明日へ進め! フォーチューン・プリキュア   作:PlusⅨ

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第3話 三人で力を合わせましょう? 登場、キュアオラクル(前編)!

 新たなプリキュア、キュアストロジーと出会い、そしてともにネガテバーを浄化したその夜。

 

 アパートに帰宅した私は、自室のベッドに寝転びながら、天井を見上げていた。

 

 プリキュアとしての二度目の戦いはかなりの苦戦だったが、身体に残るような傷はついていないし、疲労も徐々に回復しつつある。

 

 プリキュアは頑丈だ、とターロットは初戦闘の時に言ったけれど、実際そのとおりだった。

 

 ただ、心に残る痛みと疲労だけは別だけど。

 

 私はネガテバーに取り込まれていた人のことを思い返しながら、胸に感じる痛みを抱きしめるように反芻した。

 

 そんな私に、「ミク…」と囁くように呼ぶ声が聞こえた。

 

 寝転がったまま首だけ横に傾けると、枕元に置いた本の表紙に描かれた、三頭身の小動物のような姿の妖精と目が合った。

 

 本の妖精:ターロット。私にプリキュアとしての力を与えてくれた、未来からやってきた占い師だ。

 

 そのターロットが、心配そうな表情で言った。

 

「ミク……悩んでいるロトね?」

 

「うん、まあね」

 

 私は力の抜けた笑みを返しながら、ターロットに「ごめんね」と謝った。

 

「どうして謝るロト?」

 

「ターロットの忠告も聞かずに、強引なことしちゃったなぁ…って」

 

「確かに強引だったロト。でも、ミクひとりじゃ、あれ以外に手段が無かったのも事実だロト。しかたなかったロト」

 

「ストロジーが来てくれなかったら、あの人を助けられなかった。…ねえ、ターロット。彼女とは協力できないの?」

 

 私の問いかけに、ターロットは表紙の中でその顔を伏せ、言い辛そうに答えた。

 

「……無理だロト」

 

「どうして? 同じプリキュアでしょう?」

 

「プリキュア同士は競争相手だロト」

 

「競争?」

 

 私は身を起こし、本を手に取ってターロットと正面から向き合った。

 

「どういうことなの?」

 

「プリキュアは本来、この時代ではたったひとりだけだったロト。サインコインも本来は一枚きりロト。だけど、サインコインが増えてしまったから、プリキュアも増えてしまったロト」

 

「それは理解できるけど、でもどうして競争相手になってしまうの?」

 

「サインコインが増えてしまった今、それをより多く集めた者が“正しいと思う歴史”を本当の過去にすることができるロト。…この“過去”はターロットの時代にとっての過去ロト」

 

「つまり、私たちにとっては未来という事ね」

 

「そうロト。そしてストロジーのパートナーである星座盤の妖精・アストロは、ターロットが知っている歴史とは違う、別の歴史を正しいと主張しているロト。……ターロットたちの時代からみた過去は、不安定で曖昧になっていて、どの歴史が正しいのか、もう誰もわからないロト。だからアストロは、別のプリキュアを使ってサインコインを集めて、自分の信じる歴史を正当化しようとしているロト」

 

「そうなんだ……なんだか難しい話なんだね」

 

 つまりこれは歴史対立ということだ。これはなかなか根深くて、ややこしい問題だ。単なる歴史解釈ですら喧嘩に発展しかねないというのに、歴史そのものが変わってしまうというなら、妥協点を探すことは困難極まるだろう。

 

 この分だと、妖精同士がおいそれと仲良くすることは無さそうだった。私はターロットを枕元に戻し、再びベッドに横になった。

 

「ミク、疲れたロトか?」

 

「うん。……今日はもうこれで寝るね。色々と話してくれてありがとう。…おやすみなさい」

 

「…おやすみロト」

 

 私は灯りを消し、暗闇の中で目を閉じながら、心の中でターロットに再び、ごめんねと謝った。

 

 ターロットには悪いけれど、私はサインコインの奪い合いにはあまり興味は無かった。ターロット達にとっては過去でも、私にとっては未来なのだ。どちらの歴史が正しいかなど、私にわかるはずもない。だから一方的に肩入れするのには若干の抵抗があった。

 

 私はそれよりも、ネガテバーの苦しみを浄化してあげたいという思いの方が強かった。あの悲痛な叫びをあげながらもがき苦しむように暴れるネガテバーの姿が見ていられなかったから、私はプリキュアになったのだ。

 

 だけどひとりじゃ限界があることを今日の戦いで思い知らされた。だから、ストロジーともう一度会えたなら、協力し合えるように話し合ってみたい。

 

 そんなことを思いながら、私は深い眠りに落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日間は特に何事もなく、ネガテバーも出ないまま過ぎて行った。

 

 平穏な日々であることは喜ばしいが、ネガテバーがいつまた現れるかわからないという懸念が別に消えたわけでもない。

 

