TS少女とDr.エイト 作:Dr.エイト/Spider
Q:TS少女の恋愛対象は男女どちらなのですか?
「こんにちは。ファンタジー研究家のエイトです」
「魔王軍四天王、兼、助手のキーリ・スカラだぜ」
「さて本日も、ファンタジー世界について掘り下げていきましょう。本日のテーマは……『ケルベロス』! 頭が三つに分かれていることで有名な幻想生物です。カッコイイですね」
ブラックボードにケルベロスの画像が表示されます。本格的に”幻獣”という気がしますね。実際のところ幻獣でも幻想生物でも意味は変わらないですが。
「このケルベロスなのですけども、まず意識してもらいたいのは一個体一種族であることです。ケルベロスというのは、ギリシャ神話最強の怪物である”テュフォン”と蛇人”エキドナ”の間に生まれた怪物の一体です。オスです。ケルベロスとは個人につけられた名前ということになります*1。つまり頭が三つあるのは彼の個性ですね。ドラゴンと蛇の両親から犬が生まれるメカニズムは不明ですが、他には同じ犬の怪物である”オルトロス”や、もはやどういう生態なのかという”キマイラ”も生まれているので全ての怪物たちの親ということでしょう。一般的には知られていませんが、三つの犬の頭に加えて50の蛇の頭で構成された
「そんな血筋のヤツだったのか」
「おや、キーリ助手。お知り合いですか?」
「知り合いじゃないが。魔王軍にもこんなやつがいた気がする」
「割と定番ですからね。ケルベロスは。やっぱり、キーリ助手がいた世界はどこかの創作物の中なのではないでしょうか」
「巻神エスカみたいだな」
その例えはよく分かりませんが。ケルベロスというのは地獄の番犬として有名で、それゆえにゲームのボスキャラクターに使用されたり、スマートフォンの防犯アプリの名前に使用されたりするのです。
「話を戻しましょう。巻神は当分出てこないですから。ケルベロスの吠える声は青銅の管を大量にこすり合わせたような音だと言われています。ケルベロスは冥界の神ハデスに仕え、その冥界の入り口にある門を監視する役目を持っているのですが、こちらの門も青銅で出来ています。門とはそれ自体がケルベロスのことなのでしょうか? ケルベロスの業務は二つあって、一つは生者が冥界すなわち死者の国へと入ってこないようにすること、もう一つは反対に亡者が冥界から地上へ逃げ出さないようにすることです。冥界から逃げ出そうとする者も、ハデスの元で死後の安寧を得ようとする者も、ケルベロスに見つかると食べられてしまいます」
「ガバガバじゃねえか*2」
「そうなんです。脱冥しようとする者はともかく、ハデスの元へ行こうとする者にはこれが問題になるわけですね。三つの頭があるので交代で睡眠をとっていて、常に監視が途切れることもないのです」
「工場勤務かな?」
「それはもっとブラックなところもありますから……。もちろん対抗策もあります。ケルベロスは甘いものに目がないので、スイーツにすぐ飛びつくのです。このスイーツに眠り薬やしびれ薬を混ぜておけば、その効果の間にケルベロスの脇を素通りすることができるというわけですね」
「嗅覚ガバガバじゃねえか」
「死者なんてみんな薬臭いから仕方ない*3。この逸話のために、死者の親族たちは彼らの安全を願って蜂蜜入りのケーキを棺に入れて埋葬したのです。腐りそうですね」
「チョコレート食えるんか?」
「えっ、どうだろう。考えたこともありませんでしたね。調べてみます」
ここでは調べるといったものの、どうやって当時の資料を集めるかという問題に当たり難航しています。また迷宮入りにさせてしまいそうです。
「こうしてすっかり攻略方法が確立されてしまっているケルベロスですが、自らの力だけで攻略しようとすれば非常に強力な関門となります。何人も逃れることができないと言われるほどの力を発揮するのです。ヘラクレスよって抑え込まれたことがありますがこれは化け物に化け物をぶつけただけですし、竪琴の音楽で眠ってしまうという弱点は神であるアポロンより教えを受けたオルペウス*4ほどの技巧があって初めて成立するものなのです」
「他にも門番置いておいた方がいいんじゃないのか」
「ケルベロスに食べられてしまうので駄目です」
「協調性がないのか……」
どう考えても人選ミスですが、実力では彼以上の適任はいないのです。
「まとめていきましょう。ケルベロスとは三つの頭を持つ犬の怪物で、常に活動し続けることができ、強靭な肉体を持ちますが甘味によって懐柔できるということですね。これ以上にさかのぼると、ギリシャ神話以前にまで遡らなければならなくなるため”ケルベロス”としての性質はこのあたりで終わりたいと思います。お付き合いくださり、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
キーリ助手も敬語を使おうと思えば使えるんですね。3秒くらい。
A:知らんわ。この小説に恋愛要素はない。
……そう? まだ……ね。