遊戯王小説 竜結の子守り詩 作:柏田 雪貴
「おはよ、倉崎君。どしたの、ボーっとして?」
「・・・・・・ああ、おはよう二階堂さん」
「何か、昨日の記憶がちょっと曖昧でさ。ぼんやりしちゃって」
自嘲気味に苦笑しながら明瑠が言うと、郁美はふーん、とだけ返し、何か思い当たる節があったのかポンと手を叩く。
「それって、『精霊狩り』の仕業じゃない? ほら、最近ウワサになってるアレ!」
『精霊狩り』。その名前は明瑠も聞いたことがある。なんでも、『精霊』のカードを持っているとそれを狙ってデュエルを仕掛けてくるのだとか。そして、襲われた者はデュエルの内容どころか精霊のことまで忘れてしまうという。
「まさか。僕は精霊のカードなんて持ってないし、そもそも精霊だって迷信でしょ?」
精霊も精霊狩りも、どちらも噂程度の存在だ。そう軽く笑う明瑠だが、ふと何か引っかかるものがあった。
(・・・・・・なんだっけ?)
視線を郁美から外し、考える。どこかで、僕は精霊に会った気がする。そんな気がしてならない。
「・・・・・・・・・・・・」
そうして考え事に浸る明瑠を、郁美は興味深そうに眺めた。彼は気付いていなかったが、それはまるで同郷の友を懐かしむような、それでいて新たな実験対象を見つけた科学者のような瞳だった。
「あ、もう先生来るよ」
「え、ああ、うん」
しかし、そんな目をしたのも一瞬。彼女はいつも通りの明るい少女へ戻ると、明瑠へ声をかけてから自らの席へついた。
その店に、一人の男性が入ってきた。茶色混じりの黒髪をツーブロックに整え、ピッチリとしたスーツを着込んでいる彼の入店に、マスターは嬉しそうに顔をほころばせる。
「これはこれは、桜井様。お久しぶりですね」
「ああ、出張が終わった帰りなんだよ」
桜井、と呼ばれた男はそう微笑んでカウンターに座る。荷物を椅子の下へ置くと、マスターがグラスを拭きながらオーダーを訊く。
「本日はどうしますか?」
「ミルクでももらおうか、なんてね。『スモークハイボール』を一つお願い」
注文したのは【
「出張、と言っていましたが、どちらへ行かれていたのです?」
「ちょっと
男性客、
しかし、今はただの酒飲み客。疲れ切った心身をこうして休めているだけの、ただの三十過ぎたオッサンだ。
しばらくそうしてマスターに愚痴を零したり、少し機密を漏らしてしまって焦ったり、マスターが口は固いと言うので安心したり。
真之介の来店から、三十分ほど経った頃だろうか。店の扉が開かれ、珍しく二人目の客がバーを訪れる。
「いらっしゃいませ──」
マスターの声と共に入り口へ振り返った真之介が見たのは、黒いコートを着た不審人物の姿だった。その顔はフードと髪に隠れてよく見えない。だが雰囲気からしてまだ若者だろう、と真之介は看破する。職業柄、顔を見なくても大体の年齢はわかる。
まあ、四十過ぎたオッサンがコートをはためかせてダイナミック来店とか、痛すぎるので想像したくないという理由が一割あるが。
「レヴァテイン、やれ」
マスターの言葉を完全に無視し、不審人物が一言呟く。どういうつもりかと疑問を感じたのも束の間、その声に反応するように彼から夜の闇とはまた違った黒が店を塗り潰していく。咄嗟に身構えた真之介だが、対応したところでどうにかなるものでもない。バーの景色は
「ここは・・・・・・」
「お前には俺とアンティデュエルしてもらう。俺が勝てばお前のカードを貰う。お前が勝てば、この空間から逃がしてやるよ」
周囲を見回す真之介に、不審人物が傲岸不遜に言う。彼としてはこの発言を無視することは出来るが、確認した所デュエルディスクに何かしらの操作が加えられており、デュエル以外の機能が使えなくなっている。警察用の緊急電話も同じだ。
「・・・・・・デュエルに応じない、と言えば?」
「お前は一生このままだ。わかったらさっさと構えろ」
どうやら、相手は話し合いが通じないらしい。右腕に装着したディスクはすでに展開され、臨戦体勢が整っている。
「確認したいことがある」
「好きにしろ」
