プリキュアとの奇妙な冒険‐ようこそヒーリングっど♥へ!‐ 作:アンチマターマイン
少なくとも量はそれだけのものを揃えました。
今回の語り部ものどかっち。
文字数は14000字強。超長ぇ。長いヤツ二話分。
BAOOOOHHHHAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!
ブォ ゴゴ!! ゴォォン
「アハハハハハーーーーッ
ギィーーッハッハッハハハハーーッ」
一瞬でロビーの半分ほどを埋め尽くしたザ・キュアーは
同時に得体のしれない衝撃波を出し始めた。
わたしたちはプニ・シールドで防ぎながら立ち止まるのが精いっぱい。
そのザ・キュアーの頭の上で、ブラッド・フラワーが笑ってる。
ものすごい表情で目をむきながら、笑ってる。
「ありがとう、ありがとうママァァァ~~ッ
おかげで、心おきなく……人間をやめられるわァァ~」
彼女が言ってる先にいるお母さんは、フォンテーヌがかばってるけど……
ああ、へたり込んでオシッコ漏らしてる。
無理もないよね。こんな台風みたいなのに目の前で敵意向けられたら。
でも……なんてことしてくれちゃったの?
『佐久間さん』は最後にちょっとでも話をしようって気になってたのに、
そこに、あんな酷くて悲しい言葉をぶつけられたら。
『どうすんのコレ?近づけないじゃん』
スタンド会話でスパークルが相談してきた。
ひっきりなしに垂れ流されてる衝撃波で、わたしたちは釘付けにされちゃってる状態。
防いでるだけじゃあジリ貧になるのはわかりきってて、
それを聞いてきてるんだよね。
『フォンテーヌから伝言だペェ。
みんなで一緒に必殺技をぶつけるペェ』
ペギタンの声も来る。
必殺技っていうのは、わたしで言うと
プリキュア・ヒーリング・フラワーのことね。
みんなチョットずつ名前が違ってるんで
『殺し』じゃあないのはわかりつつそう呼んでるの。
うん、やっぱりそうなるよね。
これを突破するには、そのくらいしか勝ち筋が見えない。
もうひとつだけ、心当たりがなくはないけど。
『スパークル、確認だけど。
『ムリ!太陽が建物にぶつかっちゃう!最悪、火事!』
やっぱりダメ。単純な攻撃力だったらわたしたちの中で最強なんだけどね。
こういう狭い場所での戦いだと、そもそも太陽そのものが出せない。
出したらそれだけで大勢の人が死にかねない。
強いっていうのは、ただそれだけで危険なの。
そこで、後ろでかばってる鳴滝くんもスタンド会話に参加してくる。
『だがよ、この攻撃はなんなんだ?』
『…うん。わたしたち
テレビだとかソファーは全然壊れたりしてないね』
言いたいことがわかったんで、わたしから言ってしまう。
たぶん、フォンテーヌも同じことを言おうとしてる。
『直感だけど、正体がわかったときには遅い気がする。
今!決めてしまおう!みんなでザ・キュアーを押しのけて、本体を叩く!』
チリ・ペッパーで本体を誘拐して目の前まで連れて来られれば
そこを浄化してオシマイなんだけど……ここが東館ロビーでさえなければ。
ここだけ建物が新しいのもあって、天井が高いの。蛍光灯とかが近くにない!
壁際とかに寄せればイケるかもだけど、ザ・キュアーが動かないとダメ。
つまり、何をどう頑張ってもザ・キュアーを押しのけないと本体に届かない。
あの攻撃の正体が何だろうと、やることは変わらないし変われない。
ただ、わたしたちの全力でザ・キュアーを動かす以外、なんにもないの!
『それがいいラビ。カワイソーで見てられないラビ』
ラビリンもそう言ってくれる。
ちょっと泣きそうな声だった。
あっちゃあいけないことだよね。
お母さんに見捨てられて、人間をやめちゃうだなんて。
こんなひどいこと、ないよ。このまま終わらせたりしない。
『ウン、りょーかいッ!』
『手早く頼む。俺が出来んのはラテをかばうだけ』
『ごめん、耐えて!』
「アゥン!」
鳴滝くんが頭を抱えてうずくまる。
お腹の下に守られたラテが、励ますみたいに吠えてくれた。
やると決めたのなら、時間との勝負だよ!
佐久間さんのお母さんだって、同じように守れなくなるんだし。
一歩踏み出す。みんなの声がそろう。
「エレメント・チャージ!」
ヒーリングゲージの上昇。
みなぎってくるパワーで、衝撃波を
こんな無理やりなやり方、長くは続かない。
それをわかって、みんなやってる。今出せる全部をぶつけるよ!