 私とターロットはこの数日の間、元凶たる“過去よりの使者”の動静や、キュアストロジーの正体などを多少は探っていたものの、目新しい情報はさっぱり手に入らなかった。

 

 まあ私はしがない中学生だし、学業やら家事やらなにやらもあるので、こういった調査は主にターロットに任せきりだったけれど。

 

 ターロットは私と初めて出会ったときの様に占い師の女性の姿で、街に出て、辻占いをしながら聞き込みや見回りをしているらしかった。

 

 ちなみに女性の姿と言ってもターロット自身が変身しているのではなくて、精巧なマネキンのような――不思議な力でもかかっているのか、本当の人間にしか見えない――人形をターロットが操っていた。

 

 そのマネキン人形は大人の女性を模しているだけあって結構な大きさがあった。だけど、そんなものを普段から私の自室に置いておくわけにもいかない。私の部屋は六畳しかない一間なのだ。

 

 じゃあ普段はどこに仕舞っているのかというと、それはなんと、ターロット自身のページの間だった。

 

 私は、ターロットがそのマネキン人形を出し入れしているところを何度か見たことがある。

 

 ターロットは自身のページの間から一枚のカードを抜きだすと、それに向かって、

 

「パペットアピアー」

 

 と、割とそのまんまな呪文を唱えるのだ。すると、そのカード――THE HIGE PRIESTESS(女教皇)――に描かれていた女性の絵が浮き上がり、立体化して、大きくなってマネキン人形となる。と言った具合だった。

 

「そのカードって、過去・現在・未来を暗示するのと、ナックルの時に込める力になるだけじゃないんだ?」

 

 私の疑問に、ターロットは占い師の女性の口を通じて、「そうよ」と答えた。

 

「各カードにはそれぞれ固有の能力があるの。この女教皇のカードは操り人形の具現化。他にも太陽のカードなら火球を放つことができるわ」

 

「ほえ~」

 

 どうやらカードごとに色々と小技が使えるという事実に加え、ターロットはこの姿だと変な語尾は無くなるんだな、という二点に私は感心した。

 

「でもさ、そんなに色々と技が使えるなら、どうして最初から教えてくれなかったの?」

 

「教えても戦闘にはあまり役に立ちそうに無いからよ」

 

「どういうこと?」

 

「プリキュアとして引けるカードは、ネガテバー一体に付き三枚だけ。それも何を引くかわからないランダムなものよ。そんな行き当たりばったりで出す技じゃとても戦えないわ」

 

「なるほど、そりゃそうだわ」

 

 それに攻撃や防御に使える能力ばかりでも無いので、結局、殴ったほうが手っ取り早いし効率的だ。というのが、その時の話題の結論だった。

 

 そして、月が変わり、大型連休を目前に控えた平日のある朝のことだった。

 

 仕事の都合で早朝から出かけて行った父を見送った後、私が自室に戻ると、そこに例の占い師姿のターロットが居た。

 

「うわ、びっくりした」

 

 今さら別に珍しくも無い姿だけど、狭い部屋に入った途端に、目の前にローブ姿の女性が座り込んで、床一面にタロットカードを敷き詰めているという光景を目の当たりにすれば、誰だって声ぐらいは上げてしまうと思う。

 

「ターロット、何やってるの?」

 

「御覧のとおり、占っているのよ」

 

 ターロットは私の方も見ずに、床に並べたカードを一枚、また一枚とめくっていた。

 

「いや、私が訊きたいのは、なんでわざわざその恰好で占っているのかってことよ。本のままでも占いはできるし、むしろそっちの方が場所を取らないでしょう?」

 

 数日前、ターロットが自らの白紙ページにカードの図柄を表示させていたことを思いだしながら言うと、ターロットは床のカードに目を向けたまま答えた。

 

「確かにそのとおりだけどね。でも、これから出かけようと思ってこの格好になったところで急にピンときちゃったのよ。“あ、これは今占わなきゃダメだ”ってね」

 

「それ、後じゃダメなの?」

 

 私だってヒマじゃないのだ。そろそろ制服に着替えて登校の準備をする必要があるのに、床一面にカードを拡げられてしまっては、足の踏み場もありゃしない。

 

「ダメよ」

 

 と、ターロットはにべもなく否定した。

 

「占いはね、こういう予感がきた瞬間にやらなくちゃダメなのよ。……大丈夫、もうすぐ終わるわ」

 

 ターロットはそう言って、最後の一枚を引っ繰り返し、それから十数秒の間、床一面のカードを眺め渡した。

 

「今日の午後……墓地……東の山……」

 

 ぶつぶつと小声で何やらを呟いた後、ターロットは私に顔を向けた。

 

「ミク、今日の午後にネガテバーが出現するわ」

 

「ほえ~、それは拙いなぁ。今日の午後は校外実習があるんだよ。うまく抜け出せるかなぁ」

 

「その実習って、どこでやるのかしら?」

 

