遊戯王小説 竜結の子守り詩   作:柏田 雪貴

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ストラクチャーデッキR -ドラグニティ・ドライブ-発売決定記念!

本編全部シリアスです!


一話

 外留(パズル)町の郊外にある、とある建物の一室。そこに、二人の人影があった。

 

 一つは星のない夜のように美しい黒髪を持った十代後半に見える少女だ。整った顔立ちに長いまつげ。更に【レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン】のイラストがプリントされたパジャマを着て、ベットですやすやと眠っている。呼吸のたびに上下する胸は、思わず男性の目が吸い寄せられるであろう大きさだった。

 

 そして、その少女を見守るように隣で椅子に座っている、茶髪の男性。その長い前髪の間から見える瞳は鈍い金色で、どこか爬虫類を連想させる。背丈はあるが、その顔はどこか成長し切っておらず、少女と同年代に見える。

 服装はオレンジのシャツにズボン、その上からフードの付いた薄手の黒コート。男の子なら憧れるであろうヒラヒラしたソレを、この男は完全に着こなしていた。

 

「ん、竜騎(りゅうき)・・・・・・」

 

 ふと、寝言のように少女が呟いた。その言葉に男性はスッと目を細め、右手で優しく彼女の髪をなでる。

 

「ああ、俺はここにいるぜ、美遊(みゆ)

 

 そうして何度か手を上下させ、彼女が安心したように再び深い眠りへ落ちると、その手を離す。

 

『竜騎。新たな精霊だ』

 

 耳ではなく、直接脳に響くような声に男が部屋の扉へと目を向ければ、そこに突如として一体の竜が現れる。

 

 橙色の鱗に、同色の鳥類を思わせる翼。その四肢は筋肉質で、両手は武器を取るために五つの指を、足には大地を踏みしめるために三つの爪。腰にはコウモリを思わせるまた別の形状の翼があり、更に彼の振るう大剣が懸架されている。

 【ドラグニティアームズ-レヴァテイン】。【霧の谷(ミスト・バレー)】の奥深く、【竜の渓谷】に住まう【ドラグニティ】達の長だ。

 しかし、その姿はどこか薄く、背後の扉や壁が透けている。

 

「そうか。なら行くぞ、俺の剣(レヴァテイン)

 

 突如現れた竜に動揺することなく、古くからの知り合いであるかのような態度で受け答えた男は立ち上がり、レヴァテインの身体を貫通しながら扉へ向かい、部屋を出る。橙竜もまたそれに続くように姿を消し、寝たきりの少女がただ一人、取り残された。

 

 

 

 外留第二公園は、朝十時という早い時間ながらも休日であるためかそこそこ賑わっていた。

 【青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)】の形をしたジャングルジムで子供達が遊び、それを見ながら奥様方は井戸端会議に花を咲かせ、デュエルマッスルを鍛えるデュエリスト達はジョギングを始めとした筋トレにいそしんでいる。どこにでもある日常風景だ。

 

 その光景を視界に捉えつつ、この近くのカードショップ『Rabbit』のロゴの入ったビニール袋を開ける青年は倉崎(くらさき)明瑠(あかる)。少々女子っぽい名前にコンプレックスを持つ、ごく普通の高校生だ。こうしてベンチでカードパックを開けるのは、彼の幼少期からの習慣だった。

 

「いいカードが出るといいな」

 

 誰にも聞こえない程度の声で呟きながら、ペリペリと中身のカードを折らないようにパックを剥いていく。一つ二つ三つと開封していき、残り一つまで開け終わるが、めぼしいカードは少ない。パンパン、と柏手を二度打ってから、祈るように最後のパックを開けた。

 

「・・・・・・このカード」

 

 美しいカードだった。効果もデッキに合うし、自分の好みにドストライクなデザインだ。この一枚だけで、今日パックを買ってよかったと思える。そんな、運命を感じるカードだった。

 早速デッキに入れよう、とスリーブに入れてからデッキを取り出し調整を始めようとした、その時だった。

 

「いいカードだな」

 

 ふと真後ろから声がした。ビクッと驚きながら振り返ると、そこにはフードを被った不審な男。顔はフードと茶髪に隠れて見えないが、両腕をポケットに突っ込み、その右手首にはディスクを取り付けるためのブレスレット。つまりは明瑠と同じくデュエリスト。

