突如、トロスト区南門に出現した超大型巨人により、門が破壊されてしまう。
第104期訓練兵ミーナ・カロライナは、調査兵団の先輩女兵士が、超大型巨人に戦いを挑むところを目撃。超大型巨人は大量の水蒸気を撒き散らして消えてしまった。
(side:ペトラ)
秘密結社『グリーンティー』。
結社の目的は人類の勝利、世界の謎の探求である。構成員はリタ、シャスタ、ペトラ、途中からハンジが加わって4名。リーダーはリタ。ただしリタが絶対上位というわけではなく、結社の決議は多数決により決定される。リタが他の構成員と違うのは、リーダー票として2票持っている事だった。
秘密結社の掟は以下のとおりだった。。
・結社の秘密は決して漏らさない事。たとえ脱会した後であっても守秘義務を課す。
・結社の決議には従う事。
・有事の際は、リタを指揮官とし、その命令に従う事。
・結社に新たなメンバーを加える場合は全員の承諾を必要とする。
ペトラがリタ達を実家に連れてきた夜、リタ達からこの秘密結社の話を持ちかけられた。王命よりも秘密結社を優先する事が条件で1日考えてから結論を出してもいいと言われた。ペトラは願ってもない提案だったので即答している。
ペトラはリタを味方にする必要性を感じていたし、リタも秘密を知っているペトラと取り決めをしない事を不安に感じていたのだろう。双方の利害が一致し、シャスタが仲を取り持ってくれた事もあって結社設立に漕ぎ付けたわけだった。
ペトラが技術班に転属してきた本当の理由は、この秘密結社の活動をするためであった。ペトラは表面上はただの技術班の新入りだが、実際に開発作業をしているわけではなかった。
「ペトラさんはなんの仕事をされているんですか?」
と開発班の同僚に聞かれるが、ハンジの手伝いとしか答えようがなかった。
ペトラはリタが顔を出せないところや、他部署との交渉、資材購入などを行っていた。つまり営業職的な役割だった。巨人と斬った張ったしていた頃とは違うが、これも戦場の一つだった。
また秘密結社は独自の軍事力を保持している。それがリタの戦車部隊だった。ペトラは実際に目撃しているので、その戦闘力の高さは知っている。あの時、2キロ離れた位置にいた15m級巨人を狙撃して仕留めるほどだった。
この世界では弾薬補給が不可能なため、戦闘は極力回避する必要があるが、決戦戦力としては申し分ないだろう。
あくまで裏方に徹し、巨人と戦う主戦力は人類側の調査兵団や駐屯兵団である。その戦力の底上げにもリタ達は着手していた。索敵能力向上のための偵察気球もその一つである。その他、対巨人用新兵器の開発にも着手していた。
今日は本来ならハンジ分隊長の記念すべき天空デビューとなる日だった。シガンシナ区空中偵察を終えた後、気球でトロスト区に帰還し、デモンストレーション(成果発表)を行う予定だった。気球の事はいつまでも秘密にしておけないなら、いっそ派手にイベントとして盛り上げようという意図だった。
人類初の航空戦力――”気球”。実戦証明により航空戦力への予算獲得を狙う意味もあった。
単に気球を作っただけでは、憲兵団の摘発対象になってしまう。ハンジから聞いた話だが、気球の概念そのものは既にあり、過去に民間人の職人夫婦が作った事があるそうだ。彼らは憲兵団に捕まった後、事故死したという。謀殺されたのは間違いない。だからこそ、実戦証明において大きな戦果が必要だったのだ。
しかしながら巨人達の一斉侵攻が始まってしまったので当初の計画は全て台無しになってしまった。結社が設立して2ヶ月、十分な準備も整っていない。タイミングも非常に不味かった。調査兵団の主力は不在、リタの戦車部隊も不在だった。
「この馬鹿! なぜ戦った!? お前の任務は観測任務だろう? 自分の任務を忘れたのかっ!」
「ご、ごめんなさい。で、でもあのとき、追い討ちをされたら訓練兵達は……」
「味方が窮地に陥っていても手出ししてはならない。それが観測任務だ!」
南門の一件をリタに報告すると、ペトラは叱責された。ここはウォールローゼ近くの壁上にある物見矢倉の影だった。周りには人影はいない。
リタ達もこの場にはいない。リタ達は装甲車に乗って、ハンジ回収のためにシガンシナ区方面に進出しており80キロの彼方だった。
それでも会話できるのは、”携帯電話”という機械のおかげだった。ペトラは原理をまったく理解できないが、離れていても会話できる仕組みだそうだ。
さきほどペトラがトロスト区南門壁上に赴いたのは、リタから携帯電話で命令を受けたからである。
「巨人達の動きがおかしい。5年前と同じく超大型巨人が現れる可能性がある。南門へ行き、異変を観測せよ。周囲には巨人側の内通者がいると思われるので十分注意するように。なお交戦は許可しない」と。
