環境が二転三転しまくって書くヒマがなく執筆から遠ざかっていました。
大手の芸能プロダクション、シンデレラプロダクション。個性的なアイドルや芸能人など、業界人が多く所属するプロダクションのアイドル部門。ここには名物とも言われるプロデューサーたちがいる。
曰く、ずるい人。曰く、かっこいい。曰く、運命の人。曰く、かわいいところがある人。曰く、強い人。
人によって評価が変わる人間たちだが、共通する評価はその器の大きさだという。そんな彼を焦点にあてたアイドルたちの日常を見てみよう。
【渋谷凛からみた、担当プロデューサー】
まず、私からみたPへの評価は【頼れる大人】だ。
持ってくる仕事に不満は……、ちょっとある。偶に奈緒や加蓮たちとフリッフリの衣装を着させられることがある。普段がスタイリッシュだったりクールな衣装が多いのに、偶にそんなキュートな衣装を持ってこられることがある。
特に奈緒は反応がいい分、余計に持ってこられる確率が高い。
それでもこっちの要望をできる限り飲んでくれるし、甘えさせてもくれる。時々は叱ったり厳しかったりするけど、私たちを磨くためにあえて厳しいことを言っていることも長い付き合いでよくわかる。
それでも本当につらい時は、絶対に手を伸ばしてくれる。そんな大人の人。
出会ったときは見た目も相まって、いかがわしいスカウトの類かもしれないと警戒したけども、いつの間にか日常の中に居ることが当たり前になっている不思議な人。
「プロデューサー、ちょっと今いい?」
「おう、どうした」
パソコンの画面から目を離してもキーを叩く指は止まらない。本人は基本のスキルって言ってたけど、少しすごいと思ってる。
「来月のスケジュールなんだけど」
「ん、少し待て」
澱みのない操作でパソコンのスケジュール帳と自分のメモを書類の山から引っ張り出す。Pの机の上はいつもアイドルについてるマネージャーや他部署からの書類で山積みだ。片付いたところを見たことがないけども、朝に事務机を埋めるほど山積みの書類が、帰るころには五分の一の量しか残っていない。
曰く『慣れ』らしいけど、仕事ができるにしてもすごいと思う。部門統括でもあるPは専用の部屋を与えられているというのもあって本社に引き抜きの話も上がっているほどだと聞いているけど、私たちのためにずっとこの事務所に残っていると聞いたことがある。
「調整は効くが、どうした」
「この日なんだけど……」
「ああ、そうすると予定はここにずらすことになるが……」
話の進み方もスムーズだし、会話をしていてストレスもない。
「いい時間だな。休憩を挟むか」
財布を片手に席を立ったP。相変わらずずっしりと重そうな革の財布。それよりもパンパンに膨らんでいる名刺入れはスリムな姿を見たことがない。
「凛も来いよ、おごってやる」
「なんでもいいの?」
「抑えとけよ? この後のレッスンで吐いても知らねえからな」
いつでも、こっちの考えはお見通しという感じの態度。少しむっとするけど、逆に安心する。休憩するときのPのメニューはいつもブラックコーヒー。なのに仕事中は砂糖とミルクをドン引きするレベルで入れている。糖分が足りなくなるんだって。
「最近、こうやってお前と時間を作ることはめっきり減っちまったな。ついでだから面談でもやるか」
「うん、こうやって二人でお茶するのは久しぶり。私が入った時はよくこうしてお茶したりしてたね」
「あん時は、まだここまでデカくなるとは思ってなかったんでな。どうだ? 最近調子は」
「問題ないよ。最近は前よりも時間をとれるように調整してくれているし」
「体調はよさそうだしな……。学校はどうだ?」
「そっちも大丈夫。みんな気を使ってくれるし、友達も前よりできた。流石に告白は断ってる」
「ほぉ~、随分度胸のあるやつだな。どんなやつだった?」
「サッカー部の主将。でも正直タイプじゃないし、私のことアイドルとしか見てないからパス」
「まあ、そんなところだろうな」
