プリキュアとの奇妙な冒険‐ようこそヒーリングっど♥へ!‐ 作:アンチマターマイン
アクセルとブレーキ踏み間違えるとか自分がやるとは思わんかったわ。
車だけで済んだのはむしろマイク・タイソン以上にラッキーだった。
いろいろあって書くどころじゃなかった感じですが、
遅れ気味とはいえ今回もそれなりの量はあります。
今回の語り部ものどかっち。最近のどかっちばっかり。
文字数は11500字弱。標準量の話、2話分。
こういうムラッ気も考え物ではある。
戦いを終えたわたしたちがまず最初にやったのは、現場からの離脱だったよ。
警察が踏み込んでくる直前の間一髪で決着をつけられたみたい。
佐久間さんも、佐久間さんのお母さんも、
あの場に残したらとんでもなく面倒なことになるよ。
鳴滝くんがさっき撃ち込んだF・F弾を繁殖させて、
肺を圧迫して佐久間さんのお母さんに気絶してもらってから、
チリ・ペッパーでかなり離れた公園に出た。
あっ、変身は解いてないよ。解けないよ。佐久間さんたちがいる限り。
それと重要なこととして…DISCは、すでに回収を終えている。
「管制室っつったっけ?
監視カメラ取り仕切ってる部屋の電気系、丸ごとブッ壊したからよ。
顔バレも声バレもねぇーと思うぜ」
「ありがとう、ニャトラン。
でも、被害総額はいくらになるのかしら……
最後の手段ってことだけは、忘れないようにしないとね」
一番怖いこと……わたしたちの顔バレは、ニャトランが直前で潰してくれていたの。
ダルイゼンとにらみ合ってる間に、もう手段を選ぶ暇がないって判断して、
病院の中を監視する仕組み、全部もろとも吹き飛ばすっていう方法だけど……
場所は、あらかじめ鳴滝くんと調べておいてくれてたみたい。
「苦労ついでだがよ。
今のうちにラテを病院の屋上とかに入れて、
嫌な予感の元を探せねーかな」
その鳴滝くんが、悪いけど…って感じでニャトランに提案する。
「警察の目は東館ロビーだけに集まってる上に、
監視システムもみんな死んでる。
しかもダルイゼンとの戦いでかなり派手な破壊音が鳴ってるぜ…。
可能である限りの人間は避難しちまってるはずだ」
「スキをつくなら今、ってコトかよ。納得だぜ。
んじゃあ、ラテ様チョット失礼。屋上から探すゼ」
「アウン!」
元気に吠えたラテが電気になってコンセントに引き込まれていく。
本来の目的だけど、ラテとニャトランに頼り切りになるしかなさそう。
こっちはこっちでやることがあるんだもん。
まず最初に、一緒に来てもらったエレメントさんにお話しを聞かないと。
今回はプリキュアのままだから、いつもの聴診器はいらない。
「エレメントさん、お加減いかがですか?」
「ありがとうございますプリキュアさん。ワタシは大丈夫です。
あやかさんのことも助けてくれて、ありがとうですよ」
草のエレメントさんだけど、佐久間さんのことを知ってるの?
そういえば、スカー・ティシューのときの雷のエレメントさんもそうだったっけ。
あの場合は、住んでる家が同じだったはず。
素直に聞いてみたら、とくに返事を渋る理由もなかったみたい。
「あやかさんのテーブルヤシさんに宿らせてもらってます。
この土地に引っ越してくる前からお世話してもらっていたんですよ」
「へー、あやかさんチの子だったんだ」
「はい。だから知っています。
あの人はどれだけつらくても、ワタシたちへの水やりを忘れませんでした。
自分が乾いて飢えていても、誰かに水をあげられる人なんです」
うん。わたしも知ってる佐久間さんだよ。
わたしに会って変わったんじゃあなく、元からそれが本質なの。
「聞いてもいい?さっきのボトルは……」
おずおずと手を挙げてから聞くフォンテーヌ。
確認はしないとね。正体がわからないままはちょっと。
「ミラクルボトルですね。
それが皆さんの手元に現れたということは、
皆さんにそれを使う資格があるということですよ」
「あなたがくれたんじゃあ、ないの?」
「ワタシは、やっとのことで皆さんに力を送っただけなんです。
ほんのわずかでも力になれたらって……
それが、そのボトルの形になったんです。ワタシもわかりません」
「そう……」
困惑気味に引き下がったフォンテーヌに、
ヒーリング・ステッキから顔を出したペギタンが笑いかけた。
「これは、プリキュアの新たな力だペェ。
苦しめられているエレメントさんやヒトを助けられる、
癒し『だけ』のパワーだペェ。それだけは確かだペェ」
「そーだな。ザ・キュアーに吸収されなかったということは!
