だいたいあってる北欧神話   作:くろわっさん

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迷走しすぎて筆が止まったパートです。ご容赦ください。


ロキの賭 ~カツラのオマケのグングニル~②

 

 シヴの黄金の髪のカツラを小人族(ドワーフ)の職人イーヴァルディに作らせるため、ロキは小人の国ニタヴェリルへと辿り着いた。

 

 小人族はかつてユミルが殺された際に、その亡骸に群がっていたウジ虫にオーディンが姿を与えた種族である。金属の加工や細かい細工が得意で、調度品や魔法の道具などを作っている。太陽が非常に苦手で、陽の光を浴びると身体が石になってしまうという欠点を持つ。そのため彼らは地中深くに国を造り、独自のコミュニティを形成している。

 

 ニタヴェリルで最大の工房、イーヴァルディの工房の前にロキは居た。最高の職人がいるだけあって、その建物は武骨な金属造りでありながら、魔法の光で照らされた迫力のある店構えであった。

 

 ロキは中に居るであろうイーヴァルディを呼び出すため、扉を叩こうと手を伸ばした。その瞬間、扉がひとりでに開き、勢いあまったロキはよろけながら中へと入ってしまった。

 

 建物の中は、天井へ規則的に敷き詰められた魔法の石で白く照らされ、様々な武具や精巧に細工されたアクセサリーなどが陳列されていた。そして小綺麗な格好の小人が、ロキを迎え入れた。

 

「いらっしゃいませ。おや珍しい、小人族ではないのお客様じゃありませんか」

 

「あ、ああ。私はアスガルドの神、ロキだ」

 

「アスガルドの……遥か昔に幾度か武器を卸させていただいた以来でしょうか。それに神様が直接来店するのは、初めてで驚いております。それで本日はどのようなご用件でご来店でしょうか」

 

「ここに小人族一の職人イーヴァルディがいると聞いてやってきたのだが、イーヴァルディは何処だ?」

 

「左様でしたか……」

 

 ロキが尋ねたことを聞いた小人は、顔を曇らせて残念がる。その態度が気になったロキはどうしたと小人に尋ねた。

 

「イーヴァルディは数年前に亡くなっておりまして……」

 

「そうだったのか……ふむ、ならここに用はない。邪魔したな」

 

「ちなみにどのようなご用件でイーヴァルディを?」

 

「黄金の髪を造ってもらおうとおもったのだが、腕の立つ職人が居ないのではしょうがない」

 

 ロキの言葉に小人の顔色が変わったのを、ロキは見逃さなかった。何かあると思い、ロキは試しに小人を煽ってみることにした。

 

「まあ他の職人をあたってみるさ。腕の立つ職人をね」

 

「お待ち下さい! イーヴァルディは居ませんが、その息子が職人として当店に在籍しております。無論、父親譲りの腕の立つ職人です」

 

「しかし私が求めるのは世界一の職人なのだが?」

 

「このイーヴァルディ工房こそが小人族(いち)の技術を誇る店です! 決してブロックとエイトリなどには劣っていません!!」

 

 ──釣れた。ロキは確信した。小人族は技術に関してのプライドがとても高いということに。ブロックとエイトリという名前を頭の片隅に記録して、ロキは話を続けた。

 

「なら、その技術で黄金の髪を造ってみてくれないか? 黄金のように輝きを放ち、頭に着ければたちまち本物の髪のように伸びる魔法のカツラだ。まあこんな代物が君たちに出来るとは思えんが」

 

「出来ますとも! いとも簡単に御作りして見せましょう! どうぞ奥へ」

 

 ロキは店内から工房へと案内された。そこには数名の職人と、人よりも大きな銀色の箱のようなものがあった。そして小人はひとりの職人を呼びつけた。そして小肥りな小人がドスドスと音を発てて向かってくる。

 

「おいジュニア、F.E.M.T(フェムト)を立ち上げてくれ」

 

「どうしたんでござるか店長殿www? うはwイケメンキタコレwww もしや拙者、乙女ゲーのヒロインにwww」

 

「その喋り方やめろ! こちらはアスガルドのロキ様だ。ロキ様、彼がイーヴァルディの息子です。少々変わり者ですが、父親譲りの腕は確かですので……」

 

「こいつが……まあいい、それであのデカイ箱はなんだ? 炉か?」

 

