ありふれた世界の大罪人   作:玄米師匠

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 初投稿です。


プロローグ

「殺せ、殺せ!エヒト様に仇なすものに、神の裁きを与えるのだ!」

 

 薄れゆく意識の中で、どこか恍惚とした様子であのクソ神の名のもとに俺たち殺す教会のクソどもの声と、俺を慕ってくれていた仲間たちの断末魔の叫びが聴こえる。俺自身も既に致命傷を負い、まもなくこの命が果てるだろうことがわかる。

 

 死の間際には走馬灯というやつが見えるらしいが、どうやら本当のことのようだ。今までの日々が昨日のことのように蘇ってくる。

 

 エヒトに疑問を持つまでは、研究者としてそれなりに充実した日々を送っていた。周りからは神童などと持て囃され、自身でも自分は神の祝福を受けているのだと思っていた。

 

 しかし、ある日俺に魂魄を操る力が目覚め、それを知った教会の奴らに俺は殺されかけた。その時から俺はエヒトを信じるのをやめ、教会やエヒトについて調べていくうちに、奴は邪神であり、世界の未来のために討つべき存在であると気付いた。

 

エヒト打倒の為には仲間が必要だと気付き、多くの人に奴の本性について話した。しかし、家族や友人に話しても信じてくれる人は全然いなかった。『きっと悪魔にでも騙されているのだ』『心優しいエヒト様を悪と言うだなんて、この不信心者め』などと言われ、多くの人に話も聴いてもらえなかった。

 

でも、そんな中でも俺の話を信じてついてきてくれた人たちがいた。いまでは大切な仲間たちだ。辛いことばかりの人生だったが、彼らがいたからこそやってこれた。

 

 しかし、今日いきなり奴らは攻め込んできた。しかも天使のような翼をもった神の使途——エーアストとかいったか——とやらまで現れた。奴には俺の魂魄魔法をもってしても歯が立たなかった。

 

俺たちは負けたのだ、あのクソ神に。大切な仲間たちも皆殺されてしまった。憎い、悔しい、苦しい、恨めしい、忌まわしい。もう世界の未来など、俺たちのことを理解もしない奴らなど知ったことか。ただ、仲間たちの復讐だけは何としても果たさねば。

 

「覚えていろ、エヒトォォォォオ!!俺は、どんな手を、使ってでも、必ずや、貴様を、地獄に、落とすぅぅうぅぅぅう!!」

 

叫びながら、俺は最後の望みをかけて、自身の魂に残った全魔力を注いだ。そして、そのまま事切れた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

世間一般では、月曜日というのは憂鬱なものであるらしい。確かに、休日というものを遊興に使う日と認識しているものにとっては、前日の甘美さからの落差から憂鬱な気持ちになるのだろう。だが、普段から目標のために日々精進しているものにとっては、休日も平日も特に変わらないものだ。

 

この世に南雲ハジメとして転生してからはや十七年、自分が転生したことに気付いたときには、自らの最期の賭けが成功し、奴に復讐する機会を得たことに、思わず信じてもいない神に感謝したものだが、蓋を開けてみれば、この世界は俺の故郷であるトータスとは縁も所縁もない世界であり、しかも異世界の存在など想像上のもので、世界を渡る術などないどころか魔法すらない。俺自身も、転生したはいいものの、魂魄魔法をはじめとする前世での力は引き継がれないようであり、今は完全な一般人である。

 

だが、その程度で諦める程、俺の復讐の念は浅くない。幸い、この世界にはトータスにはなかった”科学”というものがある。今は必ず世界を渡る方法はあると信じて、科学を学びながら自らの体を鍛えるしかない。ないのだが……、今のところ全くと言っていい程成果がない。世界を渡ることがゴールではなく、むしろ渡ってからが本番だ。早くしなければ、復讐の前に俺自身の寿命が来てしま「ねえ、聴いてるの、ハジメ?」

 

「ああ、すまん、雫」

 

「もう、また夜遅くまで勉強してたんでしょ?勉強熱心なのもいいけど、もっと健康にも気を使いなさい」

 

「わかってるよ。お前は俺のオカンか」

 

未だ達成の目処すら立たない目的について考えていたら、オカン、もとい幼馴染の八重樫雫に怒られてしまった。彼女は俺が通う道場の娘であり、家が近いこともあり基本的にいつも共に登校している。とても面倒見が良く優しい性格なのだが、俺や他の幼馴染に対しては面倒見が良過ぎて最早オカンである。また、その凛とした見た目や面倒見の良さなどから異性のみならず同性にも人気のある彼女だが、実は可愛いもの好きだったり照れ屋だったりと女の子らしい一面もある。

