進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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【前話までのあらすじ】
謎の狙撃により、人類の怨敵――鎧、超大型は倒された。それで戦いが終わったわけではなく、トロスト区への巨人の流入は依然として続いている状態だった。

結果的に狙撃成功の呼び水となった、鎧を足止めという戦功を上げたクリスタとアルミンは、最高指揮官であるピクシス司令と謁見する運びとなった。

(side:クリスタ)


第21話、謁見

 ハンネスとその部下達は壁外に落下した鎧の巨人の残骸捜索に当たるとの事だった。気化して消滅してしまう通常巨人と異なり、絶命しても外殻だけは残っているようなので、貴重な標本となるだろう。

 

 クリスタとアルミンはハンネス隊長の部下の一人に連れられて、仮設の駐屯兵団総司令部にやってきた。北門壁上に天幕が張られ、周りには幾人もの衛兵が緊張した面立ちで警戒しており、ここに要人がいることを伺わせた。

 

 案内役の兵士が衛兵に用件を伝えた。

「司令がお待ちです。中にどうぞ」

衛兵は道を開けてくれた。

「オレは隊長の所に戻っている。失礼のないようにな」

案内役の兵士はクリスタ達にそう言い残して離れていった。

 

 アルミンは緊張で震えているようだ。これから会う人物はとんでもない要人である。とはいえ、きちんと事情を説明しないとせっかくの謁見の機会が台無しだった。

「アルミン、落ち着いて」

「だ、だ、大丈夫だよ。クリスタ」

アルミンは言葉まで震えていた。

(ちっとも大丈夫じゃないんですけど……)

「しっかりしてね」

クリスタはアルミンの肩をぽんと叩いた。一方、クリスタは案外落ち着いていた。鎧の巨人の前に立った事を思えば命を取られるわけでもないので容易いことだった。

 

 天幕の中に入った。中央には地図が広げられた机が置かれており、数人の参謀と中央に恰幅のいい人物が立っていた。ドット・ピクシス司令その人だろう。生来の変人とも噂されるが、駐屯兵団を束ねるだけあって放たれる威厳は格別なものがあった。

 

「司令! 例の訓練兵が来ました」

「おお、待っておったぞ」

 参謀の一人がこほんと咳払いした。クリスタ達に挨拶するように促しているようだった。

「訓練兵のクリスタ・レンズです」

「く、訓練兵のアルミン・アルレルトです」

クリスタとアルミンは敬礼した。

「司令のピクシスじゃ。ほう、お主らが鎧を止めたという娘達か。なかなかの美人じゃの。ん?」

「……」

 アルミンが固まっていた。どうやら司令には間違った報告のまま訂正されていなかったようだ。アルミンは少女のままになっていたらしい。

「すみません、司令。アルミンは一応これでも男の子なので……」

「い、一応って、クリスタっ!」

アルミンは口を尖らせていた。

「すまん、すまん。アルミンじゃったの。お主はなかなかの美少年じゃぞ!」

「え、えぇ、まあ……」

アルミンが気恥ずかしそうに俯いていた。

 

「さっそくで悪いが、鎧を止めた方法について教えてくれるかの?」

「そ、それについてなのですが……」

 アルミンは言いかけて途中で止めた。

「?」

クリスタはアルミンの顔を見た。アルミンは落ち着きが戻り、引き締まった表情になっている。聡明なアルミンになったようだった。

 

「人払いしていただけないでしょうか?」

「ほう?」

「おい、訓練兵! 我々は司令直々の参謀だぞ! 調子に乗るな!」

 参謀の一人が語気を強めた。

「まあ、待て。機密事項が含まれているという事じゃな?」

「はい、まず司令に話を聞いていただいてから、どうされるかは判断していただきたいと思います」

「よかろう。お前達は席を外せ」

ピクシス司令は物分りのよい人物のようだった。アルミンの申し出を即座に受けてくれた。

「し、しかし、訓練兵風情が……」

「命を賭して鎧を止めた者たちだ。訓練兵といえど敬意を払うべきじゃろ?」

ピクシス司令は参謀達にそう告げた。参謀達は不満そうだったが、命令に従い天幕から出て行った。残っているのはピクシス司令とクリスタとアルミンだけである。

 

