プリキュアとの奇妙な冒険‐ようこそヒーリングっど♥へ!‐   作:アンチマターマイン

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オリ主の自分語りが当回のおおよそ半分。
ちょっとくらいカワイソーだったとしても3ページオラオラ級のクズの所業を
働いていたのは変わりないのです。


過去が顔を出す

読者諸氏には少しだけ付き合っていただこう。

鳴滝魁。この男の過去を語る。

あらかじめ言う。少なくとも今現在において、この男は血統書つきのクズだ!

 

すこやか市から電車で乗り換え三つ。

この近辺では人口集中地区にあたる大都市の、地元の名士の家に彼は生まれた。

生まれた時点ですでに父は57歳、母は36歳。二人の兄は15と12。

母が生みたかったのは娘だったが、そこへ期待外れにも生まれてきたのが魁だった。

 

父としては、後継ぎと予備に充分な子供はすでにおり、

そもそもこれ以上必要とは考えていなかった。

つまり、『女の子ではなかった』その時点ですでに彼はどうでもいい存在に成り下がってしまい、

父は彼に関心を持つことなく兄二人の教育に集中。母は……彼を露骨に邪魔者として扱った。

そして、兄二人にとってもまた、

彼は日常生活のうっぷんを晴らす最適なオモチャとなっていった。

 

七歳にして生存の危機を自覚した魁は、なんとかして父の関心を自分に向けさせようとして

勉強を頑張り、満点のテストをたくさん作った。

だが兄二人は飛び級レベルの秀才!

そうなるように厳正に育てた父と母には、低学年のテストなど無意味。

 

絶望の中、考えることをやめかかったある日。

…その日、彼は次兄をひどく怒らせていた。理由はとてつもなくささいなことだ……

頭から血を流した彼は逃げていた。肉体が破壊される根源的な恐怖からだ。

そこで彼は気づいたのだ。

すでに大人同然の次兄が、子供である自分ごときの足に追いつけないことに。

 

天から与えられた才を認識した彼は発奮した。

朝も、昼も、夜も、『走ること』その速さだけを考え続け……

地方大会への切符をもぎ取ったとき、父はようやく彼の方を向いた。

父の家ぐるみの後援を取り付けた彼は、

破竹のような勢いで全国級スプリンターへの道を突っ走っていった。

 

――ここまでならよかった。このままプロ選手のサクセスストーリーになれたのだったら。

 

彼の心はこの時点でねじけきっていた!

誰も彼を助けなかったし関わろうともしなかったからだ!

走ることで手に入れた有形無形の『力』は、

彼にとってはやっと許された『暴力』のライセンスだった。

『それがあって初めて家族と対等になれる』……彼はさらなる力を求めた。

 

権力を全面に押し出し振る舞う彼を前に、

同級生はおろか校内に逆らえるものは一人もおらず……やがて、地域がそうなった。

ここに二つ目の『過ち』がある。

彼は『家』の権力を、いつしか自分の力だと勘違いした。それを指摘する人間は誰もいない。

他人をアゴで使い、弱り果てさせていく快楽は何事にも代えがたかった!

好きに与え、好きに奪う……彼は、かつて感じていた絶望と無力を忘れた。

どこに出しても恥ずかしい『クズ』の花が咲いていた。

 

そして、その果てに……彼は、恨みを買いすぎた。

13歳。中学1年にして校内代表。県総体を勝利で飾った一か月後。

 

普段、財布とサンドバッグを兼ねて飼っていた少年の目が突然すわった。

この時期、彼はその少年に、家族への危害をほのめかしていた。

そして、その意味を深く考えることもなかった。報いは次の瞬間だった。

 

脊髄に突き立った果物ナイフは、体内で炸裂する熱い塊だった。

それが爆ぜたとき! 全ての栄光は闇に閉ざされた。

 

事業のひとつを台無しにされた父は、すぐさまその少年を訴えて『損』を取り返そうとした。

だが、買いすぎた恨みのためか……

魁が彼に対してした仕打ち、またはそれ以外の素行の証明が次から次へと提出され…

鳴滝家の権力を持ってしてもこの流れは止められず、示談で手を打つことになる。

 

退院した魁は、二度と走れないこと。『力』の源泉を絶たれた事実に怯えながら帰宅した。

だが玄関では、家族が総出で待っていた。父が、母が、左右から歩行を支えてくれた。

 

「父さん、母さん、ぼくはッ……」

「気にしなくていいのよ、魁…助けてあげる」

「これから償えばいい。だから今は、肩を借りていなさい」

 

魁は気が付いた。どうして、あの少年に執拗に当たっていたのかを。

あの少年が陸上部に入る直前、スポーツ用品店で父母と一緒に靴を選んでいるのを見た。

競技用のしっかりしたやつだ。始める前だったのに、何の証も立てていないのに。

それがどうしても許せなかったのだろう。だから『焼いた』のだ。

ゴムの焦げ臭いにおいが今更鼻をついた。

なんて愚かなことを……彼の心を、きれいな涙が洗った。

 

そして、その涙も間もなく枯れ果てることになる!

