進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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【状況説明】
壁の上に登り、破壊と殺戮を続ける鎧の巨人。駐屯兵団の兵士達はなす術がなかった。このままでは北門守備隊は壊滅するかと思われた時、鎧の前に立ち塞がったのは、一人の少女クリスタだった。これは鎧の巨人の中身を推察したアルミンの策だった。わずかな時間でも足止めに成功した。


第20話、狙撃

(ば、馬鹿な!? なぜここにクリスタがいる?)

 鎧の巨人の本体――ライナーは動揺していた。足元にいるのはクリスタだった。滅ぼすべき種族の中ではただ一人、想い入れのある少女である。クリスタだけは庇護したいと思っていたからだ。

 

 クリスタ達第31班は中衛の予備兵力に配置されているのは知っていた。撤退の鐘が鳴ったとしてもこの場所まで来るには早すぎるのだ。予想外の場所でクリスタに出会ったことで鎧の巨人は動きを止めていた。

 

 壁の上の交差点という絶妙の位置にクリスタはいる。直線状の壁の上ならクリスタを飛び越えるという選択肢もあったが、ここは高さ50mの壁だ。T字路という地形では転落する恐れがあった。

 

 クリスタは「もうやめて」と叫んでいた。巨人の前では一瞬にして踏み潰されるかもしれないのに、その小さな身体のどこにそのような勇気があったのだろう。

 

(もう戻れないんだよ、クリスタ。たった3年だけど楽しかったぜ……)

 霞む意識の中で、ライナーはクリスタを想った。

 

 一見、全く無傷に見える鎧の巨人だったが、ミカサの斬撃により、人間体は深手を負ったままだった。巨人化能力でもってしても応急措置をするのがやっとだった。完全回復するためには数時間は必要だろう。しかしそんなに暢気に構えてはいられない。調査兵団の主力が戻ってくるかもしれない。いくら堅固な鎧の装甲とはいえ、意識を失って動かなくなれば袋叩きにされるのは目に見えていた。

 

(悪いな、クリスタ。オレは戦士だ。戦士としての務めを果たさなければならない……)

 ライナーは苦渋の決断をするよりなかった。クリスタを踏み潰してでも前へ進もうと決めた時だった。次の瞬間、ライナーは死を認識するより先に意識が消滅していた。

 

 

 鎧の巨人――ライナーを死に至らしめたのは異世界の兵器だった。秒速1200mという超音速のスピア弾が、鎧の巨人で数少ない弱点――脇を貫いていた。そして千分の1秒後、搭載していた高性能爆薬が起爆、鎧本体が死を意識するより早く内部を完全に爆砕していた。

 

 

 

 クリスタの前で静止していた鎧の巨人。永い時間に思えたが実際は10秒足らずだった。空気を切り裂くような甲高い音が鳴り響いたかと思うと、続いて爆発音が鳴り響く。鎧の巨人は口や目から黒煙を吐き出しながら、仰け反ったようにゆっくりと傾いていった。地上50mの壁の上から、頭から逆さまに転落していく。大きな地響きが鳴り響いたので、そのまま地上に叩きつけれられたようだった。

 

(えっ!? なに?)

 クリスタは目の前で起きた事が理解できなかった。鎧の巨人が倒れたのだ。大砲ですらも効かないと言われていた敵が突然消滅していた。

 

 同時に街の中で、幾多の爆発音が轟いていた。トロスト区の街の上空に多数の打ち上げ花火が咲いていた。鎧の巨人が倒されたのとほぼ同じタイミングだった。

 

(どういう事!?)

 クリスタは察しのいいアルミンの顔を見た。アルミンも驚いた表情を見せていた。どうやらアルミンも理解不能の出来事のようだ。

 

(そういえば、超大型巨人は?)

 クリスタは街の中にいる超大型巨人を探した。超大型巨人も後ろ首から大量の黒煙が立ち昇っている。鎧の巨人とは、ほぼ時間差なしに何かの攻撃を受けたようだった。大量の水蒸気を撒き散らして姿を消すのではなく、轟音を立てて街並みの中に沈み込んでいく。やがて気化が始まったのか水蒸気が立ち昇り始めた。

 

 

「よ、鎧が倒れた!?」

「超大型もだ!」

「なんなんだ?」

「花火ってどういう事だ?」

 周りにいる兵士達も状況がつかめていないようだった。

 

「クリスタ、こっちだ!」

アルミンがクリスタを呼んでいた。アルミンと共に下を覗きこんだ。

 

 鎧の巨人は頭から逆さまに落ちたせいなのか、頭部がつぶれていた。身体の節々から黒煙と共に水蒸気が立ち昇っている。身動き一つしない。巨人なので頭が潰れても再生すると思われたが、いつまで経っても動き出すことはなかった。

 

「し、死んだのか? あの鎧が!?」

「超大型も死んだみたいだぞ! あっちは気化が始まっている」

「か、勝ったのか? 人類は?」

「誰か説明してくれよ? 今のはなんなんだ?」

 兵士達は勝利の実感がない為、戸惑っているようだった。

 

