プリキュアとの奇妙な冒険‐ようこそヒーリングっど♥へ!‐ 作:アンチマターマイン
経緯がだいぶ変わっちゃってるんで結局書き起こしたキュアフォンテーヌ覚醒。
当初のどかっち視点の予定でしたが、ちゆちー視点に。
あと、ペギタンの語尾…今までずっと「ペ」にしてたけど、
ドコのダレを見ても全員「ペェ」にしてるんで、
ウチもそれに倣うことにした。意地張るトコじゃねーし!順次直します。
私は沢泉ちゆ。中学二年生。陸上部。
ハイジャンプをやれば負けない自信があるわ。
…そう、それだけ。ただそれだけの一般人なのよ私は。
それが、こんな目に遭うなんて……
ことは、一時間くらい前に遡るけど。
今日は学校が休校になっちゃったから、ハイジャンプの練習も出来ず。
そういうことならとウチ…旅館『沢泉』の業務をお手伝いしてたんだけど…
番頭の川井さんが、温泉の質がおかしいと言い出した。
私も、確かにおかしいと感じたから源泉まで一緒に見に行ったのよ。
そこに怪物がいた。
学校を休校に追いやったらしい怪物が、源泉に取り付いて何かやっていた。
そしてその怪物はこっちを向くと、けがらわしい何かを吐きかけてきた!
川井さんはその直撃を受けて、今も気絶したまま……
私が背負うしかなかった。背負って、そのまま逃げるしかない。
逃げる私を追うように怪物はやってきた。
俊敏さなら私が上みたいね…でも、歩幅が違いすぎる。
歩幅が違うのに向こうは人間と大差ない挙動で迫ってくる。
到底勝ち目がなく、私は追い詰められた。
「ハァ…ハァァ……うううっ」
もう息が続かない。全身の筋肉も限界。
川井さんは別に太ってなんかいないけど、それでも50kgは確実にある。
私は消防士とかじゃあない。こんな重さを担いで全力疾走する訓練なんか、されてない。
むしろここまでよく走れたわ…火事場の馬鹿力ってやつみたいね。
でも、それも打ち止め……嫌よ、こんなところじゃあ終わりたくない。
あがかなくちゃ…どうすればいいの?
どんな決断も無駄。そう思いかけたところで、怪物が横倒しに転げた。
何かと思った。誰かが怪物を蹴りつけたみたいだった。
目で追う…女の子だ。フリフリの服を着た、キラキラの女医さんだった。
不思議なのは、彼女にどこか既視感があること。
ピンクに輝く髪の知り合いなんていないはずなのに。
さして時間も経たず、怪物が立ち上がった。しまったわね。今のうちに逃げておくべきだった…
「逃げて、ちゆち……逃げてください!」
女医さんが、何か聞き流せないことを言いかけた?
私の名前?そんなはずが……でも言う通り。戦える人がいるというなら、安心して逃げられる。
怪物が一撃を繰り出す。女医さんは逃げない、受け止める、なぜ…私がいるからじゃない!
走り出すと、背中の川井さんがうめき声を上げて目を覚ました。
「ウッ……お、お嬢さん。これは一体?」
「川井さん、よ、よかった!
さっきの怪物が追ってきてます。走れるなら、あっちへ」
「お嬢さんはどうするんで?」
「二手に分かれましょう。どっちかが絶対に逃げ切って、お母さんに知らせないと!
怪物が出た、って!あんなのが旅館まで来たら…怪我人どころじゃあ済みません」
「わ、わかったよ。お嬢さん、無事で!」
川井さんと逆方向に走る。ウチまでの最短コースは、あえて外す。
追ってきた怪物がウチまでついてきちゃうのが最悪!最悪パターン!
さっきの女医さんが戦ってくれている間に、ある程度は距離を離してしまわないと……
「メッガァァァ~~ッ!」
「きゃああああああああああ」
「…あっ、グレース!人がいるラビ!殴り飛ばした先!」
逃げた先に怪物が背中でスライディングしてきた!
巻き込まれるところだった…運が…いい!川井さんの方には行かなかった!
あとは私が逃げ切りさえすればいい。
メキ メキメキ バキ! グゴゴ
その不自然な音に気が付いて目をやったときには。
折れた木が私に向かってまさに倒れこもうとしていた。
あ、これは…『死ぬ』
まったく他人事みたいに、私はそう思った。
別に走馬灯なんか見なかったわね……
グワッ バゴシャア!
