藤原が任務を終えて帰還してきてから約2週間近くがたった頃、再び彼らは任務に出ていた。
彼らには毎度の如く威力偵察を言い渡された。
しかし今回は少々勝手が違い、出動する近辺に敵の機甲部隊の施設があるとのことで、さらに空軍の偵察機が撮影した画像には従来型ではない新型と思わしき戦車が大量に撮影されていた。
そのため、彼らにはこの新型戦車の性能を見定める任務とバリーやサントスが言っていたお宝探しをする事となった。
「ほんと風景変わんないっすよねぇ」
篠原が言う
この小隊だと、搭乗する車両でほぼ定位置が決まってしまっている。
藤原が乗る1号車には藤原とその助手席に篠原、後部座席にはイーライとグラハムが乗る。
別に決まりがあるわけではないが、全員その位置に座るのだ
「走っても走ってもほとんど同じだもんなぁ」
イーライが窓の外に広がる草原をみて言う。
手付かずと言っていいほどの自然環境で、都市と都市もそれなりに離れている。
田舎以上に何もない光景に最初は感動も覚えたが、半年もすれば感動どころか面白味すらなくなってくる。
「夜だともっといい感じだけどなぁ」
藤原は言った。
するとその時
「1号車、前方凡そ600ヤード先に馬車だ」
と無線が入った。
藤原は前方を注視する前に少しサイドミラーに目をやる。
前回はハンビーが3両だったが、今回はかなり重武装となっていた。
まず、小隊長車(1号車)と2号車が『M1151 ハンビー』、3号車に『イヴェコ LMV』、そして複合任務中隊傘下の特務機甲中隊より戦車一個小隊4輛の編成となっていた。
その戦車小隊の小隊長車、『センチュリオン アベンジャー』の車長が藤原達に報告したのだ。
「了解.イーライ、見てきてくれるか?」
藤原は無線機を一端置き、後部座席のイーライに確認するように言った
イーライは「あいよ」というと座席を立ち、車体中央上部にある銃座に立つと双眼鏡で前方を確認した。
「ああ、見えるぞ。休憩か? .立ち往生してるようにも見えるが」
「了解。ジェイクこの道幅だ、気をつけてくれ」
藤原は後続の戦車小隊長である、ジェイク・アンバー少尉に警告した。
今走っている道は比較的大きく馬車なら余裕で離合することは出来るが、こちらの世界の基準の話で馬車より幅広の戦車ともなると馬車と離合するのも危ないくらいだ。
第2小隊の車両郡はゆっくりと馬車の元へと近づく。
「あれ? 馬が」
離合する直前になって、篠原が異変に気付く。
休憩とは程遠そうな程ぐったりとした馬がいた。
「どうしました?」
藤原は離合するタイミングで窓を開け、近づく異形の乗り物にたじろぎ夫人に声をかけた。
「え.ああ」
突然のことに警戒する夫人。
一瞬視線を落とした夫人だったが、ハンビーの横に書かれた文字が視線に入った。
『R.I.D.F』
英語と現地語で描かれた白文字は現地民が唯一ラーフ社とクロイツを判別出来る手段だった。
双方の特徴よりも、この文字の配列だけが情報伝達が遅い現地民の間で瞬く間に広がったのだ。
凡そ半年前に描かれたキレイな白文字も半年間酷使され続けて掠れていた。
「実は馬の具合が」
やはり、ぐったりとした様子だったのは間違いなかったようである。
藤原はサイドミラーを一瞬に目を向ける。
「.休憩がてら話でも聞こうか」
藤原はそう言うと車両を動かし外に出た。
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第2小隊のメンバーが立ち往生した夫人に出会う前日、ハンスは煙が立ち上る小さな村を双眼鏡で覗いていた。
「あの村の連中は我々ではなく、敵に媚を売っていた.そうだな?」
ハンスは『Sd.kfz.250/3』のキャビンに立ち、彼の隣にいる副官へ尋ねた。