 

「え、えーと、貴方は?」

 

 気配がしなかったことや男の格好からおっかなびっくり明瑠が訊くと、彼は何も答えずにベンチに座る明瑠の正面へと回る。

 

「レヴァテイン、やれ」

 

 男が一つ呟くと、彼を中心に黒い空間が広がっていく。明瑠にもそれが迫り、反射的に両腕で顔を守る。

 

 何も起きていないことに違和感を覚え目を開くと、そこは白黒(モノクロ)に染まった公園だった。自分以外の全てから色が抜け落ち、そして人も消えている。

 

「今からお前は俺とアンティデュエルをしてもらう。俺が勝てばお前のそのカードをいただく。お前が勝てば、この空間から解放してやるよ」

 

 いつの間にか十メートルほど離れた場所に立っている男の言葉に、明瑠は不信感を抱き彼を睨む。

 

「どういうこと?」

 

「言った通りだ。さっさとディスクを構えろ。じゃなきゃお前は一生この空間から出れない」

 

 問答をするつもりはないらしい。明瑠は彼の言葉を信用した訳ではなかったが、デュエルに応じることにした。

 

「・・・・・・いいよ。受けて立つ」

 

 元々、売られたデュエルは買うのがデュエリストというものだ。言葉の真偽はともかく、今は彼に従うべきだろう。

 

「ああ、お前が負けてもこの空間から出すくらいはしてやる」

 

「ありがたいね・・・・・・でも、負けるつもりはないよ」

 

 ベンチから立ち上がり、タブレット状態にあったディスクをブレスレットと合体させ展開する。これで準備は整った。

 

「「デュエル!」」

 

 ディスクに表示された先攻は不審者。何故か名前の部分が文字化けして『縺ゅi繧?j繧?≧縺』と表示されたが、この不思議空間のこともあって明瑠は気にしないことにした。

 

「俺のターン。【トレード・イン】を発動し手札交換。【竜の渓谷】を発動して効果、手札一枚をコストにデッキからドラゴン族を墓地へ送る」

 

 墓地へ送られたのは【アークブレイブ・ドラゴン】だと明瑠はディスクで確認する。墓地には他に【闇黒の魔王ディアボロス】と【ドラグニティアームズ-レヴァテイン】があった。コスト等を宣言せずに続けられるプレイングに、明瑠は若干の怒りを覚える。

 コストにするカード等を宣言するのは、デュエリストとしてのマナーだ。それを無視するとは、無礼にもほどがある。

 

「カードを一枚伏せる。これでターンエンドだ」

 

 

不審者

LP8000 手札2

■□□□□

□□□□□竜

 □ □

□□□□□

□□□□□

倉崎明瑠

LP8000 手札5

竜:竜の渓谷

■:伏せカード

 

 

 明瑠にターンが移る。伏せカードのみという盤面に疑問は覚えるが、【アークブレイブ・ドラゴン】の効果によりドラゴン族が特殊召喚されるため、がら空きということはない。

 

「僕のターン、ドロー」

 

 引いたカードは悪くない。

 

「スタンバイフェイズ、アークブレイブの効果発動だ。墓地からレヴァテインを特殊召喚する」

 

「チェーンして【墓穴の指名者】を発動。対象は【アークブレイブ・ドラゴン】だ」

 

「チェーンだ。【抹殺の指名者】」

 

 不審者の墓地で【アークブレイブ・ドラゴン】が輝き、それを食い止めるべく【墓穴の指名者】の腕が伸びるが、そうはさせないと【抹殺の指名者】の騎士が腕を切り裂いた。

 そしてアークブレイブの輝きを受けた竜、【ドラグニティアームズ-レヴァテイン】が特殊召喚される。

 

「レヴァテインの効果でアークブレイブを装備する」

 

 その竜を復活させた輝きはレヴァテインの剣に宿り、後続の確保を約束する。

 

「メインフェイズ、【ゴブリンドバーグ】を通常召喚! 効果で手札の【ライトロード・アサシン ライデン】を特殊召喚して、自身は守備表示になる」

 