他愛のない話をすることが楽しいのは、事務所のアイドルのみんなに家族、そしてP。この人に感じている安心感は、多分家のベッドとかソファーに身を預けるのに似ている。何も考えずに全部を放り投げても受け止めてくれる。そういう確信がある。
「この調子でいくと、次の仕事も問題なくいけそうだな。来週は少しハードだ。ティーン雑誌の取材、それから前も仕事をしたデザイナーの新作のモデル、それから新作飲料のCM撮影。適時休みは取れるようにしてあるが、辛かったら言えよ?」
「大丈夫だよ。バッチリこなしてくる。いつもみたいに」
「おう、頼んだ」
頼んでたコーヒーセットとティーセットが届く。ゆっくりと時間をかけても問題ないから、久しぶりにゆったりとPとの会話を楽しんだ。
私としてのPへの評価は、うん、やっぱり『頼りになる人』なんだと思う。お父さんというよりは、お兄ちゃんみたいな人、なのかな? 年齢差もそれぐらいだし。
好きな人、というとまだちょっと違う。でも、別に初めてを貰われても構わないし、ちょっとうれしいと思うくらいには好き、なのかも。
「なんだ人の顔じろじろ見て? ぼさっとしてると茶が冷めるぞ」
そういえばこのP、慣れてくると結構なイケメンにみえてくる。剣呑な雰囲気も相まって、その筋の人かと思われがちなんだけど、付き合っているうちにただぶっきらぼうなクーデレ兄貴って感じになってくるから面白い。なんだかんだ、私もこの人にお世話になったなぁと思うと、すごく懐かしい気分になる。
「なんでもないよ」
「……疲れてんなら帰りは車出してやるぞ」
「あとで膝貸して」
「お前なぁ……」
ちょっと振り回してみるのも楽しい。ちょっとした優越感が味わえる。
「あっ! Pさんじゃ~ん!」
「危ねえぞ加蓮。ワイシャツに珈琲こぼすと五十嵐がうるせぇんだ」
「花のJKに抱きつかれてうれしくない? 役得でしょ?」
「振り向かせたきゃもうチョイ慎みをもっとけ。おてんば娘」
加蓮が後ろから抱きつくけど、軽くあしらわれる。そういえばPが照れたところはあまり見たことない。奏がキスしようとした時も余裕綽々に返り討ちにしていたし、アーニャのハグを受け入れているし、雪美がしょっちゅう膝に乗ってるいし、聞いた話では居酒屋に連行された美優さんがPの膝枕というか、伸ばした足を枕に眠っていたという話だ。
「ほんとモテるよね、プロデューサーって」
「仕事柄、女子供に好かれやすいのは必要なスキルなんでな」
「ねえねえ、私には奢ってくれないの?」
「お前もこれからレッスンだろうが」
そういうとセットについていた食べかけのサンドイッチを加蓮の口に突っ込んだ。たしか今日のはポテトサラダのサンドイッチだ。食べかけのそれを口に突っ込まれた加蓮はそのまま固まっている。脳の処理が追いついていない時の加蓮だ。あ、一気に真っ赤になった。
「会計済ましとくから、お前らもレッスン遅れるなよ」
まるで悪気がないし、慣れてるんだろうなぁ。
「加蓮」
「……何?」
「美味しい?」
「……うん」
「……」
「やめて! ニヤニヤした笑顔やめて!!」
うん、ウチのPは意地悪だ。
「レッスンいこ。奈緒が待ってると思うし」
「そっ、そうだね。奈緒弄って発散しよっと」
「プロデューサーにチクられても知らないよ」
「奈緒はそんなことしないもん」
この事務所に来てよかった。そう思う瞬間だった。
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【CoPのウワサ】
謎が多いらしい。
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【島村卯月からみた、プロデューサー】
私の担当Pは、事務所で言うところの部門担当でもある人です。印象としては、なんというか、ちょっと言うのが恥ずかしいのですけど、【王子様とか皇太子様】って感じの人です。
「では、スケジュールはそのように、ええ……ははっ、お言葉は有り難いですが、今の場所の方がやりがいを感じますので。はい……では、また当日に、失礼致します」