「ええ、全くもって愚かな連中です」
「大人しく我々に従えばいいものを.今は大手を振って歩けたとしても、最後に笑うのは我々だ」
ハンスは双眼鏡をおろし、大きく息を吸った。
そして少しの間の後、正面を見据えたまま再び話し出す
「あの町の民を幾らか近くの町に吊し上げろ。もちろんプレートも付けてな。ここの世界にいる者達に逆らってはならない存在が誰であるかを教えてやるのだ」
「はっ!」
ハンスは副官の返答を聞くと車内の座席に座った。
「さて、我々もあの中に入るとしよう。ここで見るのも飽きてきた」
ハンスの言葉にドライバーが車両を動かした。
比較的近くであったためすぐに村へ入る事ができた。
そこにはなんとか抗おうとしたのであろう町民が剣や槍を持ったまま、無惨に転がっている。
辺りは悲鳴や銃声がけたたましく響いていた。
しばらく走り村の中央にある広場に車両は停車した。
車両が停車するとハンスは下車し、辺りを見渡す
「大佐殿!」
一人の兵士がハンスに近づく
「こいつがこの村の長です」
兵士が年配の男を無理やり連れてきた。
連れてこられた村長は怯えていた
「なるほど.貴様が我々の情報を横流ししていたわけか」
「情報など.そんな滅相もない」
「一切奴等とは話していないと?」
男が言葉を詰まらせる。
それに対して連れてきた兵士が村長の背中を銃で突く
「そ、それは.彼らが尋ねて来ましたので」
「聞かれたから答えるとは.成長だけして中身は子供から変わらんようだな?」
「申し訳ありません! お許しを.!」
「そうか.では罪を償う必要があるな?」
ハンスはそう言うと兵士に対して目で合図を送った。
それに対して兵士は村長の膝を蹴り、膝カックンの要領で跪く
ハンスは腰の左にぶら下げたホルスターに手を伸ばし、そこから『ルガー P08』を取り出すと、村長の頭部に一発撃ち込んだ。
頭部を撃たれた町長はそのまま後方へと倒れた。
そしてハンスは右手に持った銃を上空の方へと向けて空にもう一発撃った
「いいか! 我々に逆らう事は死を意味する! だが、死をもってしても到底許される行為ではない!」
広場に集められた村人が一斉にハンスの言葉に恐怖した。
「中隊長!」
「はっ!」
ハンスは機甲部隊に属する歩兵隊長を呼んだ
「君の判断で構わん、村の者を選別しろ。本部へ労働力として送る者、付近の町への見せしめとする者、そして今の私の言葉を周囲に広める者をな。まぁ告げ口するのも構わんが、そいつはこの愚か者のようになるだけだ」
そう言うとハンスはすでに息絶えている村長に再び発砲し、車両の方へと歩き出した。
しかし、数歩歩いた所で止まり
「そうだ、女どもは好きにして構わん。殺すも楽しむもな」
そう言い残すと再び歩き始めた。
──────────
「という事があったのです」
藤原と合流した夫人が村での出来事を話した
「クソ野郎だな」
第2小隊一人、ウェブリー・イムレイ一等軍曹は毒づいた。
「それで、今は逃げている最中だと」
藤原は言った。
「ええ...」
「大丈夫なのか? 俺らに話して」
グラハムは問う
「はい。言わなくてもどのみち殺されるかもしれませんし.だったらもう遠くに行ってしまおうと」
「昨日から暑かったですし、これだけ荷物を運んでれば馬も倒れますね」
藤原はぐったりとした馬を見つめた
「家の物をほとんど持って来ましたので」
夫人も馬を気にかける様子で言った。
「どうします? ハンビーやイヴェコならワイヤーでも結び付けて牽引できますが」
イムレイが藤原に小声で提案した。
「いやそんな暇は無い。かわいそうだけどな」
と、藤原は提案を拒否した
「ご主人、もう一つお聞きしたいのですが」
藤原は改まって言う