あれは『攻撃』じゃあない……むしろ『回復』のみの性質なんだろうよ」
「つまりぃ、どゆこと?」
首がナナメに傾いたまんまのスパークル。
とくに気にすることもなく鳴滝くんは答えていく。
「俺の予想が正しければ、だぞ?
あれは対ビョーゲンズの『特効薬』だ。
他の何も傷つけず、ビョーゲンズだけが吹き飛ぶッ
そういう性質の技だと、俺は思うね。思うだけ」
「そっかぁ……ン?ってぇーことはぁー。
キュアスキャンしないでいきなしブッパしても勝てちゃうってコト?」
「ブッパ…あ~~予想が正しければ、な?予想が正しければ!
検証すん…オホン、確かめんのはお前らなの、OK?
確かめねえでやらかしたら死ぬほど後悔するぜ」
「ウッ……そりゃあ、そっかぁ~~
オイオイやってこーじゃん?」
「そーしろ」
必要なこと、みんな言ってくれてウレシイな。
不安がる必要もないけど、わかんないまんまじゃ使えないし。
特効薬っていうなら、効果だとか安全もキチンと確かめないとね。
そう思って、わたしからも言うよ。
「しばらくは、ビョーゲンズが出たら使っていこう?
今まで通りにキュアスキャンしながら、効き目で確かめていこうよ」
「それしかないでしょうね。治験って言うべきかしらね…」
ビョーゲンズにしてみれば迷惑だろうけど。
今日ほどヒドイ目に遭わされれば、そんなこと考える気もなくなるよ。
あのDIOも、人間を投げつけて飛び道具扱いにしたり、
警察の人の手足を力づくで動かして銃を撃たせた後、
ゴミみたいに殺して捨てたりしてた。
今日、わたしや巻き込まれた人たちがされたことは、それと同じなの。
あんな、人の痛みをわかる気もない仕打ちを許すわけにはいかない……!
そんな風に拳を握ってたんだけど。
別の事情で、同じ思いを抱いている人が、もう一人いた。
「あ、あやか」
「触らないで。近寄らないで」
聞こえてきた声にみんなで振り向くと、
佐久間さんのお母さんが尻もちをついていた。
どう見ても、佐久間さんが突き飛ばした後だよね。
「どうして。さっきは…」
「……ママ。私ね……私。
はっきり言うね。もう、都合よく思い込まれないように」
スウ、ハァ……
呼吸を落ち着かせて間を置いた佐久間さんは、
腹を決めた感じで目つきを鋭くして、一息に言った。
「こんなことでッ こんな三文芝居でッ!
終わったとでも思ってるの? あなたが私にやってきたことがッ
あなたはそう思いたいでしょうねえ。
あなたはいつでも『いいことしかしない』。悪者はいつでも私!
ねえ満足?私のためにドロをかぶったつもりになって。立派よねえッ?
いいことをした自分に酔ってるだけなのよ、あんたはッ!」
手加減のない怒声が、途中から揺れ始めた。
肩をふるわせ、憎しみにゆがんだ瞳がうるんでいく。
「あなたの独りよがりにッ……これ以上、私を差し出すのは嫌!
私の幸せが私のものなら、あなたは私の不幸なの!