 飛行機に乗ったゴブリンがフィールドへ飛来し、運んできたコンテナを下ろすと、そこには暗殺者の称号を持った光の戦士が入っていた。なんてものを運んでいるのだろうか。

 

「ライデンの効果でデッキトップから二枚を墓地へ送る。その中に【ライトロード】があれば、自身の攻撃力を200アップできる」

 

 墓地へ落ちたのは【トワイライトロード・シャーマン ルミナス】と【Emハットトリッカー】。条件を満たしたため、ライデンの攻撃力は不審者のターン終了時まで1900だ。この後の展開を考えると、あまり意味はないが。

 

「ゴブリンドバーグとライデンでオーバーレイ。エクシーズ召喚! 【ライトロード・セイント ミネルバ】!」

 

 ゴブリンと暗殺者が黒い銀河へと光点となって吸収され、白いフクロウを連れた聖女が登場した。

 

「ミネルバの効果、オーバーレイユニットを一つ使うことで、三枚墓地を肥やし、その中の【ライトロード】の数だけドロー出来る!」

 

 ディスクによってデッキトップからズラされた三枚を引き、墓地へ。【ライトロード・サモナー ルミナス】【灰流うらら】【Emトリック・クラウン】の三枚だ。

 

「【ライトロード】は一枚、よって一枚ドロー! 更に墓地へ送られた【Em(エンタメイジ)トリック・クラウン】の効果で、墓地から【Em】を特殊召喚出来る! 僕はトリック・クラウン自身を選ぶよ」

 

 不審者はまるで関心のない様子で明瑠のデュエルを見ていた。その態度に苛立ちを覚えながら、それを糧にデュエルへぶつける。

 

「トリック・クラウンを特殊召喚!

 更にデッキから三枚を墓地へ送り【光の援軍】を発動して、【ライトロード・サモナー ルミナス】を手札に加える!」

 

倉崎明瑠 LP8000→7000

 

 【Emトリック・クラウン】の効果を発動した場合、プレイヤーは1000ダメージを受け、特殊召喚されたモンスターは攻守が0になる。

 そして、【光の援軍】により墓地へ落ちたカードの中に【ライトロード・メイデン ミネルバ】があった。これで更なる展開ができる。

 

「墓地へ送られたミネルバの効果発動! このカードを特殊召喚する。

 そしてトリック・クラウンにミネルバをチューニング、シンクロ召喚! 【ライトロード・アーク ミカエル】!」

 

 セイント ミネルバの隣へ現れたのは、天使(ミカエル)の名を冠する竜騎士(ドラゴンライダー)。天使なのか騎士なのか竜なのかハッキリして欲しいところである。

 

「ミカエルの効果、1000ライフ払うことで、レヴァテインを対象に除外する!」

 

倉崎明瑠 LP7000→6000

 

 ミカエルの乗る白龍が口を開き、明瑠のライフを糧に白光を吐き出す。それを受け、橙色の武装竜は別次元へと飛ばされた。

 

「バトルフェイズ、ミカエルでダイレクトアタック!」

 

 竜騎士が羽ばたき、不審者に向けて急降下する。そのまま剣を振るい、男を斬った。

 

不審者 LP8000→5400

 

 ライフ差は大きくないが、これで厄介なモンスターは除去出来た。明瑠は心の中でガッツポーズしながら、ターンを終える。

 

「ターン終了、エンドフェイズにミカエルの効果で三枚墓地が肥えるよ」

 

 これで明瑠の墓地は十四枚。後攻1ターン目としては上々だろう。

 

 

不審者

LP5400 手札2

□□□□□

□□□□□竜

 □ □

□セア□□

□□□□□

倉崎明瑠

LP6000 手札4

ア:ライトロード・アーク ミカエル

セ:ライトロード・セイント ミネルバ

竜:竜の渓谷

 

 

 不審者のターン。彼は淡々とカードを引き、少し思考してから手を動かし出す。

 

「【竜魔導の守護者】を召喚。効果で手札一枚をコストに【簡易融合(インスタント・フュージョン)】を手札に加える」

 

 コストにされたモンスターは【巨神竜フェルグラント】。初めのターンから勘付いていたが、不審者のデッキは高レベルのドラゴンを多く扱うデッキらしい。ということは、【簡易融合】から出されるモンスターも絞られてくる。