破滅の音が収まって何秒か後、私は倒れているのに気付いた。
死んではいないみたい。少し鈍い痛みがある…
でも、重さが全然ないのはどうして?
恐る恐る目を開けると、女医さんがいた。
どうなっているの?もっと注意して見る…背中よ!女医さんの背中に木が!
押し倒された私に四つん這いになって覆いかぶさっている女医さん。
「うう……あああああッ!」
痛みをこらえるような、それか気合を入れるような叫びを上げて、
背中の木を別方向に投げて押しやる女医さん。
間違いないわね。かばわれた!木に潰される私を、彼女は放っておかなかった!
でも、どれだけのダメージなの?たとえスゴイ体の持ち主だって言っても…
こんな木を丸ごと背中に受けて、無事でいられているの?
「…大丈夫?ちゆちゃん」
「あなたは……あなたは誰?どうして見覚えがあるの?
私はあなたを…『知っている』」
「グレース、動くラビ!メガビョーゲンがッ」
「メガァ~~~」
女医さんの背中越しに怪物が見えた。
巨大な足で私もろとも踏みつけようとしている!
女医さんが振り向いた時には速度が乗り切っていた。
女医さんの目の色が変わったのだけが、私には見えた。
バシィッ
跳ね除けられて地面を転がる私。そして。
ズドドォーー
飛び散ってくる土砂の破片。
転がりが止まった。体を起こして目を開ける。
もう、言うまでもないわね。これは。
「あ、あ。う、う、う……」
「あら、マヌケ。この私を前にヨソ見ばかりしてるなんて…やっちゃいなさい。メガビョーゲン」
「メッガビョ~~ゲ~ン!」
ズドォ! バゴォ ドガッ
「か、かはッ、ああ、あ!」
連続で。連続で踏まれてる。
聞いたことがある…単純に最速でダメージを与えられるのは『踏みつけ』だって!
転がって抵抗できない相手を!一方的に!
しかも、何て言った?痛みも不利もかえりみずに助けに入ってくれた彼女が…マヌケ?
後ろで怪物に指示を出してるらしい、あのゾンビ色の女!
「グ、グレースがやられちゃうペェ!」
「加勢すんぞ!このままじゃあ全員やられちまう!」
木々の間からふたつの何かが飛んできて怪物におどりかかる。
…あれは、しゃべる猫さんにペンギンさん!
「ウッサイわねぇ。アンタらごときがなんだってのよ」
「ニャアアアアッ!」
「ペェェェーーーッ!」
ひとたまりもない。腕の一振りで吹っ飛ばされた。
猫さんは私からはるか右手に…ペンギンさんが目の前に転がり落ちてくる。
ああ、なんてこと…すべてがつながったわ。
見覚えがあるわけだわ。彼女は、あの女医さんはッ!
「花寺さん、どうしてッ!」
「に、逃げ……」
私は足元の石ころを握りしめた。
なんでもいい。花寺さんを解放しなければ。
起き上がったペンギンさんが、駆け寄ってくる。
敗色濃厚。顔にそう書いてあった。
「に、逃げるペェ。そんなものでどうにかなる相手じゃないペェ!」
「ええ、そうね。そうでしょうね…」
「あいつらの目的はボクたちだけだペェ、今なら逃げ切れるペェ」
「ええ、そうでしょうね…私だけなら、逃げ切れるでしょうね……」
でも、その可能性も今、ゼロになる。
少し震えた手で、私は賽を投げたのだから。
放物線を描いた石ころは、怪物の下アゴあたりに音を立ててぶつかった。
うふふ、私ったら、何をしてるかわかってるのかしら?
やってしまってからふるえてきた!
「メッ、メガァァァァ!」
「何してるんだペェェェェェェェ!?」
「……お断りよ!
そんなことをしたら……私は!私のことが!大嫌いになってしまう!
ここは、私のウチで…ここは、私の町!守りたいのよ私だって!
私は…戦うわ。誰にもゆずらない!」
恐ろしくてたまらない。全身に走る恐怖は隠せない。
自分を奮い立たせるために無理やりにでも口に出しているこれは、それでもごまかしじゃあない。
追い詰められた捨て鉢でもない。戦ってやるわ。たった1ミリの勇気でも!
「ハァ…シラケるわねぇ。地平線までフッ飛んで反省なさいな。
デシャバリの、ザァァァァ~~ッコ」
「メガビョォォォゲン!」
ぐっ、あの構え…吐きかけてくる構え!
どうにか避けないと……ペンギンさんも一緒でなくっちゃ!
