ネガテバーの出現を感知し、ターロットは歯噛みした。今すぐに現場へ駆けつけたいのに、それができない。
今、ターロットの目の前には、“過去よりの使者”イエスが立ちはだかっていた。
ターロットが居る場所は、ミクの住むアパートからほど近い場所にある防空壕の一つだった。
ネガテバーを生み出した防空壕とは違う場所だが、この町には古い防空壕がいたる所に残っている。ほとんどは閉鎖されているが、私有地の敷地内にあるものは物置として使われていたりする。駅前近くの繁華街や商店街にもこの防空壕は存在し、店の倉庫や、モノによっては表側だけ建物を増築し、そのまま店舗として利用されているものさえある。
過去の戦争の遺物が今を生きる資産として活用されている。佐世浦は、そんな独特の街並みを持っていた。
今、ターロットが隠れているのは、とある住宅の裏庭にある、物置として使用されている防空壕だった。イエスはその入り口をふさぐかのように立ちはだかり、横穴の奥に潜むターロットを冷たい目で眺めていた。
「家出かな、ターロット。ミクと喧嘩でもしたかい?」
イエスは冷たい目でクスクスと笑った。他人の庭に不法侵入した挙句、防空壕に向かって笑いかけているなど、不審者を通り越してホラーですらあるわね。と、ターロットはイエスと対峙しながらそう思った。
ターロットがここで大声を上げれば、家人はこの庭に立つ不審者に気が付き、大騒ぎになるか、または警察を呼ぶだろう。そうすればその騒ぎに乗じてここから抜け出せるかもしれない。
しかしターロットはその考えを却下した。“過去よりの使者”は人間の理を超えた存在だ。人間と同じ姿形をして人語を解するが、その本質はまるで違う異質なものだった。そんな危険な存在を相手に、一般人を巻き込む訳にはいかない。
だったら、どうする?
ターロットのその悩みを見透かしたように、イエスは微笑みながら言った。
「君の大事なミクは今、変身さえせずにネガテバーへ立ち向かっているよ」
「っ!?」
イエスの言葉を聞き、ターロットの背中にゾッと悪寒が走った。
「そ、そんなこと無いロト! い、いくらミクでも、そんな無謀な真似はするはずが……」
「するよ。あの子はそういう子だ。僕にはわかる。だって、ずっと観てきたからね。君だって僕と同じだろう?」
「だ、だったら!」
ターロットは宙に浮きあがり、イエスを正面から睨みつけ叫んだ。
「だったら、早くそこをどくロト! このままじゃミクが死んじゃうロト!?」
「断る」
「ふざけんなロト! ミクが死んだら困るのは、お前たちも一緒な筈だロト!」
「その時はまた巻き戻るだけさ。これまでと同じように、何度も、何度もね。そして、そのたびに新たな違う“今”が生まれる。それはとても貴重で、愛おしい瞬間だと思わないかい?」
「イエス……あんたって奴は!?」
「ミクが生身でネガテバーに立ち向かう。これは今までの時間にはなかった新たな出来事だ。彼女がこれを生き延び、新たな未来を生み出すか、それともあえなく散ってこの時間をサインコインに変えるだけに終わってしまうのか。賭けようじゃないか、ターロット」
「戯言を言うなロト!」
ターロットは自らのページを開き、四枚のカードを空中に舞わせた。女教皇、力、太陽。防空壕の中でカードが一斉に眩い光を放ち、ターロットを包み込んだ。
女教皇のカードはターロットを成人女性の姿に変え、力のカードが彼女の細腕をガントレッドとなって装着され、そこに太陽の力が熱となって込められる。
「退きなさい!」
ターロットはガントレッドを装着した右腕を振りかざし、入り口をふさぐイエスに殴りかかった。
「暴力では何も解決しないよ」
イエスが軽く手をかざし、その人差し指を立てて迫りくるガントレッドの拳に突き立てた。たったそれだけで、ターロットの拳は固い壁にぶつかったかのように止められてしまった。