「司令、巨人化能力についてはご存知でしょうか?」

 アルミンは司令に向き直ると本題に入った。

「いや、初耳だが……。そんな事があるのか?」

最高司令官であるピクシス司令は軍事情報を一手に握っているはずである。ユミルの件はまだ司令の耳には入っていないようだ。確かにユミルが巨人化したのを目撃したのは訓練兵第31班と第34班(アルミン、ミーナ)だけだった。

 

「はい、訓練兵第34班の生き残りである僕とミーナは、第31班と共に巨人と戦っていました。その戦闘中、104期生で巨人化した者がいました。その件で司令部に報告に来る最中に鎧達が出現したのです」

「ふむ」

「あの時点では、まだ街の後衛付近には巨人達は来ていませんでした。にも関わらず鎧達が出現しました。それで何者かが巨人化能力を使ったのではないかと考えました」

「なるほどな」

「僕は鎧と超大型の中身は巨人化能力を持つ同期の訓練兵だと推測しました。そこでクリスタなら鎧の気を引けるのではないかと思ったわけです。見てのとおり、クリスタは男子から人気のある子なので」

「ふむ、確かに将来はかなりの美女になりそうな娘じゃの」

「……」

クリスタは育った境遇もあって自分の容姿についてはあまり関心を持っていない。

 

 クリスタが特に反応を見せなかったので、司令はクリスタを無視して話を続けた。

「しかし個人を特定せねばその手は使えんじゃろ?」

「はい、名前はわかっていました」

 

 アルミンは手振りでメモに書くと言っていた。容疑者の個人名は重大機密なのでクリスタも知らない方がいい内容なのかもしれない。アルミンは手渡されたメモ用紙に書き終えると、メモを司令に手渡した。そしてこの情報が分かったのは、南門壁上にいた調査兵団らしき精鋭兵士が同期のミーナに名前を訊ねたからであると告げた。

 

「この3人なのじゃな?」

「はい、鎧が立ち止まった事で中身が彼だった可能性は高いと思います。彼はクリスタに惚れていましたから」

「倒した知性巨人は二体。となると残り一体がいるという事じゃの?」

「もう一人が巨人化能力を持つかはわかりません。たまたま一緒にいたところを目撃されただけかもしれませんし……」

「いや、持っていると考えるべきじゃな。鎧の方は立ち止まってくれたから調査兵団の新兵器で倒せたようじゃが、こちらに新兵器があると分かれば、そんなヘマはせんじゃろ?」

 

 未知の新兵器は一度使用すれば、既知の兵器となる。新兵器の詳細こそ巧妙に隠されてはいるが、鎧の巨人を倒せる戦闘力がある事を知れば巨人側が警戒してくるのは自明の理だった。

 

「アルミンとやら。残り一人についてはどうするべきじゃな?」

「気付かれないように監視をつけてください。ただし拘束は控えるべきです」

「なぜじゃ? 巨人化されては厄介じゃろ?」

 ピクシス司令は生徒に考えさせる教師のように話しかけてきた。

「拘束は困難だと思います。最初に巨人化した者は1秒足らずで巨人化しました」

「……やるなら一撃で殺せという事じゃな?」

「はい。くれぐれも慎重に事を運んでください。絶対に失敗はできませんから」

「わかった。この件はエルヴィンに相談した方が良さそうじゃ。あちら(調査兵団)の方が腕がいいのは揃っておるからの」

 確かに調査兵団はリヴァイを始め実戦経験豊富な優秀な兵士が揃っている。巨人化した場合の事を考えれば、調査兵団が適任だろう。

 

「それと最初に巨人化した者についてなのですが……、クリスタ」

 アルミンがクリスタに声をかけた。ユミルの件について話せという事だろう。クリスタは一歩前に出た。

「最初に巨人化したのは、わたしの親友のユミルです。でも決して人類に敵対してじゃありません」

ユミルが下敷きになりそうだった自分を助けてくれた事、自分が目の前にいても食べようとしなかった事、巨人と戦って前線に向かっていた事を伝えた。鎧達とは違って悪意はないことを強調した。

 