なぜなら、父と母が両肩を支えて連れて行ったその先は……

 

『絞首台』

 

うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ

 

今度こそ彼は絶望の悲鳴を上げた。

助けとは、償いとはッ! つまりは『これ』だ!

入口と窓とを兄二人がふさぎ、父と母は遺書の執筆を促した。

手は動いてよかった、などと言いながら……

 

「こんなことのために生まれてきたのか、ぼくは!」

「助けて! 助けてください、イヤだ、死にたくない…こんな終わりは嫌だぁぁ!

 靴をなめろと言うならなめます、一生奴隷でもいいです!

 なんとしてもあなたを喜ばせてみせます!だから、だから」

 

その先を言い切らせることなく、父は魁の顔面を机に叩きつけ、言った。

 

「そうか。お前を家族でいさせてやる最後の手段までフイにすると。そう言うんだな?」

「よかろう…中卒までは面倒を見てやる。金も出す! それ以上は何も期待するな……

 わしもお前に『何も期待しない』 最初から間違いだったな……お前の存在が」

「二度と我が家の敷居をまたぐな。顔も見せるな。声も聴かせるな。存在を知らせるな。

 わしを喜ばせたいというのなら、お前がお前を始末するんだ……それなら、喜んで忘れてやる」

 

この日をもって、彼は縁を切られた。私物はすでに焼かれていた。

血を分けた親子の関係を法的に直接断ち切る方法は存在しないため、苗字こそそのままだが…

すこやか市に引っ越した彼は、今なお『死』だけを期待されている。

新たな生活に慣れていくにつれ、彼自身もまた『死』に傾き、受け入れつつあった……

 

……彼が目を覚ます。

不快な話は、ここで締めくくるとしよう。

だが、彼の頭におさまった『DISC』その由来がある『人間賛歌』の世界の法則では。

物語はプラスで終わらなければならない。マイナスやゼロで終わるべきではないのだ。

それは、妖精と力を合わせ戦う、可憐と癒しの勇者たちの物語でも同じはず。

彼のマイナスもまた、あがなわれて、いつかはプラス……果たして、どうなる?

今はまだ、わからない……

この出会いは運命。そして出会いは『引力』……

 

 

 

「あ。目が覚めた、みたい」

 

夢見が悪かった。久々にあの夢を見た。

俺が家を追われた日の夢だ……

それを断ち切ったのはこの声らしい。

数秒して、誰の声かもわかった。花寺のどかだ。

寝ていても仕方ないので上体を起こす。保健室か?

…いた、もう一人。目が合った。沢泉ちゆ……思わず、目をそらした。

 

「起きていたの?」

「いいや」

「そう、まあいいわ」

 

向こうもこっちと話を続けたくはないらしい。

次の瞬間には花寺のどかの方を向いていた。

 

「もしかして、松葉杖探してるの?花寺さん」

「うん。もともと持ってた方はお化けに踏みつぶされちゃってたから」

「お化けのそんな近くまで行くなんて、無茶よ…松葉杖は、そこ。その隣の脇」

「あった!けど一本しかないね」

「誰か使っているのかも…仕方ないか」

 

だが、花寺のどかに歩み寄って松葉杖を受け取った彼女は、

予想外にも手で届く距離にまで寄ってきて、それを手渡してきた。

 

「一本じゃあ帰れないことは知っているわ。手を貸してあげる」

「…。なんだって?」

「あなたのことは大嫌いよ。花寺さんに近づけたくもない。だから手を貸すわ」

「そりゃあ、そうか…すまない」

 

県総体で彼女に声をかけたのは……いや、よそう。

下品以外の何物でもない話になる。むしろそれしかない。

強いて言うなら、堅くて、しなやかな雰囲気が当時の俺を引いたんだ。

『こいつはぜひぼくのものにしたかった』。そう、『もの』だ。しょうもない。

俺はたぶん、その頃と大して変わっていない。ただ失っただけなんだから。

『ぼく』の時代が、まるで他人事のように見えた。

 

「杖は持ったわね。じゃあ、その反対から行くわ」

「お願いします」

 

脇に彼女の手が差し込まれる。

皮肉だ。こんな風になったからこそ触れられるようになるなんて。

思えば、誰かの手を借りて立つのも、入院中以来だった。

こっちに来てからは、誰の手も……

 

オゾ気が背骨を突き抜けていったのはその時だった。

 

呼吸するノドがひっくり返った。俺の中では比喩じゃあない。

体の血が全部逆方向にめぐっていき、心臓に逆らってパンクする。

筋肉がワイヤーになった。張り詰めたワイヤーだ。あちこち切れてはピンピン跳ねる。

俺の中では、全部、比喩じゃあない!

現実に起こっている何かだ!

