|・ω・)ノ⌒○ ポイッ
|)彡 サッ
2020.05.27
シャルロットの肩書を国家代表候補から国家指定パイロット(本作オリジナル)に変更しました。
「やっぱ我慢できねぇ!ちょっと宇宙観光行ってくる!」
「リアム何言ってるの!部屋でじっとしてろって言われたじゃんっ!しかもよりにも寄って宇宙⁉」
そう俺がベットから起き上がって宣言すると、同じくベッドの上で(俺の)枕を抱えながら寝ころんでいたシャルが慌てたように叫んだ。
「ばっきゃろう!シャルお前あれだぞ、ISを動かせたんだぞ男の俺が。それでおとなしくしていろなんて無理に決まってんじゃねえか!」
この発言こそ今の俺の気持ちのすべてを端的に表したものだ。
今日の朝、あるニュースが世界中を駆け巡った。それは女性にしか動かせないはずの飛行パワードスーツであるISを日本人の男が動かしたというものだ。
最初は半信半疑の者も多かったが、時間が経つにつれてどうやら真実であると分かると、我こそはISを動かしてやると意気込む男性社員で会社の中はお祭り騒ぎとなった。何しろ
そしてその結果、数百いる社員たちの中で俺だけがISを起動することができた。
まさか本当に男性適合者がいるとは思わず、しかもそれが社長の息子だったため、その対応策を決めるため現在俺の三親(父・母・母)を含むデュノア社上層部は緊急会議に追われていた。(ちなみに、俺がISを起動したという話を聞いたとき親父たちはそろって飲んでいた紅茶を吹き出したらしい。)
俺がISを起動できたという事実を公開するか秘匿するか、公開するにしてもすぐにするのかしばらく後にするのか。今のところ会議は公開の方向に進んでいてどのタイミングで政府に報告、世間に公開するかを話し合っているらしい。これは日本の男性適合者が俺と同い年で既にISの専門学校であるIS学園への入学が決まっているということも影響しているようだ。
そんなわけで、今俺には『方針が決まるまで待機するように』という指示が出されており、監視役のシャルと共に自室で過ごしていたのだ。まあシャルが俺の部屋にいるのはいつも通りなんだけど。
しかしっ、今の俺のテンションはマックスを通り越してメーターをぶっ壊す勢い。親父よ、息子が部屋でおとなしくしてるなどと思うなよ。
「行かせないよっ、お父さん達からも『リアムを見張っておけ』って言われてるんだから!」
「大丈夫だから止めないでくれシャル、ちょっとその辺でガガーリンしてくるだけだから」
「それ『地球は青かった』ってやつでしょ!宇宙はちょっとその辺ってレベルじゃないよ⁉」
「ええい、俺は行くんだHA☆NA☆SE!」
ガバッ、と腰に抱き着いて俺を行かせまいとするシャルを引きはがそうともがく。ええい、引っ付くな。動くたびにお前のたわわに実った果実×2がムニュムニュと形を変える感触が伝わってくるんだぞ⁉それは俺に特効だから
しばらくその状態が続いたが、ぼちぼち理性がやばくなってきたところでいったんもがくのをやめる。俺が沈静化したのを見てシャルも離れてくれた。マジであのまま続いてたらやばかった………。
「分かった。お互いに、落ち着いて、話し合おう」
「話し合う余地は無いよ。リアムがここで静かにしていればそれでおしまいだよ」
俺の提案を一言の下に切り捨てるシャル。生まれた時からの付き合いといっても過言ではないので俺が全く諦めていないのが分かっているようで、腰を微妙に浮かせたままこちらの様子を窺っている。ここでうかつな動きを見せようものなら再び抱き着かれて今度は朝まで放してもらえないだろう。
それはそれでアリかもしれないが、今日ばかりはそういう訳にはいかない。俺の宇宙に行きたい欲はもう限界まできている。
とはいえ向こうが俺のことを良く知ってるように、俺もシャルのことを良く知っている。この場合ならシャルが俺に引っ付いてくる前に俺の方からくっつけばいいんだ。こっちからぐいぐい行けばテンパるから大丈夫だろ。
「じゃあシャルも一緒に行こうぜっ(ガシッ)」
「へ?え、ちょっちょっとー⁉」
つーわけで、彼女の手を掴んで勢いよく部屋を飛び出す。シャルは案の定目を白黒させて俺に引っ張られるがままになっていた。
「フハハハァッー!いざ行かん大空の彼方へ!」
「お父ーさーん!リアムが逃げたよーっ!」
我に返って親父に助けを求めるシャルを引き連れて、俺は
☆☆☆
「よし、着いたな」
「もう暴れないから降ろしてよ~」
数分後、IS保管庫の前で満足後に頷いていると肩の上のシャルから声が掛かった。途中から俺を止めようと暴れ始めたため、肩に担ぎあげてそのまま走ってきたのである。担いでいる間、背中をポカポカと叩かれた気もするが全く痛くなかったので気にしない。
「はいよーっと、大丈夫か?」
「う~なんか気持ち悪い。リアム飛び跳ねすぎだよ、今度はちゃんとしっかり持ってよね例えばお姫様抱っことか」
