進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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【前話のあらすじ】
訓練兵第31班(班長ジャン、コニー、クリスタ、ユミル)は、アルミン・ミーナと合流。エレンの戦死を知る。そこに襲ってきた10m級巨人2体。エレンを襲った方割れだった。アルミンは敵討ちを決意、作戦を立案し、その2体を討伐することに成功する。しかし、クリスタが巨人を倒すことに夢中になり過ぎて離脱しなかったため、巨人の倒壊に巻き込まれてしまった。



第15話、離別

(あれ!?)

 クリスタは誰かに抱き抱えられている事に気付いた。巨人だった。4m級の巨人である。その巨人はどこから出現したのかはわからないが、倒した10m級巨人の下敷きになりそうだったクリスタを寸でのところで抱き抱えたのだった。その巨人は跳躍し、建物の屋上へと躍り出ていた。

 

(食べられる!?)

 クリスタは恐怖した。巨人に手足をしっかり押さえつけられているので身動きできなかった。

 

 その巨人は屋根の上にクリスタをそっと降ろすと言葉を発した。

「ガめんな、グリスダ」

クリスタには巨人が謝っているように聞こえた。

 

「そ、そいつ! ユミルが変化したぞっ!」

 コニーが叫んでいた。周りを見れば仲間の4人――ジャン、コニー、ミーナ、レオンがクリスタ達を取り囲んでいた。4人共、ブレードを抜刀している。アルミンはやや離れたところにいてこちらを伺っていた。確かにユミルの姿が見当たらない。

 

「クリスタっ! そいつから離れてっ!」

「ユミルは巨人だったのか!?」

コニーが問いかけてきた。

「信じられん!? じゃあ、ずっと俺たちを騙してきたのか!?」

ジャンは憤りを表情を見せている。

「許せないな!」

レオンも憤っているようだった。

 

「もしかして……、ユミルなの?」

 クリスタは巨人に問いかけた。巨人は頷く。普通の巨人ならば目の前に餌(クリスタ)がいれば、即座に食べようとするところだろう。しかし、この巨人はじっと中腰で座ったままクリスタを見詰ている。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 今、わたしが下敷きになって死ぬところだったのよ! 助けてくれたんじゃない?」

「ああ、そうかもしれないけど、巨人は巨人だ!」

 ジャンの声は冷静だった。ブレードを構えながら近寄ってくる。

 

「アままで、あうガとう。グリスダ」

 その巨人は感謝らしき言葉を発した。

「ユミル!?」

「さおオなら」

 ユミルらしき巨人は別れの言葉らしきものを残して、高く跳躍した。ジャン達の頭上を飛び越え、南門へと向かっていく。7m級と5m級が迫っていたが、行き掛けの駄賃とばかりに、その2体の巨人の首筋を噛み切った。2体は絶命したらしく気化が始まっていた。ユミル巨人は多数の巨人がいる方角へと消えていった。

 

「……」

 取り残されたクリスタは呆然としていた。クリスタはふと冬山の行軍訓練で遭難した時の事を思い出した。そのとき、クリスタとユミルと瀕死の仲間がいて、クリスタに先にいくように促した。なぜか大きな崖をユミルは越えてしまったようだが、巨人化する力があれば、納得がいった。

 

「お、おい、クリスタ! お前、知っていたのか?」

 コニーが問い詰めてきた。

「し、知らないよ。そんな、まさか!? ユミルが巨人だったなんて!?」

クリスタは首を振って否定した。

「こんな事って……」

 

「違うよ。巨人化する力を持っていたという事だよ」

 離れた位置にいたアルミンが戻ってきた。

「そんな事ってあるのかよ?」

コニーは尋ねた。

「あるもなにも今見たとおりだよ。それだけじゃない。自分の意思でいつでも巨人化できるんだ。そっちの方が怖いと思う」

「どういう事だ?」

ジャンが尋ねた。

「超大型巨人の事だよ。消えたり現れたりするのは巨人化する能力を持っているからじゃないかな? 人に紛れ込んでいれば分からないからね」

アルミンは冷静に分析しているようだった。

「じゃあ、もしかして鎧の巨人もかよ?」

レオンが聞いた。

「うん、その可能性は十分にあると思う」

「ユミルの奴もその仲間って事か! あの糞女っ!」

コニーが憎悪を剥き出しにしていた。

 

「待ってっ! でもユミルは超大型巨人の仲間じゃないと思う。だってわたしを助けてくれたんだよ! それに2体を始末していったようだし……」

 クリスタはユミルが巨人であったとしても、悪意があるとは思えなかった。

 

「そんなの、わかんねーだろ!? わざわざオレ達の前で巨人を始末して、敵じゃないと見せ付けているようだったぜ。演技の可能性だってあるんじゃないか!?」

「いい指摘だ、コニー! 俺も同じ意見だ!」

 ジャンが口を挟んだ。レオンも頷く。ユミルを敵とする流れは完全に出来ていた。

「……」

ミーナは何か思うところがあるのか黙ったままだった。

 