「お客様お目が高いww あれはフェムトマテリアルのジェネレータでござるよ」

 

「ふぇむとま……なんだそれは?」

 

「説明しよう! フェムトマテリアルとは、陽子と電子を自在に変化させる性質を持つ超次元原子である! ジェネレータを使って電子を操作して──」

 

「──おい、素人さんにそんな説明しても伝わらないだろ。ロキ様、あれは魔法の炉でございます。魔法の火種をくべればどんなものも作れる優れものなのです! 勿論、黄金の髪のカツラだって出来ますよ」

 

「ちょwww ロキさまカツラ造るん? そんなサラッサラのロン毛ふっさぁーしといて? 全国百万人の禿げ憤慨ですおwww」

 

「黙れジュニア! いいからさっさと作業に移るんだ! すいませんロキ様。暫しお待ちください」

 

 ロキは小人にはぐらかされたような気がしたが、目的の物が出来そうならなんでもいいと思い、深くは尋ねなかった。店長はイーヴァルディの息子に詳細を説明し、ジュニアは気だるげに炉に火を入れ始めた。

 

「そんでロキさまー、なんでカツラなんて造るん?」

 

「口の聞き方に気を付けろ! ロキ様は神様なんだぞ。神様にうちの製品を献上する機会なんて滅多にないんだからな」

 

「でもそれって拙者にメリットなくない?」

 

「ほう、褒美が欲しいのか? 財宝か、それとも祝福か?」

 

「神様相手に強請るなど、なんとも恐れ多いです」

 

 店長は恐縮して縮こまるが、ジュニアは興味なさげに炉をいじり続けている。ロキはどうやって交渉しようかと考え、神を崇める店長の態度を考慮し、一つの提案をすることにした。

 

「素晴らしいものが出来上がったのならば、私がオーディンにお前らのことを紹介してやろう。最高の職人を見付けたとな」

 

「なんと! 創造神オーディン様に!? ロキ様はオーディン様に近しい神だったのですね。実にありがたい、ぜひそうしていただきたい!」

 

「ええ~オーディンさまって昔話に出てくる老神でっしょお? 別に拙者、おじいちゃんとお近づきになっても嬉しくないでござるキリッ」

 

「クハハ、あのオーディンをおじいちゃん扱いとはな。小人にしては面白い奴だ、気に入ったぞ」

 

「うはwww イケメンから「おもしれーヤツ」いwたwだwきwましたwww やはり拙者は乙女ゲーのヒロインだった……?」

 

「ならばオーディンではなく、女神フレイヤに紹介するのはどうだ?」

 

 その瞬間、ジュニアの目が変わった。どんくさそうなオーラは瞬時に鳴りを潜め、鋭い眼光でロキを射抜き、先ほどとは打って変わって渋く低い声で「その言葉に偽りはないな?」と尋ねる。ロキはジュニアの豹変に若干引きつつ、首を縦に振って肯定した。それを見てジュニアは不敵な笑みを浮かべ「最高の品を用意してやる」と力強く言い切ったのだった。

 

 ジュニアが真剣に作業に打ち込み始めていくらかの時間が流れ、ロキは店長と共にその様子を眺めていた。

 

「さっきからジュニアがずっと握っている、炉に向けている棒はなんだ?」

 

「あれはサイコリンクコントローラーで……‥ええと、小人の業界では(ふいご)と呼んでいるもので、あれで炉の中の魔法の火を制御するのです。ジュニアは簡単そうにやっていますが、熟練の職人でも一瞬目を離せば、作っていたものがダメになってしまうほど、高度で繊細な作業なのですよ」

 

「ああ見えて本当に優秀だったのか、あいつは」

 

「中身はあれですが、炉の扱いに関してはジュニアの右に並ぶものはいないでしょう」

 

 そうしてしばらくして、ジュニアが炉の扉を開ける。そこには金色に光り輝くロングヘアーのカツラがあった。その輝きはロキが奪った黄金の髪に劣ることなく、むしろ美しさを増しているようにも見える。こうしてロキは黄金の髪のカツラを手に入れたのだ。

 

「ロキさまロキさま~、炉の火がまだまだ残ってたから、オマケに“ぼくのかんがえたさいきょーのやり”と“めっちゃ便利な帆船”を造っておいたお!」

 

「なんだと? どんなものなんだ?」

 