プリキュア・ヒーリング……
「フラワーーーッ!」
「ストリーームッ!」
「フラーーッシュ!」
シバッ! ギュオオオオオオオム
桃色と青色と黄色。
みんな同時にザ・キュアーにぶつかっていく。
普通のメガビョーゲンだったら、もう倒せてるような威力だけど。
これはただ、敵の盾を押しのけるための一手でしかない。
これでのけぞらせないと、何も始まらないの!
「はぁァァああッ!!」
ぶつかった光の後ろからさらに力を込めて、押す。
何を言ってるかわかんないかもだけど、とにかくそう。
放った光を出し続けての力押し。
「ラビーッ!」
「ペェェーーッ!」
「んニャローーーッ!」
ラビリンも、ペギタンも、ニャトランも必死に押してくれてる。
わたしたちとヒーリングアニマルのみんなでプリキュアなんだから。
みんなの頑張りで、なんとしても押し切るッ
両足を開いて、カカトで踏ん張って。
正眼って言ったっけ?剣道みたいにヒーリングステッキを構えて、
下手をすれば自分自身が吹っ飛んじゃいそうな圧力に耐える。
これならいけるんじゃあないか。そう思ったよ?
こんな威力の攻撃は、今まで全部を振り返ってもしたことがないもん。
チリ・ペッパーの町中の電力を集めたヤツは例外ね……
プリキュアとして、ここまで力を振り絞ったのは、たぶん初めて。
だからいける。押し切れる。
そう思っちゃったこと、それ自体が心のゆるみだったのかなあ?
GOOOAAAAAAAAAA!!
ゴォ バア!
「うぐう!?」
「がッ!?」
「痛ッ…!!」
バシ! ズドォ
少しの間止まってた衝撃波が、わたしたちに殺到してきた。
バランスを崩されたわたしたち。ぶつけていた光も止まってしまう。
「う、ウソ。効いてない?」
「なんてことッ、動きすらもしないなんて」
そして見えちゃったよ。さっきいた場所から一歩も動いてないザ・キュアーを。
上に乗っかってるブラッド・フラワーも、
わたしたちをあざけ笑うみたいにして見てる。
なにひとつこたえてない。
…ううん、強いて言うなら、ひとつだけ違いがあるよ?
それはね……
「ま、まずいわ」
「フォンテーヌ?」
「さっきの、みんなの力を振り絞った攻撃が…
ただ、受け止められるだけに終わってしまったというのなら。
ザ・キュアーはあの威力をすべて吸収したことになる……」
ザ・キュアーが、もっと大きくなってたの。
あのね、わからないでやってたわけじゃあないよ?
現実として、取れる手段が他にないからやってたの!
だから、みんな防御の態勢に入ってるわけで。
プニ・シールドも以心伝心で即座に張れたけど。
「しゃらクセええぇぇェのよ、小娘どもがァァーーーッ
ヒトの間にィ、入ってるんじゃあねェェェーーーーッ!」
ブワッ ゴォバ!
ブラッド・フラワーの声と一緒に飛んできたそれは、
到底耐えきれるものじゃあなかった。
桃色と青色と黄色の光が、
瞬間で、みんなのプニ・シールドがパンと音を立てて割れた。
そこから先を見てなんていられない。
ミキサーに放り込まれた果物の気持ちがちょっとだけわかった。
威力がズタボロにわたしたちを刻む。
ビョーゲンズを貫いて、エレメントさんだけを救うためのパワーなんだけど、
その威力だけを増幅してぶつけると、こんな
どういうつもりであっても、さっき、わたしたちがしたのは、それだったんだ。
ドシャア
変身が解けた。
もみくちゃにされてる中で変身が解けなかったのは幸運でしかない。
もしそうなってたら、今頃バラバラの死体になっていたかも……
全身が痛いけど無視して立つ。今のわたしにはプリキュアの防御力すらない。
すぐに変身し直さないと、ただ殺されるのを待つだけになっちゃう。
「ド畜生ッ!」
ダダッ!