「だからお願いします。ユミルを助けてください」

 クリスタはピクシス司令に深く頭を下げて頼み込んだ。

「クリスタとやら。主のいうようにその者は確かに鎧達とは違うようじゃの」

「じゃあ……」

「駐屯兵団としては特別な処置はできん。調査兵団に保護してもらうように頼むべきじゃな」

「なぜですか?」

「巨人の調査なら、調査兵団の方が適任という事じゃよ。それに巨人化能力についてはあまり公にせん方がよいじゃろ? アルミンとやら」

「はい、そう思います」

アルミンは頷いた。

「ただでさえ巨人共に攻め込まれて不安になっているところじゃ。これ以上、不安を煽るわけにもいくまいて。幸い目撃した者が限られておる。お主らと第31班の連中だけじゃからな」

「後、第34班のミーナ・カロライナもです」

「そうじゃったな」

 

 ピクシス司令は呼び鈴を鳴らした。参謀の一人が天幕の中に入ってきた。

「お呼びでしょうか?」

「中衛にいた訓練兵達は、もう街の中から撤退は済んでいるはずじゃな?」

「はっ、そのはずですが……」

「直ちに伝令を出せ。訓練兵第31班、第34班は司令部に直ちに出頭せよと」

「了解しました」

参謀はすぐさま天幕の外に出て行った。

 

「ところで、アルミンとやら」

「はい」

「お主はなかなか鋭そうじゃの。どうじゃ、卒業後は駐屯兵団に来ぬか? わしの参謀になってもらいたいのじゃが……」

 ピクシス司令はいきなり勧誘を始めた。アルミンは司令に気に入られてしまったようだった。

「い、いえ。僕は最初から調査兵団を志願しています」

「クリスタとやらもかの?」

「はい、わたしも調査兵団です」

「そうか、残念じゃの……」

「すみません」

「まあ、勇敢なお主らの事じゃ。調査兵団でも十分やっていけるじゃろ」

「は、はい……」

 

 突如、大砲の音が連続して鳴り響いた。

「!?」

クリスタとアルミンは顔を見合わせた。巨人達が北門付近までやってきたのだろうか。

 

 さきほど呼びつけた参謀とは別の参謀の一人が天幕に入ってきた。

「報告します! イアン班長率いる精鋭班が無断で街の中に入り、巨人と戦闘になっています。壁上固定砲班が支援砲撃を続けております」

「無断で街に入った理由を聞いておるのか?」

「なんでも後衛にいた訓練兵を助けるためだとか……」

「後衛は戦闘はなかったんじゃろ?」

「はっ。その訓練兵が撤退の鐘が鳴った後、独断で動いた模様です」

「そうか、わかった」

参謀は天幕から出て行った。

 

「ミカサだ!」

 アルミンが唸るような声を出した。

「ミカサは後衛に引き抜かれたんだ。きっとエレンの事が心配になって前線に向かったに違いないよ」

「ミカサ、エレンに惚れていたものね」

「ちょっと違うんだけどね。エレンの事を家族だっていってたから」

「ふーん」

 クリスタは首を傾げた。クリスタ自身は親の愛情を知らずに育ったせいか、家族の感覚がよくわからない。知識としては知っているだけでそれで今までうまく見繕ってきた。

 

「司令、退席してよろしいでしょうか? 僕はミカサが心配です。様子を見ていたいと思います」

「わたしも同じです」

「そうじゃの。エルヴィンらが戻ってきたとき、話を聞くかもしれん。司令部の近くにおってくれ。くれぐれもここ(司令部)で話した事は他言無用じゃぞ」

「はい、心得ています」

「はい、わたしも心得ています」

 クリスタとアルミンは天幕から外に出た。

 

 

 司令部から少し離れた位置にある複数の砲台から街の方向に砲撃が行われていた。自分達のいる壁の方に向けて移動してくる兵士の一団と複数の巨人の姿が見えていた。

 

 リフトのある壁の麓にまで辿り着いた一団は誰かを担架に乗せているようだった。顔までは分からないが、おそらくミカサだろう。近づいてくる複数の巨人と精鋭班の兵士達が戦闘をしているようだった。

 

 

 クリスタ達が近づこうとすると二人の兵士が立ち塞がった。

「お前達、訓練兵だろ? 勝手な行動はするなっ!」

「で、でも、ミカサは僕の大事な友達なんです!」

「お前、あの訓練兵の仲間か? ったく、104期は自分勝手な奴ばかりだな! あいつが独断で動くからこっちはいい迷惑なんだ! イアン班長を危険な目に遭わせやがってっ!」