スマホをしまう動作だけで気品を感じるのって、あまりないと思うんです。事務所の女性社員の方もキャーキャー言ってます。
「おや、どうしましたか? 卯月」
「え!? い、いえいえ! なんでもないです!」
それに声も爽やかです。なんでアイドルをしていないんでしょうか? と考えてしまうほどです。
「疲れが溜まっているようならば、スケジュールの調整をしますが」
「ほんとに大丈夫です! ちょっと考え事してただけで!」
「わかりました、何かあればいつでもおっしゃって下さいね。大切なアイドルですので」
周りでは少しシュンとした顔のPにきゅんときた社員の方がもじもじしています。
「この後は、ピンクチェックスクールがトライアドプリムス、それからポジティブパッションとの合同レッスンです」
「凛ちゃんと未央ちゃんも一緒なんですね! 今度のライブも楽しみだなぁ~」
「ええ、プロデューサー間で調整をした甲斐がありましたよ」
にこっと微笑んだだけで女性社員が数人倒れました。私も正面から笑顔を向けられるのに慣れるのに時間がかかりました。耐性のない女性はときめかされてしまいます。これが効かないのは担当プロデューサーと既に婚約を結んでいるまゆちゃんくらいです。
「あ、あれっ!? 皆さん!? 大丈夫ですか!?」
ダメですPさん! 抱き起したらトドメになってしまいます! すぐに清良さんを呼びますから!
「呼吸が止まってる……!? 応急処置を」
「しなくて大丈夫です」
「私たちが蘇生させますので」
「み、みなさん?」
「はーい抜け駆け禁止~」
「プロデューサーさんの唇を奪おうとはふてえやつだ」
あ、周りの社員さんが運んでいきました。今日もPさん争奪戦は過酷ですね。……もうちょっと私も積極的に行った方が、いいかな、なんて。
「卯月ちゃん! もうすぐレッスンだよ!」
「あっ美穂ちゃん! ありがとう、すぐに行くね」
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【CuPのウワサ】
実は財閥の御曹司らしい
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【本田未央から見た、プロデューサー】
「シャアッ! 来い茜ぇッ!」
「行きます!! ボンバーーーー!!!!」
「おっしょい!! 今日も元気だな!!」
レッスンルームであかねちんの全力タックルを受け止めているのは、私の担当P。なんというか【面白熱血スポ根番長】って感じ。涙もろくて人情家、派手好きで豪快、おまけにきらりんを超える身長なのに早苗姉さんたちには頭が上がらない。
あと他の部署のアイドルにも結構フレンドリーに接している。例外中の例外はPの部下で時子様を担当している部下のPぐらいしか上下関係を見せていない。本当に例外。
もうすぐしぶりんとしまむーに、みほちーにきょーちゃん、かれんにかみやんも来る。今度のライブは武道館。PP、TP、PCSの三つが同じステージに上がるということでいつにも増して熱気がすごい。チケットも飛ぶように売れてキャンセル待ちが続いている。
いずみんやまきのん、あとはうめちゃんのおかげで転売対策はバッチリだってしぶりんとこのPさんが言っていたから、私たちは最高のパフォーマンスをすることだけを考えることができる。
因みに私たちの他にステージに立つのは、ニューウェーブの三人に、実験ユニットで一時的に組むダンスがメインのユニット【リトルステップ・シャイニング】。はるちんにりさりさ、みりあちゃんにかおるんだ。Cuから参加者がいないのは、まだ選定が定まってないからってPさんが言ってた。
「今日も茜ちゃんは元気ですね」
あーちゃんもレッスン着に着替えて、他の子たちを待っている。
「ほんと、最初プロデューサーにスカウトされた時はスポーツ選手になるのかって思ったよね」
「そうだね、私も何かの間違いなんじゃないかってびっくりしたもん」
