの評価が上がっていた。歴代最強の白龍皇を部下にしたのだ。それに先代魔王の血族のカテレアを倒した事も評価を上げる要因の一つだ。
逆にリアスの評価は下がっていた。赤龍帝が眷属にいながら何もしないまま終わってしまったからだ。
「リアスが大人しくしているといいのだけど……」
「そうですね。これと言って報告は上がっておりません」
「そうか……夏休みまで何もしなければいいのだが……」
「十分、注意するように言ったので大丈夫かと」
癇癪持ちのリアスがこのまま大人しくしていると思えなかった。特に一樹を眷属にしてからは癇癪が強くなった気がするから気が抜けない。
それが最近のサーゼクスの悩みのタネだ。しかしサーゼクスの心配と逆にリアスは大人しかった。
「グレイフィア。この書類をミカエル殿とアザゼル殿に」
「承知しました。届けますので、こちらの書類に目を通しておいてください」
「分かったよ……はぁ……」
まだ大量に残っている書類にサーゼクスはため息を漏らした。まだまだ書類は残っている。だが、半分は終わっているのだ。
もうひと頑張りとサーゼクスは気合を入れて書類に目を通した。それは例のテロ組織にいる、神器・神滅具の所有者のリストだ。
(上位神滅具が三つもあるとは対処しづらい……)
確実に神を屠れると言われる神滅具だ。何とか戦いではなく話し合いで済めば、それでいいのだけど。それでは済まないからテロリストになったのだろう。
サーゼクスは冷めてしまったグレイフィアが淹れた紅茶を飲み干しのだった。
▲▲▲
「ミカエル様。悪魔側から書類が来ました」
「ありがとうガブリエル」
天界で天使長のミカエルがガブリエルから悪魔側来た書類を受け取って内容を確認していた。彼の仕事机には様々な資料がズラリと並べてあった。
ヴァチカンの教皇や司教から笑顔をチラつかせて強引に出させた資料だ。教会が天界に黙ってやってきた実験などの書き記されていた。
本当なら当事者を追放したかったが、今は同盟の事で後回しになっている。しかし今、ミカエルが気にしているのは別の事だ。
「ミカエル様。兵藤一誠についてですが……」
「何か分かりました?」
「いえ、これと言って……特別な血筋でもなければ英雄の血を継いでいる訳でもないのに……『覇龍』をコントロールするなんて……」
「そうですね……歴代いや神滅具を持つ者で初と言ってもいいでしょう。だから彼には他の者にはない何かがあると思ったのですが……」
歴代の宿主では出来なかった事をやった少年が気になりミカエルはガブリエルに極秘に調査させたが、思った成果は得られなかった。
だからこそ益々謎が頭の中をグルグルと回ってしまっていた。特殊な家でもなければ英雄の末裔でもない。
「そんな少年がたった数ヶ月で……」
「ですが、これ以上は調べようがありません」
「分かりました。そちらの調査は終わってください」
ミカエルは一誠の事は諦める事にした。そしてガブリエルにある資料を渡した。それは悪魔側から送られた例のテロ組織についてのものだった。
そこにはテロリストに協力している者たちの名前が書かれていた。これを放置しする事は天使長として出来ない。
「この者たちを早急に調査してください。極秘にお願いします」
「分かりました。お任せください……では失礼します」
ガブリエルは部屋から出て行った。ミカエルだけが部屋に残った。そして一誠の資料に目を通した。しかし可笑しな点はどこにも無かった。
だからこそ怪しい。怪しくないから怪しい。しかし調べても何も出て来ない。
(誰かが意図的に隠している?もしくは当人が……それは無いですね)
ミカエルは第三者の存在を疑っていた。あれだけの実力を持つ一誠を今まで気が付かなかったなんて事は有り得ない。
急に実力が付いた訳でもないのに。ミカエルは一誠の事を考えるのを後回しにして同盟の事が書かれた資料に手を伸ばした。
この同盟が間違いではなかったと願っていた。
▲▲▲
「アザゼル。入りますよ……居ない、どこに?」
冥界の『神の子を見張る者』の本部の総督室に副総統のシェムハザが資料を片手に入ってきた。だが、部屋に居るはずのアザゼルがどこにも居なかった。
そして仕事机の上に小さなメモを見つけた。そこには『サーゼクスの妹の学校に行って来る』と書かれていた。
「はぁ……アザゼル」
「シェムハザ。どうした?」
「バラキエル。アザゼルが逃亡しましてね……」
「いつもの事だな……」
総督室にシェムハザに続いてバラキエルが入ってきた。二人はアザゼルに振り回されている。昔からの付き合いがあるので今更なのだが、どうしてもため息を漏らしてしまう。
「シェムハザ。それは兵藤一誠の資料か?」
「ええ、そうです。アザゼルに改めて調査したのですが、何も出てきませんでした」
「コカビエルを一人で倒すほどの実力者だぞ?一人で強くなったとは思えないが……」
「ええ。ですから師匠がいると思ったのですが、影も形もありませんでした」
人間の少年が人外と対等以上に戦えるには誰かが師匠として鍛えていると思ったシェムハザはそこを調査したが、何も出て来なかった。
だから謎に謎が掛かり、調査を難航させていた。一体誰が兵藤一誠をあれほど鍛えたのか。いつから強かったのかが、まるで分からなかった。
「本人に聞くか、魔王が知っているのではないか?」
「本人に聞いて話してくれるか……魔王が知ってとは限らないでしょう……」
「そうか……話は変わるが例の悪魔の女との事はアザゼルに話したのか?」
「話す以前に知っていましたよ。まったくどこから……」
シェムハザが話す前にアザゼルはもう知っていたのだ。プライバシーもあったものではない。しかし逆にそれでよかったかもしれない。
おかげでスムーズに話を進められたのだから。アザゼルは全てを聞いてよく話してくれたと言っただけだった。
悪魔と繋がっていた事を咎める事はしなかった。
「アザゼルを連れ戻すのを手伝ってくれますか?バラキエル」
「ああ、構わない。奴にはしっかりと仕事をして貰わないと」
シェムハザとバラキエルは人間界に向けて飛んだ。そこで学校でオカ研の顧問になったアザゼルを連れ戻すのであった。
そして数日の間、シェムハザはアザゼルを総督室に缶詰にしたのは言うまでもない。