 

「ハジメ、なんか変なこと考えてない?」

 

「別に変なことなんて考えてない。ただ雫は可愛いなって思ってただけだ」

 

「かわッ?!///…もうっ、そうやってハジメはいつも誤魔化すんだから」

 

こうやってすぐに恥ずかしがって赤面してしまう辺りがとてもチョロいのだが、それを言ったら流石に怒られるだろう。

 

 そんな他愛もない話をしていたら、いつの間にか学校についていた。そのまま雫と共にクラスに入ると、同じく幼馴染の香織が話しかけてきた。

 

「おはよう、ハジメくん、雫ちゃん!いつもどおり仲良しだね!」

 

 彼女、白崎香織とは、雫ほどではないが長い付き合いだ。もとはただの雫の友達という、友達の友達みたいな間柄だったのだが、ある(・・)こと(・・)をきっかけに話すようになった。というか向こうがぐいぐい来たから話さざるを得なかった。心優しく責任感も強い、非の打ちどころのないような性格だが、天然なところがあり、他人の心の機微には疎いところが玉に瑕である。

 

 というか、なんとなく“仲良し”という言葉に棘があったように感じたが、気のせいだろうか?まあ、とにかく挨拶は返すべきだろう。

 

「おはよう、香織。じゃっ、俺は寝るから」

 

昨日は夜遅くまで勉強していた。授業に集中するためにも少しでも睡眠しなければいけな「待ちなさい「ぐえっ!」

 

 睡眠をとるために自らの席に向かおうとしたら、雫に襟首を掴まれてしまった。

 

「何するんだ雫。俺は授業のために足りない睡眠時間を一秒でも確保しなければいけないのだ」

 

「やっぱりちゃんと寝てないのね。授業を集中して受けたいのなら夜ちゃんと寝なさい。いつも言ってるでしょ」

 

 くっ、このオカンめ。俺だってそんなことはわかっている。だが、俺はとにかく一刻も早くトータスに向かわなければいけないのだ。せっかく得たまたとない復讐のチャンスを無駄にするわけにはいかない。そのためなら、俺の身体がどうなったって構うものか。

 

「ハジメくん、雫ちゃんはハジメくんのことが心配で言ってるの。私も同じ。ハジメくんが体を壊しでもしたら、多分とても悲しいと思う。だから、もっと自分の身体を大切にして」

 

「………はあ、わかったよ。できる限り善処する」

 

「ありがとう」

 

 流石に二人に揃って言われてしまうと反論しづらい。しかし、二人には悪いがこの生活スタイルを変えるつもりはない。俺の仲間たちは死んでしまったのだ。それに比べれば過労くらいどうってことない。

 

「雫、香織、またそいつに世話を焼いているのか。二人は本当に優しいな」

 

「全くだぜ。そんな、他人の言葉を聴く気もないやつには、何言っても無駄だと思うぞ」

 

 ああ、面倒くさい奴らが来てしまった。こいつらがくると騒がしくて寝れないから早くしたかったのだが。

 

 初めに臭いセリフを吐いたのが天之川光輝。俺と同じく雫の実家の八重樫道場に通う門下生であり、俺がこいつと知り合ったのもそこだ。一度組手で負かして以来、妙に俺に絡んできて、その状態が今でも続いているという、いわば腐れ縁のような間柄だ。正義感が強いのは良いが、同時に思い込みも強く、独りよがりな正義を押し付けることがよくある。正直に言って面倒な存在だ。

 

 次に投げやりな台詞を言った方が坂上龍太郎。光輝の親友であり、細かいことは気にしない脳筋タイプだ。脳筋すぎて価値判断をすべて光輝に任せているようにすら感じる。熱血や根性が好きで、冷めたような態度をとる俺とは反りが合わない。光輝同様に面倒なやつだ。

 

こいつらとは出来る限り話したくもないが、もう逃れられないだろう。それに……

 

「お前らにそんなことを言われる筋合いはない。」

 

この勘違い野郎と脳筋にだけは、人の話を聴かない、なんて言われたくない。

 

「またそうやって他人の助言を無下にするのか。雫や香織もいつまでもお前に構ってくれるわけじゃないんだ。いい加減大人になったらどうだ」

 

「前向きに検討しておくよ」

 