失せてッ、目の前から!今すぐに!二度と関わらないで!!」
涙を流しながら怒りをぶつける佐久間さんに、
お母さんは何か言おうとすがりつくみたいな仕草を見せたけど、
その脇から鳴滝くんが助け起こして、遠くまで引きずっていく。
「今は無理だろ。あんたが何を思っていようが……
たぶん、だけど……あんたも苦しめ。
それで、やっと話ができる……俺はそう思う。わかんねーけど」
聞こえた範囲だと、そんなことを言ってた。
…うん。わたしたちよりは適任かな。
わかんないんだもん。気持ちが。
これもきっと、『傲慢』なんだよね。無自覚の『傲慢』……
わたしだって、どこで悪いことしてるかわかんないのに。
「あやかさん、どーして」
スパークルが呆然としてる。
フォンテーヌは、黙って首を左右に振ってた。
「……ごめんなさい。正義の味方のみんなには悪いけど。
わたしの感情に正面から付き合ってくれたみんなに、恩を仇で返すけど。
そこまで全部考えても、私には無理。許せない」
佐久間さんは謝りながら、まだ泣いてるけど。
これ以上、ここに居続けるのも限界だった。
鳴滝くんが戻ってきたところで、チリ・ペッパーに一度戻ってきてもらって、
わたしたちみんなが落ち着いて話せる個室に移動することにしたの。
「ま、俺の部屋しかないよな……ソレだと」
バタバタと布団を片付けながら、脇のパイプ机周りにわたしたちを座らせて
鳴滝くんはけっこう不満そーにぼやいてる。
同居してる人が誰もいないっていうのは、秘密の話をするにはいいから。
佐久間さんが落ち着いてたら、前も使った採石場とかに行ったと思うんだけど。
なんとなくキッチンを見てみる。
フォンテーヌはヤカンに水を入れてコンロで温めてるところ。
ガラスコップは二個、出しっぱなし。
ごはん茶碗とかお皿とか、小さな食器置きにみんな乗っかってる……
あれが土鍋。ごはん土鍋で炊いてるって言ってたっけ。
でも炊飯器はある……コンセント差してないね。すごく古いみたい。壊れてる?
あッ、そのすぐ近くに料理本。えぇーっと…
『ぶたのしっぽ亭監修・かんたん洋食入門編』?
「ほうじ茶があるって、前、言ってたわね。どこ?」
「歯ブラシのとこに収納棚あるだろ。そこの上から二段目」
「これね。急須は……見当たらないわね」
「ない。俺一人の生活には不要だからな」
「そうかしら。じゃあガラスコップ、佐久間さんに使うわね」
「悪い、頼む」
なんかスンゴく妙な光景。
プリキュア姿のまま、こなれた手つきでお茶入れてるとか……
中身は旅館の看板娘さんだけど。
少しぐずってる佐久間さんの前に、香ばしいにおいのほうじ茶がそっと置かれた。
手にとって、見下ろしてる。少しでも、癒しに…なるかな?
確か、わたしのお父さんをおもてなしするために買ったティーパックだったし。
「そーいや、タッキーさ。その顔、元に戻さない?…キモい」
「今回の件が片付いてからな。
戻るのに一時間くらいかかるぜ。顔の皮膚を直接やったから……
それと。キモいは余計だ、言われねーでもワカッてるってんだよ」
「変身すんなら、もっとカッコよくさぁ~~」
スパークル、案外早く落ち着いた?