ドン ドン! ドバァ
横を鳴滝くんが走っていった。
F・F弾を横走りしながら撃ち込んでる。
変身するまでの時間を稼ごうとしてくれてて、それはなんとか間に合った。
ヒーリング・ステッキがみんな手元にあるままだったから、
30秒くらいで元通りにはなれた。
ブラッド・フラワーが鳴滝くんに目を向けただけの時間があれば、
結果的に十分だった。
でも、みんなダメージが隠せない。
力を出し切ったところにあんな目にあわされて、
そこからすぐに再変身じゃあ……ガソリンが空っぽの車に近い。
それに、ブラッド・フラワーも別に下手を打ったわけじゃあなくって……
すでに影響なんかないから、見逃していただけだったのかも。
だって、それからすぐに。
衝撃波が、また始まった。今度は防御できない。
みんな、まいっちゃてたし、態勢をとれなかったっていうのもあるけど……
一番の理由は、ブラッド・フラワーが狙っているのは…明らかに、お母さんだった。
「贈り物をあげるわァァァ、
喜んで受け取ってよママァァァ~~~ッハッハッハハハ!」
わたしたち四人、一斉に、佐久間さんのお母さんの前に割り込んだ。
押し寄せてくるものが、わたしたちみんなを打ちのめす。
体に浸透してくる。たとえるなら巨大な音。おなかと頭の中で跳ね回ってる。
「うぐうううううううッ!!?」
「がはッ!!」
「ウアアアアあああッ」
「ぐええええ…ッ」
プリキュアのみんなだけは肩を組みあってなんとか耐えた。
お尻で後じさりしてる佐久間さんのお母さんと、
仰向けにひっくり返った鳴滝くんを、なんとかして守らなくっちゃあいけない。
でも、それ以上の何もできない。もろにくらったまま身動きが取れない。
「わ……わかってきたわ、この攻撃がなんなのか」
「フォンテーヌも?」
「最初っからさぁ~~わかってたことじゃん?
ザ・キュアーが受けた攻撃丸ごと返してくるなんて……
でも、そんなのワカンなくったってさぁー、イヤでもわかるよコレ」
フォンテーヌとスパークルの、衝撃に揺さぶられて揺れる顔から涙がこぼれる。
それがゆがんで見えるのは、わたしも同じだからかな。
「だってさぁ。ツライ…悲しい。痛い」
スパークルが口に出した言葉に、わたしも心に浮かぶものがあって。
同じように口に出せば、疑いがはっきりと確信に変わった。
「『痛いほどの悲しみ』
この攻撃は、悲しみからくる痛み!」
「焦がされる!内側からッ」
フォンテーヌの悲鳴と一緒に、おなかと頭に反響するものが具体的になっていく。
声が聞こえるし、見えもする。一番目立つのは、やっぱりこの声。
『あんたなんか、私の娘じゃあないッ!!!』
これだけでも打ちのめされるくらい痛いんだけど、ホントの辛さはその奥なの。
衝撃から景色が伝わってくる。音も、言葉も。
小さな視点が、女の人を見上げてる……テーブルにはケーキがある。
『あやか、お誕生日おめでとう』
ケーキに手を付け始める前に、女の人が目の前にグッと迫ってきた。
手にはキレイにラッピングされた袋を持ってる。
『ほら、プレゼントよ。開けてみて』
小さな視点の手が動く。受け取って、開ける。
ワクワクもドキドキもしてない。
そこに何があるのか、開ける前からだいたいわかっていたから。
『参考書とドリル』。誕生日のプレゼントは今年もそれ。
『そろそろ中学受験を意識しなくっちゃあね?
お医者様になるんだもの。ママね、少しでも力になりたくって』
『プレゼントもいいが、ケーキ食べよう。
パパはもう待ちきれなくてなあー』
『コラ、ただし!アンタのお祝いじゃあないのよ。
まったく、いっつも…見なさい、あやかの行儀のよさを。
アンタもちょっとは見習うといいんだけど?』
『そりゃあねえぜ。母ちゃん』
アッハハハハハハ……
みんな笑っているけれど、
そっちに行ったら。今日のこの場に穴をあけたら…ママが、悲しむから。
一度だけ、プレゼントを嫌がったことがあるのを思い出す。
そのときの、みんなの顔を思い出す。
翌日、友達がくれた誕生日プレゼントのビーズアクセを見た。
ふと、涙が出てきた。
その意味を、
次に見えたのは、クラスメートの男の子。
お互いに顔を知ってる程度だった間柄の彼は、
バレンタインデーになぜか唐突に
シャチホコばった顔でアベコベなことをしてきた彼に何か返してあげたくて。
思い出し笑いをしながらキャンディーを自作していたら……
『ありがとうね、あやか。
私たちのために、ここまで気合を入れてくれるなんて』
『いやー、パパとママの結婚記念日を覚えててくれるとはなあ』
全部、食べられた。ホワイトデー前日の夜に。
『でもね、あやか。
あなたには、もっともっと大切なことがたくさんあるわよね?
