2013年 6月某日 追記 6月上旬に最新話 投稿予定
夜分遅くの草木が生い茂る雑木林に一人の少年がいた。
周辺には幾何学模様の陣が血で書かれていて、その付近にはその素材の血を抜かれて息絶えた鶏の死体がいくつも転がっている。
少年の名はウェイバー・ベルベット。普通の人間が自力では到底なし得ない奇跡を起こすことが出来る魔術師だ。
だが今、彼は冷や汗を多量にかきながら、両手を地につけ茫然と地面を見つめている。
「……何でだよ。どうしてこんなことに……」
彼がそう呟いたのには理由があった。聖杯戦争――七人の魔術師が各々一体ずつサーヴァントを召喚し使役することで戦い抜き、生き残った者が万能の願望器、聖杯を手にするという、ようは人智を超えた者たちのバトルロワイヤルである――に参加するため、彼はこんな夜更けに一般人に目撃されれば、即座に警察への通報はまぬがれないであろう行動をしていた。
生き血で書かれた陣は、そのサーヴァントを召喚するために必要な儀式のための物である。
そう、本来ならばウェイバーは既に準備を終え、サーヴァントを召喚しているはずなのだ、本来ならば。それをしないということは何かが足りないということになる。
「風で触媒が吹き飛ばされるなんて……これじゃあまともなサーヴァントを呼び出せない……」
サーヴァントを召喚するだけなら、既にウェイバーは今すぐにも出来るのだ。しかし、サーヴァントはただ呼び出せばいいという者ではない。基本的にサーヴァントは歴史上で偉大な功績を残した人物の魂を現世に呼び出し実体化させた者のことを言う。
そしてその力は生前の彼らの力、召喚した場所での知名度、そして契約した魔術師の力の三つの要素によって左右される。
だが、ウェイバーはこの三つのうちの一つである契約した魔術師の力で、他のマスターよりも劣っているのは否めなかった。
だからこそ残りの二つの要素で埋め合わせようとしていた。
具体的には生前の偉業や武勇伝のあまりのすさまじさに、知らない人を探す方が難しいほどの知名度を持った英霊を求めたのだ。
自分が召喚したいと望むサーヴァントを呼び、彼らが生きた時代に残した聖遺物を触媒にすれば、ほぼ確実に希望通りの英霊を呼び出せる。
彼は征服王イスカンダルの外套を触媒にしようとしていた。イスカンダルは日本でいうところのアレキサンダー王であり、生前の偉業、武勇伝、現在の知名度、すべてが文句なしの英霊である。
それはウェイバーの魔術の講師であり稀代の天才魔術師であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトが、あらゆる手を尽くして取得した聖遺物ということからも明白であり、それゆえに本来ならばただの力も財力もないウェイバーが手に入るような代物ではない。
何故、彼がそんなものを持ってるかといえば簡単である。ケイネスから黙ってこっそりと拝借してきた――ようは盗んだのである。
そして逃げるようにして大至急、聖杯戦争の現地である日本の冬木市へとやってきた。
聖杯戦争の出場資格にしてサーヴァントを使役するための令呪は、既に彼の右手の甲に刻まれている。
だが、それはもう聖杯戦争から逃れられないことも示している。
サーヴァントを召喚するための聖遺物は失われてしまった。ウェイバーが自分の望む英霊の聖遺物を用意したのと同じように、ほぼすべてのマスターが自分の手に入れられる限りで、最も強力なサーヴァントの聖遺物を触媒にして呼び寄せるはずだ。
だが、その中でもイスカンダルは別格だと考えていたために、己の魔力に多少のハンデがあろうと、サーヴァントと自分の知略で勝利をつかめると踏んでいたのだ。
イスカンダルを召喚できなければその計画は粉みじんになってしまう。
それに引き換え聖遺物という触媒なしで呼び寄せたサーヴァントは大抵弱い。どこぞの馬の骨ともしれない英霊が出てくることだってある。