…そうじゃあないね。単にその場で顔がコロコロ変わるだけだよ。
傷ついたり、悲しんだりしてるのは無かったことにならないの。
そういう性格だってこと、忘れないようにしなきゃ。
鳴滝くんがいろんな作業を済ませて座ったあたりで、佐久間さんもやっと落ち着く。
フォンテーヌが入れてくれたお茶にようやく口をつけて、フゥッと息を吐いてる。
「……おいしいわ」
「光栄です」
目を赤くしたまま、フォンテーヌへとやわらかく笑った佐久間さんは、
姿勢を正してわたしたちに向き直ってきた。
感づいてるみたい。わたしたちが何を言おうとしてるのか。
「ザ・キュアーは……もう、使えないのね」
「気づいていたんですか?」
「察しはつくわよ。ビョーゲンズに操られて、あんな騒ぎを起こして……
こうなって、よくわかるわ。
あなたたちプリキュアが、なぜ私のもとに現れたのか。
私に、
うなずくしかできなかったわたしを見て、
どこかあきらめたみたいな顔で脇に目をやる佐久間さん。
「お笑い種ね。私は、私の勝手な都合で苦しむ患者さんを利用した。
いいことをした自分に酔っていた?……ハッ!私のことじゃない。
これだけで。これだけで私は、あの人を非難する資格なんてないわ。
その挙句に、私は、私が勝手に育ててた復讐心を、
無関係な人たちに……」
一言、一言、言葉をつなげていくたびに、
佐久間さんはどんどん暗いところに沈み込んでいく。
そんなこと、言ってほしくない。
わたしが我慢できなくなるより前に、ラビリンが止めた。
「そこまでラビ!」
「……ラビリン、ちゃん?」
「余計なコトばっかりするママがイヤで、
逃げ出したかったことの何がおかしいラビ?
ズーッとそんなコトばっかりで、イライラムカムカして!
そんなの、みんなアイツのせいラビ!
そんな気持ちを膨らませてデミビョーゲンにしたのはビョーゲンズラビ!
悪かったのは、ヒトを利用しただけで…
それだって、助かったヒトがいるラビ!
全部自分のせいなんてオカシイラビ!
間違えちゃあダメラビーーーッ!」
目をぱちくりさせてる佐久間さん。
わたしだって、言いたいこと、あるよ。
「佐久間さん」
「……」
「わたし、言ったよ。大切な憧れだから、って。
そんな人が、みんな自分が悪いんだ、なんて言って泣いてたら……
わたし、どうしていいのかわかんない、です。だから」
悲しくなったけど、泣いたりはしないよ。
昔、泣いたり怒ったりしてたわたしに向き合ってくれた人たちは、
みんな明るく、マジメに、力強く向き合ってくれたから。
昔もらったそれを、誰かに分けてあげる時が今なら。
「…情けないところ、見せちゃったわね」
もともと、その強さを持っていた人なら、思い出してくれる。
わたしがそう思っていた通りだったね。
佐久間さんの目から、さっきまでのあきらめが薄くなる。
「簡単に整理はつかないわ。
頼っていた力もなくなっちゃった。
でも、元に戻っただけよ。
ホントに大切なものを忘れずに済んだのなら、まあなんとかするわよ。
私、カッコイイ大人なんだもの。あなたのお手本になってあげるわ。のどかちゃん」
ラビリンと向き合って互いにうなずくと、
わたし一人だけ変身を解いて佐久間さんに向き合った。
「……はい!お願いします!」
それから、いくらかの必要な話し合いの後、佐久間さんを元の家に戻した。
このまま同じ家、同じ職場だとビョーゲンズにまた狙われかねない。
向こうからすれば、スタンドの付け外しが出来るなんてまだ知らないはずだし。
だから、できるだけその両方を変えるようにだけ言ったの。
佐久間さんが言うには、お母さんが変な根回しをしに来たことを逆手にとって、
職場を異動させてもらえればなんとかなるって。
その後で新居の住所と電話番号を教えてくれることになった。
お母さんを完全に悪者にしちゃうけど、そのくらいは呑んでもらう、だって。
「あたしのママさぁー。あたしがめっちゃチッチャい頃に死んじゃってんだよね」
だから、かな。思うところがたくさんあったみたい。
ひなたちゃんが、世間話みたいにお母さんの話を始めた。
「写真はいつでも見られんだけどさ、思い出とか全然ないの。
…きっとさ、パパも、お兄もお姉も。
ママがしてくれることを、ママのぶんまであたしにしてくれてんだって思う。
だからさぁー、ママ、とか、お母さん、ってのに、『憧れ』ってゆーかさ。
きっと、こーなんだろーな…ってのが、あんの」
みんな、誰も口をはさまないで、聞く。
ラテもすでに戻ってきていて、パイプ机の下に寝そべってる。
「のどかっちとかさ、ちゆちーのウチは、そーだったよ?
