明日へ進め! フォーチューン・プリキュア   作:PlusⅨ

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第5話・コンビ解散!? 家出したターロット(前編)

 ターロットと喧嘩してしまった。

 

 私がサインコイン集めに消極的な態度でいることについに我慢ならなくなったらしい。それと他のプリキュアたちとことあるごとに協力しようとする私の態度も問題だったようだ。

 

 それでも私たちがサインコインを入手出来ている間はまだお互い穏便な関係で居られたのだけど……

 

 珠代ちゃんがネガテバーにされた事件から一か月、あれからもネガテバーは二度出現していた。その一回目はキュアオラクルと、そして二回目はキュアストロジーとそれぞれ遭遇し、私は彼女たちと共闘してネガテバーを浄化した。“サインコインを渡すことを条件に”。

 

 共闘したおかげで浄化はとてもスムーズに行えた。もちろん、ターロットは激怒したけれど。

 

「ミクはすぐそうやってコインを渡そうとするロト!」

 

「でも協力したおかげで、すぐに浄化出来たでしょ。今日のネガテバーも、この前もすごく強かったから、私一人じゃ浄化は手こずるよ」

 

「浄化したってサインコインを入手できなきゃ意味がないロト!」

 

「どうして?」

 

「それがプリキュアの使命ロト! でなきゃ、未来が間違った方向に進んじゃうロト!」

 

「でも浄化できなかったら、そもそもコインだって入手できないよ?」

 

「そんなこと――」

 

 無い、と言いかけてターロットは口をつぐんだ。

 

 そう、最悪の手段だけど、ネガテバーを放置しても最終的にサインコインを入手することは可能だったりする。

 

 サインコインを埋め込まれた対象はいずれ力を使い果たされてネガテバーの状態を維持できなくなり、サインコインの形に戻る。それを回収すればいいだけの話だ。以前、ターロットはそう言ってた。

 

 でも、そんな手段を平然と選べるなら、ターロットはそもそも私をプリキュアに選んでくれなかったはずだ。

 

「私はネガテバーを救いたいの。ターロットだってその気持ちは一緒でしょう?」

 

「そ、それはもちろんロト……でも……」

 

「だったら、何よりもネガテバーの浄化を優先すべきだよ。ストロジーも、オラクルもきっと同じ気持ちだと思うよ。だって、プリキュアだもん」

 

「だからって……コインは渡せないロト!」

 

「どうして? ターロットとは違う歴史を未来にしたいからってこと? だったら、先ずは話し合おうよ。コインはその時に渡してもらえばいいじゃない」

 

「ミクは何もわかってないロト! ミクにとっては未来でも、ターロット達にとっては変えることのできない過去の歴史ロト! それは話し合いでどうにかできるものじゃないロト!」

 

「どうして? それこそ訳が分からないよ。たかが歴史じゃない!?」

 

 思わず強く言い返した後、私は自分の失言にハッと気づいた。今、私は言ってはいけないことを言ってしまった。

 

「ミク……たかが、って言ったロト……」

 

「ご、ごめん!? 今のは、その…っ!」

 

 言い訳しようとしたときには、もう手遅れだった。ターロットは窓から部屋を飛び出し、そのまま空へと舞い上がってしまった。

 

「ターロット、待って!?」

 

 私も慌てて外へ飛び出して追いかけたけれど、ターロットの姿はもうどこにも見当たらなくなってしまっていた。

 

「ターロット、ごめん! 私が言い過ぎた、謝るから戻ってきて!」

 

 虚空に向かって叫んだけれど、返事は無かった。空をはばたく黒い影を見つけて目を凝らしたけれど、それはただのカラスだった。

 

 カラスは分厚い雲の下、湿った風に逆らいながら南へ向けて飛んでいく。その彼方の景色には薄く白いベールがかかっていた。

 

 雨だ。

 

 時刻は夕方、季節は梅雨。雨雲が風に乗って流れてきて、私にも降り注いだ。

 

 拙い。私はターロットの身を案じた。彼女は本だ。しゃべって飛べて不思議な力を使える妖精だけど、その身が紙でできた本であることには変わらない。水はターロットにとって天敵だった。

 

 早く見つけないと。

 

 私は雨の中を駆け出した。雨はターロットが飛び出してからすぐに降り出したから、ターロットもそんなに遠くへは行けないはずだ。私はターロットが雨宿りできそうで、かつ人目に付きそうにない場所を探すことにした。

 