「取説もつけとくから、それを読んで欲しいお。あ、名前は槍がグングニルで、船がスキッドブラドニルですお。うはwww 拙者、厨二乙www」

 

 こうしてロキは三つの宝を手に入れた。店長からはオーディンへ、ジュニアからはフレイヤへ紹介を念押しされ、ロキはそれに快諾して店をあとにした。

 

 イーヴァルディの工房が見えなくなるまで移動したあと、すぐさまオマケの宝の仕様書を読んだロキは、思わず頬を綻ばした。

 

「なんという機能を持った宝なんだ……! これがあればオーディンたちに自慢出来る。いや、下手にそんなことをすれば力ずくで奪われるな……よし、素直に献上して株を上げておくか」

 

 目的の黄金の髪、そして思いがけない追加の宝物を労せず手に入れたロキは、当然のように欲が出てくる。

 

「しっかし小人族チョロいおwww ……っと奴の話し方が。そういえば、エイトリとブロックとかいうイーヴァルディ工房のライバルがいるらしいな。よし、いこう。そして何か造らせてやろう」

 

 上機嫌なロキは飛び立って、道行く小人に神の威光を振り撒きながら道を尋ねて、エイトリとブロックの工房へと向かったのだった。

 

 辿り着いた工房はイーヴァルディの工房とあまりにも違った。薄汚い壁に朽ち始めた屋根、そして年期を感じる木の扉がロキを迎えた。何かイーヴァルディのところのような、目にはわからぬ仕掛けがあるのかも知れないと、あまり期待せず乱暴にノックする。特におかしなことはなく、ドンドンっという音が響き、少しして扉が開き仏頂面の小人が出てきた。

 

「何か用か?」

 

「私はアース神族にして、主神オーディンの義兄弟、アスガルドのロキだ」

 

「そうかい。帰んな」

 

 バタンと手早く扉が閉ざされる。ロキは予想外の反応に呆けて立ち尽くすが、おい待てと叫びながら扉を激しく叩いて小人を呼び出した。

 

「話があってきたんだ。ここはブロックとエイトリの工房の筈だな?」

 

「おう、俺がブロックだが、わざわざアスガルドの神様がこんなニタヴェリルの僻地まで何しに来たんだ」

 

「実はな、先ほどイーヴァルディの工房で素晴らしい宝の数々を造らせたんだ。流石は小人族で一番の職人と言わざる負えない程の出来だった。そしてここにも小人族一を名のる腕利きの職人がいると聞いていたんだが……どうやら人違いだったみたいだ」

 

 嘲笑するロキをブロックは鋭い眼光でギロリと睨み付ける。ロキはおお怖い怖いと嘲りながら、宝のひとつ黄金の髪を見せつけた。

 

「なんだその目は。こんな田舎工房で、このような素晴らしい宝を造れるわけか? まあ無理だろうな」

 

「お前さんが喧嘩を売ってんのはよーくわかった。だがな、それより良い道具を造れたからって俺たちになんの得があるってんだ。造れることと、造ることは別だぜ」

 

「口ではなんとでも言える。もし造れたらそれをオーディンに献上し、お前らの功績をアース神族に讃えてやろう」

 

「は? 興味も意味もないな。話にならねえ!」

 

 ロキとブロックが玄関口で言い合っていると、工房の奥から兄のエイトリが何事かとやって来た。ブロックがエイトリに辟易しながら事情を説明すると、エイトリは顔を真っ赤にして怒り、今にもロキに殴りかからんとした勢いでくってかかった。

 

「もし造れたらなんでも俺たちの欲しいものをくれるってんならやってやるぞ!」

 

「ほう、私に用意できるものならいいだろう」

 

「それがてめえの首だと言ってもか?」

 

「面白い。本当にこの宝たちを超える宝を造れるならこの頭をお前らにくれてやろう!」

 

「のった!!」

 

 売り言葉に買い言葉といった具合で、ロキと小人たちの取引が進む。その後、宝を品評し優劣をつけるのはロキ以外のオーディンを筆頭としたアース神族が行うことを条件に加えて、取引が成立した。

 

 命すら差し出すと言って強気なロキは、ブロックとエイトリがイーヴァルディの工房より優れているとは微塵も思っていなかった。それほどまでに彼らの造った宝は素晴らしいものだったのだ。

 

 ──こうしてロキと小人の賭が始まったのだった。

 

 

 

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