「ねぇ、アルミン。もしかして……わかっていたの?」

 クリスタは聞いてみた。

「もしかしたらと思ったけど……」

「え?」

「調査兵団の精鋭らしいけど、その人は南門で異変が起こるのを予想していたみたいだった。巨人化能力についても知ってそうなそぶりだった。だから鎧達に対して何らかの手を打っているんじゃないかとは思っていたよ。ここまでとは思わなかったけど……」

 アルミンはなんとなく予想していたようだ。

 

「じゃあ、今のは何なの? 大砲とも思えないし……」

「うーん、狙撃かもしれない」

「そ、狙撃!?」

「大型ライフル銃みたいなものかな? 大砲以上の破壊力でライフル以上の命中精度。でもそんなもの実用化できるんだろうか? 普通考えられないよ……」

 アルミンですらも理解不能の出来事のようだった。

 

「で、でも味方が撃ったんでしょ? わたし達の敵を倒してくれたものね」

「それならどうしてもっと早く……、そ、そうか、巨人のスパイがいると分かっているから隠していたんだ! 花火もそういう事か!?」

「えっ?」

「狙撃位置を隠したんだ。どこから撃ったのか分からなくする為にだよ。これ、考えた人は相当用心深いよ」

 アルミンは見知らぬ戦略家を褒めていた。

 

「でもどうやって? 狙撃と花火、完全にタイミングを合わせるなんてできるの?」

「うーん。難しいけど不可能じゃないと思う」

「じゃあ、どうしてもっと早く撃ってくれなかったの? こんなに死なせずにすんだんじゃ……」

 クリスタは鎧の巨人によって数100mに渡って破壊された壁の上を見遣った。100人単位で戦死者が出ているだろう。

「撃てなかったんじゃないかな? 一発で決めないと警戒されてしまう。外したらもうチャンスはない。だから鎧が静止するのをずっと待っていたんだよ。だとしたらクリスタは北門守備隊みんなの命を救った英雄だよ」

「英雄だなんて……」

クリスタは大げさだと思った。自分はただアルミンの言われたとおりにしただけにすぎないのだから。鎧の巨人を倒したのも謎の狙撃手である。とても自分の手柄とは言えないだろう。

 

「おお、アルミンじゃないか?」

 後ろから声がした。振り向くと駐屯兵団北門守備隊隊長のハンネスが立っていた。周りには部下らしい兵士を幾人も引き連れている。ハンネスはアルミンがシガンシナ区に住んでいた頃からの近所の顔馴染みだと聞いていた。エレンやミカサにも気さくに声をかけて来る人で、アルミン達はハンネスに好感を持っているようだった。

 

「は、ハンネスさん、じゃなかった。ハンネス隊長」

「ははっ、隊長は余計だ。昔のままのハンネスさんでいいぜ」

「じゃあ、ハンネスさん」

「おう、それでエレンとミカサは無事なのか?」

「ミカサは後衛にいたはずだから知らないよ。そ、それでエレンは……」

 アルミンは俯き、ちらっとのクリスタの方を見た。なにか縋るような想いが込められている視線だった。

「と、途中で逸れてしまって、その……」

 アルミンはとっさに誤魔化していた。先ほどの視線はクリスタには黙っていてくれという事らしい。

「そうか、無事だといいんだがな。心配するのもわかるが、二人とも簡単にくたばる奴じゃねーよ、な?」

「はい……」

アルミンは心苦しそうに答えた。

 

「にしても鎧と超大型を倒しちまうとは……、調査兵団の新兵器も凄いもんだな」

「調査兵団の新兵器?」

「ああ、隊長のオレですら知らないんだから間違いないだろ?」

 ハンネス達駐屯兵団の将兵は謎の新兵器を調査兵団のものと考えているようだった。

「そ、そうですね」

「そうそう、鎧を足止めした勇気ある少女兵2人がいるって聞いて飛んできたんだか?」

 そういってハンネスは周囲を見渡した。この場に少女兵はクリスタだけだった。

 

「少女兵2人!?」

 アルミンは唖然としている。クリスタは意味が分かってしまった。

「アルミン、可愛いから女の子に見えたんだね」

アルミンに聡明さを何度も見せ付けれた所だったので、クリスタは仕返ししたくなった。

「僕が女の子!?」

アルミンは気弱な少年に戻ったようだった。今ならクリスタのやりたい放題だった。クリスタはアルミンと腕を組んだ。

「く、クリスタ!? 何を?」

「ハンネス隊長。わたしとアルミン、こうして並んだら仲のいい女の子同士に見えますか?」

「うーむ、確かに見えるな」

ハンネスは頷きながら答えた。

「ひ、ひどいです。ハンネスさんまで……」

「ははっ、冗談だ。それよりお前達、司令部まで急いで来てくれ! ピクシス司令が会いたいそうだ!」

「うそっ!?」

 クリスタとアルミンは声が重なった。ピクシス司令は駐屯兵団の総指揮を取る人物であり、人類最重要防衛区であるトロスト区を含めた南側領土の司令官である。訓練兵の自分達からすれば雲の上の存在の人だった。そんな人の方から自分達に会いたいと言ってきているのだ。報告にいく予定ではあったが、そこまで厚遇されるとは思っていなかった。アルミンの策とクリスタの勇気は無駄ではなかったようだった。

