プリキュア成分補充のため、「いっそ自分で書いたらいいじゃん」という軽い気持ちで書きました。
とりあえず第1話です。
続きを読みたいという感想がもしあれば、頑張って続き書きます。
「コイントスをしよう」
イエスは唐突にそう言って、隣に居る相棒・タディーの返事も待たずに一枚のコインを取り出した。
「表と裏、どちらを選ぶ?」
イエスからそう問われ、タディーは深く考えずに「裏」と答えた。
イエスがコインを指で弾き、落下してきたそれを再び掴み取る。その手を開き、彼は告げた。
「表だね」
「あっそ」
「次は?」
「まだやるのか?」
「次は?」
タディーの質問など無視してイエスは「次は」とせがむ。こいつは他人の話を聞かないやつだ。
「裏」
と、タディーは適当に答えながら、眼下に広がる景色に目を向けた。
二人が居るのは山の上の展望台だった。そこから、複雑に入り組んだ山や島に囲まれた入り江の海と、そこに面した中規模な街並みがあった。
晴れ渡った休日の昼下がり。
空と、雲と、そして海。街の港へと出入りする何隻もの船がいくつもの白い航跡を海に描きながら行き交っている。
爽やかな風が緑に溢れた山々を吹き抜け、二人が立つ山頂の展望台を流れて行く。
イエスがコインを指で弾いた。
「表だね。…次は?」
「裏」
またコインが飛ぶ。いったい何がしたいのだろう。と、タディーは少しだけ疑問に思ったが、すぐに考えるだけ無駄だと思いなおした。
イエスの考えていることは理解できないが、別にそれで彼との関係に支障は無い。タディー自身に害が及ばなければ、好きにすればいい。彼はそう思った。
「表だね。次は?」
「………」
前言撤回。多少は鬱陶しくなってきた。タディーは眼下に広がる景色から、隣の相棒に目を向け直した。
日差しを浴びて煌めく金髪に、抜けるような白い肌。すらりとしたモデルのような高身長。
傍で見ているだけなら惚れ惚れするような美形だが、あいにく中身が残念過ぎる。とタディーはいつも思う。
「いったい何がしたいんだ、お前は?」
「コイントスだよ」
「行為そのものを聞いているんじゃない。その意味を聞いているんだ」
「意味?」
イエスはきょとんとした表情を見せながら、その手のコインを指で弾いて打ち上げた。
どうやら結局、タディーの言葉を待つ気は無かったらしい。相棒のマイペースな態度にむかっ腹が立ったタディーは、落下してきたコインを横から攫うように掴み取った。
イエスは「おや」と少しだけ目を大きくしたが、すぐに何を考えているか分からない微笑みを浮かべ、タディーを見つめた。
タディーもイエスと同じくモデルのようなスタイルと顔立ちの美形だ。けれどその髪色は眩い銀の色であり、褐色の肌をしている。
コインを掴み取ったまま憮然とした表情のタディーに、イエスは微笑みながら言った。
「手を開いてみたらどうだい」
「裏だ」
タディーは言いながら手を開いた。コインは表だった。
「次は?」
イエスの問いに、タディーは即座に答えた。
「今度こそ裏だ!」
自分でも馬鹿馬鹿しいとタディーは思う。半ばムキになりながらタディーは続けて言った。
「四回連続で表だったんだ。次も表が出る確率は32分の1だ。裏に決まってる」
「コインには表と裏の二面しかないんだよ。次だって2分の1さ」
「言ってろ」
タディーは手のコインを指で弾いて真上に打ち上げた。ただ、少し力を入れすぎたようだ。