あかねちんとまだじゃれてるPは本当にゴッツイ。昔はプロレスラーを目指してたみたいなんだけど、色々あって断念しちゃったんだって。ちょっと寂しそうな顔をするからあまり深くは聞かないけど。怪我とかではないみたい。
「でも、あんなに真っ直ぐ誘われたら、ね」
「そうだよね、なんでか大丈夫だって思っちゃったよね」
「本当に裏表がない人だったからね」
「トラーーーーーイ!!」
「おっしょい!! いいタックルだぞ茜ぇっ!!」
あかねちんとPをみてると、なんだか小型犬がヒグマにタックルをしてるみたいにみえる。それでもどこか微笑ましい。よくかおるんやになちゃんがよじ登ってるし、偶に早苗姉さんに物理的に尻に敷かれてる時もあるし、なぜか時子様Pと一緒に二人して踏まれてる時もある。たまにぼののを見つけると『森久保ォ!』と言いながら追いかけてることがある。
「よっし! 体があったまってきたから走りに行くか!!」
「いいですね!!! 行きましょう!!!!」
「まってまって二人とも!! これからレッスン! レッスンだから!」
お父さんみたいに大きくて、お兄ちゃんみたいに頼りになって、弟みたいに目が離せない、なんというか面白い人。でも、不思議なことが三つある。
「そういえばプロデューサーさん!! また出張で一週間空けるって本当ですか!!?」
「おう! すまんな! また土産買ってくるから許してくれ!!」
なんか出張が多い。そして出張から帰ってくるたび、なんかしきにゃんがしばらくPを警戒する。聞いた話だとその出張も事務所の仕事じゃないかもしれないってまきのんが言ってた。
「じゃ、トレーナーさんがそろそろ追い込みするって言ってたし! ライブ当日はしっかり帰っているからな! 本番での活躍期待してるぞ!」
まあいっか! Pの信頼に応えたいのは本当だし、Pの信頼も本物だし! よーっし! 伝説、作っちゃいますかぁ!!
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【PaPのウワサ】
出張でよく海外に行くらしい。外人の知り合いも多いらしい。
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――居酒屋 個室
「んじゃ、今日もお疲れー」
「お疲れ様です」
「お疲れ―、何飲むよ」
「俺生ジョッキ」
「私はウーロンハイを」
「んじゃ生二つにウーロンハイな、ポチッと」
程なく注文の品が運ばれてくる。
「ほんじゃ乾杯」
「……っかぁーっ! さて、今日の感じなら本番は大丈夫そうだな」
「ええ、交通整理も警備も準備は進行していますし、当日のホテル状況もシミュレーションから混雑が起きないようコントロールは可能です」
「これまでの転売によるファンクラブ追放は五件、転売チケットの購入者も二度と登録できないよう端末からブロックしてある。浮いたチケットは予約申し込み枠から抽選に回してある。当たったら購入権が与えられる訳だ。事前に転売によるチケット無効に関しては払い戻しをしないことに同意させてから購入させている訳だ。まるっと儲けさせて貰ってる。ついでに小梅の友達に手伝って貰ってプチ不幸が転売屋に降りかかってるころだ」
「じゃあ、俺は安心して出張に行けるな。今度は南米だ。ナターリアの家族が住んでるあたりで暴れようとしている阿呆がいるからな。はぁ……因果な商売だぜ」
「俺も明日は小梅の撮影で心霊スポットに付添だ。念入りに朋に占わせた結果と俺の結果が一致した。何か起きる。零門閉じたばっかだぞ」
「私もここ最近は番犬所の指令はありませんから、こちらに専念できるのは有り難いですね。他の騎士たちが我が事務所のファンらしく、積極的に協力してくれていますから」
「ウチの里のやつらもあやめの大ファンが多くてな~、ウチの親父も跡継ぎ催促が鬱陶しいほどくるんだわ……。こっちの世界に連れて来たくねえのに」
「何の冗談か知らねえが、大変だなお互い」
「ええ、なんの陰我……いえ、因果というべきでしょうか」
「ま、なんだ。明日も仕事だ。遅くならんうちに帰ろうや」