ペンギンさんを抱えて脇に飛ぼうとすると、猫さんが怪物の顔面に体当たりしたのが見えた。
…助かったわ。吐きかけられる黒い何かは空の彼方に飛んで行った。
「ペギタン!間違いねえ!」
「わかってるペェ!この人しかいないペェ!
…違うペェ。『この人がいい』ペェ。ボクは『この人がいい』ペェ!」
腕の中にいたペンギンさんが少し離れると、かしこまったように私に向き直った。
何の話かしら。この場でするべき話なの?私にわかるのは、この子がマジメっていうことだけ。
「ちゆ、さん。ボクと一緒に…戦ってくれるペェ?」
「どうしたの?…どういうこと?」
「ボクは臆病で、泣いてばかりで、いつも自信が欲しいとばっかり思ってるペェ…
こんなボクでも…ちゆさんの力に、なれるペェ?」
元々、戦うつもりだった。私一人で勝つだなんて、それこそ無理。
でも、ここで答えるべきは、そんなんじゃあなくって……
私は知っているわ。昨日、見せてくれたじゃない。
「……戦うわ。私に力を貸してちょうだい。あなたの力を。
苦しむ人に、手を差し伸べられる強さを!私に、貸してちょうだい!
あなた、お名前は?」
「ペギタン。ペギタンだペェ」
ペンギンさん…ペギタンは、私にバトンのようなものを差し出した。
真っ白なそれは、さっき花寺さんが持っていたやつと同じ。
…なるほど、そういうことね!
「使い方を教えて」
「このボトルをセットするペェ。まずはボクの指示通りに…」
青い光が立ち上る。
「スタート!」
「プリキュア・オペレーション!」
掲げたバトンが光を放ち、信じられない力が満ちる。
この光は清流。清らな水の力だって、説明されないでもわかった。
光が糸になり形成した白衣は、今の私の使命の形!
…そうよね。強いだけじゃあ、あの怪物と変わらないもの。
私は、正しく、強くあるわ!
「交わるふたつの流れ、キュアフォンテーヌ!」
「ペェー!」
変身、完了ね。これはまた…可愛らしくなったものねぇ私。
白衣の他は花寺さんと同じくフリフリのスカートで、私のは青が基調。
スカートは膝まで出てるけど、中身ギッシリだから戦ってる最中にヘンな心配はせずに済みそう。
さっきまで恐怖でガタガタいってたのに調子いい話なんだけど…
今の私は、負ける気がしないわ。
いつまで花寺さんにのしかかっているのよ、怪物!
ギャン ドグシャア!
ひとっ飛び、拳を叩き込む。冗談みたいな勢いと威力があった。
今の私は、たぶん…電信柱を蹴り折れるし、ブロック塀を握り潰せるでしょうね。
ヤラないわよソンなムイミなコト!
ともかく、花寺さんはこれであっさり自由になったし!
キュアスキャンっていうので、助けるべき精霊さんの居場所もわかった!
よろめきながらも復帰しかけた怪物の足を、起き上がった花寺さんが思い切り払う。
形勢逆転…もう、どうにもならないでしょうね。
「今だペェ、浄化するペェ!」
「ヒーリングゲージ、上昇…プリキュア!ヒーリング…ストリィィーームッ!」
指示通りにバトンを操作する手には、切り札を切る感覚があって…
感覚に従って解き放ったそれは、鉄砲水みたいになって敵に殺到した!
水は…岩すら『うがつ』!
ギュワオオォオ ドコォ!
怪物をぶち抜いた青い光は、その向こう側で精霊さんをやさしく包み込んでいた。
どうやら、必殺技…ってやつみたい。いえ、救うためなんだから必生技かしら?
「ヒ~~リン、グッバァァァ~イ…」
シュパァァァ~~~ッ
怪物も、救われた幽霊みたいに消えていった。
指示を出してたゾンビ女も、いつの間にか消えていた。
……話は、これで終わりじゃあなかったのよね。
精霊さん…エレメントさんの無事を確認して、力をおすそ分けしてもらったのはいいけど、
花寺さんのワンちゃん…ヒーリングアニマルのラテの具合がそれでも悪いままで。
聞いてみたら、怪物がもう一体出てきている…公園の方に。
「そんな…ひなたちゃんと鳴滝くんが危ない!」
「なんてこっただぜ!すでに狙われてやがったのかぁぁーッ」
「そう考えるべきラビ。
タイミングからして、ほとんどラビリンたちが出発した直後ラビ」
「あの話が全部聞かれてたら『詰み』だペェーッ」
「たぶん、それはないラビ。
『能力』が狙いであの場の話を聞いてたなら、こっちを追ってくるはずラビ。
だって、DISCはラビリンたちが…」
…何の話をしているの?