コインはかなり高く上がり、しかもちょうどその時、山の上を強風が吹き抜けた。コインは風にあおられて放物線を描き、展望台から逸れて落下した。
コインは、ちりんちりんと涼やかな音を立てながら展望台の緩く長い階段を跳ね落ちていき、そのまま、近くにある駐車場へと転がって行く。
駐車場にはちょうどそのとき、街と展望台をつなぐバスが到着したところだった。そのバスから、ひとりの少女が降り立つ。
コインはまるで引き寄せられるように少女に向かって転がり続け、その足元にぶつかって止まったのだった。
―――――
バスから降りたばかりの私の足に、何かがこつんとぶつかった気がした。
「ほぇ?」
足下を見下ろすと、そこに一枚のコインが落ちていた。
拾い上げてみると、見慣れた小銭とは違う、不思議な紋様が刻まれたコインだった。
その紋様が何を現しているのかもよく分からない。複雑で、でもいくつかのパターンが規則正しく連続した、眺めているうちに意識が吸い込まれてしまいそうな、そんな奇妙な紋様だった。
反対側を返してみると、そちらには紋様は刻まれてはいなかった。鏡の様に滑らかな面だ。実際にそこには覗き込む私の顔が映りこんでいた。
赤味がかった癖っ毛のショートカットヘア。短い前髪の下ではちょっと広めのオデコが目立っている。太めの眉毛に、真ん丸な目。低い鼻に、おちょぼ口。
お世辞にも美人とは言えないけれど、これが私:明日原 ミクの顔だ。そんな私の間抜け面が、コインにはくっきりと映されていた。
「なんだかコインっていうか、古代の鏡のミニチュアみたい」
手の上でひっくり返しながら思わずそんなことを呟いた。思考がすぐに口から出ちゃうのが私の悪い癖だ。
だけど幸い周りに私以外の人影は無かった。降りたバスには私の他に乗客はおらず、そのバスもすでに走り去ってしまっている。
駐車場にも車は見当たらず、どうやら今日、この展望台を訪れたのは私ひとりだけみたいだ。こんなにも天気がいいのに、もったいない。
「ほぇ? ならこのコイン、どっから転がってきたんだろう?」
足にぶつかった方向からして、多分、目の前にある展望台へと伸びる長い階段から転がってきたんだと思う。
なら、この先に持ち主が居るのだろう。私はそう思って階段を上り始めた。
階段の勾配は緩やかで、山の尾根沿いに数十メートルほど伸びていた。その先の山の頂上を覆うように建てられて、広いステージ状をした露天の展望台に辿り着く。
「ほぇ~!」
そこから望む街の景色に、私は思わず声を上げてしまった。海と山に挟まれた佐世浦市の街並みだ。入り江の海には、その外に点在する小さな島々から行き交う小型高速フェリーが街の港を出入りしている。
その港のすぐそばには鉄道の駅「佐世浦駅」のターミナルが建ち、その周りにはショッピングモールも並んでいて、街の中心をなしている。
そこから視線を少し遠くに向けると、山の斜面沿いに住宅街が広がっていて、その一画に、私が先月から転校して通うようになった「市立佐世浦中学校」の校舎も見えた。
「ほぇ~、これが私の新しい街なんだぁ……」
父の仕事の都合で幼い時から引っ越しを繰り返してきた私は、新しい街に来るたびに、こうして一望できる高い場所から眺めるのが習慣になっていた。
――こうすると、見知らぬ街でも、少しは身近になった気がするだろう?