「隣町の東山公園ってところ。海軍墓地があって、公園としても整備されているの。歴史の授業で、海軍と関係の深いこの佐世浦市の歴史を知るために行くんだけど……ターロット?」

 

 私が説明している間、ターロットが妙に強くうんうんと頷いていた。

 

「あのさ、まさか?」

 

「占いは、“午後”に“東の山”の“墓地”に出現すると示されているわ。ドンピシャね」

 

「まじかー」

 

 それはそれで面倒なことになるぞ、と私は頭を抱えて天井を見上げたのだった……。

 

 

 

 

 授業をサボらずにネガテバーに対応できるのは私個人としては助かるが、その代わりクラスメートを危険に巻き込んでしまう可能性があった。

 

 できるなら校外実習を注視にしてもらった上で、私だけ現場に駆け付けるのが一番いいのだろうけど、それをするための具体的方法がなかなか難しい。

 

 なにしろプリキュアもネガテバーもまだ世間一般には認知されていないのだ。だから先生に正直に打ち明けたところで信じてもらうことは難しいだろう。

 

 ちなみにターロットの話によれば、ネガテバーを浄化すると、それによって起きた被害や、関わった者に関する記憶なども復元され、痕跡は残らないらしい。

 

 つまりこの先うまくやればやるほど、プリキュアもネガテバーも世間には認知されないままらしい。

 

 かといって他に信じてもらえそうな言い訳も思いつかないままに午前中は過ぎてしまい、実習に出かける時間が迫ってきていた。

 

≪どーしよう?≫

 

≪ここは水際で食い止めるしかないロト≫

 

 午前の授業が終わった昼休み、私は教室の自分の机で、ターロットと筆談する。

 

≪ミク、これはチャンスでもあるロト≫

 

≪チャンス?≫

 

≪ここまで具体的に出現場所と時間を限定できることは滅多に無いロト。上手く行けば、ネガテバー出現前にサインコインを回収することができるかもしれないロト≫

 

≪それってつまり、“過去よりの使者”から直接コインを奪うってこと?≫

 

≪そうロト。元凶であるあの二人組を倒すことができれば、未来は安定化するし、新たなネガテバーが生まれることも無くなるロト≫

 

≪倒す……かぁ≫

 

 ターロットの言っていることは理屈としては理解できる。だけど、見ず知らずの相手を倒せと言われても、いまいちピンとこないのだ。

 

 そもそも私がプリキュアをやっているのは、ネガテバーの苦しむ叫びを聞いたからだ。私はネガテバーとなって苦しむ過去を救いたい。

 

 ならそもそも過去をネガテバーにさせなきゃ良いわけで、そうなるとやっぱりターロットの言う事は正しいのだ。

 

 だけど私は“過去よりの使者”とやらと出くわしたとき、果たして躊躇なく殴り掛かることができるだろうか?

 

 うーむ。

 

「お~い、ミクっち~」

 

 密かに悩む私の元に、売店へ昼食用のパンを買いに行っていた星華ちゃんがビニール袋を片手に帰ってきた。

 

「あ、おかえり星華ちゃん。目当てのフルーツサンドは買えた?」

 

「いや~、全然ダメだったわ。今日も昼休み始まった瞬間に人がいっぱい押しかけて全滅よ。今朝の星座占いで“スタートダッシュが肝心でしょう”って言われてたのに、そこをミスっちゃったからね。しゃーないわ」

 

 星華ちゃんは大きくため息をつきながら私の向いに座ると、ビニール袋から小ぶりなハンバーガーとパック牛乳を取り出した。

 

 憮然とした表情でハンバーガーの包みを解く彼女を前に、私もカバンから自分の弁当箱を取り出した。

 

「星華ちゃん」

 

「ん~?」

 

 しょんぼり顔でハンバーガーにかぶりつこうとしている彼女の前で、私は弁当箱の蓋を開けてみせた。

 

 中に詰まっているのは、私お手製のフルーツサンドだ。

 

「わ、ミクっちスゴ! どしたのコレ?」

 

「星華ちゃんがいつも食べたがっているフルーツサンド、私も気になっていたから、自分で作ってみたの。星華ちゃんが買ってきたら食べ比べさせてもらおうと思っていたのになぁ」

 

 私はそう言いながら、弁当箱の蓋に、四切れあるうちの一切れを移して、星華ちゃんの前に差し出した。

 

「はい、どうぞ」

 

「え、良いの?」

 

「もともと食べてもらおうと思って多めに作ってきたからね」

 

 私の言葉に、星華ちゃんは驚愕の表情で目を見開いた。

 

「て、天使や……天使が降臨しよった…!?」

 

「なんで関西弁?」

 

「あー、もー、ミクっち大好き。あたしが男だったら、あんたをお嫁さんにするわ」

 

「はいはい。……あ、そういえば珠代ちゃんは見てない?」

 

「ふぁい? 見ひぇないへほ」

 

 見てない、と答えた星華ちゃんの口には、私があげたばかりのフルーツサンドが既に咥えられていた。

 