 街路樹の枝葉の影や、駐車場の車の下を、私はびしょ濡れになりながら探し続ける。でも、見つからなかった。

 

 となると、ご近所の家屋の軒下かもしれない。でもそれだと逆に住人に見つかる可能性が高い。

 

 だったら誰も住んでいない空き家に潜んでいるかもしれない。この町内には確か空き家が2件ほどあったはずだ。

 

 私は雨の中、その場所を目指してひた走った。

 

「ターロット、お願い。居るなら返事をして!」

 

 空き家の敷地に足を踏み入れ、声を張り上げたけれど、やっぱり返事は無かった。戸も窓も全て閉め切られていて、内部の様子をうかがい知ることはできなかった。

 

 裏側にまわると、勝手口があった。ドアノブに手をかけ回すと、カギはかかっておらず、ガチャリと後がして開けることができた。

 

 私は一瞬だけ躊躇ったけれど、ドアをおおきく開け放ち、中へと足を踏み入れ―――

 

「―――そこの君、何をしているんだ!」

 

 背後からかけられた声に、私は足を留めざるを得なかった。

 

 振り向くとそこに、赤色灯を回したパトカーと、その傍に立つお巡りさんの姿があった。お巡りさんが持っていた懐中電灯で私を照らし上げ、その眩さに私は顔を歪めた……

 

 

 

 

 ……猫を捜していた、という私の言い訳に、お巡りさんはパトカーを運転しながらため息を吐いた。

 

「いくら心配だからって、不法侵入は駄目だよ」

 

「……はい」

 

「空き家だからって私有地なんだよ。わかってる?」

 

「……はい」

 

「もう暗くなったし、雨も強いから、今日はもう諦めなさい」

 

「……はい」

 

 お巡りさんの言葉に答えながらも、私の目は横の窓ガラスを透けて過ぎゆく外の景色に向けられていた。私はパトカーに乗せられて、自宅へ送り届けられている最中だった。

 

 私の住むアパートは山の斜面を切り開いた住宅街にあった。佐世浦市の街は急峻な山々と海とが接する土地だった。平地はほとんどなく、住宅地は海沿いか、または山を切り開いた斜面に造成されている。

 

 だから市内の道幅は基本的に狭く、家々の間には時折、切り開かれた山の斜面が壁のようにそそり立ち、その地肌を露わにしていた。

 

 そんな山肌には洞窟のような横穴がいくつも開けられていた。防空壕だ。

 

 かつて軍港として栄えていたこの街は、戦時中は攻撃目標とされ、激しい空襲を浴びた。その戦火から逃れるため、街の人々は自宅のすぐそばにある山肌に防空壕を掘り、そこに身を隠していた。

 

 この佐世浦の街には、そんな防空壕の跡地が、数えきれないほど残されている。今も、道路わきの山肌に防空壕の一つを目にして、私はハッとした。

 

 そうだ、防空壕なら人目につかず雨風をしのぐのに最適じゃないか。

 

 自宅についてお巡りさんがいなくなったら、すぐに近所の防空壕を捜しに行こう。私が心中でそう決意を固めた、その時。

 

 突然、お巡りさんがクラクションを鳴らしながら急ブレーキを踏んだ。

 

「そこの君! 急な飛び出しはやめなさい!」

 

 お巡りさんがパトカーのマイクを使って呼びかけた先、ヘッドライトの光に照らされて、一人の男性の姿が雨煙の中に浮かびあがっていた。

 

 背が高く、モデルのように長い手足、褐色の肌に堀の深い顔立ち。

 

「タディ!?」

 

 怪物:ネガテバーを生み出す“過去よりの使者”を名乗る男。どうして彼がここに?

 

 タディはパトカーの行く手を塞ぐように立っていた。金色に輝くその瞳が、射すくめるように私に向けられている。

 

 お巡りさんはタディの視線が私に向けられていることに気づき、後部座席の私に振り返った。

 

「君の友達……という訳ではなさそうだね」

 

 お巡りさんは私の様子を一瞥すると、すぐに険しい顔になってパトカーから降りようとした。

 

「待ってください! 危険です!?」

 

「君はここに居るんだ。いいね」

 

 お巡りさんはそう言い残して、パトカーのドアを開けて外へ出て行った。

 

「君――」

 

  お巡りさんがダディに声をかけようとした、次の瞬間、お巡りさんは糸の切れた人形のようにその場に倒れ込んだ。

 

「お巡りさん!?」

 