ターロットの姿がいくら女性とはいえ、灼熱の装甲を纏った体重が乗った拳であるにもかかわらず、イエスの指先は微動だにせず、ターロットの拳のみならず、前に踏み込んだその身体ごと制止させてしまっていた。
「くっ!?」
ターロットは忌々しそうに顔をしかめたが、しかし、この拳自体が止められるであろうことは想定内だった。この程度の攻撃でどうにかできる相手なら、そもそも苦労はない。
「ホイールオブフォーチュン! 運命の輪よ、この男を拘束しなさい!」
ターロットが叫ぶと同時に、ガントレットから炎が噴き上がり、それは輪となってイエスを取り囲んだ。その輪が収縮し、イエスの身体を縛り上げる。
それは骨を砕く強大な圧力と、鉄をも溶かす高熱の拘束術だった。
しかし、それでもイエスは涼しげな表情で微笑み続けるだけだった。
「どうしてもミクの元へ行くんだね。でも、それでは新たな未来は生まれないよ。決まりきった時代を繰り返し続けるだけだ」
「あの子の命と引き換えに生まれる未来なんて願い下げよ!」
拘束したイエスの脇を駆け抜け、ターロットは防空壕から抜け出した。すぐに成人女性の姿を解き、雨にその身が濡れることも厭わず、そのページをはばたかせて空へと舞い上がる。
遠ざかっていくターロットの姿を見送りながら、イエスはポツリと呟いた。
「君のその優しさが、ミクを縛り付けているんだよ。いい加減、子離れすべきなんだ」
イエスは軽く腕を動かし、己を縛り付ける炎の輪を無造作に引きちぎった。自由の身となったその身体には、傷ひとつ着いていなかった。いや、身体どころか服にも焦げ跡さえついていない。
「さて……」
イエスはその場から立ち去ろうと踵を返しかけたが、不意に何かの気配を感じ取り、その動きを止めた。
「珍しいね。君がネガテバーに向かわずに、こっちに来るなんて」
イエスが首を巡らし、視線を向けた先。そこには金色のプリキュアが佇んでいた。
「……テメェにゃ、デカい貸しがあるからな。利子付きで返してもらわないことには、腹の虫がおさまらねえよ」
雨の中、金色のプリキュア:キュアオラクルが、凄惨な笑みを浮かべた。
「サインコインよりも意趣返しを選ぶのか。なんとも後ろ向きであることだ。君は未来に興味が無いのかい?」
「明日なんか知らねえ。過去に未練もねえ。私が興味あるのは、いつだって今だけだ!」
オラクルが叫び、大地を蹴り、その拳にかぎ爪を立て、イエスへと襲いかかった。
雨煙る閑静な住宅街に、肉を打つ鈍い音が響き渡った―――
一方その頃、キュアストロジーは、炎を纏った防空壕ネガテバーを相手に孤軍奮闘していた。
「やっばいな~、もう! コイツ、強いじゃん!?」
襲い掛かる炎の拳を間一髪で避け、背後へ飛び退きながら距離をとった。反撃する余裕は十分にあったが、先ほど既に肉弾戦を挑んだ際に火傷しかけて以来、至近距離での攻撃には慎重になっていた。
「手で触れないんじゃ遠距離戦しかできないけど、技を使えるのはあと一回かぁ。…どうすっかなぁ」
「Because it was wasted」
「人助けのために使ったんだからしゃーないじゃん!」
ターロットと言い争っている隙に、ネガテバーがまた襲いかかってきた。その動きは直線的で、攻撃も大振りで避けることは簡単だった。
しかし、全身を覆いつくす高熱の炎がこちらの攻撃を無効化してしまう。ストロジーは後退を続けているうちに、その場所はすでに郊外へと達していた。
降りしきる雨がネガテバーの炎の身体にあたる傍から蒸発し、濃い霧となって周囲へと拡がっていく。
「こうなったらイチかバチか、水系の技で一発で消し去ったるし!」
「Can't extinguish the fire even in rain?」
「まとめてドバっとかけりゃ流石に消えるっしょ!」
「If fail?」
「失敗したら……そんときゃケツまくって逃げりゃいいし?」
「You are a liar」
