ストーンフリーは解れない   作:空条徐倫

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続けてみました。




漫画家といっしょ

 

 

 

 

 

 

 

 コンコン

 

 個室病室のドアをノックすると、中から若い男の声が返って来る。

 了承を得たので、徐倫は病室の引き戸をガラガラという音を立てて開け、素早く中に入った。個室とはいえ彼は有名人であり、噂というものはすぐに広まる。下手に人が覗きに来たり、お見舞いに来た女性と熱愛などという根も葉もない噂を立てられるのは徐倫にとっても、彼にとっても不快な事だ。考えすぎと思われるかもしれないが、不動産屋の立ち話を耳にした男子高校生2人が彼の家を特定して尋ねてしまうくらいなのだから、決してありえない話では無いのだ。

 

「調子はどう? ずいぶんとタコ殴りにされたようだけど」

「……あんたは確か、空条徐倫……さん」

「やめてよ、徐倫でいいわ。あんた私と同い年くらいでしょ?」

「そんなことはどうでもいい。今ぼくが聞きたいのは、なぜあんたがここに来たのかってことだけなんだからな」

 

 徐倫は友好的に話しかけたつもりだったが、突っぱねられてしまった。この岸辺露伴という男は、あまり人と馴れ合うつもりは無いようで、さっさと要件を言えとばかりにこちらに視線を向けている。もちろん、そこにはさっさと終わらせてさっさと帰れという意味も含まれているのだろう。

 

「なによ、つれないわね。あたしが来たのは、今回の件の後始末についてよ……あんた、このこと訴えるつもり?」

 

 徐倫が露伴の元に現れたのは、スピードワゴン財団の仕事のためだ。

 徐倫は世界各国を飛び回り、スタンドに関する問題を解決するための仕事をしている。一般人の目に見えないスタンドは法律で裁くことができないため、徐倫のように世界中に散らばったスピードワゴン財団所属のスタンド使いが解決の手伝いをすることになっているのだ。特に今回は叔父の仗助が絡んでいるため、このまま放っておく訳にもいかない。

 

「たしかに、康一くんたちがあんたの家の場所を知ったからって押しかけたのはいい事だったとは言えないわ。でも先に手を出したのはあんただし、何よりスタンド絡みで裁判を起こせはしない。……見えないんだからね」

「……そんなことは分かっているさ。自分が悪かったってことじゃあなくて、裁判を起こせないってことがね。……それにものすごい漫画のネタを手に入れたんだ、後悔はしていない」

 

 露伴は手元のスケッチブックをパラパラとめくりそれを眺めながら、少しばかり嬉しさの滲んだ声で言った。全く反省の色が見られない上に、自分がボコボコにされているにも関わらず嬉しそうにしている……

 

(うへぇ〜……こいつ、なんかヤバい性癖とか持ってんじゃあないの……?)

 

 心の中で気味悪がっていると、勘が鋭い露伴に「今なにか失礼な事を考えてないか?」と聞かれてしまったが、慌てて手を顔の前で振って否定した。自分って結構顔に出やすいのかもしれない、気をつけよう……と思っていると、不意に露伴のもつスケッチブックが目に飛び込んできた。

 

「へぇ、あんたやっぱりスゴい漫画家なのね」

「ふん……ぼくの漫画を読んだこともないやつに何が分かるって言うんだ?」

 

 徐倫は素直に露伴の描いた絵を褒めたつもりだったが、またしてもつっけんどんな態度をとられてしまった。彼は相当心がねじ曲がっていると見える……

 この男は何も分かっていないと言うが、徐倫にも芸術を美しいと思う心はある。……まあ、たしかに、今まで1度も露伴の漫画を読んだことはないのだが。

 

「分かるわよ! これ、相当リアルに書かれてるわよね。髪の毛1本1本の質感とか、光って見える部分とか……ホンモノ見てるみたいで楽しいじゃない」

「……へぇ」

 

 露伴は徐倫の言葉に少し目を丸くし、そして感心したようにため息をついた。信じられないことに……思わず自分の目を疑ったが、たしかに彼の口角が上がる様子を見たような気がする。どうやら露伴の絵に対する徐倫の感想には彼を喜ばせる何かが含まれていたようだ。

 

「案外君とは波長が合うかもしれないな。……たしか、康一くんのファイルに音石明を見つけるために杜王町へ来たと書いてあったが、あとどれくらいここにいるんだ?」

「何なのよ急に機嫌よくなって……ほんとやれやれだわ。そうね、音石の件は済んだけど、まだこの町にはたくさんスタンド使いがいるだろうし、もう暫くは滞在すると思うわ」

 

 どうやらこの杜王町には虹村形兆や音石明に矢でいられたスタンド使いが多く潜んでいるようだし、徐倫のすべき仕事も山積みだろう。そのことを露伴に伝えると、彼はそうかと呟き、何やら顎に手を当てて考え始めた。

 何を考えているのかは知らないが、話も着いたことだし徐倫も暇ではないので、そろそろこの場を後にすることにする。

 

「お詫びとして、あんたの治療費は全部こっちで出すから安心して。じゃ、そういう事だから。お大事にぃぃ〜〜」

 

 そう言い残して病室を後にしようとした徐倫だったが、少し焦ったような声で呼び止められてしまった。

 徐倫が後ろを向くと露伴がこちらに手のひらを見せて手を伸ばしている。どうやら呼び止められたのは聞き間違いでは無いようだが、一体自分にこれ以上何の用があるというのだろうか? あんなに早く帰って欲しいという態度を取っていたのに……怪訝な表情で見つめる徐倫を気にすることなく、露伴は信じられない提案を持ち掛けてきた。

 

「治療費はいい、全額自分で出したって痛くも痒くもないくらいの金は持ってる。その代わりと言ってはなんだが……たまに君に取材をさせて欲しいんだが」

「はァ!? 取材? あんた懲りてないワケ? どうせその能力であたしの記憶を奪うつもりに決まってるわ」

 

 予想の上を行く答えだった。もちろん、先程までの会話で岸辺露伴がとんでもなく変わったヤツだということは十二分に伝わってきたが、ここまで頭の悪い男だとは思わなかった。……いいと言うわけがないのだ。こうすれば徐倫が了承するだろうというつもりで治療費をいらないと言ったのかもしれないが、それで信じてもらえると思っているのならば、よっぽどの楽観的なマヌケだ。

 

「違うッ本当にただの取材だ! 君は世界中飛び回ってたくさんのスタンド使いと戦って来たわけだろ? 治療費なんかよりも君がしてきたその体験の方が、ぼくにとってはよっぽど価値があるんだ!」

 

 どうやら、彼は本気らしい……。徐倫は世界を旅しながら何人ものスタンド使いを相手に戦い、時には言語の分からない国で人と心を通わせてきた。露伴の言葉と情熱に嘘がないことは、彼の目を見れば明らかだった。そしてそういう熱い心をもつ人間を、空条徐倫は無下に出来ないのだ。

 

「……もしあたしに少しでもスタンド能力を使ったら、今度は二度と漫画の描けない体に……再起不能になってもらう」

 

 

 ──こうして、空条徐倫と岸辺露伴の奇妙な協力関係が始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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