ひなたちゃん、平光さんのことかしら?
それと、鳴滝魁?あいつが一体何の……
首を突っ込む機会を見ていたら、
何かに思い至った猫さん…ニャトランの毛がブワッとふくれた。
「……あ、あのヤロウぉぉ~、まさか!」
「何かわかったペェ、ニャトラン」
「はずれてほしいぜ!この予想ははずれてほしい!
今のままあいつがメガビョーゲンにやられちまったのなら…
あえて言うぜ…『死んだ』のなら!
守られちまうんだよ、DISCの秘密は!完ッペキに!」
「え……ど、どういうこと?……あ」
「DISCの現物はボクたちが持ってるペェ。
知識を知ってるのは魁だけだから…
『そうなれば』ボクたちしか知らなくなるペェ」
話の断片を捕まえるに…
もう黙っているにも飽きたわ。直球で聞く!
「よくわかっていない私が確認したいんだけど!
鳴滝魁が、自分で自分を『口封じ』しようとしていて!
そこに平光さんが巻き込まれてる!…それで、いいのね?」
「多分そうなってるペェ~、ちゆ、もう一度変身するペェ」
…心ッ底、見下げ果てた男ね。
そう吐き捨てるのだけはこらえた。
角刈りトサカ頭からナスビのヘタ頭に変わっても、性根は変わらなかったのね?
拡大自殺?無理心中?そんなことをするのなら、一人で勝手に…
駄目ね。そこから先は考えてはいけない。状況もわかっていないのに。
死だとか不幸を願うほど落ちぶれた覚えはないわ!
進んで関わりたくもないけど…平光さんのついでに助けるなら、かまわない。
正しくあるには、それが必要だものね。きっと。
「行こう。助けなきゃ」
「だな。もし予想通りだったら…あいつには『お手当て』が必要だかんな」
「ペェ!」
「急ぐラビ」
当事者でないとはいえ、花寺さんは助けることを即答したし…
ヒーリングアニマルのみんなは、なんか保護的みたいだし。
ま、そうよね。弱った後の姿しか知らないのなら、むしろ当然か。
私だって行くわ。平光さんは絶対助けるとして…
あいつの死体も見たくはないもの。
プリキュアの姿で全力疾走すると、公園までもすぐだったわね。
そして、最悪の事態だってことも即座に理解した。
破壊された噴水、その先で、血の泡を吐いて動かなくなっている誰か…平光さん。
そのすぐそばには、さっきのと似た怪物と、
服と皮膚とがズタボロになった鳴滝魁がいて。
鳴滝魁の右手を、今……さっきのゾンビ女の仲間とおぼしき少年が、へし折った。
指がもげかかっている断面なんて初めて見た。
肉と皮でプランプランとぶら下がってる…
花寺さんが、無言で飛び出した。
ひとっ飛びで、少年の顔面に、蹴り。
顔面に足跡が思い切りついた少年は地面を転がりながら吹っ飛んでいき、
その間の数秒間で役割分担。私は、怪物を引き受ける。
どうもダメージを受けているらしい怪物を殴り飛ばし、花寺さんに目をやると……
「うぅぅ…ぁぁぁあああ!
ふぅぅッ、うおおおあああああああああああ!」
「何だ、こいつの、パワーッ……昨日の今日で」
怒りとも嘆きともつかないような叫びと共に拳を叩きつけまくっていた。
私も似たような気分よ。だからこそ冷静に決めてやるわ。
救急車!それ以外に私ができることはないし、
怪物どもがいちゃあ救急車は来られない!
その後、苦戦する要素はゼロだった。語る必要もないくらい。
ゾンビ少年も追っ返されたみたいね。
助けたエレメントさんには少し待ってもらうことにして、
救急車を呼ぼうと平光さんに駆け寄ると……
吐いてた血も収まり、普通に寝息を立てていた。なぜ?
「全部話して。納得いくように」
変身を解いた花寺さんが、有無を言わせない雰囲気で鳴滝魁に詰め寄った。
これは…またしばらく、黙って見ているしかないわね。
平光さんをかばって戦っているようには見えたけど。
場合によっては、絶対に許せない。
Q:自分のことをオモチャにしようとしたクソ野郎を素直に救助できますか?