「私はシーカーの人間です。」
確かに彼女はそう言った。
先程病院を後にした患者の言葉に佐伯はため息をついた。
「この島には、使命がある子ばかり来るのかしらね」
マグカップ片手に佐伯はそう言った。入っているブラックのコーヒーはなんだかいつもよりも苦く感じてしまう。自分が知っているだけでこの島には2人も指名を持った子供が学園にいる、それを考えるだけでなんだかやるせない気持ちになる。何よりも、彼女の言葉だ。
「この学園の存在意義、根幹に関わるプログラム。それらを調査し本土にいるあの人たちに送ること、それが私の目的です。私はシーカーの人間です」
彼女の言う根幹に関わるプログラム、それは多分……あの人のことね、背負うものが多いのは大人か…。それとも…
「あの子が知ったらどう思うのかしらね。参っちゃうわ、………大人ってホントウにズルいわよね」
グレーで塗られた天井を見上げ、佐伯は呟いた。
ー
シオンは佐伯医院を出た。
CCMが表示する時間を確認する。3時40分。まだウォータイムは終わってないない。何となくいつもは行かない古本屋に足を運んだ。
古本屋に入るとツンと埃臭い匂いが広がり顔をしかめるが慣れてくるとその匂いもどこか懐かしく感じてきた。とりあえず、勉強系の本でも探そうとエリアを移り、数学の参考書を取り出す。
気づけば、時間は過ぎており。慌ててCCMを取り出し時間を見れば5時を回っていた。時間を確認し帰ろうと参考書を仕舞ってふと気づいた。最近始めたパズルゲーの通知の上にトークアプリの通知が来ていた。
トークアプリを開き、誰から来たのか確認するとマシロとある。自機のグリーンカラーのガウンタと背景に海の景色のプロフィール画面を押す。
『合わせたい人がいる、島の外れにあるビリヤード場まで来い』
それだけだった。何が目的なのかわからないがとりあえずOKのスタンプを押して返信をした。
なんとなしにイヤホンをつけて音楽を再生する。吹奏楽特有の華やかやな音が再生された。なんだが、モヤモヤする。良くないことが起こる前兆のような、進む足が重く感じ歩くのが嫌になるが頑張って歩いた。
目的地のビリヤード場は島の外れにあり、生徒の多くは訪れることがない場所、故に
「他の人に見られたくない要件、かな」
扉を開けると薄暗い店内、その中心に3人の人間がいた。
「美都先生、マシロ……それに貴方は…」
店内にいた人間はジェノック司令官の美都玲奈、同級のマシロ、美都の隣にいる人物に目を見開く。
「やぁ、久しぶりだな」
ー
「今日の任務は楽勝やったな」
「そうですね、ただシーちゃんいないと静かなんですよね。」
「明日のウォータイムにはちゃんといるぞ」
「お、さすがシオンちゃんの相棒さん」
「おい、茶化す……なって」
学園から商店街に続く長い長い下り坂、ウォータイムが終わり下校時刻となり生徒たちはその坂を下っていた。マシロたちも例外ではなく下校途中だった。ヤヨイのからかいに返そうと途中まで開いていた口は目の前にいる人物を目にし止まった。
「アンタは……」
「ウソ…!?」
「本物かいな…」
目の前にいるのは黒と白のツートンカラーが特徴の青年、おおよそこの島にいるべき人間ではない。かつて世界を救った英雄の一人、そして幾度もなく自分の親友のお見舞いに訪れた同じ組織に所属しているはずの人間がそこにはいた。
「剣崎 マシロ、ついてきてほしい」
彼はそれだけ言った。ミオとヤヨイにはこの事は他言無用、と釘を打ちそこで別れた。二人は首を縦に振り「帰るときには連絡しろ」と返された。
そうして彼について来た場所はビリヤード場だった。中に入ると教師の美都、ただ一人だった。
「マシロ、シオンに連絡をしてくれ。ここに来てほしい、と」
彼はついて早々自分にそう言った。何が目的なのか、なぜここにいるのか、聞きたいことは山程あるが恐らくそのどれも今この状況で聞いても彼は答えないだろう。
シオンを何故呼ぶのか、それも恐らく答えないだろう。だが、親友にまた何かあれば自分は彼に対し反抗する、
