第四次聖杯戦争 ピンクの悪魔の物語   作:不能力者

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第六話 僕の出番がないペポ

「はぁっ!」

 

 ランサーの槍の一振りにてアサシンは倒され、消えていく。

 彼はあの混沌とした戦場から令呪によって強制的に呼び戻された。そこではケイネスがアサシンを相手に戦っていた。彼を守るように液状化した金属――水銀が粘土細工のように姿を変え自らが意志を持っているかのようにケイネスの周りの宙を浮き、暗殺者を寄せ付けないように縦横無尽に動き回る。

 アサシンが武器であるダガーを投げつければそれを弾き飛ばし、近接戦闘に持ち込もうとすれば鞭のようにしなり攻撃、地面のコンクリートで作られた屋根をも砕くその威力はサーヴァントであるアサシンであっても、脅威であるため無暗に近づけないようにし接近拒否をする。

 この物理法則を完全に無視した水銀、『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』はケイネスの礼装である。

 彼――ケイネスのその卓越した魔術と稀有なる才能を持って動かされている。

 それはアサシンを相手にして、互角の勝負を繰り広げていた。

 本来、サーヴァントと魔術師には比べるのも愚かしいほどの力の差がある。魔術師がサーヴァントと互角に戦うなど、一部の規格外を除けば不可能だ。

 そのため、ケイネスはランサーを呼び寄せた。聖杯戦争の鍵を握る力である令呪の三画のうちの一画を消費してまでも。

 だが、このアサシンは思いの他、弱く……いや、弱すぎて正直、負けるどころかむしろケイネスの方が優勢であった。

 しかし、敵は暗殺者と呼ばれたクラス、どんな想定外の攻撃をしてくるか分からない。そのため念には念を入れて従者であるランサーを呼び寄せた、令呪を一つ費やしてまでも。

 ケイネスは自分の判断が正しかったのかを心臓を槍で貫かれ、消滅するアサシンを見ながら考えていた。

 

 (……やはり弱い。いくら私が呼び寄せたランサーといえども多少は抵抗できそうなものだが。私の魔術師としての技量が高く、ランサーの力が上がっているとはいえ……私の力が他人にそうそう劣っているとは思えない、だが、この聖杯戦争は腕に自信がある魔術師たちによる戦いだ。他のサーヴァントもそれなりに戦える者だと……いや、待てよ)

 

 彼は先ほどランサーの眼を通じて見物していた光景――ライダーのマスターが自分の教え子であり、凡才の魔術師――ウェイバー・ベルベッドであったことを思いだす。

 ウェイバーの力は魔術師の中でも弱い方であり、エリートである自分とは比べるのもおごがましいくらいの差があるのだ。

 ウェイバーが参加しているのならば他のマスターにも彼くらい弱い魔術師がいるのではないか、そしてそんな魔術師はろくな礼装も用意できず、まともなサーヴァントを召喚できなかったとしたらこの弱さにも納得がいく。

 

 「ふ、これで一人、脱落者が出たわけか」

 

 「……ケイネス殿、残念ながらそうとは限りません」

 

 「何故だ、ランサー? 確かにお前の宝具である『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』はアサシンの心臓を貫いたはずだ」

 

 心臓を壊されれば、いかに人智を超えた存在である、サーヴァントといえども死に至る。

 なれば、アサシンは脱落したはずである。そう考えているケイネスにとってランサーが何故、アサシンが死んでいない可能性があるのかが理解できなかった。

 ランサーは暗殺者が塵も残さず絶命して消えた空間を一瞥し、主であるケイネスの顔を見ながら答える。

 

 「……先ほど、私が見たアサシンとは少しですが差異がありました。変身能力か、とも思いましたが姿を変える理由はない。ならば、なんらかの宝具で自分が脱落したように見せかけたかもしれません」

 

 「……そう考えていた方が無難か」

 

 ランサーの返答を聞いたケイネスは一考した後、ランサーの考えを理解した。

 暗殺者は敵の心の油断をつくクラスである。だが、時として油断を作ることもするのが暗殺者なのだ。

 そして先ほどのセイバーとライダーの戦いの隙をつくのを失敗したのならば、ランサーを……などという単純すぎる策をアサシンがとるだろうか。仮にも一流の暗殺技術を持った者が先ほどまでその現場を見られていた者を標的にするのか、答えは否だろう。

