進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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【前話のあらすじ】
南門砲兵守備隊は残弾が少なくなって来た為、大型のみを攻撃。中型以下の巨人は素通しとなっていた。前衛部隊は巨人の猛攻に押し捲られている。
ミカサがいる後衛部隊は戦闘がなかったが、商会のボスが避難路を塞いだ為、暴動が発生。イアン班長達が暴動鎮圧に向かう。
影達が作戦を最終段階へと進めた。

今回は原作でもお馴染みの第104期訓練兵が多く登場します。
クリスタ、ジャン、ユミル、コニー、アルミン、ミーナ。


第14話、敵討ち

 当初、予備戦力として後方に布陣していた訓練兵第31班は前進命令を受けて前線へと向かった。

 班員の一人、クリスタ・レンズは小柄な金髪の少女兵である。卒業成績10位だが、クリスタ自身はなにかの間違いだと思っていた。どう考えても自分より優秀な成績を取りそうな訓練兵を何人か知っていたからだ。ただそれを口にする事はしない。嫌味だと思われるのは何より嫌だった。

 

(わたし、本当に戦えるのかな?)

 クリスタは本当は怖くて逃げ出したい気持ちだった。巨人はもちろん怖い。でも一番怖いのは自分の親しい仲間がみんないなくなってしまう事だった。もう自分は孤独には耐えられないかもしれない。

 今日の戦いはどう考えても人類が不利だった。最精鋭の調査兵団が不在の最中、巨人達の奇襲を受けたのだから。戦闘準備が整っておらず訓練兵まで動員される状況では恐らく多くの犠牲が出ることだろう。そもそもこの戦いに味方が勝利できるかも怪しかった。

 

 自分達の班の前に後退してくる二人の兵士の姿があった。訓練兵第34班のミーナとアルミンだった。

 

「おーい! こっちだ!」

 班の仲間コニー・スプリンガーがミーナ達に手を振った。ミーナ達はクリスタ達の前にやってくると、二人とも膝から力が抜けたように座り込んでしまった。見たところ怪我はないようだが憔悴しきっている感じだった。特にアルミンの様子は酷く、膝を抱えたまま顔を伏せてしまい話しかけても答えようとしない。

 

(エレン達と一緒だったはずだよね? もしかして……)

 クリスタは悪い事が起きたと思った。

 

「お、おい、ミーナ! エレン達はどうしたんだよ!?」

「……」

ミーナも顔を伏せてしまい無言だった。

「なあ、エレンは無事なのか? 教えてくれよ!」

コニーはなおもミーナに迫った。俯いたミーナの頬には涙に濡れた後があった。

 

「もういいだろ? コニー。こいつら以外は全滅したんだよ! 複数の巨人に遭遇したのは気の毒だが、よりによって班最弱の二人が助かるとはな。エレン達も報われないな」

 ユミルは突き放した言い方をした。

「ミーナもアルミンも何も言ってないだろ?」

「周りを見りゃわかるんだよ、バカ! そいつらに構ってられるかってんだ! 街に入ってくる巨人の数は増える一方なんだ! 戦えない奴なんか放っておけよ!」

「なんだと!? 糞女! 喋れないようしてやろうか!」

 ユミルの毒舌に沸点の低いコニーは怒りを爆発させたようだ。

「もうやめてよ、二人とも! 仲間が大勢死んで気が滅入っているんだよ。普通になんかしてられないよね」

 クリスタは見ていられず仲裁に入った。

「さすが、わたしのクリスタ。この作戦が終わったら結婚してくれ!」

 ユミルはクリスタを抱きしめるとそんな冗談を飛ばした。

「ちっ、確かにいつも以上にふざけてやがる!」

 

 クリスタはミーナとアルミンを交互に見比べた。アルミンの心の傷の方が深そうな感じだった。アルミンはエレンの幼馴染で、アルミンの両親が亡くなってからもずっと仲が良かったと聞いていた。事情を聞くならミーナの方だろう。情報を聞いておかないと自分達にも危険が迫る可能性があるからだ。

 