 タディは指一本も動かさなかったけれど、彼の仕業に違いなかった。パトカーの周りにだって、タディ以外の気配はどこにもない。雨だけがしんしんと降っていた。

 

 私は後部座席のドアに身を隠しながら、慎重にパトカーから降り立った。すぐ傍に倒れているお巡りさんの手首をつかみ、脈を測る。

 

 良かった、生きてる。そんな私の様子を眺めながら、タディが口を開いた。

 

「安心しな。殺しはしねえ」

 

「タディ…何が目的なの?」

 

「別に。大した意味はねえよ。ポリ公の相手をするのが面倒だから眠らせただけだ」

 

 タディはつまらなさそうにそう言いながら、その指を弾いてパチンと鳴らした。

 

 するとお巡りさんがパッと目を覚まし、急に立ち上がった。いや、それは立ち上がったというより、倒れた時の様子を逆再生したような不自然な動きだった。

 

 タディがさらに指を鳴らすと、お巡りさんはパトカーの運転席に戻り、後部ドアが勝手に閉まり、奇妙な音色のクラクションを鳴らしながらパトカーはバック走行で急発進し、そのまま遠ざかって行った。

 

 雨の夜道に、私とタディだけが残された。

 

「やっぱ、お前には俺の力が通じねえか」

 

「またネガテバーを生み出すつもりなの?」

 

「当たり前だろ。俺たちがそれ以外のことをしたことがあるか?」

 

「その目的は何なの? そもそもあなた達は何者なの?」

 

「質問の多い奴だ」

 

 冷笑するタディの手に、サインコインが現れた。私の質問に答えるつもりは無さそうだ。

 

 タディが道路脇に向かってコインを投げようとしたのを見て取り、私は彼に向かって飛び掛かった。

 

「させない!」

 

 タディの腕を抱きかかえるようにしがみついたつもりだったのに、私の手は何の手ごたえも無く空を切った。

 

「え!?」

 

 勢い余って水たまりに転倒してしまった私の背後で、タディの嘲笑う声が聞こえてきた。

 

「二度も同じ手を食うかよ」

 

 私が振り返ると、随分と離れた場所にタディが立っていた。以前、海軍墓地で私が囮となってターロットに不意打ちを食わせたことを警戒していたのだろう。

 

 タディは笑うのをやめ、辺りをきょろきょろと見渡し始めた。

 

「おい……ターロットの奴は居ないのか?」

 

「……居ないわ」

 

「んだとぉ? じゃ、今日はお前ひとりだけってことかよ」

 

 おいふざけんな、とタディが苦虫をかみつぶしたような表情になった。

 

「これじゃ本気で避けた俺がバカみたいじゃねえか!」

 

「そう。なら謝るよ。ごめん」

 

「やかましい。余計にバカにされた気分だ。……てか、そもそもお前はどうしてパトカーなんかに乗ってたんだよ?」

 

「……気になるの?」

 

「気にしちゃ悪いか」

 

「私の質問には答えなかったくせに?」

 

 私の言葉はタディの神経を逆なでしたようだ。

 

「言うじゃねえか…」

 

 タディの表情がみるみると険しくなっていく。

 

 彼は躊躇なく手にしたコインを放り投げた。私がそれを止めようにも、場所が離れすぎていた。サインコインは雨の中、街灯の明かりを煌めかせながら道路脇へと飛んでいく。

 

 その先にあったのは、山肌に開けられた横穴――防空壕だった。サインコインが投げ込まれた途端、その防空壕の奥から真っ赤な炎が激しく噴き出した。

 

「「サインコインよ、過去に従い未来を示せ! この地に眠る悲しみよ、現世に黄泉がえり未来へ進め!」

 

「ボォクゴォォォォォネガテバァ!!」

 

 防空壕から噴出した炎は一か所に集まるとその姿を変え、全身に炎を纏った灼熱の巨人:ネガテバーとなって私の目前に現出した。

 

「ひどい…なんて姿なの…!?」

 

 ネガテバーの咆哮は、全身を焼き尽くし続ける炎に、もがき苦しむような叫び声だった。

 

 プリキュアに変身してアルカナカードを引くまでもなく、この防空壕が持っていた過去がどんなものだったのか、想像がついてしまった。

 

「やめて! こんな悲しい過去を利用しないで!」

 

「悲しいからこそ泣き叫ぶんだろうが! 止めたきゃ力づくでやってみろ!」

 

「くっ!?」

 

 私は変身用のサインコインを握りしめたまま怯んでしまった。力づくで止めたくても、ターロットが居ないんじゃ変身できない。プリキュアじゃない私じゃ、ネガテバーを止められない……

 

 ……でも!