にも拘らずペトラはリタの命に背いて超大型巨人と一戦交えてしまった。そのせいで対象が消えた時の状況を観測できていない。これはペトラの失態だった。訓練兵ミーナに怪しそうな訓練兵3人の名前を聞き出していた。ただし、ペトラの直感というだけで確証を得るものではなかった。
「わたし達の誓いの掟を忘れたのか?」
「ごめんなさい……」
ペトラはひたすら謝るしかなかった。超大型巨人は人類の怨敵だった。ペトラの同期で調査兵団に入った仲間の多くが壁外調査で帰らぬ人となっていた。ミーナに名乗った偽名――イルゼもその一人だった。憎しみの感情に動かされて行動してしまった事は否定できない。
「お、おい、シャスタ!」
「あたしが話しますっ!」
シャスタが割り込んできたようだった。
「ペトラさん、聞こえてますか?」
「はい……」
「リタが怒っている本当の理由は、ペトラさんが未知の敵に準備もなく戦いを挑んだ事です。それがどれだけ危険な事か、分かりますか? ……もしかしたら未知の兵器を敵が持っていたかもしれません。現に敵は高温の水蒸気を撒き散らす技を持っていました。ペトラさんが今、生きているのは幸運だったと考えてください」
「……」
「あたしもすごく心配しました。リタも同じですよぅ。結社の仲間というだけじゃないですぅ。あたし達にとってペトラさんは大切な親友です」
「な、なにを言うんだ! シャスタ!」
リタの動揺している声がマイクを通して聞こえてきた。
「あ、ありがとう……」
シャスタが嘘をつくのが苦手な人物だというのはここ2ヶ月の付き合いでよく分かっていた。そのシャスタが言ってくれているのだ。リタもシャスタも自分のことを大事に思っていてくれるのは間違いないだろう。
「ペトラさん、次からはリタの指示は必ず守ると誓ってくれますか?」
「はい、誓います」
「よかったですぅ。では、リタ、どうぞ」
マイクがリタの方に手渡されたようだ。
「……状況は厳しいが、我々に打つ手がないわけではない。君も知っている事だが、”保険”を使うことにする」
ウォールローゼを守る最後の手段、”保険”。リタ達4人で知恵を絞って考案した作戦案だった。
「はい」
ペトラもそれしかないと思っていた。
「カラミティ1よりカラミティ3へ」
リタ達の世界の軍隊では通信において名前の代わりに名乗る識別名(コールサイン)がある。”カラミティ”というのは異世界のリタ達の部隊が使っていた識別名であり、今の自分達の識別名としていた。この識別名で呼ぶときは友人として接するのではなく、軍事組織である結社の一員として接するという意味だった。
「……以上だ」
リタはペトラに命令を発した。リタの作戦案は当初の”保険”に若干修正を加え、より隠密性を増したものだった。
「了解です。質問してよろしいですか?」
「構わない」
「カラミティ1の帰還はいつになりますか?」
「カラミティ4を回収してからだ。早くても5時間後だろう」
ハンジを救出してからになるので、間もなく襲来する巨人の大群にはとても間に合わない。80キロの彼方では支援砲撃すらも不可能だった。
「ただ調査兵団の主力は3時間以内に戻るはずだ」
調査兵団が思ったより早く帰還できそうなのは不幸中の幸いだった。
「ありがとうございます。以上です」
「では現時刻をもって状況を開始せよ」
「はい。カラミティ3、状況を開始します」
”状況”という言い方もリタ達の世界独自のものだった。ペトラは人知れず秘密結社独自の軍事作戦を開始した。
【現在公開可能な情報】
◎秘密結社『グリーンティ』
・目的 :人類の勝利と世界の謎の探求
・リーダー:リタ
・構成員 :シャスタ、ペトラ、ハンジ
・保有兵器:装輪装甲車1台、生体戦車4台、対物狙撃銃、各種銃火器
・行動指針:人類側戦力の裏方に徹し、戦力の底上げを図る。結社の軍事力は決戦戦力。
・成果 :偵察気球の実戦投入。超大型巨人出現時の観測。ウォールローゼを守る”保険”の考案。
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◎トロスト区防衛戦での結社構成員の状況
ハンジは偵察気球に乗船。リタ&シャスタは戦車部隊を率いてハンジ救出のため、シガンシナ区方面に進出。ただ一人、街に残っていたペトラが、結社独自の軍事作戦を行う。
【あとがき】
秘密結社の設定をこの段階で登場させるかは迷いました。
これでトロスト区攻防戦におけるリタの不参戦は確定してしまうからです。
ペトラが南門で超大型巨人と交戦して砲台の破壊を防いだ。→ 前衛が少しだけ持ち堪える。→ 原作とは時間軸がずれていき別の展開になります。