 クリスタはユミルの拘束を振り解くと、座り込んで俯いているミーナに駆け寄った。

「ごめんね、ミーナ。辛いだろうけど説明してくれない? どんな状況だったの?」

「うぐっ。ご、ごめんなさい……」

 ミーナは涙ながらに声を振り絞った。

「巨人と何回も戦って……、トーマスもみんな殺されて……、エレンが脚を怪我して動けなくなって……、10m級4体に囲まれて……。エレンは置いていけって。そ、それでわたし達……、エレンを……、うぁぁぁぁ」

 そこまでたどたどしく言葉を続けると、ミーナは再び泣き出した。

 

「そんな事が……」

 クリスタは慰める言葉が思いつかなかった。訓練兵第34班はエレン以下4名が戦死したのだ。

 

「な、なんだと!? お前ら、エレンを見棄てやがったのか!? こいつ!」

 割り込んできたコニーはミーナの胸倉を掴むと、喉元を締め上げた。ミーナは無抵抗だった。

「やめてよ!」

クリスタは止めようとしたが、コニーに手を払われてしまった。

 

「ふん、そんなとこだろうと思ったよ。それは正解だよ。お前らじゃ、巨人の餌が増えるだけだもんな」

 ユミルは鼻を鳴らした。

「糞女! 何言ってやがるんだ!」

コニーはミーナを突き放すとユミルを睨み付けた。

「10m級4体だぞ。どうしようもないだろ、バカ! にしてもエレンはさすがだな。殿(しんがり)を務めるとは……。惜しい奴を亡くしたな」

「ち、ちくしょう!」

 コニーはエレンの死を悟り崩れ落ちた。コニーの目からも涙がこぼれている。なんだかんだいってコニーはエレンとは仲がよかったのだ。

 

「エレンが死んだ……。あいつが……? 仲間を助ける為に……?」

 周りの見張りをしていたジャン・キルシュタインが呆然と呟いていた。卒業成績6位、憲兵団を目指しているジャンにとっては申し分のない成績だった。内地での暮らしを夢見ていたジャンは、思想の違うエレンとは事ある毎に対立していた。ライバルと言っていい関係だったがエレンの壮絶な戦死は、ジャンにも衝撃を与えたようだった。

 

「無理に前線には突っ込めないな。ここで漏れてくる巨人を狩った方が賢い。そうだろ? ジャン」

 ユミルは班長であるジャンに提案した。

 

「わ、わかった。全員、この場に待機。周囲の警戒を厳重にしろ!」

 ジャンはユミルの案を採用することにした。

「ミーナ、動けるか?」

ミーナはこくっと頷いた。

「お前らは下がっていろ! アルミンを連れて、後方の味方と合流してくれ」

ミーナ達は十分戦っただろう。怪我はなくとも精神的には限界だろう。ジャンの判断は間違っていないと、クリスタは思った。

 

「巨人だっ! こっちに来る!」

 見張りをしていた班員のレオンが告げた。移動しようとして立ち上がったミーナ達は固まっていた。

「隠れろっ!」

 ジャンは合図で班員は物陰に隠れた。

「クリスタ! ミーナとアルミンを!」

ユミルの声だった。傷心の二人を匿えという事だろう。クリスタは直ぐに意味を理解して、二人の手を引き、屋根上の雨水槽の物陰に飛び込んだ。ジャンも一緒だった。ユミル達は残りの班員と共に煙突の陰に隠れた。

 

 雨水槽の影からジャンは巨人の姿を覗き見ていた。

「ちっ! 10m級が2体か……」

ジャンは舌打ちした。10m級は巨人の中でも比較的大きな部類だ。初陣で新兵の自分達には厳しい相手かもしれない。

 

 それまで一言も発していなかったアルミンが立ち上がり、ジャンの腕を引いた。

「ん? なんだよ?」

アルミンはジャンに場所を代わってくれと言っているらしい。ジャンが場所を譲るとアルミンが敵の方向を覗いた。

 

「あ、あいつらだ! あいつらがエレンを!」

 アルミンが絞ったような声を出した。どうやら接近してくる巨人達はエレンを襲った連中のようだった。アルミンは拳を握り締めたまま歯軋りしている。その頬はまだ涙に濡れたままだった。

 