 そのままもぐもぐされる。

 

「――うっわ、これ美味しい! フルーツの酸味と甘みがクリームと溶け合って程よい感じで、これはまるでクリームでお化粧したフルーツたちがパンという舞台の上でバレエを踊っているかのようだわ!」

 

「何を言ってるのか意味不明だけど、とりあえず褒めてるってことは理解したよ。ありがとう」

 

「あ、珠代っちのことだっけ?」

 

「そう、珠代ちゃんにも食べてもらおうと思ってたんだけど、昼休みが始まったとたんに出て行っちゃって、それからまだ戻ってこないの。てっきり星華ちゃんみたいに売店に行ったと思ってたんだけど」

 

「ん~、見てないね。途中までアキラと一緒に廊下を歩いているところは見かけたんだけど」

 

 もしかして、と星華ちゃんは呟き、ニヒッと笑った。

 

「今ごろ二人きりで、どこかに居るのかもね~」

 

「ほえ~、あの二人ってやっぱり付き合ってるの?」

 

「そこはよくわからんのよ。お互いに幼馴染とは言い張っているけどね。でもでもさ、ミクっちもその辺はきになるっしょ?」

 

「そりゃまあ――」

 

 と、私がそこまで言いかけたところで、その話題の当人である珠代ちゃんが教室に帰ってきた。

 

 ただちょっと浮かない顔、というか少し機嫌が悪そうな雰囲気を纏っていた。

 

「珠代ちゃん、どうしたの?」

 

 私が声をかけると、珠代ちゃんはすぐに私たちのそばへ小走りに寄ってきた。

 

「ミクちゃん、星華、ちょっと聞いてよ。アキラがさ……って、あら星華、美味しそうなものを食べてるわね。フルーツサンド買えたんだ?」

 

「うんにゃ、これミクっちのお手製よ。めっちゃ美味いんだよ。珠代っちも食べてみ」

 

「はいコレ、珠代ちゃんの分だよ」

 

「あらいいの? じゃ遠慮なく。……美味しい! ミクちゃんこれどうやって作ったの? レシピ教えてくれない?」

 

「いいよ。でもその前に、アキラくんがどうとか言ってなかった?」

 

「そうそう、それよそれ。アキラってば昼休み始まったとたん急にお腹痛くなったとか言い出したのよ。だから保健室まで連れて行ったの」

 

「ほぇ。アキラくん大丈夫だった?」

 

「胃薬だか何だかをもらってトイレに駆け込んでいったから、単にお腹の具合が悪いだけだと思うけどね。でもそれだけなら別にいいのよ。問題はその後よ」

 

 珠代ちゃんは盛大にため息を吐いて、言葉を続けた。

 

「アキラってば、トイレの中から大声で私の名を呼んだのよ! 周りに他にも人が居るのに、恥ずかしいったらありゃしないわ。それで何の用かと思えば、“トイレから出られそうにないから、午後の実習を休むって先生に伝えてくれ”だって。何よそれ。私はあいつの母親じゃないっての、もぉー!」

 

 とは言いつつも職員室によってその旨を伝えてきたそうだ。珠代ちゃんはひとしきり憤慨した後、

 

「ごめんね。食事中にする話題じゃ無かったわね」

 

 と謝りながらフルーツサンドの残りを口にした。

 

「ん~、美味しいわぁ。あ、もらってばかりってのも悪いわ。ミクちゃん、私のお弁当からも好きなの取っていって」

 

 そう言って珠代ちゃんが取り出したお弁当箱には、カラフルなふりかけを混ぜ込んだ俵型の小ぶりなおむすびと、サラダとから揚げが詰められていた。

 

「ありがとう、珠代ちゃん。じゃ、遠慮なく」

 

 私は桜でんぶのおむすびをもらった。うん、美味しい。私の向かいで星華ちゃんが羨ましそうに珠代ちゃんのお弁当箱を覗き込んでいた。

 

「珠代っちさぁ~、あたしにも一つ分けてくんない?」

 

「トレードオフよ。ちなみにその食べかけのハンバーガーは却下ね」

 

「ありゃ、ケチ~」

 

 星華ちゃんと珠代ちゃんの三人で過ごす昼休みはあっという間に過ぎていき、そして実習へと出かける時間となった。

 

 クラス全員がジャージに着替え、掃除用具をもって、学校が手配してくれたバスに乗り込んで移動する。

 

 目的地は東山公園。正式名称は「東山海軍墓地公園」。

 

 今から百数十年前、この地に海軍基地が設置され、戦後、それが解体されるまでの約六十年に渡る間に戦死もしくは殉職した軍人軍属の御霊が祀られている場所だった。

 

 けれど、墓地と言っても不気味な雰囲気が漂う場所、という訳ではない。

 

 バスが到着したその場所は、佐世浦を囲む山の尾根沿いの一画に位置していた。敷地は広々としていて、周囲には立派な桜の樹々が植えられている。時期的にもう過ぎてしまったけれども、三月から4月にかけては満開の桜が咲き誇るお花見スポットとしても有名らしい。