 

「【簡易融合】を発動し、【フラワー・ウルフ】を特殊召喚。竜魔導とウルフをリリースし、【ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】を融合召喚」

 

不審者 LP5400→4400

 

 身体に花びらの付いた奇妙な狼と鎧を身に纏った竜戦士が溶け合い、獣の瞳を宿した竜へと生まれ変わる。融合魔法を使わずに融合召喚だと、だなんて驚くのはもうアニメキャラだけだろう。

 

「闇属性がリリースされたことで、【闇黒の魔王ディアボロス】が復活する」

 

 ビーストアイズの特殊召喚はリリースをコストとする。それにディアボロスが反応したのだ。

 

「【復活の福音】を発動。墓地から【巨神竜フェルグラント】を特殊召喚する。効果でミネルバを除外だ」

 

「ッ!」

 

 他の竜に続き、(いにしえ)の神竜が復活し、手始めにと聖女へ噛み付き、飲み込んだ。食らったその力の分だけ、フェルグラントのステータスが上昇する。

 

「バトルだ、ビーストアイズでミカエルへ攻撃」

 

 主の命を受け、ビーストアイズが獣によく似た咆哮を上げながら竜騎士へと突進し、乗っている白龍へと噛み付く。そのまま地面に引きずりながら振り回し、勢いによって落下した騎士を踏み潰した。

 

倉崎明瑠 LP6000→5600

 

「ビーストアイズの効果発動。【フラワー・ウルフ】の攻撃力分のダメージを与える」

 

「こっちもミカエルの効果発動! 破壊された時、墓地の【ライトロード】モンスターを好きな数デッキに戻し、その数だけライフを回復出来る!」

 

 ディアボロスの攻撃力は3000、フェルグラントは上昇して3200。ビーストアイズの効果ダメージも合わせて考えると、九枚戻してようやくライフが残る状態だ。問題は墓地にそれがあるかどうかだが──

 

 墓地にあるのは【ライトロード・アサシン ライデン】【トワイライトロード・シャーマン ルミナス】【ライトロード・サモナー ルミナス】【ライトロード・アーチャー フェリス】【ライトロード・メイデン ミネルバ】【ライトロード・マジシャン ライラ】【トワイライトロード・ファイター ライコウ】の七枚。

 

 足りない。明瑠のデッキは純【ライトロード】ではなく【Em】も混ぜた構築であり、それが足を引っ張った。

 

「ライデン、フェリス、ミネルバの三枚をデッキに戻して、ライフを900回復する」

 

「ビーストアイズの効果で1800ダメージだ」

 

 天使(ミカエル)を殺戮した獣竜がそのまま明瑠をねめつけ、大口を開けて食らいつく。ソリッドビジョン故にただ映像が彼を貫通しただけだったが、その動きには明確な殺気が宿っていた。

 

倉崎明瑠 LP5600→6500→4700

 

(おかしい・・・・・・ソリッドビジョンは、こんなに乱暴じゃないはずなのに!)

 

 KCの製作したソリッドビジョン・システムは、デュエルを盛り上げるだけでなく、子供にも楽しんでもらえることを目的としている。それが、噛み付くだの食らうだのと露骨な暴力描写をするハズがない。ドラゴンならばブレスか、せいぜいが尻尾で殴る程度だ。

 

「ディアボロス、フェルグラント。終わりにしろ」

 

 無機質な不審者の声に従い、暗黒の竜と黄金の竜が明瑠へと迫り来る。下手なB級ホラー映画よりも恐怖を煽るその光景に、しかし明瑠は折れなかった。

 

「墓地の【ネクロ・ガードナー】の効果発動! フェルグラントの攻撃を無効にする!」

 

 先ほど【ライトロード】の枚数を数えた時に見つけたカード。自ターン中は態度の悪い不審者への怒りで墓地に落ちたカードへの意識が薄くなっていたため、存在を認識していなかったのだ。窮地を助けてくれるのに、酷い扱いである。

 

 フェルグラントが光を、ディアボロスが闇を口に溜め、それぞれブレスとして吐き出す。一方は赤い鎧の戦士が身を盾に防いだが、もう一方は明瑠に直撃した。

 

倉崎明瑠 LP4700→1700

 