そりゃ、ウチとは全然違うけど…そっか、そーだよね、って思えたの。
そんだけに……ちょっち、キツい。キツかった。今回…」
まあ、ロフトに登って寝っ転がってるんだけどね、ひなたちゃん。人の家で。
鳴滝くんは少し嫌な顔をしたけど、突っ込まないことにしたみたい。
本人はマジメなんだよね、これでも。今回、ホントにキツそうだし。
「ママがひどいヤツで、ずっとそれを怖がってなきゃあいけなかったとか。
プリキュアの力でさぁー、それもパーッと解決だって思ったら。
全然逆で、あやかさん、ママ追っ払っちった……
これじゃあさぁ~~~あたしたちがケンカさせに来たみたいじゃん?
デミビョーゲンは、悪い心だけを大きくされてて、
あたしたちはそれを癒したんじゃあなかったの?」
『ああ、間違いないな』
ずっとみんなに聞かせるだけだったひなたちゃんに、
初めて答えたのはF・Fだった。
『ブラッド・フラワーは浄化された。
浄化されて、佐久間あやかの膨らまされた悪い心も一部が救われた……
おそらく、母親だとか家族への病んだ執着心あたりがな』
「…なに言ってんの?」
『あの母親に取りつかれる必要がなくなったってこと。
一方的に利用される関係に、やっとブチ切れることができたのよ。
そこは誇っていいと思う』
「そんなことのために、みんなガンバッたの?ヤダよぉ」
『復讐とは自分の運命への決着をつけるためにある』
ちょっと泣きそうな声で抗議してきたひなたちゃんに
かぶせるように、F・Fが聞き覚えのある言葉を言う。
確かそれ、エルメェスさんの……
『あの親子は、あの復讐でやっと始まったんだろうね。
いい関係を作るには、これから苦労しなきゃあいけない。
とくに母親の方がな……違うと思う?』
「……。わかんない」
『そお?実はあたしもなんだけど……
親もクソもないプランクトンだからね』
おちゃらけたみたいに言うF・Fに、
ひなたちゃんが非難がましい視線を向ける。
……夢じゃあないから実体がない。見られるのは鳴滝くんだけど。
鳴滝くんはただ顔をしかめてる。
『ただし、プッチ神父はクソ野郎だ。
あいつはあたしを生み出しはしたが!
利用するために作って、駒になることだけを教え!
しまいに都合が悪くなれば殺しに来た。説得すらもなし。
強いて言うんなら、この魁の両親の同類かもね……
あたしを『育てて』くれたのは徐倫たちで!
徐倫もエルメェスも、エンポリオも家族を愛してた。
そういうおすそ分けでたくさんを知ったあたしなんだ。
親子の情がまったくわからないわけじゃあないと思ってる』
「ごめん…」
『謝るなよ。知ったフウなクチを聞いてんのは確かだ』
しんみりした空気になって、みんな静かになっちゃった。
でも、嫌な感じじゃあない。
ひなたちゃんもF・Fも、お互いを責めてるわけじゃあないんだもん。
そういえば、家族なんかいるはずもない生まれなんだよねF・F。
DISCの番人として神父さんに作られて、そこで何年間も侵入者を殺し続けて。
徐倫さんに負けて、外の世界に連れ出されるまでは、
全てが無機質な繰り返し。振り返ればなんにも覚えていない日々。
『生きてるって感じ』を理解できたのは、徐倫さんと出会えたからなんだよね?