他のマスターでもそんな事態に陥れば窮地なのは明白であり、そんな状況を魔術師としての力が弱いウェイバーに訪れるようなことになれば彼は一瞬で聖杯戦争から脱落するだろう。
それでも、今のウェイバーには触媒なしでサーヴァントを召喚する以外に残された道はなかった。
既に聖杯戦争は始まっているに等しい。
今、この瞬間にも自分が他の聖杯戦争の参加者に見つかってもおかしくないのだ。
その時に、サーヴァントを召喚していなければ、その時点でDEAD ENDである。
「……元から命を懸けた厳しい戦いになるのは分かってたんだ。こうなりゃ腹を決めてやるしかない……少しでも強い英霊が出てきてくれよ!」
ウェイバーは後悔や恐怖を振り切るように勢いよく立ち上がり、右手を魔法陣にかざす。そしてかざした右手が眼に見えぬ魔法陣の圧力で弾き飛ばされないように左手で補強する。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!」
彼は少しでも強い英霊が現界することを祈りながら、召喚のための呪文を紡いでいく。それに呼応し生き血で書かれた陣が白く光り輝き暗闇を照らす。それは少しばかり神秘的な光景だった。もっともウェイバーはそんなことを感じる余裕など全くなかったが。彼はどんな英霊がやってくるのかで頭がいっぱいだった。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
詠唱が終わる。すると英霊召喚のための魔力が爆発し辺り一帯が目を焼くような光と暴風で包まれる。
どんな英霊が、とウェイバーは眩しすぎて閉じてしまった目を開くが――
「……え? そ、そんな……サーヴァントが……いない……?」
彼の眼に本来、映るべきはずの屈強な英霊はいなかった。それはすなわち召喚に失敗したということになる……すなわち聖杯戦争で勝ち抜くのは不可能ということを意味していた。彼の顔が一瞬で真っ青に染まり、自分は英霊を召喚することすら出来ないのか、もうこれで殺されるのを待つだけの身である、という絶望が彼を塗りつぶす。彼は召喚する前に戻るかのように地に両手をつけてうなだれる。だが――
「ひどいペポ! サーヴァントはちゃんとここにいるペポ!」
ウェイバーの絶望の理由を否定するように高い声が現れる。それは彼の前、魔法陣から聞こえてくる。その方向に視線を移すと――――いた。何かがいた。
それは人ではなかった。桃色に塗りつぶしたサッカーボールにそれにつりあう形で手足、目と口をつけた一頭身の何かだった。さっきは今とは違い、立っていた為、視線が高すぎて視界に入らなかったのだ。この小さいのはなんだとウェイバーは頭が混乱で悲鳴を上げながらもとりあえず凝視した後、口を開き
「お、お前がぼ、僕の、いや私のサ、サーヴァントか?」
マスターとしての威厳を出そうとしてかえってそれを失墜させるような言葉づかいでサーヴァントと自称する何かに問いかける。
「そうポヨ。僕はカービィペポ! クラスはライダーペポ!」
その何か――クラスはライダーなのでライダーと呼ぶ――短い両手を振り回しながら自己紹介をする。
サーヴァントには召喚時に七つのクラスに分けられそれに準じて能力が変わる。ライダーはサーヴァントの切り札であり、その英霊の象徴《シンボル》である宝具が強力なクラスである。とりあえず召喚には成功していたことで胸を撫で落す。しかし、強さを見なければと、マスターの権限の一つであるサーヴァントの能力を視認出来る力を使う。
するとライダーの能力が脳内に流れ込んできた。
クラス:ライダー
真名『カービィ』
属性:中立・善
ステータス
筋力:E
耐久:E
敏捷:E
魔力:E
幸運:E
宝具:C+
あまりの低さにウェイバーは絶句した。
(……この戦い、僕らの負けだ……こんなので勝てるわけがない……)
彼に再び絶望が襲いかかった。
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