 

「私は、止めたい!」

 

 私は雨の中、ネガテバーの燃え盛る巨体へ駆け寄った。

 

 私のその行為に、タディが目を見開いた。

 

「お前、変身しないのか!?」

 

「こっちだよ、ネガテバー。こっちにおいで!」

 

 私は手のサインコインを頭上で振ってみせた。これでネガテバーの気を引けるかどうかは分からないけれど、ネガテバーは何かを感じ取ったのか、私の方へとその顔を向けた。

 

「ネガァァ!」

 

 炎を纏った長い腕が、私に向かって差し伸ばされてくる。背を向けて駆け出した私のすぐそばをその腕が掠め、肌がちりちりと痛んだ。火傷しそうなほどの熱波だった。私は喉から出かけた悲鳴をこらえながら、全力疾走でわき道に逃げ込んだ。

 

「ボォオオオ!!」

 

 私を追ってネガテバーも走り出す。降り注ぐ雨は燃え盛るその身体に触れた傍から蒸発し、ネガテバーは大量の蒸気を全身から噴き上げながら私の背後へ迫ろうとしていた。

 

「ネガァア! テバアァッ!」

 

 プリキュアとしてではなく、生身の状態で聞くその叫び声と、背後へ迫るその圧倒的な熱と気配に、私は心底から恐怖を感じた。

 

 怖い、怖い、怖い!! このままじゃ死んじゃう!?

 

 どうしよう、嫌だ、死にたくない!

 

 パニックに陥りそうになる心を抱えながら、私は死に物狂いで住宅街から人気の無い場所を目指して走り続けた。

 

 とりあえず周りに被害が出ないようにネガテバーを誘き出す。でも、そのあとはどうしよう?

 

「はぁーッ! はぁーッ!」

 

 息が苦しい。胸が痛い。脚だって重たくなってきた。

 

「ボォォクゴォォォ!!」

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 それでも、背後からの熱と気配に追いつかれたくない一心で、限界に達しかけている身体をもがくように動かし、走り続けた。

 

「はっ…はひッ!……ひぐッ!?」

 

 それでも一歩踏み出すごとに足は重さを増していく。呼吸だってもうまともにできやしない。苦しい。

 

「ネェエエガァテェバアアァァァ!!」

 

 自分が情けない。何がネガテバーを救いたいだ。プリキュアに変身できなきゃ、私はまともに走ることさえできないただの中学生だ。ターロットが居なきゃ、逃げることさえままならない無力な子供だ。

 

 ごめん、ターロット。ごめんなさい。私、思い上がっていた。心のどこかであなたの力を利用しようとしていた。あなたの事情を私の正論で抑え込もうとしていた。その結果が、この様だ。

 

 ――でも、ターロットだって何か隠し事してるっぽいし、私ばっかり悪くもなくない?

 

 朦朧とした意識の中、反省しきりだった最後の最後でついつい自分を弁護するような言い訳をしたのが悪かったのか、私は足をもつれさせて転倒してしまった。

 

「ほぇぇっ!?」

 

 ずるぺたばっしゃーん。水たまりの中に盛大にすっ転んで倒れた私に向かって、ネガテバーが炎の両腕を振り上げ、襲い掛かってくる。

 

「ネェエエガァァァ!!」

 

 駄目だコレもう私死んだ。人生最期の瞬間、人は走馬灯のように自分の人生を振り返るという。私も確かにそれを見た。この場所まで逃げてきた足取り、パトカーで送られながらお巡りさんにお説教されたこと、ターロットを探し回ったこと――

 

 ――ネガテバーの炎の拳が目前に迫ったとき、私の回想はようやくターロットとの口論に差し掛かったところだった。我ながら随分と短い走馬灯だ。せめて家族との思い出くらいまで遡ってくれたっていいじゃないか。炎の拳が私を焼き尽くした……

 

 

 

 と思ったら、それは私じゃなかった。

 

 ネガテバーの拳は、私のすぐ隣にいた“別の私”に向かって放たれていた。私そっくりの姿形をした、“別の私”は、その拳をひょいとかわすと、軽い足取りで走り去っていく。

 

「ネガァァぁぁ!!」

 

 ネガテバーは“私”に攻撃をかわされたことが気に喰わなかったのか、走り去る“私”を追いかけ、私から遠ざかって行った。

 