ママもパパも、あなたの邪魔にはなりたくないの』
『おー、そーだな。
あやかの夢が叶えば、それが最高のプレゼントになるなあ』
『来年は高校受験よ。ママ、あなたのためにね、この……』
そして好意で差し出してくる、学習塾の特別コース。
それが『夢』をかなえるのにどんなにスバらしいかを寝る前まで語られて。
結局、他の何かで埋め合わせることもできず、無視した形になり……
彼とはそれきり、疎遠になった。
思えば、このあたりからかもしれない。
次に見えたのは、封筒の中の白い紙。不合格通知。
休日の昼間にそれを受け取った
数日前から今か今かと待ち受けて家からも出ようとしないママに、
長時間の時間稼ぎの末に手渡さざるをえなかった。
『……何を間違えたのかしら、あやか』
目がスッと座ったママは、その場で
今までのノートも、勉強に使った参考書も全部。食卓の足がきしんだ。
『ダメじゃあないの。あやか。
一度間違ったところでまた間違っちゃあ。
ダメじゃあないの。あやか。
似たような問題を落としちゃあ。
ダメじゃあないの。あやか。
この設問は、前年度の……』
うすうす感づいてきていた。
身が入らなくても、真面目にやっているからこそ。
このひと、なんにもわかってない。
それを、どうしてこうもわかったフリができるの?
でも、お医者様になれば、きっと変わる。そのために、
……後になって気づいたけれど、
自分で信じられもしないものに、ただすがりついているだけだった。
ああ、それでも。それでも
小さい頃のことを、ずっと覚えてるから。
お医者さんになりたいって言って、すごく喜んでくれたときの顔を、
「グレースッ、気をしっかり持つラビ!」
「……あッ!?」
ラビリンに呼びかけられて引き戻される。
衝撃が伝える景色に、心を持っていかれかかってたみたい。左右を見る。
歯を食いしばるフォンテーヌがいた。
ボタボタと涙をこぼすスパークルがいた。
見たものは同じみたい……
ううん、ザ・キュアーは正確に反射して返すわけじゃあない。
『これ』がただまき散らされているだけだっていうのなら、
少しずつ違うものを見ているかも。
それは、わたしたちの後ろにいる鳴滝くんと、
ラテに……『ママ』も同じってこと。
鳴滝くんがちょっとひどいなぁー、
突っつかれたダンゴ虫みたいに丸まっちゃってて、
ラテがそこに巻き取られちゃってる。守るって意味ならいいかもだケド
問題は、『ママ』の方……
「ギャアア!!
うああ、ヒィ!?」
ドガ バシッ ガン ガンガンッ ゴガッゴガ!
床を両手で叩きながらのたうち回って、頭までガンガンぶつけてる。
「あの反応。確定ね」
「うん」
わたしたちと同じ衝撃に、同じものを見せられてる。確実に。
どんな苦しい思いをさせられたかを無差別に投げつけられてるわたしたちだけど、
あっちは本人だよ。犯人、っていう意味での本人。
避けようも、ごまかしようもなく見せつけられてるんだよ。
自分のやってきたことは何だったのかって。すごく、おそろしいことだと思う。
止むことのない衝撃の中で、わたしたちに気づいたみたい。
ふと目が合うなり、身をよじりながら聞いてきた。
「あ、アナタたぢィ…
『正義のヒーロー』お゜ッ!?よねぇ?」
「…そのつもり、ですけど」
うなずいたけど、警戒しつつになった。
この人からは、ろくでもない雰囲気しかしてなくって。
承太郎さんの記憶で、けっこうよく見る人たちと同じ目をしているの。
追い詰められた人間なら、多かれ少なかれ誰にでもあることなのは忘れちゃあいけない。
それでも。
「な、なら。なら、ァッ!
殺しなさいッ あのバケモノを!
ヒトのォォ思い出をォォッブ!
キレェイな思い出をォォ汚すッ、
掘りィ返してェェェドロォぶっかげてェェくるゥ…
あのヴぁゲモノぉぉをォォ、
殺べェ、ころびゅなザイイイィーーーッ!!」
こんな物言いを受け入れる筋合いは、ない。
このひとは、さらに罪を重ねた。
「あやァァがガぁぁぁこォンなゴドッ!?
クォンなゴド考えるワァゲがァァァないィ!
がッ、ウギィ!?
あやがァァァのジィィあばゼェェはァ、
あだじィィィの、じばッ!?あぜなァのよォオ!?
ごォォォンなのあやガじゃあァなびぃぃぃ!
バァゲモノぉぉお、この、ヴァげェェ」
「黙りなさい!!」
わたしが何か言うよりも先にフォンテーヌがキレた。
片手で無理やり……たぶん、残る力を振り絞って
プニ・シールドを張りながら、後ろを振り向く。
わたしとスパークルも同じことをやっている間にも、言葉は止まない。
「あのひとが化け物だっていうのなら、あなたは何よ?
『人でなし』じゃないッ!!
都合が悪ければ、消えてしまえとでも言うの!?」
「グッ……グぉの!?