許可を得た真之介は、不審人物の背後にある扉から店を出る。しかし、バーを出た先にあったのはまたバーの内装。白と黒しかないその空間で、不審人物がカウンターに座り足を組んでいるだけだ。退屈そうに頬杖を突き、ただ宙空を見つめている。
「気は済んだか?」
彼は視線を真之介へ向け、どこか機械的な声で言う。問いかけ、というには相応しくない声音。それは、ただの確認だった。
「やるしか、ないのか」
状況は理解できていないし、この空間の仕組みもロジックもわからない。だが、デュエルを拒否すれば目の前の不審人物は宣言通り自分を放置するだろう。こんな怪しい空間で一生を過ごすなど、願い下げだった。
だが、そのままデュエルを受けるだけ、というのもセキュリティとしてあり得なかった。
ディスクを操作し、『デュエルアンカー』──勝敗を問わず、デュエルした相手を拘束するセキュリティのアイテムを不審人物のディスクへと投げつける。以前は敗者のみを拘束するものだったが、『でも、それっておかしくないかな?』という声が多数上がり、改良されたものだ。
「何だコレ。・・・・・・まあいいか」
不審人物はその存在を知らないようだが、どうやらデュエルに応じれば何でもいらしい。随分寛容な不審者だ。
「いくぞ──「デュエル!」」
先攻は真之介だ。彼は手札を確認し、そのうち二枚を手に取る。
「永続魔法【グレイドル・インパクト】フィールド魔法【KYOUTOUウォーターフロント】を発動。モンスターを伏せて、ターン終了。
エンドフェイズ、【グレイドル・インパクト】の効果でデッキから【グレイドル・イーグル】を手札に加える」
大量展開はせず、モンスターは一体のみ。静かな立ち上がりだ。
桜井真之介
LP8000 手札3
□イ□□□
■□□□□K
□ □
□□□□□
□□□□□
不審人物
LP8000 手札5
■:伏せモンスター
K:KYOUTOUウォーターフロント
イ:グレイドル・インパクト
「俺のターン、【増援】を発動。デッキから戦士族を手札に加える」
サーチしたのは【
フィールドからカードが墓地へ送られたことにより、【KYOUTOUウォーターフロント】に壊獣カウンターが乗る。
「【巨竜の聖騎士】を召喚。効果でデッキからドラゴン族を装備する。【竜の霊廟】を発動、デッキからドラゴン族を墓地に送る」
聖騎士に【アークブレイブ・ドラゴン】の輝きが宿り、【巨神竜フェルグラント】が墓地へ送られる。それらは全て真之介のデュエルディスクに表示されるが、マナーがなっていないのは事実だ。今度決闘課でデュエルマナー講習を提案しよう、と考えてしまう真之介。彼はかなりワーカホリックなようだ。
「バトル、パラディンでモンスターを攻撃」
聖騎士が剣で裏側のカードを切り裂くと、【グレイドル・アリゲーター】が両断され液体の身体を飛び散らせる。
その銀色の液体は聖騎士へ取り付こうと触手のように一部を伸ばしたが、聖騎士の宿す光の輝きに遮られ敢えなく墓地へと移動した。
「【グレイドル・アリゲーター】の効果は使えない、か・・・・・・」
レベル3【グレイドル】は戦闘で破壊されると相手モンスター一体のコントロールを得る効果がある。しかし【巨竜の聖騎士】には装備カードを装備していれば他のモンスターの効果を受けない効果があるため、それが効かないのだ。
恐らく【グレイドル・インパクト】を使ったことから伏せモンスターが【グレイドル】であると考え、パラディンを召喚しそれ以上の展開をせずに攻撃してきたのだろう。淡々とした口調に的確なプレイング、正にデュエルマシーンだと真之介は冷や汗を流す。
「カードを一枚伏せる。ターンエンド」
桜井真之介
LP8000 手札3
□イ□□□
□□□□□K
□ □
□□□聖□
□□ア□■
不審人物
LP8000 手札3
聖:巨竜の聖騎士
K:KYOUTOUウォーターフロント
イ:グレイドル・インパクト
ア:アークブレイブ・ドラゴン(装備カード)
■:伏せカード
真之介はフィールドを確認しながらカードを引き、少し思考を巡らせる。モンスター効果を受け付けないモンスター、その存在はコントロール奪取デッキにとって致命的だ。無論、対策もしている。