絶対にあの子を悲しませたくない、
その思いを胸に隠し、自分は彼女に連絡をした。
そして、目の前で数刻前の己と同じ顔の彼女を見て、心の中で謝罪した。
「(あぁ、でも結局悲しませちったな……ごめんな)」
ー
「海道……ジン。なぜ貴方がここに」
海道ジン、山野バンら世界を救った英雄の仲間であり山野バンと大の親友として有名な男、そして半年ほど前から突然連絡が取れなくなった男
「僕は今、この学園で教師をしているんだ。ハーネスの司令官として」
「それを言って…どうなるんですかっ…」
「シオン……?」
「あなたは半年も連絡を寄越さず周りに迷惑をかけあげく、こんな島にいるなんて!信じられない!!あなたは周りから信頼を、自分から棄てたんですよ。何があったか知らないけどあなたに力を貸すほど私は優しくないしお人好しでもない!!!」
一息で言い切り、息を上げるシオン。息を整えて彼女はキッとジンを睨みこう告げた。
「貴方がどんな目的でこの島に来たのかこの際もうどうでもいい。でも、あなたの目的に手を貸すほど私はお人好しでもないし、甘くもない。でも、まぁ……あなた的にはこの島に海道ジンがいる、って知られたくないだろうしそれだけは言いませんよ」
「私にもやることがあるので、失礼します。今後、一切私達に関わらないでください」
有無を言わせない彼女の姿に思わず息を呑んでしまった。まるであの頃の包帯だらけで生きる気力を失ってしまった彼女のように、
「行くよ、マシロ」
「お、おう」
カツカツと音を立ててビリヤード場を後にするシオンの後をマシロが追いかける。ビリヤード場をあとにする直前マシロが二人に向かって礼をしたが、それされも目に入らなかった。
ボブ、と音を立てベットに沈むシオンに機体のメンテナンスをしていたミオが「おかえりなさい」と柔らかな笑顔を浮かべそう言った。
「ただいま」
「何か、ありました?」
目線はすでに機体へと戻っているがミオは器用にシオンへと語りかける。
「知人に会って、私が勝手に怒っただけ……何か用があったみたいだけど…ちゃんと話聞いとけばよかったなぁ……」
「そういう時もありますよ、シーちゃん。元気出して」
「うん」
「そうだ、そろそろ夕飯ですね。」
メンテナンスをしていたミオの目線は机に置かれた時計へと向いている。メンテナンス器具を工具箱へと仕舞いミオはシオンの手を握りゆっくりと起こす。
ストレスか体調不良の時の彼女は一度ベットに沈むと自分では中々起きてこない。こういう時本土にいたときはマシロがその役割をしていたそうだが神威島では流石にできない、という事で同室のミオに白羽の矢が立った。
人見知りが激しい自分を変な目で見ず、受け入れてくれたシオンには感謝しかない。
ミオにとってシオンは初めて出来た親友だ。
昔は友達はたくさんいたし、たくさん人に質問もできた。それがいつからだったか、……。
覚えようとしたモノは掌から抜け落ち、自分が興味を持ったモノしか頭に入らなくなったのは……。
『どうして,こんな簡単な問題が解けないのよ!!!』
そんな自分を何も言わずに接してくれたシオンにも隠し事があるのは直ぐに気がついた。多分、それは聞いてはいけないモノ、その境界線を超えてしまうと今まで築き上げてきた信頼関係が失ってしまう。
ピンと張り詰めた糸がプツリと音を立ててあっという間に切れるように、自分がその境界線を超えてしまうとあっという間に消えてしまう。それが何よりも恐ろしい。
「ミーちゃん…?」
「あ、ごめんなさい。」
ベットに座り、自分を覗き込むシオン。心配そうなその顔を見て昔の自分を思い出した。
杖を手にし、彼女は扉を開けた。
「夕飯、なくなっちゃうよ」
「そうですね」
開けられた扉に向かい足を動かす。こんな簡単な動作も目の前の彼女にとっては難しいのだろうか…。
得意不得意、自分にとっての役割とは何だろうか…。私は…あの時から進めているだろうか。