ミカサ救助に赴いた兵士もいれば、ミカサの独断行動に憤りを持っている兵士もいるようだった。

「もしイアン班長に万が一の事があってみろ? オレはお前らを絶対に許さないからな!」

「……」

「すみません、後でちゃんとお礼をいいます。だからミカサに会わせてください!」

「ダメだ、ダメだ! 下がれっ!」

兵士達は頑なだった。

 

「わたし達はさきほどまでピクシス司令とお会いしてました。それでもですか?」

 クリスタは司令の名前を出すことにした。駐屯兵団の最高指揮官と個人的に関係があるとなれば無下には扱えないだろう。少し卑怯な気もしたが、今はミカサに会うことが一番だった。

「な、なに?」

兵士達は動揺したらしく顔を見合わせていた。

「わ、わかったよ。通ってくれ」

諦めた様子の兵士達はあっさりと引き下がった。

 

 

 ミカサが引き上げられてくるリフトの傍に来た。ほどなくして担架に寝かされたミカサが壁の上に運ばれてきた。ミカサの傍にいる衛生兵がミカサの容態を診ていた。ミカサは服や髪も泥まみれで、頭には包帯が巻かれており、手足にも添え木がされている。血が滲んでいる包帯は見ていて痛々しかった。ぐったりとしているようで身動きはしていない。

 

「ミカサっ!」

 アルミンはミカサの傍に駆け寄った。クリスタもアルミンの後ろから付いていった。

「僕だよ! アルミンだよ。ミカサ、返事してよ!」

「……」

アルミンはミカサに呼びかけているが返事はなかった。アルミンがミカサの顔に触れようと手を伸ばした。

「患者に触れるな! 頭を強く打っている可能性が高い!」

衛生兵がアルミンを叱った。

「ミカサ……」

「……」

クリスタはじっとミカサとアルミンの様子を眺めていた。

 

(わたしは祈る事しかできない……)

 クリスタはそっと胸の前で手を合せた。アルミンは既に親友を喪っている。ここでミカサまで喪ったらアルミンは一人ぼっちになってしまう。いつの間にかクリスタはアルミンを真摯に心配していた。

 

「アルミン、クリスタ……?」

 ミカサは目を薄っすらと見開いていた。卒業成績首席の力強い彼女ではなく、弱々しい声だった。

「ミカサ!」

アルミンはミカサの手を握り締めていた。

「そう……、無事だったんだ……。アルミンが無事ならエレンも……。ああ、よかった……」

ミカサは安心したように微笑んでいた。技量最下位のアルミンが無事なのでエレンも無事だと早合点したようだった。

「そ、そうだよ。僕達は無事だよ」

クリスタはアルミンの手が震えているのに気付いた。クリスタはその意味が分かった。エレンの事はあくまで誤魔化すつもりなのだ。エレンは壮絶な戦死を遂げているが、重態のミカサに告げるのはあまりにも酷だろう。

 

「あ、アルミン……」

「何?」

 ミカサは誰かの名前を口にしたようだった。クリスタにはよく聞こえなかった。

「……あの二人、人類の敵……。鎧と……」

「ミカサ、あの二人と戦ったんだね」

ミカサは頷いた。

「わたし、二人を袈裟斬りにして……内臓まで斬った……。でも死ななかった……。巨人化した……。あ、あいつらは?」

「そうだったんだ。でも心配しなくていいよ。鎧も超大型も死んだから」

「!?」

ミカサは驚いた様子だった。それも無理もなかった。クリスタもあの謎の狙撃が行われるまでは、あの2体を倒せるとは想像すらもできなかったのだから。

 

「調査兵団の新兵器があったんだよ。あいつらは黒こげになった。人類は勝ったんだよ」

「そ、そうだったんだ……」

「だから安心して身体を治して……」

「わたし、あいつらの話、盗み聞きした……」

 

 それからはミカサの声はほとんど聞こえなかった。アルミンがミカサの口元に耳を当てて聞きとっていた。

 