「ウォーターフロントの効果、カウンターが三つ以上乗っている時、デッキから【壊獣】モンスター、【壊星壊獣ジズキエル】を手札に加える」
【増援】【竜の霊廟】【グレイドル・アリゲーター】。三枚のカードが墓地へ送られているため、カウンターは三つ。よってこの効果が使える。
「そして、相手フィールドのモンスター一体をリリースすることで、ジズキエルは特殊召喚できる!」
騎士を踏みつぶし、天井を突き抜けながら星をも壊す怪獣が不審人物の戦場へと現れる。それにより【KYOUTOUウォーターフロント】にカウンターが満たされ、ジズキエルが咆哮を上げる。
「【グレイドル・イーグル】を召喚。バトルフェイズ、ジズキエルに攻撃!」
液体の荒鷲が現れ、巨大な怪獣に向かって飛翔する。当然弾き返され、その身体が床へぶちまけられる。
桜井真之介 LP8000→6200
そして、その液体が怪獣へと取り付き、身体を縛り付ける。
「イーグルの効果、戦闘かモンスターの効果で破壊された時、相手モンスター一体のコントロールを得る!」
ジズキエルには、カード一枚を対象とする効果を無効にする効果がある。だが──
「ジズキエルの効果はダメージステップには使えない。コントロールは貰うよ」
水の縄に捕らえられ、壊星の怪獣が真之介の陣営へと寝返る。まあ元から彼のカードだが。
「これで君のフィールドはガラ空きだ。ジズキエルでダイレクトアタック!」
不審人物 LP8000→4700
銀の水に身体を操られ、怪獣が口から光線を吐き出す。映像であるはずのそれを不審人物は回避し、壁にぶつかった熱線がバーを破壊する。
(あれは・・・・・・?)
崩れた壁は瓦礫とはならず、壊れた部分に黒い
このことから、真之介は断片的にだがこの空間のことを理解し始めていた。
(この場所は、バー『青山』じゃなくて、それを再現した別の場所なのか?)
扉から出られなかったのは、外には何もないから、もしくは
「おい。やることがないならさっさとターンを終えろ」
「あ、ああ、すまない。カードを一枚伏せ、エンドフェイズに【グレイドル・インパクト】の効果で【グレイドル・アリゲーター】を手札に加える。これでターン終了だ」
思考に時間を割いていた真之介に不審人物が苛立った声をぶつける。その剣幕に思わず謝りながらターンを終えた。
桜井真之介
LP6200 手札2
□イグ□■
□□□壊□K
□ □
□□□□□
□□□□■
不審人物
LP4700 手札3
壊:壊星壊獣ジズキエル
K:KYOUTOUウォーターフロント
グ:グレイドル・イーグル(装備カード)
イ:グレイドル・インパクト
■:伏せカード
手番が移る。黒コートの男はカードを引き、それを確認するよりも早く宣言した。
「墓地のアークブレイブの効果。フェルグラントを特殊召喚」
これは『墓地のカードを対象に取る』効果。つまり、ジズキエルの効果範囲内だ。ちらり、と真之介は伏せられたカードに目を向け、壊星の力を借りることにした。
「ジズキエルの効果、ウォーターフロントの壊獣カウンターを三つ取り除き、その効果を無効にする。そして、その伏せカードを破壊!」
自身にまとわりつく水にへの怒りからかジズキエルが暴れ、その尻尾が床を壊しながらアークブレイブの輝きと伏せカードを叩き割る。その暴れっぷりに真之介も不審人物も少し距離を取って安全を確保した。
「うわっ、とと」
地震でも起きたかのような揺れに真之介が声を漏らす。そして、ソリッドビジョンであるはずのジズキエルがそれを起こしたことに気づき、ハッと目を向ける。
「まさか、君はこのカードを狙って!?」
原理はわからないし、こんな風に暴れるジズキエルは初めて、というかこのカードは出張先で入手したカードのため、デュエルディスクを用いた戦いで使うのも初めてだ。けれど、この異常性はわかる。
その上で、狙うならばこのカードではないかと考えたのだ。アンティデュエルを仕掛けてきたタイミングも、このカードを手に入れてからと考えれば辻褄が合う。
「だとしたら何だ」
プレイングを止められたことからか、少々怒りの混じった声音の不審人物。それを肯定と捉え、真之介は思考を続ける。
(なら、彼が噂の『精霊狩り』か?)