と、幼いころ、父は私は肩車しながら、こうして一緒に街を眺めていた。
――見知らぬ人ばかりで最初は少し寂しいかもしれないけれど、でも、ちょっとでも見知れば、それはもう知り合いだよ。
――街も一緒だよ。ミクが見知れば見知るほど、その街はミクの街になるんだよ。
と、父は私を肩車しながら、少しクサくてキザっぽいことをよく言っていた。こういうセリフを言う時の父は、だいたい自分に酔っていた。
なので肩の上で必死にしがみついている私には全然気づいちゃくれなかった。やめろ、肩車したまま展望台の柵ギリギリまで近づくんじゃない。頼むから降ろしてくれ。マジビビりしてギャン泣きしてばかりだった幼き頃の思い出。あー懐かしい。
ちなみ今日は父は仕事だ。だから一人で来た。もし一緒に来たら、あのマイペースな父のことだ、昔みたいに私を肩車をしようとしたに違いない。私がスカート履いていようが構わず膝の間に頭を突っ込んでくる変態親父だ。本人に自覚が無いのがタチが悪い。
私はもう十四歳のお年頃の女の子だというのに、父はその辺をまったく考慮してくれない。一緒にお風呂に入らなくなった時点で色々と察して欲しいものだ、まったく。
風光明媚な景色を前にそんなどうでもいいことに思いを馳せている内に、手にしていたコインの存在をハタと思い出した。
「あ、忘れてた。このコインを持ち主に返さないと……って、ほぇ? 誰も居ない?」
展望台に居たのは私一人だけだった。
「おっかしいなぁ。ここから落ちてきたと思ったのになぁ」
それとも転がってきたということ自体が気のせいだったのかな。私は手にしたコインをしばらく眺めた後、それを元の場所に戻すことに決めた。
お金じゃないにしろ、誰かの貴重品かもしれない。それに近くには交番も無いし、なら元の場所に戻すのが一番無難だろうから。
私は展望台から踵を返して、階段を降り始めた……
――――――
コインを持ったまま展望台から去っていくミクの姿を、イエスとタディーは少し離れた空中に浮かびながら眺めていた。
「どうやら、表でも裏でも無い結果が出たようだね、タディー」
「あれが予言された伝説の戦士、俺たちの宿敵となるべき存在、“プリキュア”だっていうのか。あんな小娘が?」
「未来は無限の可能性に満ちている。過去が指し示す“道標(サイン)”に従って未来を選び進む者。それが“プリキュア”だよ」
さあ、これから彼女が進む道を共に征こうじゃないか。イエスはそんな言葉を残してその姿を虚空へと消した。
傍らのタディーも、そんな相棒の態度に肩をすくめながら、同じく虚空へと消えて行った。
残された山頂の景色に、一陣の風が吹き抜けて行った……
――――――
再びやってきたバスに乗ること三十分、私は山を下り、駅近くにある商店街でバスを降りた。
商店街はアーケードに覆われた直線の通りで、私はそのちょうど端っこの入口に立っていた。
そこには「四雀町アーケード」の看板が掲げられていて、その下には1キロメートルにわたって店が建ち並んでいるのが見える。
駅近くには他にもショッピングモールがあるというのに、このアーケードにも大勢の人が行き交い、にぎわっていた。
「ほぇ~、これが“全国で一番長いアーケード”で有名な商店街なんだぁ。すっごいなぁ」
なんだかわくわくしてきちゃう。私は探検気分でアーケードに足を踏み入れた。洋服屋、文房具屋、美容室、本屋、おもちゃ屋、CDショップ、レストランに喫茶店、八百屋と魚屋も、洋菓子屋も和菓子屋も、とにかくなんでも揃っている。
なにしろ1キロメートルもの長い道のりに店がぎっしり並んでいるのだから一軒一軒を覗いて回っていたら日が暮れたって終わらない。
「あ、映画館もある。図書館に、美術館もある。博物館までここにあるの!? ほぇ~、一日じゃぜんぜん足りないよぉ」
これはまさに嬉しい誤算というやつだわ。この街に引っ越してきてから約一か月、色々とばたばたしていてまともに街中へ出てこられたのは今日が初めてだったけど、でも、今日だけでもうこの街のことを好きになれそうな、そんな確信があった。
だって、このアーケードで働く人々も、行き交う人々も、みんな目が活き活きとしている。
「あ、外人さんだ」
体格のいい白人や黒人さんが、人混みに交じってちらほらと歩いている。観光客という雰囲気じゃない。みんな普段着のような格好で手荷物も少ない。なんだかこの街に慣れていて、馴染んでいるような感じだった。
