無口クールキャラを目指した、一人の弓使いの話。

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久々に復活して謎作品を投下してまた消えます。
誤字脱字あればすいません。


無口弓兵の受難

 弓が好きだった。

 

 冒険がしたい、だが前線に立つには俺は臆病すぎた。

 精々眼がいいくらいだ。

 

 仲間がほしい、しかしコミュニケーション能力が乏しすぎる俺には到底難しいものがあった。

 喋るのが苦手なのだ、聞くのはそれ程でもないのだが。

 

 故に、俺は弓が好きになった。

 

 魔法の心得がない俺にとっては天啓にも等しい。

 人一倍良い目が必要で、遠くから狙い射てる。

 

 それに俺は知っている! 

 なんか後方で無口なやつはクールでモテると!! 

 

 先にいっておこう。

 俺は弓も好きだが女も同じくらい好きだ。

 

 剣や盾の前衛や魔術の中衛の奴等で敵との距離や指揮を執り、後衛の俺は後ろから確実に敵の体力を削る。

『言われずとも察して動いてますよ』感を出せれば、よりクールだろう? 

 

 つまり弓使いなら俺の無口さが好転するかもしれない。

 ついでに自信も付いてコミュ障は直るかもしれないと。

 

 無論実力がついてこないと駄目だ。

 他の者達より圧倒的でかつスマートな実力が。

 

 

 遅れたが俺の名前はアーチ。弓を扱う冒険者だ。

 しかし最近になって、どこか方向性を間違えたことを痛感している。

 

「お、おい! 『無音』様のお通りだぞ!」

「奴の声を聞いたやつは生きて帰ったことがないってよ……!」

「気配遮断も流石だぜ、いつからあそこにいたんだ……!?」

「こんな酒場でまで徹底してやがるなぁ、俺らも見習わないと」

 

 

 ──やりすぎました、いやマジで。

 

 どういうことだよ、頑張って有名になったのにこの現状。

 誰だよ『無音』って、俺だよ。

 

 弓兵として音や気配を消す訓練というか練習してから元々薄かった影に拍車かかってない? 

 

 というか最初からいたよ? 扉から堂々と入ってきたよ? 

 

 

「相変わらずだなぁ旦那、いつものでいいんだな」

 

 頷くと、お気に入りのお酒がグラスと共に置かれた。

 この店主はお喋り好きだ、俺としても沈黙が続くのは中々に応えるので気が楽だ。

 

 必死こいて入れてもらったパーティメンバーを待つついでに、最近の下らないニュースを聞けるしな。

 

「…………」

 

 あ、あり? 今日はやけに口数が少ないな? 

 俺が顔をあげて眉を寄せると、マスターは小さく笑った。

 

「やけに静かだな、ってか?」

 

 流石察しがいい。

 いつもみたくお上さんに尻を叩かれた話はしないのか? 

 

「アンタのお陰で気付いたんだ……アンタは酒を呑む人間、俺は要望通りの酒を呑ませる人間…………それ以上の無駄口を開く関係なんて必要ないってな」

 

 どうしたお前。

 

「アンタのお陰で気付けたんだ。口達者もいいが、大前提に俺は客に美味い酒を渡すのが仕事なんだって……態々悟らせてくれるまでこんなジジイの無駄口に付き合ってくれてありがとうな」

 

 どうしたお前(二回目)

 

 え? なにどういうこと? 

 何か悟っているような顔してるけど待ってよ。

 気になる話が沢山あるんだよ!? 

 

 奥さんにあと少しで空中後方二回捻り回転土下座出来るんじゃなかったのかよ! どうなったんだ!! 

 

「信じられないかもしれないが旦那のお陰で酒や色んな物を見直す機会もできてよ、店の評判もよくなったし妻とも仲が解消されたんだ……へへっ」

 

 へへっじゃねぇよ? 

 怖いわ、無言の無愛想な客に相手してくれてると思ったらそんなこと考えてたの!? 

 

「流石旦那だぜ……まるでここまでの未来が見えたかのように動じてねぇや」

 

 驚きすぎて固まってるんだけだけどね。

 

「というわけだ旦那……俺はもう大丈夫だぜ、救うなら他の店の奴等を救ってやってくれ」

 

 え、まさかの出禁? 