 

 山の尾根沿いにあるため見晴らしも良く、その開放的な敷地内に、大小さまざまな石碑が立ち並んでいた。

 

 ここは普通の墓地と違って個人のお墓ばかりがあるのではなく、戦争で沈んだ軍艦や、潜水艦、そして戦場となった場所が記された慰霊碑が大半を占め、それぞれには、その辿った歴史が刻まれていた。

 

 つまり、教科書には載せきれないような歴史の詳しい資料が、ここにはズラリと並んでいるという訳だ。

 

 ……というようなことを歴史担当教師であり、また私たちの担任でもある老教師が、駐車場に整列した私たち生徒を前に説明してくれた。

 

「皆さんにはこれから、この公園を清掃していただきます。そうしながら、慰霊碑に刻まれた説明文をしっかりと読んでみてください。普段読む教科書とは違い、そこには当時を生きた人々の生の言葉が刻まれています。……今はまだ、書かれた言葉の意味はほとんど理解できないかもしれませんが、いつか将来、何らかの形で影響を与えることがあるかもしれません」

 

 老教師の淡々とした言葉は、整列している生徒たちの大半には聞き流されてしまっているようだった。

 

「では、清掃に取り掛かる前に、皆さんに注意してもらいたいことがあります。これはしっかり聞いてください」

 

 老教師の言葉が張りを帯び、それで逸していた生徒たちの注意が老教師の方へ集まった。

 

「ここは公園ですが、れっきとした墓地でもあります。くれぐれもふざけたり、大声ではしゃいだりしてはいけません。また、碑の大半には個人名が無いとはいえ、それらは大勢の人々を祀っているものです。それはこの街で暮らす誰かのご遺族、もしかしたら皆さんのご親族も含まれているかもしれません。それを念頭に入れて、くれぐれも粗相の無いよう、清掃にあたってください。…よろしいですね?」

 

 念を押す老教師の言葉に、私は「はい」と返事をした。意外なことに、私以外にもあちこちから「はーい」という素直な返事が結構あがっていた。

 

 その中には星華ちゃんの声も混じっていた。歴史の授業中は居眠りばかりで、今日の実習についても興味が薄そうだったのに、ちょっと驚きだ。

 

「では、始めてください」

 

 清掃用具を手に取り、あらかじめ決められたグループごとに割り当てられた場所へと散っていく。

 

 私は星華ちゃんや珠代ちゃんと同じグループだった。本当はアキラくんも加わるはずだったんだけど、昼休みの一件があって実習を欠席していた。

 

 ちなみにターロットは本の形態のまま、この公園をこっそりと飛びまわりながらネガテバーの出現に備えていた。

 

 もし“過去よりの使者”を発見し、ネガテバーの出現を阻止できたならそれで良し。もし間に合わずに出現を許してしまったら、私は大声で先生に知らせ、みんな揃って急いで避難。後はどさくさに紛れて現場に取って返し、プリキュアとしてネガテバーに対処するという算段だ。

 

 人はこれを出たとこ勝負と呼ぶ。

 

 私は周囲に気を配りながら、手にした竹ぼうきで地面を掃いていた。そんな私の近くで、星華ちゃんはある大きな慰霊碑を見上げていた。

 

 慰霊碑に向ける表情があまりにも真剣だったので、私は気になって、星華ちゃんに呼びかけた。

 

「何を見ているの?」

 

「ん? ああ、これ……あたしのひいおじいちゃんが乗ってた船なんだってさ」

 

 星華ちゃんが見上げていた慰霊碑には、とある航空母艦の名前が刻まれていた。星華ちゃんは言った。

 

「昨日さ、家族に実習のことを話したときに、おばあちゃんが、ひいおじいちゃんのことを教えてくれたんだよね。クーボって言うんだっけ? なんかでっかい船に乗ってて、そして遠い遠い海で沈んで、死んだんだってさ。……正直、その話を聞いた時はふーんて感じだった。だって顔も知らない、ずっと昔に死んだ人だしさ。……でも」

 

 ふと、星華ちゃんの目が遠くを見たような気がした。目の前の慰霊碑よりも、ずっと遠くを。

 

「……でも、ここに来て、これを見たら、なんか変な気持ちになっちゃった。うまく言えないけど、おばあちゃんのパパがここに居るんだと思ったら、なんか切ないっていうか」

 

 一瞬、星華ちゃんは顔を伏せ、言葉を切った。でも彼女はすぐに顔を上げ、いつものニハッとした笑顔を私に向けた。

 

「ゴメン、あたし変なことを言ってたね。さて、掃除しよ、掃除!」

 

 その言葉に、私は首を横に振った。

 

「ううん、いいよ。星華ちゃんはもう少しここに居てあげて」

 

「え?」

 

「ここに、星華ちゃんにつながる歴史があったんでしょ。だったら、それをもう少し感じてみたら?」

 