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【CoPのウワサ】
小梅よりもよく【視える】らしい
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――某県 某所 撮影中 CoP
「き、今日は、私、シンデレラプロダクションの白坂小梅と」
「356プロダクションの新人アイドルの――」
現在、彼女たちがいるのはSNS上で最近話題になっている心霊スポットだ。そこはぽっかりとあいた洞窟で、最奥には古びたお堂があるという。実際にSNSでこのスポットに向かった者は後を絶たず、中には消息不明になっている者もいると噂になっている。事実、配信中に音信不通になり、一度警察が捜査をした例もあった。発見された動画配信者はひどく憔悴しており、一時立ち入り禁止になったほどだ。
そしてそんな場所に霊感アイドルが赴かない訳にもいかず、本人は非常にノリノリで企画に参加した。無論、条件はP同伴である。
「今日は、霊能者の先生にも来ていただいています」
「あのー、冒頭からこういうのは申し訳ないのですが、本当に行くんですか?」
一応、霊能者のこのセリフは台本上のものではある。しかし、霊能者の顔色は優れない。
「小梅ちゃんは何かみえちゃったり、します?」
新人アイドルは完全に一般人である。正直この企画に関して噂話の類は一切信じていない。
「う、うん! あそこにも、あそこにもいる!」
「あれは比較的安全だから、問題はないのですが、問題は奥の方です」
「あ、うん。あそこは、あの子も嫌だって言ってる」
「え、え、マジですか」
「マジです」
「うん」
事態を静観しているPだったが、スタッフと打ち合わせしはじめた。
「奥の方の撮影はしない様に、仮に行うならば必ず私が同行します」
「ですが番組としては一番奥の方にあるというお堂を撮影しない訳には――」
「しかしこれ以上は霊能者の先生もおっしゃっている通り――」
結局、霊能者と小梅が無理というラインまで行く。という事で一致した。しかし奥に向かうにつれて、段々と異常が発生し始める。
「な、なんだか寒気がするんですけど」
「ここは、大分澱んだ気配がします」
「あ、あの子も、怯えてる」
「あれ? スマホが圏外になった?」
「マイクがノイズを拾い過ぎて、うわぁ!? なんかきこえたぁ!?」
そして、残り四分の一と言ったところで小梅と霊能者の足が止まった。
「だめ……!! ここから先はだめ……!!」
「これから先は異界です! 行ってはいけません!」
両者の尋常ではない様子に撮影の中断をスタッフが決定しようとしたその時だった。
「えっ? 誰? えっ、うそ、やめて!! やだ!」
引っ張られる様に新人アイドルがお堂へと向かい始めた。本人が必死に抵抗しているのにずるずると引っ張られている状況に全員の思考が一瞬止まった。P一人を除いて。
「喝!」
Pが一喝し、柏手を打った瞬間に新人アイドルは解放されたらしく、腰が抜けそうになりながら戻り、小梅に抱き着いて泣き始めた。
「よ、よしよし」
「もうやだよぉ、かえりたいよぉ」
即座に撤退を開始した一行。ロケ車に戻ってすぐにアイドルの浄霊を始めた。幸い憑いてきた霊は居なかったが、アイドルの腕一面に着いた手形を見て、スタッフも何も言えなくなった。
「……ふざけやがって」
Pはロケ車のトランクから一つのアタッシュケースを取り出す。そこに納まっていたのは呪符だった。しかしそれは霊能者が見たこともない呪符だった。
「プロデューサーさん、それは一体?」
「本当はいらねえがムカついた。禁じてくる」
そう言ってずんずん歩き始めたPを慌ててスタッフたちが追いかけていく。時折Pが手を振り払うと、何かが祓われたらしく霊能者が絶句していた。
「す、すごい……! プロデューサーさんが悪い子をどんどんやっつけていってる……!」
「これほどまでの浄霊、私も見たことがありません……!」
そして、問題のお堂の近くに来たとき、またしても新人アイドルが何かに引っ張れそうになった。