(じゃあ、これでユミルを救えるかもしれない)

 クリスタの胸には期待が膨らんでいた。

 

「調査兵団だっ! 調査兵団が帰ってきたぞっ!」

「おお! じゃあ、オレ達は勝つんじゃないか!」

「ああ、勝てるとも! ちくしょう、あいつにも見せてやりたかったぜ!」

 周りにいる兵士達はお互い肩を抱き合ったり、手を取り合ったりして喜び合っていた。鎧の巨人を止める手段もなく、人類滅亡確定かと思われたところで、大逆転となったからだった。超大型巨人も倒すというおまけつきだった。さらに人類最精鋭部隊である調査兵団の帰還である。トロスト区の戦いが終わったわけではなかったが、形勢が人類側に傾いたのは確かだった。

 

 

 北門壁上付近にいる駐屯兵団精鋭班のイアン班長は、後衛の指揮を任していた第2班班長から報告を受けていた。訓練兵首席のミカサ・アッカーマンが、撤退の鐘が鳴った直後、独断行動で前線に向かったという。

 

「なぜ止めなかったのだ!? 街の中はもう巨人しかいないんだぞ! いくら腕が良くて一人ではいずれ喰われるのは目に見えているじゃないか!」

「す、すいません。彼女、動きが速くて……」

「それで、どちらへ向かった?」

「中衛の仲間のところだと思います」

 

 イアンはミカサを後衛に引き抜いた時の事を思い出した。恋人の彼と離れ離れになるのが辛そうだった。恋人の事が心配で、たまらなかったに違いない。結果だけを考えると後衛は戦闘がなかったのだから、恋人と一緒に居させてあげてもよかったのだ。もっともそれは結果論に過ぎず、あの時の状況から考えて自分の判断は間違っていなかったはずだ。

 

(そういえば鎧が現れたとき、柱を投げていたな? もしかして、それがアッカーマンか? それならアッカーマンは鎧達が出現したまさにその瞬間を目撃しているかもしれない)

 イアンはトロスト区の街並みを見遣った。巨人達はまだ後衛の方にはさほど来ていない。ミカサの生死は不明だが救出にいくなら今しかなかった。許可を貰っている時間はないだろう。

 

「第1班、集合せよ!」

 イアンは部下達を集めた。ミカサは鎧達の出現現場に居合わせた重要な目撃者であり、鎧達と最初に戦った勇敢な兵士の可能性が高い事を伝えた。直に巨人達がやってくるだろう。戦闘になる可能性は高い。ミカサ救出に向かうが正式な命令ではないため参加は任意だと言った。

 

「早く行きましょう! イアン班長」

「議論している時間はありません」

 部下達は誰一人、参加を辞退するものはいなかった。ミカサを助けたいという気持ちは皆持っているようだった。

 

「では行くぞ!」

 イアンの精鋭班第1班10名は、立体機動装置を使って街へと降り立り、ミカサが倒れているであろう例の家屋へと向かった。

 

 

 

 街の中央付近にある図書館、屋上の物置倉庫の中に彼はいた。ここは周りの建物より若干高くなっており、街内の北門方向を全て射程に捕らえる事ができる絶好の場所だった。倉庫の薄い壁に穴を開けて射点を確保していた。

 

 今朝方、他の伝令存在(ペトラ)に起動されてから、狙撃対象の一号標的(鎧)が静止状態になるまでひたすら待ち続けた。焦りや恐怖や緊張も彼には一切無縁だった。現在の上位存在(シャスタ)は己の事を『ミタマ』と呼ぶらしいが、彼にとってはただの識別コードに過ぎなかった。2ヶ月前にこの世界にやってきて、唯一指示をくれる上位存在の命令に従うだけだった。

 一号標的は全体的に装甲が厚いため己の射出兵装であるスピア弾では貫通は困難と予想されていた。弱点となる脇を狙撃するよう指示を受けており、壁の上で標的が静止状態となった事を確認。距離は800m、左から右へ風速2m。彼は即座に狙撃シーケンスに移行した。

 

 二号標的(超大型)は動きが遅い為、照準は簡単だった。巨体であっても弱点となる箇所は同じだからだ。こちらは距離300m。必中距離だった。

 

 両標的の狙撃を終えた彼は、事前に指示されていたとおり、館内に入り1階まで降りて、予め掘り進めてあった地下通路へと姿を消した。




【あとがき】
リタの”保険”が発動します。しかし、アルミンの機転がなければ狙撃チャンスはありませんでした。鎧を倒したのは、リタ達秘密結社とアルミン&クリスタという事になります。

花火の意味は狙撃位置を隠す為です。これで巨人側のスパイが街にいても射程や威力が判別できません。敵に情報を与えない事が最上の戦略とリタ達は考えています。
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