「なんで嘘つきよばわりなのさ!? っていうか、いつもならそろそろ、せんぱい達が割り込んでくる頃合いでしょ! なんで今日に限ってこんなにも遅いのさぁっ!?」
ストロジーのやけくそな叫びは、強くなった雨と、濃さを増していく霧に溶けて消えて行った。
日も暮れ、闇も濃くなっていく中、そこで唯一まばゆく燃え盛っていたネガテバーの姿が、消えた。
「うっそでしょ!? なんであんな目立つ奴が見えなくなっちゃうわけ!?」
「Above!」
「上? あわぁっ!?」
見上げた瞬間、空中から炎を纏った巨体が落下してきたのを認め、ストロジーは慌てて横へ飛び退き、地面を転がった。
ストロジーが倒れ込んだそのすぐ脇に、ネガテバーが拳を叩きつける。凄まじい爆音とともに地面がクレーター上に陥没し、吹き飛んだ土砂が炎を纏って間近に居たストロジーに襲い掛かった。
「あちっ! あちぃあっつう!?」
プリキュアとして強化されたその姿だからこそ、炎が服に燃え移ることは無かったが、その痛いほどの熱にストロジーは悲鳴を上げながら地面をのたうち回った。
さらに――
「ネエエガッァァ!!」
地面を転がるストロジーめがけ、ネガテバーが助走をつけて蹴りつけた。
「げふぅっ!?」
ストロジーはまるでサッカーボールのように大きく弧を描いて空中を舞い、大地に墜落した。
「あぐ……ッ、ゴホッ!?」
蹴られたのは腹部だった。地面に身体をくの字に折り曲げて横たわるストロジーめがけ、ネガテバーがトドメをさそうと更に駆け寄ってくる。
「テェバアア!!」
「ひっ!?」
深い雨と霧の向こうから迫りくる炎の巨人の姿に、ストロジーは絶叫しそうになった。
(ヤバい、死ぬ…!?)
逃げようにも腹部へのダメージが大きすぎて、立ち上がるどころか呼吸さえままならない状況だった。
プリキュアが危険な仕事だという事は理解していた。下手をすれば死ぬということも覚悟の上だった。どうせ生きる意味などない、死んだほうがましだとぼんやり生きてた人生だったから。
でも、いざその時を迎えてしまうと、ただひたすら後悔の念だけが湧き上がていた。
(ヤダ……やっぱりまだアタシは死にたくない!)
目の前に迫ったネガテバーが、炎の拳を高々と振りかざした。
「やだぁ…こんなのやだよぉ……助けて…誰か――」
ネガテバーの拳が、ストロジーめがけ振り下ろされた。
「助けてよぉ、せんぱぁい!」
「任せて」
「へ?」
轟音とともに、ネガテバーの拳を誰かが受け止めた。
ストロジーをかばうように立っていたのは、たなびくルビー色のマントを羽織った、赤き髪の少女の姿。
「せ……せんぱい…?」
「遅れてごめんね。ストロジーは大丈夫?」
キュアルカナは片手ひとつでネガテバーの拳を受け止めたまま、振り返ってストロジーに微笑みかけた。
ストロジーは地面に倒れ伏したまま、顔をしかめた。
「…あのさ、この状態で大丈夫なわけないじゃん」
「減らず口叩ける程度には大丈夫っぽいね」
「言ってくれるじゃん。ムカついたからアタシもう手伝わないからね。せんぱいだけで後ヨロシク」
「はいはい」
ルカナは苦笑しながら、再びネガテバーに目を向けた。
ネガテバーあ、ルカナに掴まれた右拳を必死になって振りほどこうとしていたが、もがけどもがけど、離れるどころか腕を動かすことさえできなかった。
ルカナは左手ひとつでネガテバーの拳を拘束したまま、右手に抱えていたターロットに呼びかけた。
「お願い。私に力を貸して」
「言われなくたって貸すロト」
ターロットがルカナの左手からふわりと浮かび上がり、そのページを開いて三枚のカードを舞い落した。そのカードは光の粒子と化して、ルカナの右腕に力となって宿っていく。
その瞬間に垣間見えたネガテバーの過去に、ルカナは目を伏せ、黙とうを捧げながら、その拳を引き絞るように腰だめに構えた。
「プリキュア……イレイザーナックル!!」