「ほえ? なにこれ? なんなのコレ?」

 

「にゃははは!!!」

 

「ほぇえっ!?」

 

 背後から突然、テンションの高い笑い声が響いた。驚きとともに振り返った先、そこに青いアイツがいた。

 

「星詠みの使者、キュアストロジー! お呼びとあらば即参上!」

 

 そうか、さっきの“別の私”は彼女が作った幻だったのか。ていうか、別に呼んでない。呼んでないけれど来てくれて本当に助かった。

 

 水たまりの中で息も絶え絶えな私に向かって、キュアストロジーはニコリと笑顔を浮かべた。

 

「囮になってネガテバーを誘い出すなんて、無茶な真似するよね、あんた。でも、カッコよかったよ」

 

 褒めた? 彼女が? 私を?

 

「さ、安全なところへ避難するよ」

 

 ストロジーはへたり込んだ私のそばにしゃがみ込むと、足と背中に腕を回し、軽々と持ち上げた。これってお姫様抱っこ?

 

 そのままストロジーが高々と跳躍した。うわ、たっか!? いやちょっと待って生身でこの高さはヤバい! プリキュアの身体能力ヤバい!

 

 そして急降下。

 

「ほえええええ!?」

 

「大丈夫、大丈夫、へーきへーき」

 

 十数メートルもの高さからスタっと着地。衝撃も何も感じなかったあたり、プリキュアのヤバさを改めて思い知った。

 

 ストロジーは私をその場に下ろし、言った。

 

「ここまでくればもう安心っしょ。後は私に任せて、あんたはさっさと逃げるんだよ。いいね」

 

 そう言って、彼女は頼りがいありそうな微笑みを私に向けた。

 

 何だコイツ、いつもは「どうしたんですか、せんぱぁ~い。こんなやつに苦戦してるんですか、ウケる~」とか言って小バカにしてくるクセして、今日は随分と親切じゃない。何か悪いものでも食ったのか?

 

「さあ、行くよアストロ! 最近いいところなかったし、さっさとネガテバー浄化して今日こそ先輩たちをぎゃふんと言わせたるんだから!」

 

 意気揚々とネガテバーの居る方向に顔を向けて気合を入れたストロジーの姿に、私はちょっと安堵した。うん、これはいつものストロジーだ。というか、この様子に私は今さらながらに気が付いた。

 

 もしかしなくてもこの子、私がキュアルカナだって気づいてない?

 

 自分じゃ変身前後で外見にそこまで変化は無いと思っていたけれど、傍から見たら意外と分からないものかもしれない。まあ普通の人だってメイク落としたら別人みたいな人もいるし、案外そんなものなんだろう。

 

 そもそも私だって目の前のストロジーが変身を解いたらどんな素顔になるのか想像もつかないし。

 

 ほえ? てことはあれか。ストロジーは私の見えないところじゃ、こんな風にちゃんと人助けをしていたってことか。なんだ、なぁんだ、見直したよ。

 

「あん? ちょっとアンタ。他人の顔見てなにニタニタ笑ってんのさ?」

 

「…キュアストロジーって、ヒーローみたいでカッコいいなって」

 

 助けてくれてありがとう。そう告げると、ストロジーの顔が暗い雨の中でもはっきりとわかるほど赤く染まった。

 

「え、お、いや、えと、かかかカッコいいいとか、そっそれほどのことは……、ま、まああるし?」

 

 調子づいてドヤ顔してみせるものの、目は泳いでいるし口元はわなないているしで、あぁこの子はこんな風に褒められたことが無いんだな、ってわかってしまった。

 

「とととにかく、アンタは安全なところにさっさと逃げなって! ほらほら!」

 

 ストロジーは私に念を押すと、そのまま戦場へ向かって跳躍していった。私はそれを見送り、さてどうしようかと思案した。

 

 ネガテバーについてはストロジーに任せておけば大丈夫だろう。あの子は口は悪いけれど、腕は立つ。それにいつものパターンならキュアオラクルも駆けつけてくるはずだし。

 

 あ、そうだ。私はここであることに気が付いた。ターロットだって当然、ネガテバーの出現に気が付いているはずだ。そしてそれを放置するような性格じゃない。

 

 ターロットは絶対に現場へ来るはずだ。私はそれを確信し、パートナーとの再会を果たすためにネガテバーの居る戦場へ向けて走り出した――

 

 

 

 

 

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