「あ、アルミン……、あなたはっ!」

 クリスタはユミルを貶める話題を大きくしたアルミンを睨み付けた。

「ユミルは、超大型巨人の仲間ではないと思う」

意外にもユミルを擁護する発言だった。

「おい、アルミン」

「このタイミングで自分の正体を晒すつもりはなかったと思うよ。クリスタの事を本当に大事に思っているから使ったんじゃないかな?」

(ユミルはやっぱりわたしの事を助けてくれたんだ……)

 クリスタはアルミンがそう言ってくれたのは嬉しかった。

 

「でも巨人化能力の事を隠していたのは事実だよ。分かっていたら超大型巨人に対しては違う対策だって取れたと思うよ。こんな酷い戦いにはならなかったのかもしれない……。エレンだって……」

 暗に今回の巨人の襲撃の責任の一端が、ユミルにあると言っているようだった。巨人の襲撃がなければエレンは死ななかっただろう。つまり、エレンの死にユミルは無責任とはいえないという事だった。

 

「こりゃあ、戦いどころじゃねーぞ! 直ぐに上官に知らせないとっ!」

 コニーは今にも走り出しそうだった。

「待てよ。敵前逃亡は重罪だぜ。下手に後方には下がれないぞ」

レオンの指摘はもっともだった。

「僕が報告に行く。僕は戦いではお荷物だ。抜けても一番影響がないのは僕だよ」

アルミンが名乗りを挙げた。

 

(アルミンを一人で行かしたらダメだ……)

 クリスタは直感的にそう感じた。アルミンは意外に頭が切れる。合流した時は酷く憔悴していたようだったが、エレンの仇だった巨人を討った事で吹っ切れたようだった。今のアルミンならユミル謀殺を提案しかねない。そんな怖さを感じた。

 

「わたしも行きます」

「おい、クリスタ。下手したら死罪になるかもしれないんだぞ!」

 レオンはそう言うが、クリスタは翻す気はなかった。

「報告は一人より二人の方が信憑性が増すと思うの。それにユミルの事を一番知っているのはわたしよ」

「わかった。行って来い」

班長のジャンはあっさり許可を出してくれた。ユミルの処遇を巡って激しく対立してしまった事もあるのだろう。クリスタがいても味方として信用できないという思いがあるのかもしれない。

 

 全員で戦死した仲間のハンスに黙祷を捧げた。その後、アルミンとクリスタは、後方に下がる事になった。しかし、直ぐ後ろからミーナが追いかけてきた。なぜか深刻そうな表情が浮かべていた。

 

「ちょっと、待って! アルミン!」

「どうしたの?」

「南門にいたわたし達だけど、調査兵団の精鋭と会っているのよ」

 ミーナ達は超大型巨人が出現した際、南門の壁上にいたと聞いていた。

「そういえば、そんな事、言っていたね」

「先輩からは口止めされているんだけど……」

「?」

「え、えーと……」

ミーナはちらっとクリスタを見た。どうやら自分は邪魔のようだった。クリスタはそういう気配を察するのは昔から得意だった。

 

「いいよ。わたしは聞かないから」

 クリスタは自らアルミン達とは距離を取った。二人は小声で話していた。調査兵団の精鋭が何を話したか興味がないわけではないが、秘密にはあまり首を突っ込みたくなかった。秘密はユミル一人で十分だった。

 

(ユミルとはもう友達じゃないの? こんな別れ方なんておかしいよ……)

 心の準備は何一つ出来ていない時に起きた、突然の別れだった。

 

 ユミルとは親友だったはずだ。いい所も悪い所も全部知っている。巨人化する力を隠していたのは事実だろう。だからといって悪意があるとは到底思えなかった。そもそもユミルが巨人化して自分を助けてくれなければ、今頃、クリスタは巨人の下敷きになって死んでいたはずなのだ。

 

(わ、わたしのドジのせい? ごめん、ユミル……)

 クリスタはユミルが去っていた方向をぼんやりと見詰る事しか出来なかった。




【あとがき】
ユミルは巨人化能力の持ち主だった。クリスタは間一髪救われるが、ユミルとは別れる事になってしまった。巨人に対する憎悪が強いため、結婚したい女子NO1のクリスタと言えどもユミルを庇いきれません。

ちなみにレオン、ハンスはオリキャラです。(ほとんど名前だけのキャラですが……)

報告にいくメンバーが班全員ではなく、アルミンとクリスタです。巨人化能力の分析もアルミンがします。また、ミーナが南門にいた調査兵団の精鋭(ペトラ)から口止めされていた内容をアルミンに伝えます。

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