アンダにィ、アンダにィィ何がわガァるッでェのよ、
母親の苦労ォが、気持ォぢがッ、
「ふざけんな」
今度は、スパークルがキレた。
というよりも、とっくにキレていたのかも。
大声を出しているフォンテーヌよりも、ずっと怖い。
「謝れ。あやかさんに」
「…なによ、アレはただのバケモ」
「あやかさんに謝れよ、
そして、怖さがそのまま大声になった。
脅しつけてるわけでもなんでもない。
スパークルは泣いてる。泣きながらとんでもなく激怒してる。
今まで見たことがないくらいの、むき出しの怒りだった。
鳴滝くんがポルナレフさんに負けて『死んだ』ときもこのくらい怒ったかもだけど、
あの時の冷たい怒りとは、ちがう。
「アンタ、ママなんでしょ?あやかさんのッ
聞こえないの?あやかさん、泣いてんじゃん!!
それなのに、なんでアンタはッ……そんなッ、ヒドイことばかりぃぃ…ッ!!
ママって…ママ、って……そんなんじゃあ、ないよおおぉおお」
怒鳴りながら、最後の方は言葉になってなかった。
泣き崩れるみたいに膝が抜けて、その場にくず折れた。
わたしは、なんとなく思い出した。
そういえばひなたちゃんのお母さん、見たこともないし、聞いたこともない……
それを気にする時間は、いきなりなくなった。
ググ… パキ! ズバァァーーーーッ
くず折れたスパークルのプニ・シールドが破られて、
ザ・キュアーの『衝撃』への守りが、決壊したの。
わたしとフォンテーヌだけじゃあ、支えきれない!
また、わたしたちは内側から蝕み焦がす渦の中に呑み込まれた。
今度はかばう時間すらもない。みんな等しく巻き込まれてる。
「ど……どうすればいいのよ?
私たちの攻撃はすべてが効かない、吸収されて返されるッ」
「…勝ちの目があるとするならば!
『皇帝』の曲がる弾丸で本体を狙い撃ち、射殺することだ……!
人間の本体が死ねば、残るは貧弱なデミビョーゲンだけ……大したことがない!」
「ッ……ペェーーッ!?」
心を真っ黒に塗りつぶす渦に耐えながら、ひどいことを言い出した鳴滝くんに
ペギタンが信じられない、って感じの悲鳴を上げたけど。
「だが、こんな勝ち方を良しとするお前らじゃあないよな?
なら、弱点だ。つけ入るスキを見つけるか、
この攻撃を止める方法を探すしかないぜ……俺には、わからんッ!
お手上げだクソがッ!」
『だけどね、最後の手段として検討せざるをえないね。
このまま死ぬまで追い詰められれば、全てが終わる……
もうまもなく、あたしたちはそれをやるしかなくなる』
鳴滝くんだってやりたくないし、F・Fだってやりたくなんかないんだ。
でも、このままだとわたしたちプリキュアはオシマイで、
オシマイになったらビョーゲンズも、ホワイトスネイクも止める人間がいなくなる。
打って出るしかないんだ。選択の余地がなくなる前に。
でも、どうやって?
何も考えずに押し切ろうとしたさっきが、あのざまだったんだよ?
力を無駄に消耗しちゃうだけに終わっちゃった……だから、考えなくちゃ。
ザ・キュアーを押しのけて、弱い本体に浄化をしかけようとしたのは間違いじゃあなかった。
でも、もう今のわたしたちにそれを実行できるだけの余力はない。
だから、鳴滝くんのいう通り、弱点を突き通すだけが現実的な勝ち筋になるけど。
その弱点は、何?
……ダメだよ、わたしだけで考えちゃあ!
プリキュアはわたしじゃあない。わたしたちなんだよ?
「…………あッ」
「どうしたラビッ?」
「さっき…スパークルが、言ってたこと。
あやかさんが、泣いてる。って」
「いッ…言った、ケド!どーすんの?」
スパークルの言葉が、パズルのピースだった。
それを当てはめて考えてみれば、出てきた答えはあまりにも当たり前。
どうして、こんなことに気づかなかったの?
「ザ・キュアーの能力が、吸収したダメージを回りにまき散らすことで。
今の『これ』が、お母さんの言葉で受けたダメージだっていうのなら……
やっぱり、佐久間さんは泣いてるんだ。今、こうやって」
「言ってることはわかるけど、どういうことラビ?」
「泣いてる人を殴って、涙を止められると思うの?
むしろ、悲しみが増していくだけ!痛みが積み重なるだけ!」
「……グレース、あなた、まさか!」
フォンテーヌが、最初に感づいてくれたね。
無茶だって言われたら言い返せないし、その通りなんだけど。
プリキュアであって、スタンド使いでもあるわたしたちには、
きっと、これが答えなの。
「なら、その『逆』をやる!
ザ・キュアーがダメージをわたしたちに返してくるっていうことは!