「クレサス皇国について何か知ってませんかね?」
「クレサスですか.国王が新たに代わった事でしょうか」
「ええ、そのようですね」
「あとは.今の国王は前国王の娘とか」
「女王という事で?」
「ええ。ただ、あの国は女への政治権は殆ど無かったはずですのでなぜ今さら女国王になったのかは.何せ田舎者なもんでこれくらいしか分からんのです」
「いえ、結構ですよ。そろそろ我々は失礼させて頂きます。もう少し馬も休ませてからゆっくりと向かって下さい」
「こちらこそありがとう。そうだ! クレサスの事を聞くならロネヨンという街に行くといい。あそこは商人が集まるから、クレサスに行く商人も居るだろう」
「そうですか、それはありがたいです」
あの会話の後、第2小隊の面々は再び出発した。
「あの男が言っていた女王の話.なんか関係あるのかね?」
グラハムは独り言のように言った
「この世界だと、今までの方針をガラリと変えるのはそう無いだろう。特にあの夫人のニュアンス的に男性主義が根強いクレサスが突然女性に主権を持たせるということは、何かしらの干渉があったと思うが.単に国王の娘だからでは済まない何かが」
「てことはクロイツ?」
篠原が言う
「ん~、クロイツがそうさせる理由も無いよな」
「ま、なんにせよロネヨンにいきゃわかんだろ」
イーライが言う。
「それもそうだな」
第2小隊の新たな行き先が決まった。
そしてまた延々と同じ風景が続く旅も始める事になる
...のだが
「大佐殿!」
「どうした?」
副官がハンスの元へと駆けて来た
「警戒部隊より報告申し上げます。敵の部隊を発見。装甲車両3、戦車4との事です」
「おや、向こうからやって来たか.しかしなんと少ない事か。5分で方が付くな」
「大佐殿、5分もかかってしまうほど我々の練度は腑抜けてはおりません」
副官はハンスに言った
「おお、そうであったな。では! 大隊出撃準備だ! 我々のテリトリーに土足で入りおった奴らにお灸を据えてやるぞ!」
「はっ!」
副官は敬礼し、下の者達に指示を出すためその場を後にした。
──────────────────
夫人と別れて、約2時間がたった。
今回の車内はいつになく騒がしい。
個人で持ち込んだ音楽プレーヤーや携帯ゲーム機で歌手の歌声を真似ておどけたり、撃退のバグで大爆笑したりで時間の進みが早く感じられるほどだった。
「さっもうすぐ町だ。気を取り直して行くぞ」
藤原は言った。
だが、それに反してイーライは変な格好の状態でバグったゲーム画面を見せてくる。それに吹き出す藤原とつられて笑う全員。
何度も見たはずだが、変なテンションになってるのか何故か笑ってしまう。
「あ~、バカげてる」
藤原に替わって運転していたグラハムが若干過呼吸気味に言った。
「さぁもう仕舞え」
藤原もある程度落ち着いた所で言う
今彼らが向かっている町はロネヨンとはまた違う所なのだが、ここにも寄ることになっていたのだ。
「ふぅ、やっと降りれる」
篠原は背伸びする。
と、その時だった。
「おいおい、今日はやけに困ったちゃんと出会うなぁ」
グラハムが言った。
藤原は後部座席から見辛いながらもなんとか前方を確認した。
そこにはこちらに手を振る女性が.
「どうする? 隊長」
イーライが問う
藤原はしばしば考え
「とりあえず停まろう」
と言った
車両はそのまま進み町まで凡そ1kmほどの距離のところで女性と合流した。
「どうかしたかい? お姉さん?」
グラハムはまるでナンパする時のような口調で女性に言った。
「実は馬車が溝にハマっちゃって」
女性は言った。
それと同時に藤原も車両から下車し、同様の事を女性に聞いた。
「ハマっちゃったの。手伝ってくれないかしら?」
藤原は馬車をみる。
確かに溝にハマっているが.