「あ、そっかぁ。“基地”の人たちだ」
そういえば、この佐世浦市は“そういう街”だった。だからだろう、街の雰囲気も少し開放的な気がする。
いわゆる余所者な私がこの街に好感を抱いたのも、もしかしたらそんな雰囲気のお陰なのかもしれない。
そんなことを思いながらアーケードを歩いていると、
「あれ~、明日原さんじゃない。おーい!」
そんな風に呼び止められたので、私は足を止めた。
振り向くと、小さなハンバーガーショップの通りに面したカウンターの奥から、エプロン姿の少女が私に向かって手を振っていた。
「ほぇ、観月さん?」
彼女の名前は観月 珠代(たまよ)。私のクラスメートだ。そういえば実家がハンバーガーショップだと言っていたっけ。ここにお店があったんだ。
「この街の名物、佐世浦バーガー。よかったら買ってかない? いまなら内緒でドリンクもおまけしちゃうよ」
「観月さん、商売上手だね」
サービスしてくれるというなら買わない訳にはいかない。おススメは?と聞くとデカい目玉焼きと分厚いベーコンを挟んだスペシャルバーガーを推してきた。
「ほぇ!? デカっ!」
「この街、外人さん多いからね。リクエストに応えてたらどんどん大きくなっちゃって」
「このトマト&レタスバーガーでお願いします」
「まいどありー。あ、飲み物は? コーラ?」
「オレンジジュースで。ていうかカップもデカいね」
「外人サイズだからね。明日原さんみたいに引っ越してきた人はこの街の雰囲気によく驚いているよ」
そう言いながら観月さんは、カウンターの向こうで手慣れた様子でバンズと薄いベーコンを鉄板に並べ焼き始めた。
「色んな人が居て、にぎやかな街だよね。私、好きになれそうだよ」
「ありがと。そういえば明日原さん、前はどんな街に住んでいたの?」
「ここと同じような海沿いの街かな。ここよりももう少し小さくて、もう少し静かな場所。でも、半年ぐらいで引っ越しちゃったの」
「へえ、そうなんだ。引っ越しが多いって大変だね」
「大変だけど、良いこともあるよ。こうやって美味しそうなお店にも出会えたし」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。明日原さんもなかなか上手だね。もひとつサービスしちゃう」
観月さんはそう言って、出来上がったハンバーガーとジュースが入った紙袋と共に、一枚のチケットをくれた。
「はい、次回から使えるお得な割引券。また来てね!」
「うん、ありがとね。ばいばい」
観月さんのお店には客席が無いテイクアウト専門店だった。なのでお客の中には近くの公園で食べる者もいるらしい。
観月さんに教えてもらった方向へ向かうと、どこからともなく賑やかな音楽が聞こえてきた。
音を辿ってそちらに目を向けると、アーケードに面した広場があり、そこに常設されているステージではバンド演奏が行われていた。
どうやらここが目的地の公園らしい。広場には様々な屋台やワゴンタイプの移動販売車が集まり、お祭り会場と化していた。
「何かのイベントかな?」
広場の掲示板には「四雀町・春の音楽まつり」のポスターがある。その脇にはイベントスケジュール表もあった。先週は桜まつり、来週はこどもの日フェスティバルがあるらしい。どうも毎週、大なり小なりイベントをやってるっぽい。
アーケードを行き交う人々もイベントには慣れているらしく、特に気負った様子も見せずに広場に立ち寄っては、屋台や移動販売車で買った食べ物や飲み物を手に、公園のあちこちでベンチに座ったり佇んだりしながら、ステージでかわるがわる演奏するバンドミュージックを楽しんでいた。
私も空いたベンチを見つけ、そこに座って生演奏を聴きながらハンバーガーを食べた。
「うま。これうま!」
しゃきしゃきレタスにジューシートマト、カリっと焼かれたベーコンのアンサンブル。チェーン店のバーガーに比べたらちょっと割高だけど、その価値はある。割引券ももらったことだし、来週もまた買おうかな。
食べ終えて、バンド演奏も一区切りついた頃合いで私は立ち上がった。さて、アーケードはまだ中ほどだ。
「この先にはどんなお店があるのかなぁ」
「もし、そこなお嬢さん」
「ほぇ?」
なんか声をかけられた気がした。