 

「あらあらアーチさん、やっと見つけたと思ったら『また』ですか?」

 

 そう言って背後からあきれたように女性が俺に声をかける。

 またとはなんだまたとは。

 

「宿に戻ってから直ぐ酒場へ行くのは慣れましたが……一々人助けをして酒場を回らないで下さい。探し回るこちらの身にもなってくださいね?」

 

 酒呑まないとやってられないよ。

 いや皮肉が効きすぎだろ、俺怒っていいよねこれ? 

 

「っいえ、勿論人助けが悪いとはいってないんですよ? ただ、今回の件は割りと急を要するので私も言い方が悪くなってしまいましたねっ」

 

 眉を寄せると、少し焦ったように弁解する。

 別にそこまで怒ってはいない、悪いの俺だし。

 書き置きをしようとも思ったけど……紙や板勿体無いし、毎回面倒だと思った俺が全面的に悪いからなぁ。

 

 そもそも態々行く酒場を紙に書いて渡すか? シュールな絵面だ。

 ともかく、酒場では話づらい内容のようだ。宿に戻るか。

 

 酒代を渡そうとして、店主に手で制止させられる。

 

「まさか恩人から金なんて貰えないさ……」

 

 え、そうなの? ラッキー。

 

「しかし旦那はそれだと満足しないだろうが、これが俺なりの旦那への筋の通し方って奴さ……頑張れよ」

 

 お、おぉう? 

 なんでこう罪悪感を最後にプレゼントしてくれるんだろう。

 

「さよならだ『無口な精霊』」

 

 ──マジでやめろその二つ名。

 

 

 

 

 

 

「やぁ、アーチ。待っていたよ」

 

 宿に戻ると目の前にイケメンがいた。

 許せないわぁイケメン、俺も整っている方だと思っていたけどレベルが違うイケメン。ちくせう。

 

 他のメンバー達も集まっていたようだ。

 なんだ俺が最後か、なんか悪いな。

 

「……君が入ってから飛躍的に伸びてきたこのパーティだ。街どころか国単位で名前が挙がり始めている……だから俺達はここで、このパーティだけでセイレーンに挑む」

『っ』

 

 ほぼ全員が息を飲んだ。

 

 ……ん? 単独パーティでセイレーン? やけに難易度が高いな。

 既にこのパーティは着実に力を付けているし、あまり飛躍しすぎなくてもいいと思うんだがなぁ。

 

「君達の言いたいことはわかる、しかしこの依頼が達成することで得られることは多い」

 

 そうカインは言って立ち上がる。

 

「セイレーンを倒す報酬として、優秀な船大工への紹介状がもらえる……海を渡るには大きなアドバンテージだ」

 

 太っ腹だなぁ、余程セイレーンに困らされているのだろう。

 かといって多数のパーティで組むと取り合いになるのか。

 

「なにより漁業関連の人達が困っているのも見過ごせない」

 

 そして流石カインだ。

 お人好しが天元突破してやがる。

 

「そして、一番大事なことだ……!」

 

 おや、まだあるのか。

 

「アーチの声を取り戻せるかもしれない」

『!』

 

 ……ん? 

 

「セイレーンは声で魅了し、また人の声を奪うとされている……アーチが話せない手懸かりが見つかるかもしれない」

 

 あれ? ちょっと? 

 

「アーチは声を失っていても連携が取れる。だが、だからといっていいわけじゃない! そうだろ!」

「えぇ、勿論!」

「僕もアーチさんの声聞いてみたいです!」

「酒場の件はさておき何度も世話になっていますからね」

 

 え? なにこの団結。

 なにこれ、やだこれ。

 

「アーチだってそれを望んでいるはずだ! 喋れないことがどれ程不憫だったろうか……!」

 

 何勝手に喋れない設定してるの? 

 喋れるよ? 喋れるけどあんまり喋らなかっただけで……? 

 

 ここで、俺は衝撃的な事に気付く。

 

 ──そういや俺、コイツらの前で喋ったことなくね。

 

 あれ? 自己紹介も冒険者カードを見せて済ませたよな? 