気が付けば沢泉ちゆを突き飛ばし、床にひっくり返って転がっている俺がいた。

 

「アガ……あが、ヒグッグ」

「……そう。そこまでして人をバカにしたいんだったら、勝手に」

「待って、ちゆちゃん!なんか、変」

 

変。そう、変だ。苦しい。部屋から酸素が消え失せている。

息を吸っても吸っても意味がない。ただ苦しいだけ。

 

これは……スタンド攻撃? F・Fの記憶を読む……該当あり『ラング・ラングラー』!

スタンド『ジャンピング・ジャック・フラッシュ』は無重力のスタンドで、

術中に陥れば周囲から空気がなくなり、やがて気圧差で穴という穴から血を吹いて死に至る。

俺はそうなりつつある! えっ、無重力? あ、いや『ケンゾー』?

 

「何、何やってるの?何もない空中をガリガリかいてる…」

「これって……発作?こんな風に担ぎ込まれた人を見たことある、けど」

「いき…ヒ、ヒ……息!」

 

遠くにならまともな空気があるはずだ!

ホースだ! フー・ファイターズで俺の血からホースを作るんだ!

長さ8mもあれば……それまで俺の血はもつだろうか?

やらなきゃ完全に死ぬ!いや…死んでいいのか?

だが身体も頭も、この恐怖から逃れることでいっぱいだ!

やるしかない!やるしか…

 

「過呼吸だペェ!ゆっくり、ゆっくり浅く息を吸うペェ!」

 

花寺のどかのペンギンがそんなことを言った。

ゆっくりだって?そんなことをしたら俺はすぐにでも死んじまうだろうよ!

死ぬ?死ぬの何が怖いんだ?死んだも同然のくせに。

でも、欲しい死はこれじゃあない……

窒息寸前でそう考えていると、開き直った気分になった。

 

ゆっくり吸った。いっそ呼吸を忘れて死ぬくらいのつもりで。

倒れた俺の目の前で、ペンギンが呼吸の手本を見せていた。

 

「スゥ…ハァー、…………スゥ…ハァー、だペェ」

 

いつしか俺はペンギンの手本に合わせて息を吐き吸いしていた。

次第に、次第に落ち着いてきた……スタンド攻撃の線は、ありえない。

『ラング・ラングラー』だったら、今頃、花寺のどかも沢泉ちゆも、

攻撃された俺に影響されて宙に舞っているはず。

『ケンゾー』は同じ窒息でも苦しみの性質が違う。

こっちはF・F本人が当事者だからよくわかる。

そうなると……あれか。俺自身の問題というわけか?

 

「……ありがとう。落ち着いた」

「よく頑張ったペェ」

「やるじゃあねぇーかペギタン!」

 

会話できるくらいに回復した頃には、三十分以上が経過。

すでに日が傾き始めていた。

花寺のどかも、沢泉ちゆも、この場を去っていなかった。

 

「あなた…どういうこと?

 足が動かないだけじゃあなく、こんな発作も持っていたの?」

「わからない、俺にも……今まで経験がない」

「じゃあ、病院行こう?おかしいよ、こんなの」

「よしてくれ、今はへっちゃらだ」

 

今、病院にかかって診察料を払ったら、おそらく月末直前で食費が底をつく。

元の鳴滝家から振り込まれる金額は限られているのだ。

金額の範囲で生きることを認められている、とも言える。

そうした現実的な理由から断らざるを得ないが、沢泉ちゆは厳然として立ちふさがった。

 

「あなたねぇ……ここで病院に行かなかったら、後で何かあった時!

 居合わせた私たちの責任になるとは考えないの?」

「そんな責任を取れるはずがない。

 そんなことを言ってくるやつの方がおかしい」

「後味が悪いって言ってるのよ。ぐだぐだ言うなら呼ぶわよ、救急車」

 

救急車は実家案件だった。俺は、折れた。

花寺のどかが職員室から失敬してきた傘をもう一方の杖にして、

足のことで行きつけの病院に向かう。

ついてきた二人がそのまま診察までついてきて、かなり詳細に先の出来事を先生に伝えた。

俺はとくに頼んでもいないのに。

というか、俺は途中から下げられて、

二人が出てきたところで入れ替わりに戻る羽目になった。

 

先生が言うには、ストレスに由来するパニック症状が疑われるが、

専門家ではない自分ではどうしようもない。紹介状が必要なら書く……とのこと。

書いてもらったところで、その先はどのみち実家案件だ。

今日のところは断った。明日以降も同じことだろう。

二人には『異常なしだった』とだけ告げた。とくに追及もされず、二人はそのまま帰った。

そして俺はというと…

 

「モノが……全然ねぇ~な。お前んチ」

「冷やかしなら帰ってくれよ」

「あの『力』について聞かせてもらうぜ。

 ペギタンの世話になったんだ。そんくらいの恩は返せよな」

 

ついてきたネコを、自宅に上げちまっていた。

ペット厳禁なんだけど、このアパート……




ペギタンってピストルズNo.5感あるよね

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