「ネ、ネガァァ!!??」
ネガテバーの右手を拘束したまま、ルカナの拳がその腹部に突き刺さった。ルカナの拳に宿っていた光が奔流となってあふれ出し、ネガテバーの全身を炎ごと消し去っていく。
そして最後に、サインコインが一枚、放物線を描いて遠くへと飛んでいく。
ルカナはすぐに大地を蹴り、そのサインコインを追いかけた。地に落ちるようとするコインを捕まえようと、右手を前方に差し伸ばす―――伸ばそうとする前に、ルカナは背後に振り返った。
「プリキュア、イレイザーフィールド!」
振り返りざまに右掌を拡げ、光の領域を展開する。そこへ、背後から突進してきていた一頭の猛牛が衝突し、そしてあえなく消滅していった。
その向こう側では、ストロジーが星座盤を構えたまましかめ面をしていた。
「ちぇっ、読まれてたか」
「あなたのことだから、どうせそう来るとは思ってたよ」
ルカナはターロットを手放し、両手の拳を握りしめ、ストロジーに向かって構えを取った。
「悪いけれど、今日はサインコインを譲るつもりないから。これ以上、邪魔をするなら、私はあなたと戦うよ」
「へぇ~、珍しくやる気じゃん。そんなのアンタらしくないよ、せんぱぁい」
ストロジーは軽口を崩さないものの、ルカナの態度には明らかに焦りの色を浮かべていた。そんな彼女を前にしながら、ルカナはターロットに言った。
「私があの子をけん制している間に、ターロットはコインを回収して」
「わかったロト!」
ストロジーと対峙し続けるルカナを残し、ターロットがサインコインへ向かって飛んでいく。
しかし――
「サインコインは渡さないルン!!」
「ロトぉっ!?」
突如、物陰から水晶妖精:クリルンが飛び出し、ターロットを体当たりで弾き飛ばした。
クリルンはそのままサインコインのそばに着地すると――何をどうしたのかは不明だが――コインを水晶の中に取り込み、そのまま猛スピードで地面を転がり、遠くへと去って行ってしまった。
「ターロット、大丈夫!?」
「ぬがぁぁぁぁ!! 油断してたロト! 畜生だロト!」
「…大丈夫そうだね」
「あーああ、くたびれ損だわ」
ストロジーが緊張が解けた声で、吐き捨てるように呟いた。そして、
「せんぱーい、この借りは高くつくからね。次はきっちり返してもらうから覚悟しなよ」
そんな捨て台詞を残して、彼女もまたいずこかへと去って行ったのだった。
夜。
あれから、プリキュアの姿のまま急いで帰路に就いた私は、父さんが帰宅する前になんとか自宅のアパートへ帰りつくことができた。
何食わぬ顔で父と夕食を過ごし、片付けをして、入浴まで済ませて、ようやく部屋に戻った後、私はベッドに倒れ込んだ。
「あ~~~~~~………疲れた」
「心配かけて、悪かったロト」
ターロットが、ベッドわきに佇みながら申し訳なさそうに言った。
「そんなこと無いよ」
私はそう答えながら、ターロットに手を伸ばした。
「私の方こそ、言い過ぎちゃった。ターロットにも事情があるのに、それを考えもせずに私の事情ばっかり押し付けようとしてた。それに……」
私はターロットを手に取り、上体を起こして彼女と向かい合った。
「……ターロット達の歴史を、たかがって言っちゃった。私、軽く思ってた。ごめん、って謝って済むとは思わないけれど……でも、ごめんなさい」
「ミク……」
本の表紙の中で、ターロットが力無く微笑んだ。
「謝ってくれてありがとうロト。だけど、ミクが言ってたことも当然だロト。ミクには、決められた未来なんてない……それでも……ごめんロト」
「それって、コインの奪い合いは避けられないって意味での、ごめんってこと?」
私の問いに、ターロットは小さくうなずき、そして言った。
「ターロットには、まだミクに話してないことがいっぱいあるロト。でも、まだそれを全部明かすことはできないロト。…だから、ごめんロト」
「いつか話してくれる?」