「え、最後なんて言った?」
「な、なんでもないっ!それより今からでも遅くないから戻ろうよ、もう課業時間外だから格納庫は施錠されているし―――」
ピピッ、ガ~~~~(←格納庫の扉が開く音)
「残念だったなシャル、この程度の障害など俺の前では無力だ」
「………リアムが保安部所属だったの忘れてたよ」
専用のカードキーとパスコードで扉を開けた俺が振り返りながらそう言うと、シャルは疲れたような表情をしていた。
「待たせたな俺の相棒よ!」
「別に相棒じゃないし待ってもいないと思うよ」
つい数時間前に俺が起動したIS、ラファール・リヴァイブは幸いなことにかなり手前に置かれていた。近くにあった端末で状態を確認したらメンテナンスモードのままでロックが掛かっていなかった。手間が省けていいけどやや不用心じゃないかコレ、今度警備強化の意見書でも出しとくか。
などと考えながら端末を操作してISを搭乗可能な状態に移行させると、ラファールはラックから降ろされて片膝立ちになったので躊躇なく乗り込む。
「おっし、きたきた」
一瞬だけ起動できないんじゃないかと心配したけど、先ほどと同じように問題なく起動した。ハイパーセンサーや簡単な機体制御法などは1回目の時に頭に入ってきたから今回は特に何もななかったな。
「………。」
―――フォンッ
「シャル?」
気配を感じて振り返るとシャルが彼女の専用機であるラファール・リヴァイブ・カスタムⅡを展開してこちらに相対していた。
「さすがにこれ以上は見過ごせないよ。ISを利用した宇宙開発はアラスカ条約で禁止されてるってリアムも知ってるでしょ?それにISを使っていいのは各種装備のテストか練度向上訓練、模擬戦か緊急時に限定されるんだよ、今のリアムみたいに自由に使うなんて許されていないんだ」
真剣な表情でラファールから降りるように言ってくるシャル。けどこれあれだな考え方が固まってんな。
「ハァ~~。シャルお前、指定パイロットになって頭固くなったんじゃないか?」
「え?」
俺がため息をつきながら言えば、予想外の反応にシャルの口から疑問の声が漏れた。
「確かにでアラスカ条約ではISの宇宙開発への利用は禁止されてるけどな、そもそもISは人類が空へ、宇宙へ自由に羽ばたけるようになるための翼だろうが」
「っ!」
「篠ノ之博士だがISを発表した時に言ってたじゃねぇか、これを使って皆が自由に空を飛べるように、宇宙へ行けるようになることを願っているって。あの時の会見を見て目を輝かせてたお前はどこへ行ったよ?」
「そっそれは………」
そうだ、もともとISは宇宙開発や人命救助などを目的として篠ノ之博士が開発・発表したんだ。発表の
現在のシャルの肩書は国家指定パイロットだ。これは
類似する肩書の国家代表候補との違いは書類上は軍属になるという事と、存在が一般に公開されるかという点にある。
シャルのビジュアルから国としては国家代表候補にしたかったようだが、親父の『大事な娘をアイドルもどきの晒し者になどさせられるか!』という意向からこちらになったらしい。親父GJ。
ちなみにこの指定パイロットという肩書、非公式という事を逆手に取り軍事作戦に投入されることもある。しかしこれまた親父の『娘を危険にさらすなどふざけてるのかぁ!!そんなことをしたら我が社の機密情報を世界に公開する』という意向(ていうかもはや脅迫)によりそれも回避されている。マジよくやった親父。
ただし一応は軍属であることに違いはなく、義務やら規則やらがたくさんあるらしい。
シャルは真面目な性格だからそれらを気にしすぎているんだろう。
ISの発表会見の時に『これなら僕も宇宙に行けるかなっ?』とはしゃいでいたのを見た身としてはもうちょい肩の力を抜いてもいいと気がするんだよな。
「いくら分類上は軍属だからといって正規の軍人じゃないんだろ?ずっとそんなんじゃどんどん窮屈になってくぞ?」
法を意識するのも役目のうちとだと思ってたから、これまであまり踏み込んだことは言っていなかったが、流石にここまでシャルの頭が固くなっているのを見たら黙っていられないからな。
それに、どうやら無駄じゃなかったようだ。
「………うん、ISに乗り始めたばかりの頃はただ飛んでいるだけで楽しくて、もっと遠くまで飛びたいって思ってたっけ。僕、いつの間に忘れてたのかな」
「たまにはいいじゃねぇか、俺を追いかけてたって言えば最低限の言い訳はできんだろ?逆にこんな時でもないと宇宙になんて行けないと思うぞ」
「あはは、確かにそうだね。じゃあ帰ってきて怒られたら全部リアムのせいにしちゃおうかな」
「おうしろしろ。どうやら俺は超貴重な人材になったみたいだし、倫理的にアウトなことしなきゃある程度はどうにかなんだろ」
「リアムのそういう楽観的なとこ僕結構好きだよ」