 なんなら買い物だって指差せば終わるし、ぼったくられかけたら生来の目付きの悪さで睨み効かせれば済んだしな。

 

 口開いてた時なんて食事くらいじゃね。

 

 ……あっれ? これ、もしかしなくてもやったな? 

 

 喋らない奴じゃなくて喋れない奴扱いされてるなこれ。

 

 ……どうすればいいの? 

 既に人見知り云々の問題じゃないぞこれ。

 

「アーチには本当にお世話になってるからね! 任せなさい」

「喋れるようになったらいっぱいお話ししましょう!」

「船も手に入りアーチさんも声を取り戻せる、一石二鳥ですね」

 

 ペトラ含む他のパーティメンバーの女性陣もやる気だ。

 余談だが野郎は俺とカイン、残り女性三人の五人パーティーだったりする。

 

 つまり俺を差し置いて全員賛成しているわけだ。

 ……つーか、君達思ったより俺に興味あるね? 

 

 全員カインのこと好きじゃん? 俺知ってるんだからね? 

 カインとラブラブワフワフしてなよ君達。

 

「船の件ならオマケだよ……お金があればなんとかなるんだからね……だから、俺たちの本当の目的はアーチの声を取り戻すことにある!」

 

 すごくやる気だね主人公してる。

 カインはカインで女難に囚われてるし、俺の事なんて気にしないでいいんだよ? 

 

「アーチ……あと少しの辛抱だ!」

 

 やめてよ囚人公。あと少しどころか未来永劫喋れなくなるよ。

 しかし気にしてくれていたのは嬉しいというジレンマ。

 

 頬が緩んじまうぜ。

 

『っ』

 

 え? 皆どうしたの俺を見て驚いて。

 凄くやる気に溢れてる顔になっているけど……え? 

 

「そうだ……ここにお客さんを呼んだんだ」

 

 ん? お客? このタイミングで? 

 カインがそう言ってから、俺達の元に杖を持った老人が現れた。

 かなりゴツい体格で、しかし歳はかなりいってそうな白髪の老人。

 

「……」

 

 彼は俺を見るなり、そのゴツゴツとした手を差し出してきた。

 力強い目が俺を捉えている。

 

 ……あれ? 

 

「彼は船大工であり漁師……そしてセイレーンの被害者だ」

『っ』

 

 俺を含め全員が息をのむ。

 

「彼は少し前にセイレーンに会ってから声を奪われたそうだ……今回の依頼は船がないと到達できない、そこで彼の船に乗せてもらう形で依頼を進める予定なんだ、それに……」

 

 俺に視線を送る。

 

 …………なにかな? 

 

「アーチとは通じるものがあるんじゃないかな……と思ってさ。余計なお世話だったらゴメンね?」

 

 ──泣いていい? 

 

 気遣いと罪悪感で潰されそうなんだけど!? 

 

 

 

 

 

 

 話を一段落終えて、俺は今宿屋のベッドにいる。

 

 ──どうしましょ。

 

 セイレーン討伐は明日だ。

 つまりは明日まではなにも話してはいけないということだ。

 

 まぁぶっちゃけてそれは簡単だ。今までと何も変わらない。

 

 この状況を打破するには一つしかない。

 セイレーンには悪いが倒れてもらって、声を取り戻した感じを装って口を開けばいいのだ。

 

 被害者も出ているそうだし、やるしかあるまい。

 

 

 海の道中は、かなり険しかった。

 何度か大きな波に飲まれ掛けたり、巨大な蛇のようなモンスターと戦闘になったり。

 

 そして海にポツンと佇む岩場に、奴はいた。

 

「珍しい客人ね? まさか使い魔がやられるなんて、手応えがありそう」

 

 セイレーンだ。

 女神が囁いたような美しい声、上半身は美しい女性に下半身は魚の鱗とヒレ、背には翼が生えている。前情報の通りだ。

 

「アーチから声を奪ったのはお前か!?」

 

 船からカインが叫ぶ。

 

 ……あれ? 待てよこれマズくないか? 

 これセイレーンが「違います」って言ったら終わりじゃね? 