「あたしの……歴史……」

 

 星華ちゃんは独り言のように呟くと、もう一度、慰霊碑へと目を向けた。その碑の台座には、この空母が生まれ、そして散って行った歴史が記されていた。

 

 星華ちゃんの目が台座に向き、その文を読み始めたのがわかった。

 

「ミクっち……これ難しい感じとか単語がいっぱいあって意味不明なんだけど、なんて書いてあんの?」

 

「どれどれ」

 

 と私もその文に目を通し、解説した。

 

「えっとね、この空母は昭和十年に造られて、昭和十七年にミッドウェーってところで沈んだんだって。その間、精鋭の航空隊を載せて各地で奮戦し、最期の戦いでも、沈む間際まで勇敢に反撃を続けていたって書いてあるよ」

 

「ふむふむ」

 私のざっくりとした説明に、星華ちゃんはひとしきり頷いていたが、

 

「ねえミクっち、ミッドウェーってどこ? ていうか、このクーボって誰と戦ってたの?」

 

「え、そこから?」

 

「そっからだよ。だって私、授業とかぜんぜん聞いてなかったし」

 

 そっかぁ、そうだよなあ。百年前後の昔のことなんて知らなくても人は生きていけるし、知ろうと思わなければ、それは存在しないも一緒だ。

 

 だけど、今という時間は過去が無ければ成り立たない。

 

 お父さんやお母さんが居たから私が生まれ、その両親にはまたそれぞれに父と母が居て、そうやって膨大な人たちが私一人の存在には関わっている。そして、私につながるその人々にとって、過去は紛れもない現実で、その時代の積み重ねの上で私たちは生きている。

 

 きっと星華ちゃんは今初めて、それを意識したのだと思う。だから、今まで知らなかったことを知りたくなった。

 

 その彼女の気持ちを尊重し、私は知ってる限りの知識で、できるだけ丁寧に、当時に何が起きていたかを解説した。

 

「へー、ひいおじいちゃんの生きてた時代に、あの国とそんなすごい戦争やってたんだ。でもさ、あの国の人たち、当たり前みたいにこの街に居るけど、それってやっぱり、うちの国が負けたから?」

 

「そのとおりだけど、他にももっと事情があるというか」

 

「うわー、なんか基地の人たちの見方変わりそう」

 

「そういうの良くないよ」

 

「なんでさ~、だってひいおじいちゃんは、あの国のせいで死んだんだよ」

 

「戦争だもん。お互いにいっぱい死んだわ。今、基地に努めている人たちだって、きっとひいおじいさんを亡くした人たちがいるよ。……歴史って、見方を変えれば善悪はころころ変わるし、加害者にも被害者にもなるんだよ」

 

「ミクっち、なんかすごい難しいこと言うね。う~んと、つまり、お互い様ってことだね。…ま、基地の人たちは良い人多いし、この街でずっと一緒に暮らしてきたから今更だけどね」

 

 星華ちゃんは屈託なく笑って、続けた。

 

「それに基地の人たちが居なくなったら、珠代っちのお店も潰れちゃうもんね。だって観月バーガーの常連客ってほとんど基地の人たちだし……って、そういえば」

 

 星華ちゃんが言葉を切って、周辺を見渡した。私もその意味に気づき、同じく視線を巡らせた。

 

「……珠代ちゃん?」

 

 そう、一緒に近くで掃除していたはずの珠代ちゃんの姿が、いつの間にか見当たらなくなっていたのだ。―――

 

 

 

 

 

「ちょっと珠代ちゃんを探してくるね。星華ちゃんはここで待ってて」

 

 私は内心でかなり焦りつつ、外見は何でもない風を装いながら、星華ちゃんを残しその場を離れた。

 

 いつネガテバーが出るか分からない状況というのもあるが、それは最初から織り込み済みだ。だけど珠代ちゃんが見当たらないことに気づいた瞬間、私の中で正体不明の大きな不安がよぎっていた。

 

(もしかして、珠代ちゃんの見に何か危機が迫っているのかも?)

 

 不意にそんなことが思い浮かんだ。プリキュア変身時に発言する予知能力が、この状態でも発現したのだろうか? 気が付けば私は、サインコインを握りしめながら公園内を走っていた。

 

 他の場所で掃除をしているクラスメートたちが、奇異なものを見る目を私に向けている。私は出くわしたクラスメートに片っ端から珠代ちゃんの居場所を訊いたが、誰も知らないという返事だった。

 

 そのまま探し続けているうちに、私はいつの間にか公園の隅のほうまで来てしまっていた。

 

 他のクラスメートもここまでは来ていないらしく、誰も居ない。珠代ちゃんの姿も見当たらないことを確認し、私はその場から立ち去ろうと踵を返し―――

 

―――かけて、あることに気づいて、思わず身体が硬直した。

 

 踵を返しかけた瞬間、視界の端に見えていた“誰も居なかったその場所”に、突然、ひとりの男の姿を捉えたのだ。

 