わたしたちが、悲しみと痛みを受け止めてあげられるっていうこと!」
「ッ……はっきり言う!
お前の言ってることは寝言だぞ、グレース!
今でさえ耐えきれないこんなものを、あえて全部受け入れるのかよッ」
「耐えるだけじゃあ、ダメだよね。だから」
わたしが、立つ。一緒に、スパークルも立った。
立って、巨大なうなりを上げ続けるザ・キュアーに向かって腕を広げてる。
「あやかさーん!めっちゃスゴイじゃん!
何年も何年もずーっとガンバり続けて、弱音も吐かないなんて。
でもさ、そんなの耐えらんないよ。あたしだったらムリ!
だからさぁー、思いっきり吐いちゃえ!暴れちゃえ!
あたしたちが、みーんな聞いたげるからさ!」
さらされるだけで死にたくなる衝撃を受け止めながら、
スパークルは、ちょっと遅れて隣に立ったわたしに微笑んだ。
だから大好きなんだよ。
「こーいうコトだよね、グレース?」
「…うん!心が痛いのなら、お手当てするの!」
「わかったラビ!
痛いの痛いの、飛んでけー、ラビー!」
「なるほどね。悲しみからくる痛みなら、悲しみを減らす。理屈も通ってるわ。
でも、それ以上に……私たちが、プリキュアであるのならッ!」
フォンテーヌも、じりじりと前進しながらわたしたちに並んだ。
もう、残された力はほとんどない。でも、勇気はさっき以上だよ。
三人並んで、ボロボロの名乗り。
「地球をお手当て、ヒーリングっどプリキュア!」
「……。心を破壊したら!みんな死病に冒してやるわ…肉も、骨も!
腐れた血に蝕まれて脳まで溶けろ、プリキュアども!」
ザ・キュアーの瞳が光る。黒い衝撃が積み重なって襲ってくる。
まるでドラゴンが吐く炎みたいに……
でも、それがいいの!それがわたしたちの狙いなんだから!
攻撃しない。避けもしない。プニ・シールドも使わない。
全部受ける。受け止めてあげる。
ただし、心は飲み込まれないように、必死で叫ぶよ。
衝撃を通じて浮かんでくる光景の中に、お手当てを届けるの。
「ホントはドールハウスが欲しかったラビ?
なら、今からでも怒っていいラビ!
話を聞かないヤツが悪いラビーッ」
「ケンカをして悩んでるのに、どうでもいいなんてヒドイペェ。
でも、誰も頼らないで仲直りできたなんてエライペェ。スゴイペェ」
「塾が変わったせいで古い友達もいなくなっちまったのかよ、ひでェーよなぁ。
そんな中でよく耐えたなぁー、コレ。オメー、すげえよ。胸張っていいんだぜ?
モンク言うヤツぁハッ倒してやんぜ、オレがよ!」
「……私なら、とっくの昔に折れてしまっているわね。
勝手な理想を押し付けてくる人たちに縛られて。
そんな中で、あなたは自分の理想を見つけられた。強いわね、本当に」
倒れそうな自分を奮い立たせて、みんなそれぞれの言葉を重ねるごとに、
衝撃がひとつずつ消えていく。衝撃の圧力が、少しずつ減っていく。
たまに失敗して、威力を増してくることもあるけど、
それでも言葉を尽くすとウソみたいに消えていくやつもあって。
ふと後ろに意識が向くと、鳴滝くんの声が聞こえた。
「どこ行くんだ?」
「に、逃げるのよ…当たり前でしょう?
一般市民に何ができるっていうのよ、ヒーローの仕事よぉ」
「逃げるか。ま……俺に止める資格はねぇーけど。
でも、一個だけ忠告しとく……聞けよクソがッ!」
ドドン!
無視して逃げようとした背中にF・F弾を撃ち込んだみたい。
ドサッ、て倒れた音が聞こえた。
「思うに、あんたは…わかってしまったから怖いんだ。
あんなものを見せられて、何をしたのか理解しちまったからこそ逃げたいんだろ」
「何よ、この小僧ッ…知ったフウなクチを」
「知ってんだよ。だから言ってる……
なぁ、だがよ。今ここから逃げられはすると思うぜ?
だが断言する。知ったことからは逃げられない。
そいつは、たぶんいつまでもあんたの背中を追ってくるぞ。
だって、あんたはバカじゃあないんだから…もう」
「アゥン!…ガウッ」
ラテが怒った声を出してる。
佐久間さんのお母さんが、観念したみたいに調子を落とした。
「……。私に、どうしろっていうのよ?」
「そーだな、ひとまず……あいつらのマネでもしてみたら?
今が瀬戸際ってやつだと思う。慎重にやってくれよ」
「…………わからない。わからないわ。どうすればいいの?」
後ろばかり気にしているわけにはいかない。
業を煮やしたっていうのかな?