今のジズキエルの状況は、決闘課に寄せられる『精霊』の情報と酷似している。実際に会ったことはなかったが、恐らくコレが精霊のカードなのだろう。
「こんな危険なカードを渡す訳にはいかない・・・・・・」
所持している自分も安全とは言えないだろう。今すぐにでもセキュリティの本部に向かうべき案件だ。
「ゴチャゴチャと。【復活の福音】を発動、フェルグラントを復活させる」
「くっ、もう一度ジズキエルの効果を使う!」
先ほど破壊した伏せカード【トレード・イン】が墓地へ送られたことで、ウォーターフロントのカウンターは三つある。ならばここで止めるべきだろう。
「【トレード・イン】を発動、手札のレベル8を捨てて二枚ドロー」
コストにされたのは、このターンに引いた【闇黒の魔王ディアボロス】。恐らく最初のターンに【トレード・イン】を二枚握っており、一枚をブラフとして使ったのだろう。
「【
不審人物 LP4700→3700
1000とラベルが貼られたカップ麺にお湯が注がれ、そこから幾つもの瞳を持った異形の怪物が姿を現す。集合体恐怖症の真之介は口元を抑えながら顔を逸らした。
「サクリファイスの効果でジズキエルを装備する。
通常召喚、【
千眼の怪物がジズキエルを絡め取り、銀の水から引き剥がすとそのまま体内に取り込んだ。
その横に並ぶ、フェルグラントに仕える守護騎士。アークブレイブの輝きを戦斧に宿し、勇ましく担ぐ。
「ガーディアンの効果、自身とサクリファイスをリリースしフェルグラントを特殊召喚。闇属性がリリースされたことで、ディアボロスが復活する」
守護騎士が異形の首を刈り取り、自身ごと供物として巨神竜を復活させる。討ち取られた
「フェルグラントの効果、ジズキエルを除外し、そのレベル分ステータスを上げる」
これにより、攻撃力は3800。二体の攻撃力を合わせれば、真之介のライフを奪うには十分だ。
「バトル。ディアボロスでダイレクトアタック」
真之介は伏せカードを使うかどうか逡巡し、使うことを選んだ。
「【グレイドル・パラサイト】を発動! 相手モンスターの直接攻撃宣言時、デッキから【グレイドル】を攻撃表示で特殊召喚出来る! 来てくれ、【グレイドル・イーグル】!」
魔王竜が咆哮し、その豪腕を真之介へ振るうが、銀水の鷲がどこからか現れ、自らを盾として主人を守る。
そのまま殴られスライム状の液体となり、不審人物のフィールドへと侵入した。
「イーグルの効果、フェルグラントのコントロールを得る」
銀スライムが黄金の竜を捕らえ、縄状にした身体を幾重にも重ねて自由を奪い、真之介のフィールドまで強引に引っ張る。フェルグラントが拒絶するように暴れ、またバーが破壊された。
「カードを伏せる。ターンエンド」
桜井真之介
LP4700 手札2
グイ□□パ
□□巨□□K
□ □
□□闇□□
□□□□■
不審人物
LP3700 手札0
巨:巨神竜フェルグラント
闇:闇黒の魔王ディアボロス
K:KYOUTOUウォーターフロント
パ:グレイドル・パラサイト
イ:グレイドル・インパクト
グ:グレイドル・イーグル
「俺のターン、ドロー!」
これで手札は三枚。不審人物が
しかし問題はディアボロスだ。対象に取れず、リリースもできない。正に真之介のデッキの天敵と言える。
「スタンバイ、【リビングデットの呼び声】を発動だ。来い【アークブレイブ・ドラゴン】」
主の命を受け、白金の竜が舞い上がる。しまった、と真之介は顔を驚愕と焦りに染める。
「アークブレイブの効果、相手フィールドのオモテの魔法・罠を全て除外する」
白金の竜が羽ばたき、その翼が起こした旋風によって真之介のフィールドのカードが飛ばされていく。装備された【グレイドル】が場を離れたことで、フェルグラントも破壊された。