 背筋を走る悪寒と共に身体が硬直した一瞬後、私は微かに身震いしながら、再びそちらへと目を向けた。

 

 今まで誰も居なかったある慰霊碑の前に、その男は居た。

 

 背の高い、モデルのように手足がすらりと長い、若い男の人だ。その少し長めの髪は銀色に輝き、それと対比するように褐色の肌をしていた。そして慰霊碑を見上げるその横顔は、思わず見惚れてしまいそうな美形だった。

 

 きっと他の場所で出会ったなら一目惚れしてもおかしくないようなイケメンだ。でも、今の私は生憎そんな気になれなかった。虚空から突然現れるような怪しい人物に鼻の下を伸ばせるほど、私は能天気じゃない。

 

 私はサインコインを握る手に力を込めながら、ゆっくりと深呼吸して気持ちを落ち着けようとした。

 

 と、その男性の顔が慰霊碑から逸らされ、私に向けられた。

 

「――よお、遅かったじゃないか。てっきり来ないものかと思ったぜ」

 

 馴れ馴れしいその言葉は、間違いなく私に向けて放たれたものだった。

 

「……私を知ってるの?」

 

「ああ」

 

 男は私に向き直りながら、その秀麗な顔に薄い笑みを浮かべた。

 

「明日原ミク。…いや、“明日よりの使者・キュアルカナ”だったか。俺のことはターロットあたりから聞いてないか?」

 

「……“過去よりの使者”」

 

「ご名答」

 

 私の言葉をあっさりと肯定した男の目が、私を真っ直ぐに見つめていた。金色の、まるで狼のような瞳だ。恐ろしく獰猛な気配を放っているのに、同時に夜空の月のように冴え冴えとして美しく、目を離そうにも、離せない。

 

 私はお腹のあたりから身体が冷たくなっていく感覚を味わっていた。

 

 単なる恐怖とも違う。異質で、圧倒的な何かを前にして、私の中で眠っていた生存本能が目を覚まし、目の前の男に対抗しようとして全身の感覚を研ぎ澄まそうとしているかのようだった。

 

 その一方で、私の頭の中はふつふつと熱くなっていく。その熱さを勇気に変えて、私は男に問いかけた。

 

「ここで何をしているんですか? なぜネガテバーを生み出すんですか?」

 

「俺がネガテバーを生み出しているって? それはとんだ誤解だぜ。過去が自らネガテバーになりたがっているんだ。俺は過去に呼ばれたから、ここに居る」

 

「過去に呼ばれた?」

 

「そうだ」

 

 男は再び慰霊碑を見上げた。その石碑には、ある戦艦の名前が刻まれていた。

 

 男は言った。

 

「この戦艦にはかつて同型艦が他にも三隻居た。四人姉妹ってやつさ。知ってるか、船ってやつは女性名詞で表すんだぜ」

 

 男は碑に刻まれた碑文に手を伸ばし、指先でなぞりながら続けた。

 

「長く厳しい戦いの果てに、姉妹は一隻、また一隻と沈んでいき、とうとうこの戦艦ただ一隻が残された。だがこいつも、戦いで傷つきボロボロになった船体を港に浮かべておくのがやっとの状態だった。…連日襲い来る敵にまともに反撃もできず、守るべき街が空襲で焼き尽くされていくのをただ見ているだけしかできなかった。……なあ、お前には、その気持ちが理解できるか?」

 

「………」

 

 私は答えなかった。答えてはいけないと思ったから、口を閉ざし続けた。

 

 目の前で大切な人が死んでいくのに、何もできずに見守ることしかできなかった悔しさ、悲しさ、辛さ。私があの時に抱いた感情が、この慰霊碑に眠る戦艦の乗員たちと同じとは思わない。

 

 でも、安易に「理解できる」と口走ってしまいそうで、私はそれが怖くて、唇を噛みしめ沈黙を保ち続けた。

 

 男がまた私を見て、フッと鼻で笑った。

 

「過去に残された悲しみを、今を生きる者は誰も理解しようとしない。そんな悲しみがあったことを知ろうとすらしない。だったらもう一度、今に黄泉返って叫び声をあげたくなる。そう思わないか?」

 

 歴史を知らなくても人は生きていける。むしろ忘れたい過去だっていっぱいある。でも、そうやって取り残され、忘れられた過去は何を思うのだろう?

 

 その時代を生きた人々は、何のために生まれ、死んでいったのだろう?

 

 今を生きる人々がその意味を考えようとしないなら、過去そのものが声を上げるのは当然じゃないだろうか?