おっしゃ、笑顔がより柔らかよりくなったなしこれで安心だろ。
「そんじゃシャルの
「なんか聞こえたよリアム」
「そうか?俺は聞こえなかったな。さーてオープンセサミっと」
ハッチ解放、システムオールグリーン。リアム・デュノア、ラファール・リヴァイブ発進する、なんてな。
一気にスラスターを全開にして天井に開いたハッチから飛び出せば、たった数秒で今までいた格納庫がはるか足元に小さくなっていった。
俺が一気に加速したことにシャルは一瞬目を丸くしていたみたいだが(既に数百メートル距離が離れているのにISの機能のおかげで目の前にいるかのようによく見える)、すぐに自分も加速するとあっという間に追いつく俺の速度にピタリと合わせてきた。さすが現役の国家代表候補生だな。
「やっぱりリアムはすごいね、初めてでこんなにスピードを出せる人ってほとんどいないんだよ。それよりどう?ISで空を飛ぶ感覚は」
「ああシャルっ。これホントすげえな!HALO降下を高速で逆向きにしてるみたいだ!」
「うーん、その例えはよく分からないというかスカイダイビングじゃないのがリアムらしいけど、喜んでいるみたいで何よりだよ」
笑いかけてくるシャルに笑顔を返す。
既に視界はグー〇ルマップで県全体を俯瞰した時のようになっているが、まだ足りない。もっと、もっと上に行ってそこから地球を見てみたいと思う。俺が駆るラファールがその気持ちに答えてくれたのか、機体が小さく震えたように感じると次の瞬間にはさらに速度を上げられるようになった。
☆☆☆
「………、やっぱ映像と実際に見るのとじゃ全く違うんだな」
数分後、上昇を止めた俺たちの足元には母なる地球がその雄大さを余すところなく見せつけていた。
俺たちが今見ているのは地表の多くを占める海の青に俺たち人間の生活の場である陸地の緑、そしてそれら2つの上っている雲の白。言ってしまえばこのたった3色から成る映像でしかないのだ。
なのにそれらが真っ暗な宇宙の中にぽっかりと浮かんでいるのを見るととても神聖なもののように感じられる。いつ聞いた言葉か覚えていないが、『奇跡の星』という言葉の意味を身をもって分からせられた気分だ。
「うわぁ…すごい」
そして俺が感動している横ではシャルも同じように初めて見る景色に目を輝かせていた。
「どうだシャル、ルールに縛られて窮屈な空を飛ぶよりこの方がずっといいだろ?」
「うん、――うんっ!自由に飛ぶのがこんなに楽しいなんて僕思って……なかった………よ………………」
あれ?なんかシャルの動きが止まった。
途中まで満面の笑みを浮かべていたのにこちらに振り向いた途端にその勢いが一気にしぼんだんだけど。俺なんか変な顔でもしてたか?
「どしたシャル、いきなり固まって?」
「えっとね、その、なんていうか、向こうから大きなニンジンがこっちに飛んできてるんだけど」
「
彼女は何を言ってるんだろう。
「大丈夫か?もしかして疲れてたりするのか?」
そういえば昔どこかで宇宙飛行士が船外活動などをしている際に宇宙酔いという状態になる、みたいなこと聞いたな。心身の疲労具合によってはありもしない幻覚を見ることもあるって話だったけどまさかそれか!?
「え、特に疲れてるとかはないけど、急にどうしたの?」
「無理しなくていいぞ、代表候補生としての職務とか訓練で疲れが溜まってたんだろう?さっきはそのことを考えもしないでキツイこと言って悪かった。戻ろう、今ならまだ俺がちょっと怒られるだけでシャルはお咎めなしだろ」
「なんか全然違う方向に誤解されてる!?そうじゃなくてほんとにニンジンがこっちに飛んできてるんだってばぁ!」
慌てたように首を振ってそういうことじゃないと言ってくるシャルだがこいつは基本的に優しい性格だからな、きっと初めて空を飛んだ俺のことを気遣ってくれてるんだろう。自分のことをもっと大事にしろって普段から言ってんだけどまだ治ってないみたいだな。
「いや大丈夫、分かってるからもう無理するな。さあ戻って今日は早く休むぞ、最近してなかった腕枕してやるから」
「それは嬉しいけど全然分かってないよ!というかISを使ってるんだからハイパーセンサーも起動してるよね!?それで後ろも見えてるはずなんだけどなあ!お願いだから後ろに意識を向けてよ!」
「も~っ!」と怒りながら声を荒げるシャル、まずいなだいぶ重症みたいだ。こりゃいよいよ強制的に連れ帰った方がいいかもしれない。
それにしてもハイパーセンサーか、理論上は全方位が同じように知覚できるようになるけど慣れてないうちは意識してイメージしないといけないんだっけか?
とりあえず言われた通りに視野が後方まであるとイメージした俺の目(というよりは視覚野なのか?)に飛び込んできたのはーーー
―――バカでかいニンジンが炎を噴き出しながらこちらへ向かってきていた。
いや、ナニアレ?
細々と続けていきます