あれから数日後、藤原はデスク前のPCとにらめっこ中だった。
「はぁ~...」
藤原は椅子の背もたれに深く寄りかかりながら、大きくため息を付いた。
「お疲れだなぁ?藤原」
藤原は第58総合軍団傘下の第115大隊、第48特務複合任務中隊の第2小隊長を務める。
その同じ中隊で第3小隊長を務める、アンドリュー先任曹長が藤原の肩をポンと叩く
「ええ、そりゃああんな乗り心地の悪いのをうん時間乗り回すんだからねぇ...」
「確かになぁ...いっそのこと高級車みてぇな革シートに換えてくんねぇかな」
アンドリューはそう言いながら中隊事務所内にあるコーヒーメーカーへと歩く
「ハンヴィーに付ける前に、お前のオンボロ車に付けてやったらどうだ?」
アンドリューとは別の小隊長が茶化す
「60年代のフォードだぞ?バカにすんじゃねぇ」
「おっとこりゃ失敬」
「おいおい、60年代でオンボロなら俺の親父の50年代はどうなるんだよ?」
アンドリューとその他二名の小隊長が会話を弾ませる。
それを尻目に藤原は席を立ち上がり歩き出す。
向かった先は中隊長室だ。
「失礼します。」
ノックすると直ぐに入室の許可が出た。
「ご苦労少尉。全員五体無事だな?」
第48複合任務中隊長 バリー・ハドソン中尉が言う
「ええ、お陰さまで」
「どうだった?」
バリーは問う
藤原達第2小隊は敵陣と自陣の間にある『対立地域』に対する威力偵察を任務としていた。
この地域の事をラーフ社では『Space』と呼んでいる。
このSpaceにおいて、敵勢力への威圧を目的として武装した部隊を各方面に展開させ、「このエリアに手を出すなよ」という注意喚起のような圧力をかけている。
またそれ以外にも、周辺の村や街に出向き一帯の現状や敵の動向を逐一聞き出している。
「現在、敵勢力や盗賊による略奪や周辺部落への襲撃、さらには市民の誘拐が横行いるようですね。」
「うむ...徐々にこの世界の秩序は崩壊しつつあるか」
「ええ、さらにはクロイツ帝国の後ろ楯があるクレサス皇国の手引きによって、我々の協力国家も徐々衰退しつつあります」
クロイツ帝国はこの戦争の元凶で、異世界からやって来た。
この国はWW2のドイツとよく似た国で、軍事兵器もドイツの物と酷似する。
一方クレサス皇国はこの世界において2番目に強い影響力を持つ国だ。
現在はチェチェ大帝国がこの世界の覇権を握っているが、クロイツの侵攻により壊滅的な被害を受けている。
というより、首都を完全に制圧されたため国としての体をなしていおらず、多くの帝国議員達は捕らわれ、逃げ切れた物も散り散りになってしまった。
そしてその現状を見計らってクレサスが覇権を奪おうとしているのだ。
「チェチェが壊滅的状況で、実質的な主導権を手にしたクレサスはクロイツの名をチラつかせて我々の協力国を揺さぶっている」
バリーは席を立ち上がり、ブラインドが下がった窓へと歩いた
藤原はそれをじっと見つめる
「しかし、まだ終わった訳ではな」
バリーが意味ありげに言う
「と、いいますと?」
「ここ最近、クレサスが政権交代したそうだ」
「ええ、それは任務中に知り得ましたが...トップが替わったとか...」
「そうだ。誰に替わったのかまでは不明だが、今が絶好のタイミングだ」
しばし二人の会話は途切れ静けさが辺りを包む
「いかなる時代も、国を動かす大きな情報はどこかに転がっている」
バリーは沈黙を破って再び話し出す
「つまり、我々はその情報をしつこく嗅ぎ回るわけですね?」
「それでクレサスを揺さぶれるなら万々歳ってところだ。とりあえず、今日からは休んでくれ。まだ厄介事が現れたからな」
「はぁ...?」
「話しは後日だ」
バリーの言葉に藤原は敬礼し部屋を後にした。
ーーーーーーーーーーー
次の日
藤原は本部施設の屋上で風を浴びていた
6階建ての施設は見晴らしが良く、基地のほぼ中央に建設されてるため周囲がよく見える。
基地の敷地はとてつもなく広大で、867ヘクタール(凡そ8k㎡)の陸軍施設に2670ヘクタール(凡そ26k㎡)の空軍施設が合わさり、さらには最大射程40kmの自走榴弾砲が十分に射撃訓練が行えるレベルの射撃演習場を備える。
そんな大規模の基地を一望するような場所で空軍の滑走路を眺めていた。
そんな時に後ろの扉が開く音がした。
「手榴弾だぞ!」
後ろから叫ぶ声がする。
藤原はゆっくり後ろを振り返りつつ、飛んできた何かを掴んだ。
「爆発したらベトベトになりそうな手榴弾だな」
藤原は飛んできた手榴弾もとい、缶コーヒーをふる
「奢りだ」
扉を開けてきた男が言う
「こんな所で油売ってていいのか?トレバー」
藤原はその男、トレバー・サントス少尉に言う
「ちょっとくらい休ませろよ」
サントスは手すりに寄りかかるとタバコを吹かす
「お前こそ、非番のくせにここで何やってんだ?」
サントスが問う
「休みの日に何をするかは勝手だろ?」
サントスは「そうだな」と返す。
「早々あれだが、一つ頼みがあるんだ...」