「もちろんロト! それにターロットはミクを騙したり、嘘を吐いたりはしてないロト! これだけは信じて欲しいロト!」
「うん、信じるよ。だから、私からもお願いいいかな?」
「わかったロト。ちゃんと聞くロト」
「私は、やっぱりネガテバーを放っておきたくない。悲しい過去を利用されて暴れているネガテバーを何とかしてあげたい。そこに人が取り込まれているなら、絶対に助けたい。そのためには、プリキュアの力がどうしても必要なの。もうサインコインを取引には使わないし、ネガテバーを浄化したらコインを全力で獲りに行くって約束する。……でもね、その前に私はネガテバーの浄化に全力を尽くす。そのためにストロジーやオラクルとも積極的に協力していきたい。……どう思う?」
「コインを奪い合うのがわかっているのに、協力し合うのは難しいと思うロト」
でも、とターロットは続けた。
「ミクがそうしたいというなら、ターロットも精一杯頑張るロト!」
「ターロット……いいの?」
「それでいいロト。きっと難しくて、上手く行かないときもいっぱいあるロト。でも……だからって、最初から切り捨ててしまうのは違うロト」
「そうだね……そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう、ターロット」
私の言葉に、ターロットが表紙の中で微笑んだ。その彼女の姿が、ぼやけてにじむ。
にじんだのは私の視界だった。あくびが口から漏れ出て、睡魔が頭の芯を痺れさせた。
ターロットが言った。
「ミク、もう眠るロト。しっかり休んで、また明日を迎えるロト…」
「そうだね。うん、お休み、ターロット」
ベッドに横になり、目を閉じる。睡魔はたちまち私を支配し、そのまま意識は眠りの奥底へと沈んでいった――
――ターロットはベッド脇に佇みながら、眠りに落ちたミクを眺めていた。
「ミク…確かに未来は誰にも決められないものだロト。……でも、せめてあなたが幸せに笑って暮らせる未来を選ばせてほしいと望むのは、許して欲しいロト……」
それが例え、他の誰かの幸せの犠牲に成り立つ未来であったとしても。
ターロットの最後の言葉は、微かなつぶやきとなって、闇夜へと溶けて消えて行った。
人気の無い郊外。そこの空き地の一画で、オラクルは目を覚ました。
時刻は深夜、雨はとうに上がり、雲も晴れ、頭上には満天の星空と、そして細い三日月が浮かんでいた。
オラクルの身体はボロボロだった。仰向けになって倒れたまま身動きさえすることができず、たた夜空を見上げることしかできなかった。
「ちっきしょう……ボロ負けかよ……なさけねえ」
「ほんと、情けないよね」
くすくすと笑う声とともに、オラクルの視界に、少女の顔が割り込んできた。星空と月を背景に、少女はオラクルを見下ろしながら苦笑した。
「やっと起きたわね。私、ずっと待ってあげていたんだからね。感謝しなさい」
「あの金髪野郎はどこ行った?」
「知らないわよ」
「ネガテバーはどうした?」
「ルカナが浄化したわ」
「コインは?」
「ここよ」
少女が手に持っていたコインを手放し、それはオラクルの額にコツンと当たって転がり落ちた。
「いってえ!?」
「寄り道してネガテバーの浄化をサボった罰よ。おかげで私、ルカナからの印象が悪くなっちゃったじゃない」
「どうせもとから良くねえよ」
「それはあんたの話。あの子、私たちが入れ替わってることにちゃんと気づいているから、“私”に対しては悪くない印象を持ってると思うんだけど、それも今回限りかしらね」
あ~あ、と落ち込む少女。
そんな少女に、オラクルは言った。
「それでも……コインを集めなきゃならねえんだろ」
「うん……そうだね……」
過去を取り戻すために。
そう呟きながら、少女は夜空を見上げた。
その視線の先に浮かぶ細い三日月は、まるで夜空があざ笑っているかのように、少女には思えた……。