「落ち着けよ、アルミン」

「ジャン、僕はエレンの仇を討ちたい。でも僕だけじゃ無理だ。だ、だから……手伝って欲しい」

「なにか考えがあるの?」

 アルミンの言葉に強い意志を感じたクリスタは聞いてみた。

「あいつらをこっちの誘き寄せる。そしてジャン達はあいつらをやり過ごしたら背後から攻撃するんだ」

「なるほど、それならオレ達にもできそうだ。だが、どうやって誘き寄せるんだ?」

「僕がやる。僕は力も弱く臆病で、卒業試験なんかギリギリだった。そんな僕でも囮ぐらいはできる」

 

「まさか!? アルミン、死ぬつもりなの!? せっかく助かったのに……」

 ミーナが驚いた声をあげた。

「違うよ、ミーナ。僕はエレンよりずっと恵まれているよ。……エ、エレンはたった一人であいつらに立ち向かったんだっ! 僕にはジャンやコニーやクリスタ、みんながいる。これで出来なかったらエレンに笑われちゃうよ」

「そうだな、エレンに出来て俺たちに出来ないはずがないよな。よし、やるぞ!」

アルミンの言葉がジャンを動かしたようだった。

「わ、わたしも戦います」

アルミンの言葉に触発されたのかミーナが戦う意思を示した。

「わたしは3m級1体、討伐しました」

「実戦経験済みというやつか。そいつは頼もしいな」

ジャンは感心したように頷いた。

「ごめん、ジャン。僕の思いつきだけでみんなを戦いに巻き込んで……」

「いや、気にするな。どっちみち、あの2体を倒さない限り、俺たちは逃げる事もできない。やるしかないところだ」

 

(そうだよね、やるしかないよね)

 クリスタも戦う気になった。戦意を喪失していたアルミンやミーナまで戦うというのだから。ここで怯えていたら卒業成績10位が本当にまぐれになってしまうだろう。

 

「コニー! お前ら、聞いていたか?」

 ジャンは向かいの建物の屋上にある物陰に隠れているコニー達4人に話しかけた。

「まあ、大体な」

コニーは答えた。巨人は耳はあるのに音にはさほど反応しないと知っているから離れていても会話できるのだった。ジャンは作戦の概要を改めてコニー達に伝えた。

 

「オレ達で右の奴を狙う。お前達は左の奴を狙え。オレが合図するまで動くなよ」

「わかったよ」

 コニー達は頷いた。コニー達は4人。対してこちらはアルミンが囮役のため、ジャン、クリスタ、ミーナの3人である。戦力的には自分達の方が苦しいかもしれない。

 

「ミーナ、お前に先陣を任せる。クリスタは後詰だ」

 ジャンは手際よく指示を出した。内地指向だったはずだが、今は積極的に巨人と戦う気になっているようだった。

 

 アルミンが後退し後ろの物陰に隠れた。巨人達が近づいたら飛び出して注意を引き付けるとの事だった。

 

 地響きが徐々に大きくなってくる。巨人達がついに自分達の横まできた。一番緊張する瞬間だった。2体とも口元が紅く染まっている。人間を食べた後だろう。もしかしたらエレンを食べた巨人なのかもしれない。首を細かく振って餌(人間)を探しているようだった。

 

 アルミンが飛び出した。巨人2体の視線は一斉にアルミンに向いた。アルミンの作戦どおり、巨人達の背後を取る事に成功したのだ。

 

「今だっ! かかれっ! エレン達の仇だ!」

 ジャンが号令。クリスタ達は一斉に物陰から飛び出した。屋根の位置に展開しているので、首筋までの高さは3mもない。しかし相手は訓練で標的としていた動かない目標ではない。動き回る危険な相手だ。10m級巨人ともなれば駐屯兵団の熟練兵でも苦労する相手である。

 

 しかし、この時だけは背後からの奇襲作戦が生きた。先陣を切ったミーナが跳躍すると最初の一撃を見舞う。卒業成績は中ぐらいだったはずだが、1度とはいえ実戦経験を積んでいるせいか見違えるように動きが良かった。巨人の延髄をかなり深く抉ったようだ。しかし斬り飛ばしていないため、致命傷にならない。すかさずジャンが突撃し、第2撃を見舞った。ミーナとほぼ同じ箇所だった。

 ミーナと時間差でV字型に切り裂いた格好となった。巨人は膝から崩れ落ち、地響きを立てて前のめりに倒れる。やがて水蒸気が立ち昇り気化が始まった。巨人は絶命したのだ。

 

(やったっ! 倒した!)