「お嬢さんて、私のこと?」
声をかけられた方向に振り向くと、広場の片隅でシートを広げて座るローブ姿の女性が居た。
「そう、あなたよ。お嬢さん」
「……」
女性って言っても、全身をローブに包み、顔もフードを深くかぶってよく見えなかった。ただ声の質から女性だと思っただけだ。
つまり一見して不審人物。夜道で見かけたら即通報レベルの格好だった。ただ、今この場所は屋台が立ち並ぶイベント広場。彼女が座るシートの横にも「タロット占い」と書かれた小さな看板が立っていた。
辻占いの客引きってことだ。よくある光景。看板に一回1500円と書かれてなきゃ付き合ってあげても良かった。
でももうハンバーガー買っちゃったし、今日使えるお小遣いはもう打ち止めなのよ。
というわけで、
「間に合ってます」
「あぁ、待って、待って、別にお金取ろうって訳じゃないから安心して!?」
「そんなこと言って、どうせ何かと理由を付けて代金を請求するつもりでしょう」
「しない、しないから!」
占い師さんはそう言って、片手に一冊の本を抱えながら立ち上がり、覚束ない足取りで私の傍にやってきた。なんだろ、長く座り過ぎて足でも痺れたのかな。
「あ、あのね。私があなたを呼び止めたのは占いのためじゃないの。いえ、ある意味占ったとおりの結果ではあるんだけど、その」
「言ってることがわからないので失礼しますね」
「ああ待って待って、お願いだから話を聞いてぇ!」
踵を返した私の背後で女性がすっ転んだ気配があった。ただその状態で足首を掴まれてしまった。
「警察呼びますよ?」
「それは勘弁して。用件はすぐ済むから。一分、いいえ、三十秒で済むから」
「…結論だけ言って下さい」
「あなたが持っているコインを渡して欲しいの」
「ほぇ!?」
コインって、あの展望台で拾ったあれのことだろうか。でもあれは元の場所に置いてきたから、今はもう持ってない――
「!?」
突然、右手に違和感が生じた。気付かぬ内に握りしめていた手の内に、何かがある。私は恐る恐る右手を開いた。
そこに、あのコインがあった。
「どうして…?」
確かに置いてきたはずなのに。
ゾッと背筋に悪寒が走った。
私の目の前で占い師さんが立ち上がり、安堵の息を吐いた。
「やっぱりあなたの手の内にあったのね。でも間に合って良かったわ」
「これ、いったい何なんですか?」
「知らない方が良いわ。あなただってこんな不気味なもの、ずっと持っていたくないでしょう?」
「え、ええ」
「それを私に渡してちょうだい。それで全部おしまい。こんなコインのことはすぐに忘れるわ」
「………」
私はかすかに震える手でコインを占い師さんに渡した。彼女はそれを持っていた本に挟み、同時にその本に挟まれていた一枚のカードを抜きだした。
「迷惑をかけたお詫びにサービスで占ってあげるわ」
そう言って見せてくれたカードには、小荷物を肩に担いだ少年が描かれていた。カードの上面には、「THE FOOL」と書いてある。
「これは“愚者”のカードね」
「ぐしゃ…って、え、愚か者ってことですか?」
「ばかって意味じゃないのよ。これは“旅立ち”や“新たな始まり”を暗示するカードなの。ふふ、今のあなたにはピッタリかもね」
「え、わかるんですか?」
引っ越してきた街で新たなスタートを切ったばかりの境遇を言い当てられた気がして、私は思わずそう言ってしまった。
女性はフードの下で穏やかに笑いながらカードをしまった。
「これ以上の言葉は必要なさそうね。じゃあね、お嬢さん。どうかあなたに幸運を」
占い師さんはそう言い残し、私に背を向け、今度は滑るように離れて行った。
「あ、待って!」
あの占い師さんはそんじょそこらの占い師とは違う。多分、1500円ならめちゃくちゃお得大セールな実力者だ。これは占ってもらわない手はない。
そう思って呼び止めようとしたけれど、彼女の姿はすぐに人混みに紛れて見えなくなってしまった。
「あー、行っちゃった。勿体無いことしたなぁ」
ん? でも待てよ。占い師さん、店そのまんま残してない?
そう思って彼女が最初に座っていた場所に目を向けると、そこにあったはずのシートも、小さな看板も、まるで最初から無かったように消え失せていた。
「ほぇ~……」
私はしばらく、間の抜けた顔をしたまま、そこに立ち尽くしてしまっていた……