【凍結】いつか見た幻日~灰にまみれたボクと、愛に狂ったキミ~   作:虚舟

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はじめまして、虚舟と申します。
投稿するのは初めてで、拙さや荒らさが目立つと思いますが、何卒よろしくお願い致します。










それでは、どうぞ


Prologue~彼の者の夢~
終わりの始まり


....夢を見ている。

 

....まだ、幼かった頃の夢。あの頃は、全てが輝いていた。空の色も、花の匂いも、風の囁きも。

あまりにも毎日が楽しいから、眠る時間さえも遊んでいたいと思っていた。

 

俺は、小さい頃から好奇心が旺盛で、近所の友人とつるんでは野山を駆け巡っていた。

岩の間の小さな洞窟。森で一番高い木の上から見る景色。川で拾った、綺麗な石。

 

その全てが.....大切な宝物だった。

 

たまに失敗して、泣きながら家に帰ると、母が優しく抱きしめてくれた。

その腕の温もりが、嫌な事の全てを忘れさせてくれた。

 

母、母か...。

 

母は、強い人だった。名家のお嬢様だった母は、親とのいさかいで出奔。父と結婚し、家と復縁するまでその身一つで生きてきた。だからなのか、俺の事を誰よりも心配し、どんな相談にも乗ってくれた。そんな優しい母が、俺は大好きだった。

 

そして、父。父は、聡明な人だった。仕事の関係で、家にはあまり帰ってくることができなかったが、たまの休みには俺をとても可愛がってくれた。そんな父に、俺は憧れていた。

 

そして...あの頃から今まで"俺"という人間の根底を支える存在がいる。

 

今でも、目を瞑れば脳裏に甦る、その優しい笑顔。俺の幼なじみにして、初恋の人。

 

...俺が彼女に初めて出会ったのは、8歳の春だった。

 

あの日、俺は何時ものように皆と遊んでいたのだが、急な腹痛に襲われたので、皆と別れて家に帰った。...のだが、痛みが酷くなり、道端に座りこんでしまった。

それから数分間腹の痛みと格闘していたのだが、ふと、頭上から風鈴の様に涼やかな声が降ってきたのだ。

 

「ねぇ...大丈夫?」

 

それが、俺と彼女の記念すべき(?)出会いとなったのだが....。その時の俺には「大丈夫」と返す余裕も無かった。

 

そうやって何も言わずに震えていると、俺が腹痛に悩まされていると得心がいったのか、

 

「ちょっと...失礼するわね。」

 

そう言って柔らかく、優しく、俺の背中を擦ってくれたのだ(その時の俺にはその感触を楽しむ余裕も無かった)。

 

「辛いときはこうやって誰かに擦ってもらうと良くなるっておばあちゃんが言っていたわ。」

 

そう言う背中を擦る彼女の暖かさを背中に感じていると、少しずつ痛みが引いていくような気がした。

 

....今思うと、初対面の相手の背中を擦るというのはなかなか勇気がいると思うのだが、同年代だから大丈夫だったということなのだろうか?それとも幼かったから?

 

それはさておき、腹痛が治まるまで(小一時間程)背中を擦ってもらった俺は、ようやく腹痛が治まると共に遅ればせながら猛烈な羞恥を感じた。

 

だって、たかだか腹痛ごとき(重大だが)で見ず知らずの少女にあらぬ心配をさせた上に、優しく優しく背中を擦ってもらったのだ。これがとにかく恥ずかしい上に...

 

「治まった?」

 

などと慈しむような声で(8歳に)言われた日には恥ずかしさと申し訳なさとしんどさで死にそうになること請け合いだ。

 

かくして俺は......、そこから全力で逃走した。

 

後に、ぽかんとしている少女と、申し訳程度の感謝の言葉を残して。

 

後日、近所の女の子だということが分かり、改めて感謝しに行って、そこから彼女と俺の冒険

が始まるのだが...。

 

それはさておき、そんな出会いだったから、俺は彼女に頭が上がらなかったが、それと同時に、俺の心の支えとなっていたし、そんな彼女に、淡い恋心を抱いていた。

 

家が近所だったこともあり、必然的に、一緒に行動する事が多くなっていった。

 

そうして、共にいるうちに、少しずつ自分の心の変化に気づいていった俺は、彼女に良いところを見せようと躍起になった。

 

そうして、彼女の13歳の誕生日、俺は彼女を森に連れ出した。 

 

「ねぇ、今日は何処に行くの?」

行き先を伝えずに連れてきたせいか、若干興奮しているような気がする。

楽しそうに言う彼女を見るとつい教えてしまいそうになるが、グッと堪える。

 

「まだ秘密。もう少しで着くから」

 

森の中を歩きながら答える。森を歩くのにも慣れたもので、森の奥へと進んでいく。

 

「そう、なら楽しみにしておくね」

 

期待されていることに嬉しさと緊張を感じるが、表層に出さないように注意した。

 

「此処を抜ければ···よし!到着~」

 

シダの茂みを抜けた先は、ポッカリと広大な空間が広がっていて、その中心には... 