「あの目の前の町まで行くつもりだったのだけど、こんなところで止まっちゃって.」
「馬はどうされました?」
女性の言葉に食い気味に被せて藤原は問う
馬車であるはずが肝心な馬が見当たらない。
「ああ。ハマったままで繋いでおくのも可哀想だったから外したんだけど、そこで逃げちゃって.」
「はぁ.?」
「だからちょっとあの町まで乗せて貰えないかしら」
藤原は軽く手で合図を出すと車両から数名降りてきた。
そこで改めて女性を見て
「お手数ですが、荷物を拝見しても?」
「え.荷物?」
「ええ」
「別に商売道具しかないから面白くないわよ?」
「面白くない方が本望なので、拝見させてください」
「いや、その...」
女性が挙動不審になる。
シートが掛けられたあの馬車には何かがあるのは間違いない
藤原は最後の一押しに出た。
「荷物を見せてくれませんか?」
いたって普通の言葉だが、この言葉に女性は目を丸くした。
ドイツ語に訛りが混じったようなクロイツ帝国語であったからだ。
目を丸くした直後、鋭い目付きにかわり
「クソ!」
と言い服のなかから短刀のようなものを出そうとした。
と同時に馬車の荷台からクロイツ兵が数名出てきた。
藤原は短刀を取り出すより先に携行していた『コルト M4A1 』の銃口で彼女の腹を突くように殴り、若干くの字に姿勢崩した彼女の頬付近にストックで殴った。
その他のクロイツ兵達は勢い良く馬車から出たのはいいが、彼らは銃を構える暇もなく、第2小隊の面々に蜂の巣にされてしまう。
「まさか敵だったなんて」
篠原は言う。
「初っぱなから怪しかったしな。篠原、こいつの持ち物を調べろ」
「了解」
「隊長、こいつらは...」
篠原に指示を出したタイミングで副小隊長のマイク・フォール先任曹長は藤原に言う。
「あの町に上手いこと誘き寄せる罠だろうな。あの町にはクロイツがいる」
藤原はそう言うと戦車小隊長のジェイクの戦車へと向かった。
「ジェイク!」
藤原の呼び掛けにジェイクは手を挙げる。
藤原はそのまま戦車によじ登った。
「あの町に敵がいる」
「ああ、だろうな。どうする?」
「こっちである程度偵察する。お前らは対人、対戦車戦闘の両面で準備してくれ」
「OK」
二人は簡単に打ち合わせし、
「ジョン! レイブンを準備しろ」
と、第2小隊の一人、ジョン二等軍曹に言った。
「全車、市街地戦の可能性がある警戒しろ。1号車、2号車はAPDSを装填し対戦車戦闘、3、4号車はHEを装填し対人戦闘用意」
「「ラジャー」」
ジェイクは小隊車両全車に指示、藤原の指示を受けたジョンが2号車ハンビーのトランクからケースを取り出す。
ジョンは取り出したケースから『RQ-11 レイブン』を組み立てる。
『RQ-11レイブン』はアメリカで開発された小型無人偵察機で翼幅1m、重量2kg程度のサイズで手投げにより飛び立つ無人機だ。
ジョンは組み立て終えると各種機器を始動し、レイブンを空へと投げ飛ばした。
レイブンが撮影した映像が小型モニターに写し出される。
「やっぱりいるか」
藤原やジョンと共にモニターを見つめるジェイクが言う
「ああ。動き的にこちらに気づいてるか」
「で、どうするかだが.」
と、その時
「戦車か」
ジョンは小声で呟いた
「どうやら、マークⅣ.Ⅳ号っぽいな」
映像に写ったのはドイツ軍が使っていたⅣ号戦車に似た戦車だった。
「センチュリオンの火力な簡単にぶち抜ける。問題はどれくらいの数がいるかだな」
ジェイクは言った。
藤原はモニターから目を外して周りの隊員達が注目するよう手を叩いた。
「戦闘準備だ! このままの車列で町まで行く。600付近でドライバーとガンナーを残して下車だ。よし全員搭乗しろ!」
いよいよ戦闘が始まってしまう.