進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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プロローグ

 850年12月8日、午前6時45分

 

 ウォールローゼ内工業都市の一角、仮設司令部が置かれている建物の二階で、リタ=ヴラタスキは自身の専用装備である機動ジャケットの点検をしていた。普段ならこういった作業はシャスタの範疇だが、今彼女はここにはいない。シャスタは壁外領域(ウォールマリア)内に擬装している装輪装甲車(ストライカー)内で敵の動きを観測しているはずだった。

 

 自動翻訳を兼ねているイヤホンから呼び出し音が鳴った。リタが応答するとシャスタ=レイルの緊張した様子の声が飛び込んできた。

『リタ、来ました』

「やつらか?」

『は、はい。今しがた旧シガンシナ区付近に展開していた巨人達が一斉に北上を開始しました。数が多すぎるため、音紋センサーでは正確な測定ができません。ま、間違いなく二千は超えています』

音紋センサーはリタ達が持つ優秀な観測網である。複数のセンサーから得られる振動波を解析することにより離れた場所にいる巨人の位置や数を探知できるのだった。

 

「となると既に壁外領域にいる巨人も合流するだろうから三千は超えるな」

 リタは今回の敵襲にあたり、巨人の総数を二千から三千と予想して他の軍幹部にも伝えている。

『わ、悪い方の予想があたりましたね』

「そうだな。それで敵の進撃方向は?」

『お、おそらくトロスト区です。現在の進撃速度で考えれば5時間後でしょう』

正午にはトロスト区に過去最大規模の敵集団が殺到してくるという事だった。前回のトロスト区防衛戦の数倍以上の大軍勢である。

「予想どおりだな。すぐに全軍に緊急通達を出そう」

リタは現在、人類連合軍の総指揮を任されている立場にある。今回の迎撃作戦はリタが立案し、現政権に了解を求めたものでそれだけに責任重大だった。

 

『あ、あのう……』

シャスタは何か含みのある疑問を投げ掛けてきた。

「どうした?」

『私たちは勝てるのでしょうか?』

「厳しい戦いになる事は承知している。それでも戦わなければならない時もあるのだ。ハンジやペトラとの約束を守るためにもな」

『そ、そうですね』

「あの日ペトラに出会った。それから半年か……、色々あったが決して負けるわけにはいかない。志半ばにして散っていった彼らの思いに答えるためにも……」

 

 リタは半年前、この世界に迷い込んできた時の事を思い出した。最初は何も分からない世界で、人喰い巨人が徘徊している事に驚かされた。そして大量の巨人に囲まれ絶望的な戦いをしていた一人の若い女性兵士をリタ達は助けた。それがペトラとの出会いだった。




【あとがき】
話が終盤に突入したので、整理も兼ねて、クライマックスとなる巨人の大侵攻をプロローグに挟みました。役職や軍事体制などはわざとぼかしてあります。

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