「一尖!」
Pが虚空に何かを投げた。カメラが捉えたのは細い針だ。すると洞窟内に絶叫が響き渡る。老婆のような、若い女性のような、壮年の男性のような悲鳴だ。
「い、いまのは一体なんでしょう……」
「畏れが集まって調子こいたただの悪霊だよ。地獄に叩き返してやる」
更に進むPの後をスタッフたちは慌ててついていく。霊能者は絶えず何か呪文のようなものを唱えながら新人アイドルを守っていた。小梅は最も安心できるPの真後ろにいる。
そして、一行はお堂にたどり着いた。ほとんど崩れていて、祀られていたモノもわからない程だ。
「下がってろ」
Pが一歩進んだ瞬間、カメラが捉えていた映像が乱れ始めた。ひどいノイズが入り、はっきりとものが映らない。
「う、うわあああ!?」
「落着け」
Pが符を宙へばら撒く。それはスーツの袖から次々と飛び出していく。仕込んでいたにしても明らかに量がおかしい。
「十二散!!」
凄まじい爆発が洞窟を揺らす。
「ぎぃぃぃぃぃぃぃやああああああぁぁぁぁああぁぁぁあああ!!」
飛び出したのは落ち武者の頭。それも非常に巨大な物だ。カメラもギリギリそれを捉えている。
「六貫! 七排! 三運! 四爆! 五斧!」
「ぎゃああああ!! ひいいいいいい!! やめてくれぇぇぇぇ!!」
Pが針や符を投げつけ、叩き付ける度に爆発が起き、落ち武者の首が悲鳴を上げる。周りは何が何だかだが、撮影クルーは目の前の映像を根性と興奮で撮り続けている。
「な、なんという霊力だ……!」
「お、おい! 特撮なんかじゃねえぞ! カメラ根性で回せ!」
「は、はい!」
やがて落ち武者の首がボコボコにされ、見る影もなく小さくなった。
「ひい、ひい、も、もう勘弁してくれぇ……悪さはしねえ。ゆるしてくれぇ……」
「俺がてめーを滅する理由はただ一つ」
落ち武者の首の額に針が突き立てられた。
「てめーはアイドルを泣かせた」
凄まじい霊力が針から落ち武者へと流し込まれる。
「おぎゃああああああああ!! いやだあああああ!! 消えたくねええええええ!!!」
「禁」
ボジュウウウウッ!! と音を立てて落ち武者の首が消えた。それと同時に辺りに漂っていた空気が流れ始めた気がした。
「大丈夫か?」
「う、うん……! かっこよかった……!」
「よし、引き揚げるぞ。もうここは心霊スポットでもなんでもなくなった」
「いやーすごい映像だな! ね、ね! プロデューサーさん! この映像使ってもいいのか!?」
「お好きに。どうせ合成映像だって信じられないでしょうけど」
「カメラ無事か!? 早速帰って編集するぞ!」
慌ただしく引き上げるクルーを尻目に、小梅と手を繋いで帰ろうとする。
「プロデューサーさん、あなたはこれほどの霊力を一体どこで……?」
「あまり人にいう事ではないので、差し控えさせていただきます。修業したいなら光覇明宗の本山へ向かうとよろしいでしょう」
帰りながら聞かれたことに適当に返し、腰が抜けたアイドルを背負っていく。
「あ、あの、ありがとうございました」
「ああ、気になさらないでください。プロデューサーとして、アイドル泣かされて頭に来ただけなので」
その後、その映像は地上波に流れたが今世紀最大の特撮映像として世間に評価され、Pには特撮界から熱烈なラブコールを受けることになる。
因みに実際の映像だと看破したのは、世界的にも一握りの霊能力者と鷹富士茄子、依田芳乃、そして古参の小梅ファンだけだった。
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【CoPのウワサ】
小梅よりもよく【視える】らしい
滅茶苦茶すごい霊能者らしい
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CoPの戦闘力:肉体スペックは十傑衆とか九大天王。
基本的にアイドルがピンチなときは絶対負けない。
所謂プロデューサー版ぬ~べ~。
やっぱ文章力とか落ちてる気がする。