 そもそも俺海なんて初めてみてるんだし。

 

 ヤバイぞっ!! 既にボロが──

 

「ハッ、ワザワザ奪った声の奴の顔を覚えているとでも?」

「っ外道! 許さない!!」

 

 そう言って総員武器を構える。

 あっぶねぇぇぇ!! 相手もなんかやる気で良かったぁ! 

 

 セイレーンは使い魔の、先程の蛇が小さくなった奴等を使役しながら襲ってくる。

 こちらもペトラ達魔術師と、近接戦闘型のメンバーは砲台などを使って応戦する。

 

 船長もベテランの船使いを見せて、時には敵の攻撃を避けて、かつ足場が不安定ならない、無理をしすぎない程度に動かす。

 

 カイン至っては海を走ってる。

 

 海を走ってる。

 

 ……何アイツ怖い。

 なんでも魔術を複合して水上を移動しているそうだが。

 聞いたことないよそんな方法。

 

 え? アイツだけでよくない? 

 

 剣術とかも随一だし魔術もあのレベルまで使えるんだよね? 

 主人公してるけどそこまで主人公しちゃうの? 

 

 まぁ、深く考えるのはよそう。

 今はこの戦闘に集中しなくてはっ!! 

 

 

 

 

 

「……完敗、ね」

 

 船に上げられた傷だらけのセイレーンが、呆れたように笑みを浮かべる。

 

 死ぬかと思った。まさかセイレーンの体がアレしてアレ(雑)するとは。

 そこをカインのソコがソコしてそうなるとはな(雑)

 

「殺しなさい、そうすれば声は取り戻せるわ」

「っ皆の声を取り戻すためだ……悪いな」

 

 カインはそう言って険しい顔で剣を振り上げた。

 しかし、その手を俺は止めた。

 

「アーチ……?」

 

 …………なんでかなぁ、流石に申し訳ない。

 痛い目にあったんだし、殺すまでではないのだろうか。

 

「……」

 

 それに『死にたがる奴』を見過ごすのもどうかなと思うし。

 

 ──追記。

 と、まではいかないがこれでも無口歴は長いのだ。

 それとなく相手に伝える能力、それと同時に目配せ等でもう一つ得たものがある。経験則みたいなものだが。

 

 目を見ればなんとなくわかるのだ。

 何を考えているとまではいかないが、感情や嘘の真偽くらいならわかる。

 

 ──あれ、俺も軽く人間やめてない? 

 

 ま、まぁそんな事はさておき。

 俺と同じ嘘つきにでてきてもらおう。

 

 

「……流石、本物じゃな」

『っ』

 

 低くハスキーな声と共に、帽子を深く被った船長が現れた。

 

「船長さん、しゃべって……!?」

 

 俺以外の全員が目を見開く。

 

「あれは、ワシが二十の頃だ……」

 

 ──え、なに。過去に繋ぐ感じ? 

 

 話を要約すると。

 若い頃船乗りとして認めてくれなかった船長さんは、躍起になり当時健在だった父親の船の一隻を借りて海に出たそうだ。

 そこで浅瀬には見つからないデカイ魚でも釣り上げて強引に認めてもらおうとしいう、若気の至りというものだろうか。

 

 しかし準備もあまりせずにいった航海、船は波に流され遭難してしまう。

 食料も底をつき、視界はぼやけ、後悔と懺悔に溺れそうな最中。

 

『──ねぇ、何をしているのかしら?』

 

 美しい歌と共に彼女……セイレーンと会ったのだ。

 セイレーンは岩に溜まっていた飲み水を飲ませ、そして陸への道を教えたくれたそうだ。

 

 最後に自分の鱗を渡して。

 

 

 

「そこから立派な船乗りになって一人で船を出しても、彼女とは会うことはなかった……」

「っまさか、貴方はあの時の……?」

 

 セイレーンは驚きの色を隠さず船長を見て、船長は穏やかに笑う。

 成程、昔に船長とセイレーンはあっていたのね。

 

「な、ならば何故討伐の依頼を?」

「討伐の依頼はなかった、悪さをしておるのは本当らしいからのぉ……元々は少し懲らしめる程度で終わりじゃったのだが……無口というのは面倒でな、上手く伝わらなかった。それに部下たちが躍起になりおってなぁ」

 

 はぁ、と深い嘆息を漏らす。

 