その気持ち、無視できるはずなんて、ないよ。
「結局、私たちがお手当てできたのは、氷山のたった一角。ていうことよね」
「新しい力でピンチをパァーッとひっくり返せても、力はただの力だペェ。
傷ついたキモチには、力じゃあなんにもできないペェ」
『というより。誰かの一生は、ほんのチョビッと関わっただけの他人に
どうこうできるほど安くないってことだろうね。
課題を抱えられるのは、そいつ自身だけだ』
「わたしたちにできるのは、せいぜい見える傷のお手当てだけ。
治ろうとするのは自分の力…そういうことなのかな」
「どんなお手当てだってよぉぉー。
助かるつもりがねぇーヤツには通じねェーだろーからよ」
「助かりたい、って気持ちにさせてあげることも大事ラビ?
だとしたら、佐久間さんのお手当てはうまくいったラビ」
「ひとまずだ。『予後』を見たら?
これで全部オシマイじゃあないんだしな」
「…そだね。まだ『続き』があるし!
ツラそーなら、手伝ってあげてもいいじゃん!」
「アン、アンッ!」
ふと言い出したちゆちゃんに、みんなが言いたいことを続けた。
学んだことは多かったのかな?それを活かしていけるの?
まだわからないけど……今回の事件は時間の無駄なんかじゃあない。
ラテの嫌な予感の前にあった邪魔ものでしかなかったこの事件は、
戦いを通じてわたしたちに新しい力をくれた。
もし、ちょっとでも何かしらをぞんざいに扱っていたら、この結果は無かったの。
ザ・キュアーのDISCを無理やり取り上げるのを嫌がったのは、
結果論だけど…正解だったね。
こうやって、自分の信じられる道の先で、みんなといられたらいいなあ。
それから、鳴滝くんの顔がやっと元に戻った頃まで。
その間、確認してたのは…ザ・キュアーが誰に適応するのかと、能力の再確認。
これも一応、みんなで試して…適応したのは、ラビリンだけ。
DISCを誰に回すのか悩む必要ないのはいいけど、
戦わせないラテを除けば、ちゆちゃんだけがスタンド使いじゃあない状態。
そろそろ、複雑な顔が深刻になり始めてるんだよね……
「アセッてどーにかなるモンじゃあないラビ。
ラビリンは運がよかっただけラビーッ」
「ええ、そうね。ありがとうラビリン」
やさしい笑顔で答えてくれてるけど、いい加減なんとかしてあげたい。
スタンド使いは引かれあう。佐久間さんだって、ジョルノさんに引かれたのかも。
そう思えば、次のスタンド使いが現れるのもきっと遠い話じゃあなくって。
戦わない出会いができたらいいなあ。
そうやってDISCを回収したとして、
ちゆちゃんに適合するとは限らないんだけど。
「能力の復習だが。
ザ・キュアーは、『基本的には』治療のスタンドだ。
相手が生き物である限り、どんなケガや病気も、スタンドがなめることで治せる」
ザ・キュアーについて、鳴滝くんがまた説明してくれる。
最初から最後までを自分で体験した佐久間さんが、しっかり話してくれたの。
もう、あんなことを繰り返させないために、って。
こっちからはあえて言わなかったけど、
スタンド能力をわたしたちが回収したんだって、
なんだか確信を持ってたっぽいんだよね。怖いなあ。大人って。
「だが、治したキズやケガは、
ザ・キュアーの中にある種のエネルギーとして蓄えられる。
治すたび、次第にスタンドの像が大きくなっていくのがそれだ。
こいつは、能力を使わず時間を置くことで、少しずつどこかに発散されて消え、
スタンド像も元の大きさに戻っていく。これだったら害はない」
話はここから。佐久間さんは間と運が悪すぎた。
ううん、そういう人の元にこそ、スタンド能力は現れるのかも。
能力を持っていたことが悪い方向につながった例なんて、いくらでもあるの。