彼のデッキは、勝利よりも継戦能力を意識したものになっている。というのも、相手が凶悪デュエル犯罪者であってもデュエルによってその場に拘束し、応援を待つなどの手段を取れるからだ。そのため、リソースを回復し続けるデッキ構築になっている。
そのリソースの源が、全て砕かれた。カウンターを取り除くことで破壊を免れる【KYOUTOUウォーターフロント】も、除外には対処できない。
「だが、まだだ!」
しかし、それが
「【妨げられた壊獣の眠り】を発動! フィールドのモンスターを全て破壊する!」
地面が割れ、その亀裂が竜達を飲み込む。しかし彼らは飛行タイプのモンスター、【復活の福音】をデコイとし地面から舞い戻る。モンスターが破壊できなかったことで、地下の壊獣達も特殊召喚されず歯がみしている。
「【グレイドル・スライム
スライムJr.はチューナーモンスター。効果使用後は水属性しか特殊召喚できなくなるが、【グレイドル】にはレベル8のシンクロモンスターがいる。
「スライムJr.でイーグル、アリゲーターをチューニング! シンクロ召喚、【
水しぶきと共に現れたのは、白い身体を持つ巨大な鯨。またバーの内装が破壊されたが、もう壊れすぎて黒い靄だらけの状態だ、今更どうでもいい。
「ホエールの効果、シンクロ召喚成功時、相手モンスター全てを破壊する!」
白鯨が嘶くと、どこからか大波が現れ竜達を飲み込み連れ去っていく。流石の飛行タイプモンスターも、津波には負けるらしい。
「バトルフェイズ、ホエールでダイレクトアタック!」
再び白鯨が津波を起こし、打ち付けられた水によって不審人物へダメージが入る。しかし攻撃は映像のようで、濡れることはない。
この辺りの境界がよくわからないが、判断材料を探す余裕はない。
「これでターン終了」
手札を使い果たし、ほぼ全てを出し切った状態で真之介はターンを終える。
桜井真之介
LP4700 手札0
□□□□□
□□鯨□□
□ □
□□□□□
□□□□□
不審人物
LP900 手札0
鯨:白闘気白鯨
「俺のターン」
ライフは三桁になり、手札もフィールドも何もない。しかしその状況に感情を動かすことはなく、ただ淡々とカードを引く。
「アークブレイブの効果。来いフェルグラント」
再び現れる金色の竜。操られたことが癪だったのか、怒りをぶつけるように白鯨へブレスを撃つ。
「通常召喚、【竜魔導の守護者】」
槍を携えた青い竜戦士がフェルグラントの隣に並び、構えを取る。二体の攻撃力は、真之介のライフを上回っていた。
「バトル。終わりにしろ」
竜魔導が槍で真之介を貫き、フェルグラントがその身体へ食らいつく。その生々しい映像に真之介は痛みを幻覚し、意識を失った。
デュエルが終わり、モノクロの空間が溶けていく。そうして戻ってきたのはバーの入り口だった。
「さ、桜井さん! どうなさったのです!?」
店内では彼の
『終わったか、竜騎』
バーを後にし、隣に現れた武装竜へ首肯する。そして視線だけでそちらを見ると、足を止めた。
「それで、次の精霊は見つかったか?」
『いや、まだだ。デュエルが終わったようだったから、心配して見に来──』
「必要ない」
レヴァテインの言葉を遮り、斬り捨てる。そしてジズキエルのカードを懐へしまうと、そのままパルクールのように家の屋根へ跳び乗って移動し出した。なるべく他人の視線に入らないようにするため、普段彼は屋根の上や暗い路地などを歩いているのだ。
早く、彼女の元へ帰らねば。もし彼女が目覚めたときに誰もいなかったら不安がるだろう。夜道を駆ける彼の頭には、彼女のことしかなかった。
グレイドル・コブラ「オレは?」
グレイドル・ドラゴン「オレは?」
警察官「犯人、取り逃がしました!」
簡単にすると、こんな内容(大嘘)。