 これでこのターンは凌いだ。不審者の手札は0枚、勝ち目はある。そんな明瑠の内心を知ってか知らずか、淡々と不審者はターンを終えた。

 

 

不審者

LP5400 手札0

□□□□□

□闇ビ巨□竜

 □ □

□□□□□

□□□□□

倉崎明瑠

LP1700 手札4

巨:巨神竜フェルグラント

ビ:ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン

闇:闇黒の魔王ディアボロス

竜:竜の渓谷

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 引いたカードは、この状況で最適と呼べるカード。少々博打になるが、やるしかない。

 

「手札の【使神官アスカトル】は、手札一枚をコストに特殊召喚できる!」

 

 本来【熾天龍ジャッジメント】用に入れたカードだったが、それが幸いした。このカードから、デュエル前にパックで出逢ったカードが出せる。

 

「アスカトルの効果で、デッキから【赤蟻アスカトル】を特殊召喚! そしてアスカトルでアスカトルをチューニング!」

 

 赤蟻がその甲殻を光の輪へと変え、太陽を司る神官と共に調律する。

 そして、彼の運命のカードが姿を現した。

 

「シンクロ召喚、【混沌魔龍カオス・ルーラー】! ・・・・・・ぇ?」

 

 彼の前に現れたのは、黒い身体に紫青(しせい)の翼を持つ──()()()()()()()()()()()()

 

「どうして、こんなボロボロに・・・・・・」

 

 全身ボロボロだが、特に酷いのは左腕だ。まるで()()()()()()()()()()()()()()歯形が付き、鮮血がこぼれている。背面にある後光のようなリングは欠け、翼にも穴が空いていた。

 

 そして、気付く。どの傷も、全て明瑠がダメージとして受けた傷だ。噛み付き痕はビーストアイズの効果ダメージ、全身の傷はディアボロスのブレス。つまりは──

 

「僕を、守ってくれてたの?」

 

 コクリ、とカオス・ルーラーは軽く頷いた。まるで『気にするな』とでも言うように。そうすることが、当たり前であるかのように。

 

「カオス・ルーラー、君は・・・・・・」

 

 どうしてと、訊きたかった。君も僕に運命を感じてくれたのかと。

 しかし、彼らの邂逅は、何かを壊すような音に割り込まれる。

 

「茶番は余所でやれ。デュエルを続ける気がないんだったらサレンダーしな」

 

 公園にある遊具を、不審者が壊した音だった。【カタパルト・タートル】の砲台を下向きにして滑り台にしたそれは、彼が蹴った形に歪み、もう真っ直ぐ滑ることはできないだろう。

 激しく動いたためか、彼のフードが外れていた。長めの茶髪から覗くのは、不気味な金色の瞳。それを飾る眉は苛立ちのままに歪んでおり、明瑠を睨んでいた。

 

「ッ・・・・・・カオス・ルーラーの効果発動! デッキから五枚を墓地へ送り、その中の光属性か闇属性モンスターを手札に加える。残りは墓地だ」

 

 その気迫に押され、明瑠もプレイングを再開する。

 公開されたのは【ライトロード・ビースト ヴォルフ】【ライトロード・アサシン ライデン】【終焉龍カオス・エンペラー】【戒めの龍(パニシュメント・ドラグーン)】【ソーラー・エクスチェンジ】の五枚。そこから混沌龍のカードが手札へと加えられる。

 

「ヴォルフを自身の効果で特殊召喚。更に墓地の【トワイライトロード・ファイター ライコウ】と【ライトロード・マジシャン ライラ】を除外して、【終焉龍カオス・エンペラー】を特殊召喚!」

 

 今にも倒れそうなカオス・ルーラーを支えるように混沌の龍が現れ、光の獣戦士が不審者のフィールドに並ぶ三体の竜を睨む。

 

「通常召喚、【ライトロード・サモナー ルミナス】! 効果で手札一枚を墓地へ送って、墓地から【ライトロード・アサシン ライデン】を特殊召喚!」

 

 フィールドに五体のモンスターが並ぶ。しかしどのモンスターも不審者のモンスターの攻撃力を超えてはいない。

 だが、それは問題にならない。

 