DIOの部下で、アヴドゥルさんとイギーを死なせたヴァニラ・アイスは、
あまりにも強くて危険すぎる能力のせいで何人も人を死なせて、
故郷に居場所を失った。
ンドゥールさんも同じ。気味悪がられて、殺されようとしたから殺し返して。
死への恐怖なんかまったくない性格に育って……
友達と出会えて、幸せになれるスタンド使いは運がいいだけなのかも。
その意味でも、わたしたちの戦いは無駄なんかじゃあないよね。
「ヤバイのは、ひたすら能力を使いまくって、
スタンド像がデカくなるに任せた場合だ。
ある一点を超えた瞬間、ザ・キュアーは暴走する。
暴走したザ・キュアーは、本体以外の誰彼かまわず危害を加える。
今までに貯めこんだケガや病気を、今までとはあべこべに『移す』ようになる。
この暴走状態の間、ザ・キュアーに対するあらゆる攻撃は吸収されて、
『ダメージ』として逆に貯めこまれる。
遠からず、そっくりそのまま返されるってことだ」
「ラビリンたちは、ゼッタイにそーなったらダメラビ」
うなずいた鳴滝くんは、暴走が終わる説明で締めくくった。
「貯めこんだエネルギーをすべて放出し終わると、暴走は終わって元に戻る。
あれだけ厄介だった暴走状態だが、俺たちには何ひとつメリットがない。
何がなんでも避けるべきだろうよ」
「するってーと。ケガを治せるっつってもよ。
考えなしに使ったら、イザって時に頼れねーコトになるんだよな?」
「ああ。他にどうしようもない場合に限った方がいい」
質問して、返事を聞いたニャトランが、ちゆちゃんの方を見た。
みんな忘れてないよ。ほら、ひなたちゃんもビクッと思い出したし。
心不全にされたちゆちゃんが、どうやって今も無事に生きてるのかって話ね。
『ちゆの心筋は今、フー・ファイターズが代行してるからな。
このまま、魁から50m以上離れたらその場で死ぬね』
F・Fからそう言われたちゆちゃんの顔がグニッとゆがんだ。
面と向かって言われたくないよねーこんなコト!
……でね?
ここが、始まりだったんだ。
必要ではあるけれど、それでもちょっとしたやり取りだったのが。
「それを治すのに、ザ・キュアーを使うの?」
「使わなくても問題ない。
俺の左手を元に戻すときに使った方法論が、そのまま使えそうなんでな。
規模的に、たぶん二時間もあればやれる」
「あなたが?」
「……いや。渡すよ、DISCを」
『ヘイッ!ヘイヘイッ!』
ちゆちゃんも、鳴滝くんもおびえたみたいな目を一瞬した。
DISCを頭から取り出そうとしたところで、F・Fが鋭い声で止める。
『これからもケガをするたび、DISCをヒトによこすつもりか?
その間にてめえが死ぬぜ、魁』
「…とはいうけどよ」
『ちゆも納得しろ。
あたしはこいつのスタンドとして、
本体を危険にさらすやり方は容認できない』
「…………。ええ」
そして、ここが分岐点だったの。
わたしが口をはさんで止められる最後のチャンス。
そんなこと、この時のわたしには全然わからなくって、
むしろF・Fの言い分の方に納得しちゃってたの。
「あっ、もしかして、ちゆちー怖い?
歯医者とか行きたくないタイプ?あたしもだケド」
「そうじゃあないわ、けれどね」
「だいじょーぶ!経験者だよあたし。
痛くもカユくもないかんね。タッキーにまかしちゃってオッケー!
それでもオッカナイってーんならぁー。……むぎゅ~ッ」
「ちょ、ちょっとッ」
妙に鋭いときもあるひなたちゃんだけど、
この時はリラックスしきってたせいか、そういう勘が働かなかったみたい。
ちゆちゃんを安心させてあげようと、左腕にギュッと抱き着いたの。
それを見ていたわたしも、
(ひなたちゃん、ちゆちゃんの事情を忘れちゃってる?