「他の奴等にやられてはいけないよう。船はワシが出す決まりを付けるのがやっとじゃったわ……」

 

 大体魔物って言ったら討伐になるし、古株の船乗りさんとなると人望も厚かったのだろう。それが裏目に出たのだ。

 

 わかる、思った以上に思った通りにならないよね。

 

 深々と、船長は頭を下げた。

「本当に申し訳ない。あんた達にも、セイレーンにも」

 

 そして、セイレーンの前に立つ。

 すると、ペトラがそっと手を上げた。

 

「で、でも。どうしてこのタイミングなんですか?」

「……ワシは歳だ、腰もやらかしてじきに船を降りる」

 

 杖に体重を預け、ゆっくりとしゃがみセイレーンと視線を合わせる。

 

「だから、のぉ」

 

 そしてそっとポケットから何かを取り出して、セイレーンの手に握らせた。

 

「っこれは……!」

「最後に会いたかったんじゃよ……若い頃から、ずっと恋をしていた女になぁ……」

 

 彼女の手元には、きっと手入れを怠らなかったであろう美しく輝く鱗があった。

 

 

 

 

 

 

 

「次あったときはもっと歌を披露して上げるわよ!」

 

 船旅に出る前に、二人の迎えがやってきていた。

 杖の代わりに荷台を引いている船長、そしてその荷台には水に浸かった例のセイレーンがいた。

 

 なんでも彼女、港町で歌を披露しているらしい。

 

「私も人間に狙われたり、海ばかりの生活に飽きてたの……まさかこんなことになると思ってなかったけど、人の生活も以外と楽しいものね」

 

 彼女はそう言ってにへらと笑う。

 

「全身全霊を込めて作った船だ……そう簡単には壊れないさ。だが大切に使いなさい」

「船長……!ありがとうございます」

 

 船長はそういって、静かに笑う。

 

「じゃあなは言わない、またのぉ」

「はい!行くぞ!皆」

 

 そう言って、俺達の船旅が始まった。

 

 

 

 

 ──ん、俺の声の件? 

 

 

 あ。はい説明します、これは一段落付いた後の話だ。

 

「おかしいわね、奪ったのは私じゃないし……というか、セイレーンの手によるものではないわねこれは」

「なんだと!? ならアーチの声はいったい誰がっ」

 

 誰でもないよ、そもそも起きてないんだよこんな事件。

 

「呪いや魔術の形跡も無いわ……まるで何も起きてないかのよう」

 

 ──何も起きてないんだもの。

 やめて、そんな目で俺を見ないで。

 

「とすれば……恐らく彼の声を奪ったのは……まさか魔王っ!?」

『っ!』

 

 …………えっ? 

 

「奴は魔族を統率する身でありながら化けて人の街に紛れ込む、傲慢で気分屋な奴……街で偶然会い気に入られたのか……はたまた癪に触れるような真似をされたのね……勇敢な人」

 

 いや会ったこともないよ? 

 勝手に勇敢にしないでもらえます? 

 

「つまりアーチは過去に魔王に会っていた……?」

 

 違うからね、勝手に宿敵みたいにしないでくれます? 

 

「魔王を倒す必要があるわけですか……」

 

 必要ないから、なんならもう喉薬でもくれれば喋るから。

 

「やれやれだ! 旅の道は遠そうだね」

 

 いや! お前らなんでそんなにやる気なの!? 

 

 

 

 はい、そういうわけです。

 

 ──悪化どころか、魔王倒さないと喋れなくなりました。

 

 なんなの? 呪われてるの? 

 自業自得な所が何も言えない、何も言えてないんだけどね既に。

 

 こうなればやってやる、魔王でもかかってこいよ! 

 俺のコミュ障を直すための礎にでもしてやるわぁ!!! 

 

 

 

 

 後に語られる英雄譚には、こんな記述があった。

 

『魔王を倒した勇者一行には、一人の弓兵がいた。

 彼は弓と目が長けており、仲間を勝利へと導いていた。

 

 特筆すべきはその声だという。

 悪神(・・)から封印されたと言われる彼の声を聞いた者はおらず、その声は魔王ですら心を奪う程魅力的であるとも言われている』

 


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