冥界に来て、タンニーンと戦った一誠はソーナのシトリー家に行くかと思われたが、シトリー領に着いて一誠だけがグレモリー家から来た悪魔に連れて行かれた。
一誠は行くたくはなかったが、直前にサーゼクスから連絡が来て「そのままグレモリー家に来てくれ」と言われた。
本当ならリアスや一樹がいるグレモリー家になんて行きたくはなかったが、サーゼクスの部下になった手前、行くしかなかった。
「初めまして兵藤一誠君。私はサーゼクスとリアスの母、ヴェネラナ・グレモリーよ」
グレモリー家に着いて出迎えたのはなんとサーゼクスとリアスの母のヴェネラナだった。容姿はギリギリ20代前くらいの年齢に髪は亜麻色をしており、母と言うだけあって顔はリアスにそっくりであった。母娘なのだから当たり前だった。
「なんだ、娘のために喧嘩でも売りに来たか?」
「そうではないわ。お礼を言いたいのよ」
「お礼?」
一誠はヴェネラナの言葉に首を傾げるしかなった。一誠はこれまでリアスの評価を散々にしてきた張本人だ。そんな相手に礼を言うのは考えられなかった。
一誠は警戒していたが、ヴェネラナ本人はクスクスと笑っていた。そしてそのままヴェネラナに案内されるまま中庭まで一誠は付いて行った。
「おばあ様!」
「ミリキャス。走っては転ぶわ」
中庭に来ると紅髪をした少年がヴェネラナに向かって走って来て抱きついた。どことなくサーゼクスの面影を一誠は感じていた。
「はい。おばあ様、どうしてカズキ様が?先ほどリアスお姉様と出かけたはずでは?」
「彼はカズキ君の弟の兵藤一誠君よ」
「もしかして白龍皇ですか!?」
「ええ、そうよ」
ヴェネラナに抱き付いていた紅髪の少年が一誠の前まで走ってきた。そして一誠の前で止まると頭を下げてきた。
「初めまして、僕はミリキャス・グレモリーです!」
「兵藤一誠だ」
「はい!一誠様のお話はお父様とお母様から聞いています!」
「そ、そうか……」
一誠は珍しく口篭っていた。知られていないが、一誠は自分より5歳以上年下の子供が苦手なのだ。特にキラキラした瞳をした子供が。
一誠は何とも言えない表情をしていた。年下の子供は苦手だが、サーゼクスの子供なので無下には出来ない上、礼儀正しいのだ。
「実は一誠様のお会いしたら聞きたい事があったのですが、いいですか?」
「……何が聞きたいんだ?」
「どうして赤龍帝のカズキ様を倒さないのですか?」
「その質問か……」
誰もが聞くであろう質問。二天龍である以上、戦うのは運命だ。しかも今代の白龍皇の方が強い事は周知の事実になってきていた。
ミリキャスもその事を父サーゼクスから聞いていた。それに子供でも噂くらい聞く機会なんていくらでもある。
一誠は膝を付いて視線をミリキャスに合わせた。
「ミリキャス。俺は戦士だ、戦士ってのは弱い者をいじめたりしないのだ」
「カズキ様は弱いのですか?」
「はっきり言わなくても……弱い」
「弱いでのですか?」
「そうね……弱いわね」
ヴェネラナはミリキャスに困ったような顔をして答えた。ヴェネラナから見ても一樹は弱かった。それもそうだ、一樹は『原作』を知っているだけで一誠のように戦闘経験がある訳ではないのだから。
「それでお礼ってのは何の事だ?礼を言われる事はしていないが?」
「リアスの事よ」
「まったく分からんな」
「人間界の高校に通うようになってあの子の我が儘は度を過ぎてきたわ。でも主人が甘やかすものだから付け上がった」
ヴェネラナは人間界の高校に通うようになったリアスの我が儘が以前より危惧していた。周りからは『グレモリーの我が儘姫』と言われる始末だ。しかも赤龍帝の一樹を眷族にしてからは我が儘が加速した。
だから何かリアスを大人しくさせるためのネタを探したいた。そんな時に白龍皇の双子の弟の一誠に敗北したと聞いた時は『これだ!』と思ったほどだ。
「あの性格は死んでも直らんだろうさ」
「そうね。だから生きている内にきっちり修正しないとね」
「それと俺に何の関係が?」
「あの子はね、あなたの名前を出すと大人しくなるのよ」
リアスは一誠の名前を出されると敗北した時の記憶を思い出して顔を歪めて大人しくなる。それは怒りで頭が一誠への殺意でいっぱいになるからだ。
そうなるとリアスの頭の中はどう一誠を殺す事しか考えられない。もちろんヴェネラナや他の者たちは知らない。
「それで相談なのだけど、ミリキャスにあなたの技を教えてやってくれないかしら?」
「才能がある者に不要だと思うけど?それでもか?」
「そうね。ミリキャスはサーゼクスの才を受け継いでいるけど、リアスの影響を受け過ぎているのではないかと心配なのよ」
「だから距離を取った方がいいと?」
「ええ」
確かにミリキャスはリアスを慕っておりかなり信頼している。すでにリアスの影響を受けているだろう。それがミリキャスにとって悪影響になる事をヴェネラナは危惧していた。
このままリアスのような我が儘な性格になればグレモリー家は没落する可能性が出てくる。そんな事は絶対に避けたいとヴェネラナは思っていた。
「その前にいいか?」
「何かしら」
「…………」
「ひぃ!?」
一誠はフォークを近くに木に向かって投げた。すると木の後ろからメイド悪魔がびっくりして出てきた。
「あら?あなた一体誰かしら?」
「お、奥様。私はここで働いている者です!」
「そうなの?でもあなたの顔を見た事がないのよ。屋敷で働いている者の顔は全て把握しているから」
「…………」
するとメイド悪魔が一目散に飛んで逃げて行ってしまった。しかし数秒後には一誠に抱えられて戻ってきた。
「ありがとうね。おかげで助かったわ」
「別にこれくらい。それにしてもメイドの顔、全員覚えているって本当か?」
「嘘よ。その手の事は全てメイド長の仕事よ」
「食えない悪魔だ」
ヴェネラナは一誠に含みのある笑みを向けていた。そして異変に気がついた執事がやって来てメイド悪魔を連行した。
後で調べて分かった事だが、彼女は旧魔王派閥の回し者であった。