 やがてミカサの首が垂れた。

「ミカサ! ミカサっ! 返事してくれよっ!」

衛生兵はミカサの脈を調べていた。

「意識を失っただけだ。邪魔だから下がってくれっ!」

衛生兵はアルミンを叱責した。

「病棟に運ぶぞ! 急げっ!」

衛生兵が周りの兵士達に指示し、ミカサは壁の反対側にあるリフトに乗せられてウォールローゼにある野戦病棟へと運ばれていった。

 

「……」

 クリスタ達はしばらく無言でミカサを見送っていた。

 

 

「イアン班長、ご無事で何よりです」

 周りにいた兵士達の様子が騒がしくなった。ミカサ救出に赴いたイアンの精鋭班が壁の上に戻ってきたのだった。

 

 クリスタはアルミンの手を引いて、イアン班長の元に駆け寄った。

「あ、あの……、イアン班長でしょうか?」

「そうだが、君は?」

「ミカサの同期、クリスタ・レンズです。ミカサを助けてくださってありがとうございました」

「あ、ありがとうございました」

クリスタに続いてアルミンも礼を言った。

 

「いや、大した事はない。そもそもアッカーマンを無理矢理後衛に引き抜いたのは私だからな。恋人と離れ離れにさせて悪かったとは思っている。だがこれも任務だ」

「わかります」

「それで、アッカーマンの恋人は無事なのかな?」

「!?」

 クリスタは思わずアルミンの顔を見てしまった。アルミンもとっさに答えられず無言で俯いていた。ミカサの命の恩人に対して誤魔化しきれなかったのだった。

「そうか……、可哀想な事をしたな」

イアンはクリスタ達の様子でミカサの恋人(エレン)の悲運を悟ったらしかった。

「今はアッカーマンの回復を祈ろう」

イアンは元の持ち場へと戻っていった。幸いミカサ救出に赴いた兵士達に死者はいなかったようだ。イアン達が救助に赴いたのが早かったからだろう。最後に巨人達が襲ってきた事を考えると少しでも遅かったらミカサは助からなかったかもしれない。

 

 

「クリスタ」

「なに?」

「人類の危機はまだ終わっていない。それがわかったのはミカサのおかげだよ」

「えっ?」

「今日の戦いで明らかになった事があるんだ。巨人達は兵器だ。人類を滅ぼそうとする勢力の兵器なんだよ。そして鎧や超大型が親玉というわけじゃないと思う」

「そ、それじゃ……」

「この戦いは絶滅戦争なんだ。種族の存亡を賭けた果てしない戦いなんだ」

 

 巨人との戦いの根本を揺るがしかねない大問題だった。巨人は力の強い害獣のようなものとして考えられてきたが、アルミンのいうように兵器ならば前提が崩れてしまう。外部の敵勢力は種族を皆殺しにする絶滅戦争を仕掛けてきているという事になる。

 

「今日の戦いに勝っても、それはただの局地戦に過ぎないって事ね」

 アルミンは頷いた。

「アルミン、わたしじゃなくて司令に話すべき事よ」

「そうだったね。クリスタは頭がいいから聞いてもらいたくて。つい……」

「もう……」

聡明すぎるアルミンに言われると、嫌味に聞こえてしまう。

「ミカサの事は心配だけど、僕達には何もできないからね」

「じゃあ、行こう」

クリスタ達は司令部に戻る事にした。

 

 街に帰還した調査兵団の首脳陣が直にやってくるだろう。ユミルの件は調査兵団に依頼するしかなかった。巨人化能力の解明は直近の課題だから協力してくれるだろうが、問題は山積みだった。

 まずユミルの生死も不明だった。街中から兵士達は撤退し、現在も街への巨人の流入は続いており、ユミル捜索に赴ける状況ではないだろう。親玉クラスの鎧と超大型を倒したとはいえ、トロスト区を奪還する事ができるのだろうか。今だ先の見えない状況は続いていた。




【あとがき】
ピクシス司令との謁見は概ね成功、アルミンはスカウトされそうになった。

イアン達精鋭班の決死の救助活動のお陰で、ミカサは生還する。しかし重態で危険な状態。アルミンの呼びかけで一時的に意識が戻り、重要な情報をアルミンに伝えた。結果としてアルミンは、最高度の軍事機密を知っている立場になります。


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