忘れてないよね。今ピンと来てないだけで……
後で、ちょっと言ってあげようっと)
なんて思うだけで、手招きしてきたひなたちゃんに応えて
わたしも、ちゆちゃんの右腕に抱き着くなんてことをしちゃってた。
人肌の暖かさって、それだけで安心するものがあるし、
わたしとちゆちゃんだったら女の子同士でマズイこともないから。
でも、わたしは思い出すべきだったの。
鳴滝くんが前にいて、ちゆちゃんがわたしたちに両腕をとられてる。
「…なるべく、早く済ます。こらえてくれ」
観念した鳴滝くんの一言も、ある意味
逃げ場のない状況で、鳴滝くんになにかをされる。
腕がふるえて、呼吸が不規則になってきたちゆちゃんを感じ取って、
やっと、わたしは『ん?』って思ったの。
これは、やめさせた方がいいんじゃあないかって。
……遅すぎた。
バァァン! ドザッ
聞こえた音は、それだけ。
わたしも、何が起きたのかがすぐにはわからなかった。
ひなたちゃんも同じ。そろって突き飛ばされちゃってたから。
わたしはパイプ机を倒しながら床に転がって、
ひなたちゃんは壁に背中をぶつけてた。
首だけを起こすと、立ち上がったまま茫然としてるちゆちゃんがいて。
その視線の先を追うよりも先に。
「ふッ、う、うぶ……うぶぅぅぅうう~~~」
うめき声が聞こえたの。男の子の声。鳴滝くんの。
あわてて背中を起こしてそっちを見たら、
横たわった鳴滝くんが、上半身だけで反り返りながら体をよじってた。
ちゆちゃんを見る。普段着のロングスカートが、膝のあたりで不自然にまくれてる。
茫然としてるちゆちゃん。
その、見ている先で、鳴滝くんはケイレンしながら胃の中身を吐き出し始めた。
「ウベッ、ゲ……ウボェェエエェェッ……グブッ!」
「……。た…タッキー?タッキーッ!!」
時間が止まったみたいになってたひなたちゃんが、あわてて駆け寄ったけど、
酸っぱい臭いを吐き散らかしてる鳴滝くんは、何かを気にする余裕もないまま
すぐに突っ伏して、動かなくなった。
そして、すぐにちゆちゃんも。
「う……こ、こんなこッ……あ、う。はぐ」
その場に倒れて、顔色をどんどん土気色に変えていく。
やっと、状況を理解した。
ちゆちゃんは、わたしたちを突き飛ばしながら、思い切り鳴滝くんを蹴った。
鳴滝くんは、蹴られた痛みで気絶して、スタンドのF・Fも当然、一緒に気絶した。
フー・ファイターズが停止したちゆちゃんは、心不全でたった今倒れた。
「か、魁ィィーーーッ
なんでだよ、なんでこんなコト」
「魁からF・Fを取り出すペェーーーーッ!
すぐに心臓を動かさないと、ちゆが……ちゆがッ」
「取り出しても気絶したままだったらどうするラビッ
ザ・キュアーを使うラビ、待ったなしラビ!」
誰も死ななくて済んだ。
この場でよかったことといえば、ただそれだけ。
なんとか収拾したみんなの顔にあったのは、後悔の色だけだった。
大事件が起こってますけど、この件の幕間をはさんでから
次はジョルノ回の予定です。折り合いがつくまでには少し時間がかかる見通し。
ちなみに、ヴァニラ・アイスの過去は独自設定。
一応、旧OVAでDIOが『能力のために社会になじめなかった』
みたいなことを言ってたのと、PS版格闘ゲームでセト神に
小さくされたときの姿を根拠に考えてはいます。アレめっちゃカワイイ
ンドゥールもほぼ同様。小さくできないけど。
ご意見、ご感想、誤字脱字報告、ここすき等、ぜひよろしくお願いします。
現時点で、この作品に何を求めて読んでいますか?
-
心優しいプリキュアたちらしい熱血バトル
-
ジョジョらしいどんでん返しの知略バトル
-
プリキュア世界で動くジョジョキャラ
-
ストーリー上の謎がどう展開するか見たい
-
主人公たちがどう成長していくのか見たい
-
人間関係がどう変わっていくか見たい