ブラッド・フラワーが号令みたいに手を振るうと、
ザ・キュアーがズシンと前進してきた。
「予定変更。そんなに病死したいなら今やってやるわ」
「グッ……姿勢を変えないで前進してくる。
スキがないわねッ……」
衝撃だけなら、今はなんとか耐えていけているけど。
接近されて組み付かれたら、死病を移されてそこで終わりになっちゃう。
じりじり下がっていくしかないけど、追い詰める先も工夫されてる。
通路側じゃあなくって、ロビーのカウンターに向かわされてる。
逃げ場がなくなれば、接触される。
どうしよう……かなり切羽詰まって悩んだとき。
後ろから誰か、来た。鳴滝くんじゃあない。衝撃が一瞬、やんだ。
「ハァ?なによ…今、殺されたいわけ?」
忌々しそうに唾を吐いたブラッド・フラワーが見下ろしているのは……
佐久間さんのお母さん。わたしたちを追い越して、前にじりじりと出ていく。
フォンテーヌが驚いて、一瞬止めようとしたけど…結局は見送って、見守る。
「あやか。私はね……田舎生まれで、都会に出てきた子だったのよ」
「……。ハァ?」
「流行もオシャレも、なんにもわかってなくて、
よくクラスの子にバカにされたわ。田舎者、芋女、って……
勉強も、バカにしてくる子たちの方がよっぽど出来て、逃げ場がなかった。
私は、そんな思いをあなたに味わわせたくなかったの」
ズドゴォン
無言のまま、ザ・キュアーが前足を振り下ろした。
構えていたフォンテーヌが跳んで、ギリギリのところで助ける。
その腕の中で、佐久間さんのお母さんは続けた。
「だから、あなたが偉くなるために、なんでもしようと思ったわ。
3歳の頃、あなたがお医者様になりたいって言ってくれたとき、
涙が出るくらいに嬉しかった……
あなたのために頑張るって気持ちが誇り高かったわ。
でも、それは…ただの押し付けだったの?
……そう、言っていたわよね。さっき」
「私があんたに期待するのはひとつ。押し付けた花とともに死ね」
「そう……そうなのね」
ブラッド・フラワーの答えに何か見出したお母さんは、
フォンテーヌの手を振り払って、また前に出て行った。
「私は、あなたを…殺されたも同然の扱いにしてきたのね。
なら……あなたが、私を殺しても」
「バカじゃあないのッ!?」
ズズ ン
また振り下ろされたザ・キュアーの前足から、
さっきと同じようにフォンテーヌが助け出す。
思い切りどやしつけながら。
「娘さんを母親殺しにするつもりなのッ、あなた!
そんな人生は真っ暗闇よ!それでもいいっていうのッ」
「だ、だって…もう、出来ることは…これくらいしか」
「あるよ!たくさんあるじゃん!」
スパークルが、フォンテーヌの前に立ちながら、
ヒーリング・ステッキをザ・キュアーに向けた。
「あやかさんは、これから元に戻るの。
悪い心だけを大きくされた、カワイソーな姿から戻るんだよ。
それからお話すりゃあいいっしょ!」
「……!!」
佐久間さんのお母さんは、打たれたみたいに目を見開いた。
それから、いそいそとフォンテーヌの手から離れて、
今度は前に出ることなく後ろに下がった。
「みなさん」
「はい」
みんなそろっての返事になった。
そこから先に続く言葉も、すでにわかった。
「助けてください。
私の娘を、どうか助けてください……
こんなこと、今更言う資格はないのですが。どうか」
わたしたちの返事も、当然、決まり切ってる。
「助けます!」
「アゥーン!」
しっかりそろったみんなの声に、ラテも合わせた。
あっ、鳴滝くんも前に出てきた。
カッコつかないもんね後ろに下がってちゃあ。
うん、いいよ。一緒に戦おう?
「あんたら…なんにも解決してないのがわかってないのォ?
あんたらに、私のザ・キュアーを止める術はなイイイイイイ!!」
また、衝撃の嵐が始まった。
スパークルとフォンテーヌがそれぞれ脇に跳ぶ。
鳴滝くんも、結局また後ろに下がった……
衝撃をもろに受けるのはわたしだけ。みんな、わかってくれてる。
これを受けるのがわたしだけということは、
言葉を届けるのも、今はわたしだけ!
「佐久間さん。ありがとう、わたしを見守ってくれて。
わたしのわがままに、いつも寄り添ってくれて。
あなたがいてくれたから、わたしは不安に勝つまで耐えられたんだよ?
お母さんもお父さんもいない、心細い夜を越えられたんだよ?」
「うるさい…黙れ」
「あの日の弱かった、守られてたわたしは、今、強くなれたわたしなの。
だから……佐久間さんが弱っているのなら、わたしに守らせて?