 

「此処は...って、わぁ....凄い...!!」

 

普段から冷静な彼女を驚かせられた事に、確かな手応えを感じる。

そんな彼女の視線の先には、巨大な日立の木があった。

 

森のなかに悠然と佇むその巨木は、ある種の神々しさを放っていた。

 

「この森にこんな所があったのね..」

静かに、でも確かに興奮する彼女を見ると、此方も嬉しくなる。

 

「けど、どうして今まで教えてくれなかったの?」

そう問いかける彼女の目には、全て見透かされているようで、たまらず俺は息を吐き.....

 

              「お誕生日、おめでとう」

 

そう、答えた。

 

そうして、ゆっくりとあるものを取り出す。それは、この日のために用意してきたものだった。

 

「それで、これ。誕生日プレゼント...のつもり。」

 

言いながら、持っていた箱を手渡す。

 

「ありがとう。...開けてみてもいい?」

 

優しく笑いながら、彼女はそう言った。

 

「う、うん。」

 

彼女の笑顔に動揺しながらも、悟られないように平静なふりをする。

 

そうして、彼女がゆっくりと木箱を開くと...。

 

「わぁ...!!」

 

そこには、黒玉のペンダントが納められていた。

 

「凄い...!これ、私の為に?」

 

勢い良く聞いてくる。その頬は上気していて、かなり興奮しているようだ。喜んでもらえたと思うと、とても嬉しくなる。

 

「もちろん。君の誕生日に間に合うようにと思って、職人さんに手伝ってもらったんだ。」

 

ニヤニヤとしながらも手伝ってくれた職人さん達のお陰で、なんとか今日に間に合わせることができた。彼らには本当に感謝している。

 

「そう。私へのサプライズのつもりだったのね...。ふふ...ふふふ♪」

そう伝えると、彼女はとても喜んでくれた。

 

にっこりと笑う彼女の笑顔に、俺はいつか見た一面の向日葵畑を幻視した。決して入ってはいけないと言われた向日葵畑。何処までも太陽を追いかける、その活力と輝きに満ち溢れた花のように笑うその姿に、どうしようもなく心を掻き乱される。

 

「せっかくだからつけてみてもいい?」

 

「もちろん。君なら似合うと思ったんだ。」

 

そうして、彼女がゆっくりとペンダントに手をかけ首にかける。

 

涙型にカットした黒玉のペンダント。予想通り、彼女の白い肌には良く映えて、煌めいていた。

 

「どう?似合う?」

 

そう言って小首を傾げる仕草は思っていた以上に心に刺さった。

 

「う、うん。良く似合うよ。凄い綺麗だ。」

 

「ありがとう♪」

 

そう言って、恥ずかしそうにはにかむ様子がまた可愛らしいかった。

 

「本当にありがとう、最高の誕生日プレゼントになったわ。」

「あ、ああ。どういたしまして」

普段とは違う彼女の姿に翻弄されないよう、必死で平静を保とうとしていた。

だからだろうか?

 

「ねぇ、折角だから指切りをしましょう?」

「ほぇ?」

そう唐突に言う彼女に、呆けた声を返してしまった。

「指切りよ。ゆ び き り。せっかくだから、ね?」

何がどう「せっかくだから」なのか分からなかったが、否定する理由は無かった。

「良いけど、何を約束するの?」

「それは勿論、これからもずっと、私達が一緒に居られるように。よ」

 

正直、かなり意外だった。彼女はおまじないを信じないタチだったから。

けれど、「誕生日だから浮かれているんだろう」と思い込んで、深く考えようとはしなかった。

 

....今思えば、彼女はこの頃からすでに、この先に起こる悲劇を予見していたのかもしれない。

 

しかし、愚かな俺は、近づいてくる彼女の柔らかそうな小指に頭が一杯で、彼女の小さな変化に気づけなかった。

 

そうして、俺の右の小指と、彼女の左の小指を絡める その柔らかさと小ささに頭が真っ白になる。

 