 ならば、何故、危険を冒してまでケイネスを襲ったのか。それはおそらくランサーの力を見たためである。ランサーのステータスに弱点はなく、またマスターも優秀である。

 ならば生き残るのはこの我らだと考えたのではないか。だが、まともには戦っても勝てないうえに以前、暗殺を見ていたのだから警戒もされている。

 おそらく、既に暗殺者はいないと見せかけることで油断を誘うという魂胆なのだろう。

 なるほど、確かにケイネスは完全に既に暗殺者はいないと考えたことから効果的だろう。

 だが、ランサーの注意深く、高い観察眼は欺けなかったようだ。

 

 「とりあえずはアサシンは脱落していないと考えておこう。ランサー、拠点に戻るぞ」

 

 「はっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拠点であるホテルの部屋に戻ったランサーはこれまでのことを思い出していた。

 ランサーはこの聖杯戦争の主である、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトによって召喚された。

 生前、彼は不幸にも主に忠義を尽くすことが出来なかった。主の妻であった少女――グラニアに呪いの黒子によって見惚れられ、結果的に主に反旗を覆すに等しい結果を招いてしまった。

 そしてランサーは最終的に主に死の間際で見捨てられた。

 彼は主もグラニアも怨んではいない。運のめぐり合わせがなかった、そう彼は結論づけていた。

 しかし、その一方で自分が忠誠を尽くすと決めていた主に忠義を尽くせなかったのは彼の心残りであった。

 そのため、彼は召喚に応じた。今度こそ、忠義を尽くす――そのために。

 ケイネスによって現界された彼が驚いたのは生前の自分の力と同等に近い力を発揮できていることだった。

 この日本ではランサーの真名――ディルムッド・オディナはそこまで有名ではない。そのため知名度補正は低く、本来ならば生前よりも弱体化された状態で召喚されるはずだった。

 だが、ケイネスの魔術師としての技量により知名度の低さを補うことが出来たのだ。

 ランサーはケイネスの魔術師としての技量は感服していた。

 ケイネスの魔術師としての力は自分たちで言うところの騎士団長クラスの力がある。

 そう感じていたランサーはケイネスに召喚された時、「あなたの魔術師としての力はかなりのものと見ました。私の力をほぼ十全に近い状態で振るうことが出来るのだから」と言った。

 そして、必ずや聖杯をあなたに賜ります、と付け加えた。

 それから今に至るわけである。

 後に聞いた話なのだが、ケイネスには妻がいて、本来ならば聖杯戦争にともに参加する予定だったらしい。しかし、召喚する少し前に交通事故にあい、脚を骨折したため参加を諦めたらしい。

 その話を聞いた時、ランサーは胸を少し撫で落していた。

 主君の妻というと以前の悲劇に深く関わる。しかし、主君の妻と自分が会わなければ再び、あの悲劇を繰り返すことはないだろう。

 ランサーは内心、交通事故に少しばかり喜んでいたのだった。

 

 「ランサー、辺りに何か動きはあるか?」

 

 「いえ、あれ以降、特に動きはございません」

 

 「もう、今日は動きはなさそうだな。まぁいい、今の私たちには他よりもアドバンテージがある。ライダーとセイバーの力と戦い方、そしてアサシン、これらの情報はこの戦争において有利に働くだろう。残るサーヴァントであるアーチャー、キャスター、バーサーカーなど物の数ではない」

 

 「たとえ、敵がどれほどの力を持とうと私はケイネス殿に聖杯を献上してみせましょう。この二槍にかけて」

 

 ランサーは両手に握った二本の槍をケイネスに見せながら話す。ケイネスはそれを鼻で笑った。

 

 「当然だ、この私が召喚したサーヴァントなのだからな」

 

 




今回はケイネス陣営の原作との違いを書きました。

原作よりもいい関係であることが一目瞭然に見えていたら幸いです。
ソラウは犠牲になったのだ……幸運Aの犠牲にな。
ちなみにケイネスがアサシンと互角以上に戦える理由ですが、アサシンは力が80分の1になっています。
そして第五次で二十分の一くらいのアーチャーと士郎がタイマンをはれたため、いけるだろうと考えました。
というかむしろ楽勝で勝てる気がしますが、ケイネスはランサーが来るまでの時間稼ぎに徹していたので、ほぼ防御しかしてなかったから勝ちがつかなかった感じです。
 
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