「聞きました?デスワルズブラザーズ、ジェノックに奇襲仕掛けてロストしたそうですよ」
黒髪のツインテールを揺らしながらミオが坂を下る。その後ろにはいつもの3人がいる。
今日のウォータイムで仲直りした男子二人を加えロシウス第15小隊は長い坂道を下っていた。
「ミオ、なんであんなに上機嫌なんだ?」
マシロがシオンに近づきながら言うとシオンは呆れたと言わんばかりにこちらを見る
「転入したての時にデスワルズブラザーズに目をつけられたの。」
「え!?」
「知らへんかった」
「違う、ミーちゃんが男子には知られたくないって言うから私とバネッサで片付けたの」
男子二人の反応に対して汚物を見るような目でシオンは語る。確かに人見知りが激しいミオはいじめっ子のターゲットにされそうなイメージが強かったが。まさか、されていたとは。
「ちなみにバネッサとどんな感じに片付けたん?」
「ん?そりゃ、LBXバトルでボコッボコに」
ニコリとヤヨイの問いにシオンが答えた。彼女の後ろにある黒い何かにはあえて触れないでいよう。と、いうか……
「(バネッサとシオンなら容赦なくやりそうで怖い……)」
「(なんで、女子ってこうも怖いんやろ…)」
女子による恐怖の話を聞き戦々恐々の男子二人、そんな空気を読んでなのかシオンが新たな話題を振った。
「最近さー、ハーネスも勢力つけてきたよね」
「そういえば…ちょっと前に転入生が来たとかでそこから大躍進だっけか?」
「そんな話ありましたね、天才メカニックの古城タケルに大躍進の要の藤咲ミツル、それらをまとめ上げる謎の司令官。」
仮想国 ハーネス。ロシウスとは直接的には関与したことがあまりない仮想国の一つ。小国の一つとして数えられこれと言って重要な拠点も存在せずポルトンに次ぐ勢いで相手にされていない仮想国だった。のだが、ここ最近ジェノックの大躍進の影で隣国をジリジリと攻めている。何れはロシウスの領地にも攻めるのではないか、と危惧されている。
そしてそのハーネスを支えるのが天才メカニックの古城タケルと最近転入してきた藤咲ミツルと言うプレイヤーだ。
「あ、そうだ。わたし、明日のウォータイムの時間検診だからいないよ」
唐突なシオンの言葉に3人は一斉に振り返った。その動きの速さにビクと肩を揺らすシオン。
「そーいう大事なことは早めに言いましょう!」
「ホウ・レン・ソウ!!これ大事や!!」
「シオン、お前この前も同じことやってたぞ」
「ご、ごめんって、わたしも今の今まで忘れてたの……」
必死な顔の3人を見てシオンは謝ると3人は「はぁ……」とため息を吐き「次からは気をつけるように」と小言を言われた。それを聞いてシオンは内心、嬉しかった。心配してくれる人がいるということに対して。いい仲間ができたなぁ…と前を歩く3人を見て心の中で呟いた。
ー
翌日、前日のシオンの言うとおり授業が終わり生徒たちがウォータイムの準備をする中荷物を纏めたシオンは友人たちに挨拶をしながら校門を抜けた。
長い坂道を下り、商店街の端っこに立つ島一つの診療所の前についた。引き戸を引き中に入ると豆電球がチカチカと光る廊下を進む。診察券をスタッフに出すと診察室にすぐに通された。
診察室には、一人の女性がいた。名を佐伯と言いこの島にずっといる医師だ。佐伯はシオンの姿を見ると椅子に座るように勧め、シオンは椅子に座った。
「蔵前さん、足の調子はどう?」
「最近は痛みもないから大丈夫です」
「そう。私はね、蔵前さん。危惧してるわ、貴方は周りと違って体調を崩しやすいし精神面でも周りいい状態とは言えないわ。それによく言うでしょう?古傷から体調不良を起こす場合もある。毎回言うけれども今のこの島の環境にいると貴方は倒れてしまうわ。」
確かに天気が急変する場合には古傷から体調不良を起こす場合はある。シオンはある時期を境に体調を崩しやすくなり加えて精神も未熟である。少し衝撃を加えれば崩れる崖のように。そんな彼女を医者である佐伯は危惧していた。この島でこそ起こる症状。彼女はそれに該当する人物だからこそ、何よりも1年前から見ていたからわかる。彼女は早期に島を出たほうがいい。
医者ならば患者の事を考えそう言ったほうがいい。例え、それで目の前の患者に恨まれようが、しかし彼女はそれに首を縦に振らなかった。
「私には、やることがありますから。あの人には借りがありますし、何よりもやっと自由な生活ができるこの島が私にとっての平和で友人たちと一緒に生活することができて幸せ者なんですよ。」
彼女の身の上は学園長から聞いていた。4年前の事故で満足に足を動かすことができず、それによって周りの人間から同情の目線を向けられたこと、本来なら事故の原因である存在を嫌悪し、見ることすらも嫌になるはずなのに彼女はそれと向き合い今も楽しそうに笑い学校生活を送っている。
「医者からしたら早くにこの島を出ないと行けないんですよね、私。」
「え、ええ。そうね。教えてくれないかしら、貴方の言うやるべきこととは」
考え事にふけっていた自分をシオンが連れ戻し、問い掛けた。それに対して自分も彼女に対して疑問を投げかけた。回答次第では彼女を強制的に本土へと返そう、としかし、できなかった。
「この学園の存在意義、根幹に関わるプログラム。それらを調査し本土にいるあの人たちに送ること、それが私の目的です。私はシーカーの人間です」
あまりにも真っ直ぐで迷いのない瞳、まるで昔のあの子達みたい。夢を見てテレビに夢中でそして現実を知り絶望し、島を後にしたあの子達。
今はこの子と一緒にいるのね。