「カオス・エンペラーの効果! ライフ1000支払って、エクストラモンスターゾーン以外の僕のフィールドのカードを全て墓地へ送る!」

 

倉崎明瑠 LP1700→700

 

 混沌龍が終焉をもたらす咆哮を上げ、それに応じるように光の戦士達が雄叫びを上げる。

 

「そして、墓地へ送ったカードの数だけ相手フィールドのカードを墓地へ送り、その数だけダメージを与える!」

 

 不審者の墓地にある【復活の福音】はドラゴン族を破壊からは守るものの、『墓地へ送る』効果には対応できない。

 混沌龍の加護を得たライトロード達が立ち塞がる竜達へと捨て身の突撃をし、撃破していく。

 

不審者 LP5400→4500

 

 更地になった戦場に残るのは、エクストラモンスターゾーンに立つ混沌の裁定龍のみ。

 

「バトル、カオス・ルーラーでダイレクトアタック!」

 

 ボロボロの身体に力を宿し、両手を重ねて光と闇を束ねる。そしてそれらが交わった混沌の波動を、不審者めがけて放った。

 

不審者 LP4500→1500

 

「これで・・・・・・ターンエンド」

 

 残った手札は一枚だが、不審者は手札0。場にもフィールド魔法のみと、どちらが優勢かは明白だった。

 

 

不審者

LP1500 手札0

□□□□□

□□□□□竜

 □ 混

□□□□□

□□□□□

倉崎明瑠

LP700 手札1

混:混沌魔龍カオス・ルーラー

竜:竜の渓谷

 

 

 不審者のターン。ここで逆転できなければ、カオス・ルーラーの攻撃によって敗北。もし除去できたとしても、墓地から自己蘇生する効果を持っているため、ただ破壊するだけではダメだ。

 

「俺のターン」

 

 ただ淡々と、カードを引く。まるで全てを諦めているかのように、あるいは冷徹な機械のように。

 

「手札一枚をコストに、【竜の渓谷】の効果発動。デッキからドラゴン族一体を墓地へ送る。ターンエンドだ」

 

 デッキから引き抜いたカードは、【アークブレイブ・ドラゴン】。それが意味することは──

 

(次のターンも、ドラゴンが復活する!)

 

 不審者の墓地には、【巨神竜フェルグラント】がいる。つまり、カオス・ルーラーが除外されてしまう、ということ。

 しかも、それを防ぐハズの【墓穴の指名者】は、全て墓地へ送られていた。

 

「どうした? お前のターンだ」

 

 震える指を、デッキトップへかける。カオス・ルーラーを除去されれば、相手フィールドに残るのは攻撃力が3600まで上昇した【巨神竜フェルグラント】だ。それを乗り越え、彼のライフを削り取る手段は──明瑠のデッキにはない。

 

「僕の、ターン」

 

 カードを引く。【灰流うらら】。優秀な手札誘発カードだが、この状況では意味がない。

 残る手札を見る。【黄昏の双龍(トワイライト・ツイン・ドラグーン)】。これ単体ではどうにもできない。

 

「もういいか? 来いフェルグラント」

 

 金色の竜が輝きと共に現れ、混沌の裁定竜へと食らいつく。元々傷の深かったカオス・ルーラーは、その一撃で完全に沈んだ。

 

「・・・・・・モンスターをセット。これでターンエンド」

 

 勝負はもうついたも同然だった。【巨神竜フェルグラント】には、戦闘でモンスターを破壊した際に墓地のドラゴン族を蘇生する効果がある。

 けれど、降参(サレンダー)はしない。それは、デュエリストの誇りを捨てる行為だから。

 

「俺のターン。バトル。フェルグラント、邪魔な壁を粉砕しろ」

 

 金竜が裏側のカードへ飛びかかり、いたいけな幼女を捕食する。その様子に、映像とわかっていながらも明瑠は嫌悪感を隠しきれない。

 対象を食らったその力を使い、巨竜は仲間を復活させる。【闇黒の魔王ディアボロス】だ。

 

「トドメだ、ディアボロス」

 

 その命令のまま、魔王竜は咆哮し、明瑠へ食らいついた。

 

 ただの映像、ただの演出。その筈の攻撃は、確かに明瑠の中にあった致命的なナニカを食らった。

 