 そこで、丁度チャイムが鳴り教師が入ってきた。俺のやる気のない言葉に光輝は何か言いたいようだったが、結局何も言わずに自分の席に戻って行った。俺も自分の席に着く。しかし、結局睡眠はできていない。今日は昼休みまで睡魔と闘うことになりそうだ。俺はおもわず溜息を吐いてしまった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 やっと昼休みになった。午前の授業は眠気を堪えることで精一杯で内容が全然入ってこなかった。これは流石にまずい。やはり夜の勉強時間を削って睡眠をとるべきだろうか。まあ、今はとにかく寝よう。

 

「ハジメ、お昼にしましょう」

 

 俺が自分の席でさっそく寝ようとしたら、雫がいつものように自分の弁当を持ってきて、俺の隣の席に座った。ちなみにそこの席の主は今は教壇で畑山愛子先生と談笑している。

 

「すまん、雫。今日は睡眠が優先だ。」

 

「ご飯はちゃんと食べなきゃダメ……と言いたいとこだけど、流石に今日は辛そうね。でも、何も食べないのは良くないわ。おにぎり一つくらい食べたら?私のをあげるから」

 

 確かに。何も食べないと、それはそれで空腹で集中を欠きそうだ。雫の言葉に甘えるべきか……。

 

「じゃあ遠慮なくいただ「ハジメくん!」……なんだ、香織?」

 

 俺が雫のおにぎりを受け取ろうと手を伸ばそうとしたら、俺と雫の間に香織がおにぎり差し出してきた。

 

「おにぎりなら私のを食べて!今朝多めに作っちゃったの!」

 

 どうやら俺と雫の会話が聞こえていたらしい。香織と雫はなぜか笑顔で睨み合っている。そんなに俺に自分のおにぎりを食べさせたいのだろうか。俺としてはどちらのでも構わないのだが、どうせ余っているのなら香織のをもらうか。

 

「じゃあかおr「香織、雫。こっちで一緒に食べよう。ハジメはまだ寝足りないようだし、せっかくの二人の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

 今度は光輝が気障な台詞を吐きながら乱入してきた。というか俺、今日、思考やら台詞やら遮られすぎじゃないか?そろそろ泣いていいだろうか。

 

 しかし、その王子様のような気障な台詞やうざったいイケメンスマイルも、照れ屋な雫ならともかく、天然な香織には効かないだろう。

 

「え?なんで光輝くんの許しがいるの?」

 

 ある意味予想通りの香織の回答に、俺と雫はそろって「ブフッ」と吹き出した。光輝は困ったように口元を引きつらせながら空笑いをしている。憐れ、光輝。別に同情なんてしないが。

 

 光輝はその引きつった顔をしまうと、またそのままあれこれと話だし、そこに龍太郎も加わり更に騒がしくなってきた。

 

 ちなみに、俺は未だにおにぎりを受け取っていない。そろそろおにぎりを貰えないだろうか。早く寝たいのだが。

 

 と、そこで、机の上におにぎりが一つ置いてあることに気付いた。どうやら二人のどちらかが置いたようだ。今は何より空腹を少しでも満たして早く寝ることが優先だ。これをいただくとしよう。そう思い立ち、目的のものを取ろうとした瞬間。

 

 凍り付いた。

 

 光輝の足元に、この世界には存在するはずのないもの———純白に光り輝く円環と幾何学模様で構成された“魔法陣”が現れたからだ。

 

しかもこれは前世でも全く見たことのない魔法陣だ。これでも前世では魔法の研究をしていたのだ。その俺が見たことがない魔法なんて、まさか神代魔法か?となると、この魔法を使っているのはエヒトか?もしそうだとして、この魔法の意図は?奴が例え俺の転生に気付いていたとしても、人間を舐め腐っているあいつが態々世界を超えてまで俺を殺すとは思えない。ならば、考えられることは一つ。俺たちを戦力補充か何かの理由で向こうの世界に召喚するということだろう。

 

俺が考察をしているうちに、魔法陣は一層輝きを増し、いきなり教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 

周りの生徒たちは自分の足元まで異常が迫って来たことで悲鳴を上げており、いまだ教室にいた愛子先生は教室から出るように叫んでいるが、時既に遅し。魔法陣が爆発したように光った。どうやら魔法が発動したようだ。視界が真っ白に塗りつぶされた。

 

しかし、まさか向こうから復讐のチャンスをあたえてくれるとは。転生に続きまたもや奇跡のようなことが起こるとは、俺はついているようだ。今度こそ、必ず奴を殺す。そして、仲間たちの無念、果たして見せる。

 

 

 

 




 題名が活きるのはしばらく後です。お読みいただき、ありがとうございました。
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