「なんだ?」
「お前らが今度向かう任務...そこにたいそうなお宝があるんだ」
サントスは意味ありげに言う
「なんだよ。俺らにインデ○ージョーンズばりのトレジャーハントしろって?」
「男のロマンたっぷりでいいじゃねぇか。そういうお宝なら」
藤原はサントスの方へ顔を向ける。
一方サントスはこちらを向くことはなく、タバコを吹かしながら正面を見据えていた
「昨日、バリー中尉から色々聴いたろ?あれに関するお宝さ」
サントスは続ける
「お前らが向かう地域にクロイツの基地がある。そこにクレサスの第二皇女がいるそうだ」
「第二皇女?」
「ああ、お前らにはその第二皇女をお招きして欲しいのさ」
「つまりは拐ってこいと」
サントスは肩をすくめて返答する。
「でもなんで最前線になるような場所に?」
「それが解れば苦労はしないさ」
「簡単にまとめると、その皇女様を拐って奴らを揺する訳だな」
「そゆこと」
「ま、やるだけやってみるさ」
藤原はそう返した。
するとその時、藤原の携帯が鳴った
「おっと、もしかしてフィアンセからか?」
サントスが茶化す
「お前も、そう言うのやめろ」
「お前らがイチャイチャしてるからそう見られんのさ」
電話の相手は篠原だった。
「好きでイチャイチャしてるとでも?」
「でも、悪い気はしないだろ」
「男ってのはそういうもんだろ」
藤原は否定も肯定もせず、むしろ肯定するような物言いで電話にでる。
その様子にサントスは右を軽く上に挙げてその場を後にした。
「もしもし?」
「あ゛ぁぁぁ、う゛ぅぅぅ」
向こうの方からうめき声のようなものがする
「おお、どうしたゾンビ」
「あ゛あ゛たぁべぇてやぁるぅ...じゃないですよ、たいちょぉ...」
「んでどうした?篠原」
「あの...とりあえずパシッていいですか?」
「おぉ、随分偉くなったもんだなぁ?で、なんだ?」
「頭が痛いっす...」
「お前が考えて飲まないからだろ」
藤原達第2小隊のメンバーは昨夜宴会を開いていた。
そこで篠原はとんでもなく酒を飲んだ。確実に二日酔いだ。
ちなみに、このパターンは毎度お馴染みだ
「だってぇ...」
「はいはい分かりましたよ。頭痛薬だな」
「ふぁい」
藤原はある程度要件を聴いた所で電話を切った。
ーーーーーーーーーーー
藤原がサントスと会話していた同刻。
対立地域にあるクロイツの施設では...
「全員!傾聴!」
一人の号令にその場の兵士達は一斉に姿勢を正す
「諸君、この世界には慣れて来たかな」
一人の中年男が数十名の兵士に対し問う
「私はこれから諸君らを狂気の渦へと誘う、ハンス・クレッチマー大佐だ」
ハンスはその場の兵士に敬礼する。
それに答えるように兵士もまるでナチスドイツのような『ナチス式敬礼』で答える
「我が軍はこれまでに輝かしい功績を誇って来た。しかし、一転してこの世界ではどうだ!その功績に泥を塗る根性のないクソのような戦いしか無いではないか!本国では我々の周辺各国は完全に配下となった...。私は諸君らを信じている。世界最強を誇るに相応しく鍛えぬかれたその手腕は奴らに本当の現実を見せつけてくれる事だろう...。」
ハンスは力強い口調で激励するかのごとく演説する
「諸君らの後ろにあるものはなんだ!」
ハンスは両手を前に広げる
「本国から送られた最新の戦車だ!上層部はこの最新の戦車と諸君らの手腕をもって、奴等を血祭りにあげろと申している!」
ハンスは一呼吸おいた。
そして
「期待しているぞ」
と先程とは打って変わって、腹の底から出したような低い声で言う
それに答える形で兵士達も、ナチス式敬礼で
「「ハイルクロイツ!ハイルハンス」」
と口を揃える
それを横目にハンスは演説台を降りると先程号令をかけた補佐官のもとへ歩く
「奴等を直ぐに戦力に仕上げろ。どんな過酷な訓練でも構わん、脱落する者は捨てろ。替わりはいくらでもいる」
そう補佐官の耳元で囁くと建物の中に消えていった。
演説の後、ハンスはコンクリートで覆われた薄暗い廊下を歩いていた。
両側には番号が振られた鋼鉄製の重厚な扉があり、その内の一枚の前でハンスは立ち止まった。
そこを警備していた憲兵が敬礼し、扉の鍵を解錠した。
「ご機嫌いかがですかな?皇女殿下」
ハンスはその部屋の中に居た女性に声をかけた
「こんな狭苦しく薄汚い所に押し込んでよくそのような事が言えるものだな」
女性は皮肉混じりに言う
「これは申し訳ない、ここより良いところとなると豚小屋しかなあもので」
ハンスは不敵な笑みを浮かべる
「シェフィア殿下、ここに押し込まれるのもあと少しです。もうすぐで自由の身ですよ」
「信用ならんな」
クレサス第二皇女、シェフィアはハンスを睨み付ける。
「もう昼食の時間ですな。殿下も空腹でしょうからこの辺で失礼させて頂きますよ」
ハンスはそう言うと部屋を後にした。
ハンスが出ると直ぐに扉は閉ざされ、ガシャという重々しい音と共に鍵が閉められた
シェフィアは寂しさ、自分の無力さに絶望し俯き涙を流した。