 

 私の脳裏をそんな思考が一瞬にして過ぎて行った。

 

 だけど。

 

「私は、そうは思わない」

 

 男を見据え、私ははっきりと相手の言葉を否定した。

 

「ほう?」

 

 男の目が細められ、私を睨む。その冷たい威圧感に私は気圧されそうになるけれど、それでも、私は足下に力を込めて、言葉を続けた。

 

「あなたのやり方は間違ってる! ネガテバーを暴れさせたって、そんなのは新しい悲しみを拡げるだけだよ!」

 

 悲痛な叫びをあげなあらのたうち回るように暴れるネガテバーは、ただ闇雲に周囲を傷つけるだけの存在だ。そんなことを、過去たちは本当に望んでいるのだろうか。

 

「過去がネガテバーになりたがっているなんて、私はそうは思わない。もしそれが本当でも、私はそれを認めない!」

 

「傲慢なことを言うじゃないか。お前はいったい何様だよ」

 

「私はプリキュア。あなたを止める“明日よりの使者”!」

 

 私の啖呵に、男は大声で笑い出した。

 

「こいつは面白いぜ! いいぜ、やってみなよ!」 

 

 男が懐からサインコインを取り出した。

 

「過去に囚われた人間には憐憫を! 取り残された過去には救済を!」

 

 男がコインを慰霊碑に投げつけようとしたのに気づき、私はとっさに足元の石を拾い上げた。

 

「させない!」

 

 手にした石を男に向けて投げつけた。

 

「おっと」

 

 だけど男は慌てる素振りもなく、私が投げた石を身をよじってかわしてみせた。男があざけるような目を私に向ける。

 

「ハハッ、無駄な足掻きだなあ!」

 

 でも、サインコインを投げつけるのを遅らせることはできた。なら、私の役目は十分に果たした。

 

 後は頼んだよ、ターロット。

 

 突然、男の背後の茂みから一冊の本が飛び出し、男の手に体当たりしてコインを弾き飛ばした。

 

「なっ、ターロットか!? しまった!?」

 

 空中に跳ね上がったコインに向け、男は慌てて手を伸ばしたが、どれよりも早くターロットが宙を飛び、その開いたページでコインを挟み込んだ。

 

「やったロト!」

 

 そう、私が男と対峙している間に、ターロットは背後の茂みに隠れてずっと機会をうかがっていたのだ。

 

 ターロットが私の手元に舞い降りる。

 

「ターロット、ありがとう、助かったよ」

 

「ミクが注意を引いてくれたおかげロト。――タディー、あんたの悪だくみもここまでロト。これ以上好き勝手はさせないロト!」

 

 そう言われ、タディーは悔しそうな表情を……浮かべてはいなかった。

 

「くっくっく……あーはっはっは!」

 

 タディーは腹を抱えて大笑いをしていた。

 

「な、何がおかしいロトか!?」

 

「やるじゃねえかプリキュア。……だがなぁ、残念なことに、もう手遅れなんだよ」

 

 タディーが急に笑みを消し、そして何も持っていない手で、その指を鳴らした。

 

 乾いた音が周囲に響いた、次の瞬間―――

 

「テバアアア!!!」

 

 慰霊碑の背後から、ネガテバーの巨大な姿が突如として出現した。

 

「悪いな。実はとっくに仕込み終わっていたのさ。サインコインはまだ大量にあるんでな、ちょっとからかったのさ」

 

「ば、バカにするなロト!」

 

「あーっはっはっは、せいぜい頑張るんだな、あばよ!」

 

 男が掻き消えるようにその姿を虚空へと消した。

 

「待てロト! 逃げるなロト!」

 

「ターロット、そんなことより今はネガテバーを止めるよ!」

 

 私はすかさず握っていたサインコインを指で空中に弾き上げた。

 

「プリキュア、フォーチューンセレクト!」

 

 私の手元からターロットが飛び立ち、空中のコインをページを開いて挟み込む。再び手元に落下したターロットを受け止め、私は新たにページを開いた。

 

「オープン!」

 

 私は光に包みこまれ、身体に力が漲っていく。私は変身を続けながら即座に大地を蹴り、ネガテバーに体当たりを仕掛けた。

 

「テバぁっ!?」

 

「はあああっ!」

 

 私はネガテバーの巨体を、公園の奥に広がる森の中へと押し込んだ。

 

 先ずは人が居るところからネガテバーを遠ざける必要がある。私の不意打ちによってネガテバーの体勢がまだ整っていないうちに、私は立て続けに大地を蹴って、ネガテバーを森の奥へ、奥へと押し込んでいった。

 

 かなり奥まで来たところで、ついにネガテバーが体勢を立て直し、踏みとどまった。「テバアアア!!」

 

「くっ!?」

 

 途端に、ビクともしなくなった。それどころか、さっきまでとは比べ物にならない力で押し返してくる。

 

 このまま力比べをしていても押し負けると悟った私は、すぐに自分から身を引いて、背後へと大きく飛び退いた。

 

「テバ!?」

 

 私という支えを失ったことで、ネガテバーはそのまま前方につんのめって倒れ込む。私はネガテバーの前方十数メートル犯れた場所に着地する。

 

「未来へ進む明日よりの使者、キュアルカナ!」

 

 立ち上がろうとするネガテバーに向かって、私は名乗りを上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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