あなたがしてくれたお手当てを、わたしもしたいの。
あなたがしてくれたみたいに」
「黙れと言ってンのよォォォ!」
ザ・キュアーの前足をかわす。
動きが読みやすい。ブラッド・フラワーの目に『何か』が混じってる!
「大切な憧れだから、守りたいの!
あなたも、わたしも、みんなも!」
わたしのヒーリング・ステッキが光りだした。
やろうとしてこうなったわけじゃあないけど、高まる力は不自然じゃあない。
思うまま、あるがままにステッキを掲げる。
セットされていた花のボトルが、別の何かに変わっている。
「こ……これは?」
「わからないラビ。でも…エレメントさんが力を貸してくれたラビ!」
「エレメントさん?」
「デミビョーゲンの中に取り込まれてるエレメントさんラビ。
一瞬、締め付けがゆるんださっき、力を送ってきてくれたラビ」
「……うん!」
見れば、フォンテーヌも、スパークルも、
ヒーリング・ステッキに同じボトルをつけていた。
羽ばたくような翼を持った、不思議なボトルを。
そしてもっと不思議なのは、誰に何かを言われなくとも、
これからするべきことがパッと理解できたことだった。
示し合わせたみたいに、三人、まとまって立つ。
「トリプルハート・チャージ!」
ただの力なら、攻撃ならザ・キュアーには効かない。
今までと同じようにまとめて取り込まれて、跳ね返されるだけ。
でも、今から放つこれは違う。
これは攻撃なんかじゃあない。本質が根本的に違ってるの。
「届けッ!」
「癒しの!」
「パワーッ!」
シュバァァァァァ
ギィィィィ…… ン
ボトルを手の平で軽く叩き、ステッキをみんなで天に向ける。
きらびやかな光があたりを取り巻いたと思うと、
このボトルに込められた大自然の力があたり一面に具現化していく。
たとえるなら、超巨大な森のスタンド!
でもこれは、スタンドでもなんでもない、純然とした癒しのエネルギー。
星をむしばむものを取り去る、言ってしまえば『治療』そのもの。
みんな一緒に杖を一点に向ける。狙うのは、ザ・キュアー。
「プリキュア・ヒーリング……オアシスッ!!」
ドキュオオォォン
わたしの桃色、フォンテーヌの青色、スパークルの黄色。
三つの光が渦巻いて、ザ・キュアーを撃ち抜く。
撃ち抜かれても穴なんか開かない。
ビョーゲンズの影響下にある、ただのスタンドだから!
その影響が、癒しのエネルギーによって浄化されていく。
ビョーゲンズの汚染源と化していた、ザ・キュアーの中の『病原』までも。
恐竜みたいなサイズになっていたザ・キュアーは、
それから10秒も経たずに、手乗りウサギと化してしまった。
「あ……れ。なに、こ……れ」
そして、スタンドが浄化されたということは、本体が浄化されるということ。
飛びのいてかわしていたブラッド・フラワーはその場ですとんと崩れ落ち、
プスプスと黒い
サソリみたいな黒い尻尾が抜け落ちて砂になり、頭のツノにもヒビが入った。
「く、クソ……せめ、て、アンタからは、奪ッ」
うつろな目がとらえ続けていたのは、佐久間さんのお母さんだったけれど…
掲げた腕から何かを放つよりも先に、お母さんの方から駆け寄ってきて。
少しシワのある手で、正面からギュッと抱きしめられて、止まった。
「ごめんなさい……
ひどいことをして、ごめんなさい。
何ひとつ、聞いてあげないで、ごめんなさい……
あなたの幸せは、あなただけのものよ」
ブラッド・フラワーの顔が、ふにゃっ、とゆがんだと思うと。
目からスッと涙がこぼれて。
「いまさら。いまさらッ……ふぁぁぁ……ッ」
小さな嗚咽を漏らして、光になって消えていった。
後に残ったのは、どうやら無事な佐久間さんと、草のエレメントさんだけ。
「お大事に」
わたしたちは、ちゃんと見送った。
光の粒が、すべて消えきるまで。
ザ・キュアーが精神に由来するダメージを返してきてますが、
精神ダメージが肉体にダメージを与えてくるのは現実にあることなので、
ストレスや負の感情があまりに巨大なら、ザ・キュアーの能力適用内に入る。
そういう解釈の上でこのお話を書いています。
あと、プリキュア・ヒーリング・オアシスの本質が
癒しのエネルギーうんぬんというのは本作独自設定になります。
原作とは発現の経緯が違うので、性質も異なっていると解釈ください。
ご意見、ご感想、誤字脱字報告、ここすき等、ぜひよろしくお願いします。
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