「じゃあ····、いくわよ。ゆーびーきーりげーんまーん···」

そう詠うように、噛みしめるように言う彼女の言葉に、自分も言葉を重ねる。

「はーりせんぼんのーます。指切った。」

「指切った。」

そうして、ゆっくりと小指を降り下ろす。

離れた指の感触を名残惜しく感じていた俺の右手を、彼女は両手で包み込むように掴む。·

 

「ねぇ···この先も、一緒にいてね...?」

 

と、そう言った。

 

 

にわかには声を出せなかった。彼女の手は震えていて、でもそれ以上にその声は切実で...。まるで「次に俺が言う言葉でこの先の人生を決める」と決意しているかのような。

 

そんな静かな熱と迫力を持っていた。

 

止まる時間。停滞する世界。その瞬間彼女は俺だけを見ていて、俺も彼女だけを見つめていた。確かにその瞬間、世界には俺たちだけが存在していた。

 

そうして俺は...

 

「ああ、勿論。ずっと...一緒にいるよ。」

 

この場所に、彼女に、自分自身に、そう誓った。

 

そして....俺はこの時の彼女の顔を、その姿を、生涯忘れる事はないだろう。そう、漠然と思った。

 

嬉しさと、哀しさと、優しさと、祈りと、喜びと、諦めを織り混ぜた、泣き笑いのような表情。

 

この顔を見てからずっと.......

 

 

 

俺は、答えを探している。

 

 

  

 

(嗚呼、俺はこの時、何と言ってあげられれば良かったのだろう...。)

 

「よし、じゃあ帰りましょうか。」

「....ああ。」

 

全ての想いを振り払うかのように言う、彼女の苦悩に気づかぬまま、この一日に幕を閉じる。

 

その日から、少しずつ、俺達の距離は近づいて行った。

 

 

 

そうして、運命の日がやってくる。 

 

 

全てが変わったあの日、何時ものように俺は森を駆け巡っていた。その日は、普段つるんでいる友人は夏風邪を引いて寝込んでしまっていたからだ。

ならばと思い幼なじみの家に行ったが、生憎用事があるようで、仕方なく一人で遊んでいた。

 

だが、やはり孤独は寂しいもので、早々に家に帰ろうと、村の方向を向いた時だった。

 

 

 

俺が...村の方角から上がる煙に気付いたのは。

 

 

 

最初は何か焼いているのかと思ったが、色が黒い上にそこかしこから上がっている。

 

そこで俺はようやく、事の重大さに気がついた。

 

そこからは無我夢中だった。鞄をひっつかみ、ただただ駆ける。今更「長距離走の練習をするべきだった」などと後悔してももう遅い。とにかく無心で駆けた。

 

村に近づくにつれて、煙と、新たに焦げ臭い匂いが強くなる。物が焼ける臭い、それに、嗅いだことのない何かが燃える臭い。

 

程なくして村の入り口についた俺は絶句した。

 

「な、何だ···これ····!?」

 

そこは、まさに《地獄》だった。

何処を見ても、目に入るのは、赤。全てが、赤く染まっていた。炎の赤、空の赤そして...流れる血の赤色。そうして、肉の焼ける臭いが立ち込める。

 

そこら中から火の手が上がり、無事な場所などは何処にも無かった。燃え盛る業火が、思い出の全てを焼き尽くさんと荒れ狂い、どこもかしこも悲鳴と苦しみの声で一杯だった。

 

俺は、そんな阿鼻叫喚の地獄絵図の中を、俺は駆けた。止まったら動けなくなると思った。

 

何度か名前を呼ばれた。

 

無視した。

 

助けてくれと懇願された。

 

見捨てた。

 

体を掴まれた。

 

振り払った。

 

その時の俺にとって、彼ら彼女らの命の価値など道端の石ころと同じだった。

 

我が家は村の端にある。もしかすると焔の被害を免れているかもしれないと、そうであって欲しいと願いながら。

 

広場を突っ切り、小川を飛び越え、死体を蹴り飛ばして走る。引火した鞄を投げ捨て、服や髪も所々焼け焦げさせて。

 

脇腹が痛い。肺が焼ける。腕がちぎれそうだ。そんな身体からの抗議を無視して走る。そうして、ようやく家についた俺の前には...

 

 

俺の努力を嘲笑うかのように...

 

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                  ~次回予告~

              かくして、永き夜が始まる  
 
                  宿命の子よ

               理性と狂気の狭間で踊れ

                紅く染まりし空の元

                 彩られし肉の道

                   声は遠く

                   故に君は

                自らの過ちに気づかない

               さぁ、操り人形の恋に踊ろう

              


    


               ――――――――願わくば、最良の未来をその手に
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