 クリスタは思わず喝采した。自分の出番はなかったが巨人を倒せたのだから御の字である。

 

(もう一体は?)

 クリスタはコニー達が担当している巨人を見た。巨人は腕を振り回していた。どうやら最初の一撃に失敗したらしく、巨人が激しく暴れているのだった。

 

 仲間の一人、ハンスがバランスを崩して屋根の上に転がり落ちるようにして着地した。

「よ、よけろっ!」

コニーが叫んだが、手遅れだった。巨人の大きな掌が振り下ろされた。轟音と共に屋根が大きく凹んでいた。巨人の手が退くと、瓦礫の中に原型を留めない肉の塊があった。ハンスはまるで虫けらのように叩き潰されたのだ。

 

 巨人がハンスを殺した刹那、ユミルが巨人に突進した。一気に巨人の顔面に迫ると、ブレードで巨人の両眼を切り裂いたのだ。

 

(ユミル!?)

 クリスタは驚いた。ユミルは状況を一番よく分かっているらしい。巨人が人を殺した瞬間が逆に一番の好機(チャンス)であると。巨人の注意がそちらに向くからだ。巨人は視界を失って手で目を抑えている。クリスタの方向から見て弱点となる後ろ首を晒していた。

 

「今だっ! やれっ!」

 ユミルの声に、クリスタは反応していた。ユミルが作り出してくれた好機だ。これを生かさない手はない。仲間の死を嘆くのは巨人を倒してからでもいい。クリスタはワイヤーを巨人の首筋に射出、一気に空中へと踊り出た。

 

(このっ! エレンのっ! ハンスのっ! みんなの仇っ!)

 クリスタは渾身の一撃を放つ。巨人の延髄を叩き斬った。訓練どおり首筋を切り飛ばした。手ごたえはあったとは思う。

 

(やったの!?)

 クリスタが巨人と戦うのは初めてだ。どれぐらいダメージを与えれば死ぬのかまだよくわからなかった。殺せた確証がなかったので、巨人の後ろ首に張り付いたまま、二度三度、斬撃を見舞った。

 

「バカっ! クリスタ! 離れろっ!」

 ユミルの叫ぶ声が聞こえた。

(えっ?)

 巨人はバランスを失って身体をコマのように回転させながら倒れていく。巨人に張り付いたままだったクリスタも当然それに巻き込まれた。巨人を倒す事に夢中になり過ぎて離脱するのを忘れてしまったのだ。

 

 凄まじい回転で天地が何度も入れ替わった。下手すれば巨人の骸の下敷きである。それでなくとも地上9mの高さだ。地面に叩き付けれたなら無事で済む筈がない。

 

 激しい遠心力で視界が遠くなっていく。急速に迫ってくる地面、巨人を倒してその骸で自分も死ぬとは皮肉だった。

 

(わたし、死ぬんだ……。こんなところで……)

 クリスタは自分の死を他人事のように考えた。ずっと実の母親からは邪険され、妾の子かよく分からないが、周りから敵意を向けられる事が多かった。訓練兵団に入るように薦められたが、兵士になれば勝手に死んでくれると期待されている事も知っていた。それでも訓練兵団の仲間、ユミルは自分にとって唯一心を開ける相手だった。ようやく出会えた大切な仲間、クリスタは何も為すことなく、死が襲ってきた事実だけをぼんやりと考えていた。

 




【あとがき】
クリスタの訓練第31班は、ミーナ&アルミンと出会う。そこでエレン達の死を知る。(31班は筆者の仮定)
そこに10m級2体が襲来。エレン達を襲った巨人4体のうちの2体だった。
アルミンがエレンの敵討ちを決意。作戦を立案した。
戦闘は勝利、しかし完勝とはいかず戦死者1名を出す結果となった。

討伐数2の内訳:ジャン1(10m級)、クリスタ1(10m級)。
クリスタは意外に大金星。しかし、クリスタはドジを踏んでしまう。






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