「・・・・・・ぁ」

 

 突然、目蓋が重くなる。どうしようもないほどの眠気に、耐えられなくなる。

 

 意識を失っていく明瑠が最後に見たのは、傷だらけの身体で戦う、混沌を統べる裁定竜の姿だった。

 

 

 

「・・・・・・あれ、僕寝てた?」

 

 ふと目を覚ますと、そこは十二時の鐘が鳴る公園だった。明瑠はここ二時間ほどの記憶がないことに違和感を覚えながらも、まあ眠ってしまっていたのだろうと納得する。

 

「あ、そういえば、カード・・・・・・」

 

 眠る前、確かパックを開けていたはずだ。手に持っていたビニール袋の中身を確認すると、盗難に合うことなくキチンとカードが入っていた。ゴミは別の袋に入れてある。

 

「確か、最後のパックで──」

 

 いいカードが出たハズ。そこまで思い出して、ふと違和感を覚えた。それがどんなカードだったのか、思い出せないのだ。頭の中に霞がかかったように、その部分だけハッキリしない。

 確認しようとカードを取り出し、一枚一枚確かめながら見ていく。そして、一番最後にあったのは

 

 【三戦の才】

 

「? 何か、違うカードだった気がするけど・・・・・・」

 

 こんなところで寝てしまったくらいだし、疲れているのだろうか。そう首を傾げると、ぐぅと腹が鳴った。

 

「・・・・・・お昼食べよ」

 

 疑問よりも食欲が勝ったのか、そう呟いて明瑠は席を立った。

 

 

 

 すぅすぅと寝息を立てながら、一人の少女が眠っていた。時折うなされるように眉を顰めて身じろぎ、また深い眠りに落ちる。その姿は、まるで王子の助けを待つ眠り姫のようで、どこか神秘的ですらあった。

 

「戻ったぞ、美遊」

 

 ガチャリ、と扉が開き、茶髪に金目の青年が部屋へ入ってくる。彼はそのまま少女の眠るベットまで近づき、隣に置いてある椅子へ腰掛けた。

 

 そして懐から【混沌魔龍カオス・ルーラー】のカードを取り出し、少女の額へと乗せる。

 

 すると、カオス・ルーラーのカードからテキストやイラストが少女に吸収されていき、十秒しない頃にはただの枠だけのカードへと変貌していた。

 

「・・・・・・ん、んぅ・・・・・・」

 

 少女は少し苦しそうに悶え、しかしすぐに落ち着いたのかまたすぅすぅと寝息を立て始めた。どことなく顔色が良くなったようにも見える。

 彼はその様子に青年は安心したように力を抜き、白紙となったカードを興味なさげに放り投げた。

 

『上手くいったか、竜騎』

 

 ふわり、と半透明の橙竜が扉の前に姿を現した。【ドラグニティアームズ-レヴァテイン】だ。彼は慈しむような目を少女へ向ける青年を見て、一仕事終えた達成感を感じる。

 

『・・・・・・今日のデュエルでは、済まなかったな。すぐに除外されてしまって、あまり役に立てなかった』

 

「気にするな。それはお前がどうにかできる問題じゃない」

 

 申し訳なさそうに告げるレヴァテインに、青年はただ淡々と返す。言葉自体は穏やかなものだったが、青年にとってはただ事実を述べているだけだ。

 デュエルでの活躍について、精霊が謝る必要性はない。戦うのはあくまでデュエリスト、精霊のカードを上手く扱えるかどうかは、使用者の力量次第だ。

 

 それに、と青年は続ける。

 

「お前がデュエルで活躍しようが邪魔になろうが、()()()()()()。お前はただ、俺の剣であればいい」

 

『・・・・・・そうだな』

 

 武装竜はそれだけ返して、姿を消した。新たな精霊を探しに行ったのだろう。

 

「美遊。お前は必ず、俺が元に戻す。だから、もう少し待っていてくれ」

 

 それは彼の決意表明であり、自らを定義するための宣誓であり、彼自身を縛り付ける呪いであった。




主人公「人は俺を、精霊ハンターと呼ぶ!」

レヴァテイン「僕は君の剣!」

ヒロイン「すやすや」

簡単にすると、こういう内容ですね(大嘘)。
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