進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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街に帰還してきた調査兵団主力。団長のエルヴィンはリヴァイと共に、ピクシス司令と会う事になった。

一方、リタ達はボスを討伐した現場に留まり、調査を続けている。


第26話、困惑

 調査兵団の主力は、トロスト区の東側――ウォールローゼの壁を登って壁内へと帰還してきた。トロスト区の西側の壁の上は、壁を登ってきた鎧の巨人によって甚大な被害を蒙っていたため、接近する巨人がいても支援砲撃を行うことが不可能だったためだ。

 

 駐屯兵団の兵士から鎧の巨人、超大型巨人の出現を聞かされた。団長のエルヴィン・スミスはそれでよく内門が破壊されなかったものだと訝ったが、謎の新兵器によって2体とも討伐されたという。花火が打ち上げられたのとほぼ同じタイミングで2体とも体内が爆発したとの事だった。

 

「そちらの技術班が開発した新兵器なのでしょう?」

「ま、まあ、それは答えられないな」

「誤魔化さなくてもいいじゃありませんか? 開発者は英雄ですよ」

 エルヴィン自身も知らないことだった為、明言は避けた。ピクシス司令ならば何か知っているだろう。エルヴィンは部隊の指揮をミケ・ザカリアス分隊長に委ねた後、兵長のリヴァイと伴って駐屯兵団司令部へとやって来た。

 

 天幕の中に入るとピクシス司令からは「待っておったぞ」とばかりに歓迎された。

 

 ピクシス司令から聞かされる事実は衝撃的な事ばかりだった。巨人化能力を持つ人間がいた事、駐屯兵団の被害も甚大で、街で防衛戦を展開した前衛および中衛全体では4割を失ったという。また鎧の巨人による破壊でこちらも100人近い死傷者を出している。特に悲惨だったのは避難路で起きた群集事故だった。数十人もの死者が出てしまったという。巨人の攻撃ではないので、防げたかもしれない犠牲だと思うとやりきれなかった。

 

 エルヴィンとピクシス司令の見解の相違点は、鎧達を倒したという謎の新兵器についてだった。

 

「では、本当にお主のところの新兵器ではないのか?」

 ピクシス司令は念を入れて質問してきた。

「ああ、違うはずだ。ハンジら技術班で開発していたのは飛行機械だ。今回の壁外遠征は、偵察気球の実戦証明としてシガンシナ区の空中偵察を企図していた。それ自体は成功し、空中偵察のおかげで敵情を把握し、素早い帰還が実現できたと思っている」

「……」

リヴァイは無言のまま、エルヴィンら最高指揮官同士のやりとりを聞いていた。

 

「はて、となると妙じゃの? お主らが鎧と超大型を倒したと思っておったのじゃがの……」

「使われた新兵器は、大砲なのですか?」

「いや、どうもよくわからんのじゃ? 大勢の者が目撃していたはずなのじゃが、同時に打ち上げられた花火に気を取られて、気が付いたら鎧も超大型も体の中から爆発したように倒されていたというのが真相じゃ」

「花火か? 面白い事を考える奴がいるな」

 エルヴィンは思考を巡らした。新兵器とは直接関係はなさそうだった。ただタイミングを完全に同期させていることからして、新兵器を使った者が欺瞞を意図したようだった。

 

 テーブルに広げられている街の地図には鎧と超大型が倒された位置が赤いピンで示されていた。

 

「超大型は後ろ首から黒い煙が上がっていたと聞いたが……」

「そうじゃが……」

「そのとき、超大型巨人は北を向いていたのだな。となると攻撃方向はこちらか?」

 

 2体はかなり離れた位置にいたはずなのにほぼ同時に攻撃を受けている。攻撃範囲の広い射撃武器に類するものと思われた。だとすれば使われた弾の数は1発づつ。2体とも一撃で倒す威力と命中精度、1キロという想像を絶する極大射程、そして速射性。新型の大砲だとすれば驚異的な性能だった。エルヴィンは自分が思案した新兵器の性能を述べた。

 

「それはもう軍事革命じゃな」

「だがそれぐらいの性能でなければ説明がつかない」

「となると巨人同士で仲間割れでも起きているんじゃろか?」

 ピクシス司令は疑問を口にした。

「……いや、それならわざわざ欺瞞の為の花火など使ったりはしないだろう。やはり人類側勢力の何者かが新兵器を使ったと考えるが……」

「そうじゃの……」

「……」

ピクシス司令もエルヴィンも考え込んでしまった。

 

「なあ、エルヴィン。ペトラの奴が何か知っているんじゃないか?」

 リヴァイがそう切り出した。

「ああ、私もそう考えている。何か情報は持っているだろう。本部には早馬を出したから直にやってくるだろう」

 

「もう一つ、重要な話があるんじゃ」

 そう言ってピクシス司令は、怪しい訓練兵3名の話をした。巨人化能力を持っている疑いがあり、そのうち2名が巨人化した事を訓練兵の一人が目撃したという。残る1名も要注意という事だった。

 

 さらにエルヴィンらが司令部にやってくる直前、ハンネス隊長から緊急報告があったという。鎧の巨人の残骸の中から、立体装置装置の残骸と原型を留めていない遺体を発見したのだった。焦げた服の一部には徽章がついており、訓練兵である可能性が濃厚だという。

 

「これは訓練兵アルミンの推測どおりだったんじゃがな」

「アルミン?」

「ああ、なかなかどうして鋭い少年じゃぞ。鎧の中身を訓練兵だと見破ったのは彼じゃからな。容疑者を特定した上で、その者が好意を寄せている少女を使って足止めしたそうじゃ。鎧がそこで動きを止めたからこそ、新兵器の攻撃が成功したのじゃろう」

「会ってみたいものだな」

「外で待たせているからすぐに会えるじゃろ?」

 

「それで容疑者の名前の出所は?」

 エルヴィンが尋ねた。南門で最初に超大型巨人が出現した際、調査兵団の精鋭兵士が敵と戦っている。その女兵士からだという。訓練兵ミーナ・カロライナがその3人の名前を聞かれ、その事をアルミンに話したとの事だった。

 

「イルゼとか言っておったぞ」

 イルゼは2年前の壁外調査で還らぬ人となっている。

「それもペトラだ。間違いない。イルゼはアイツとは仲が良かったはずだ。簡単にわかる偽名を使うとな」

リヴァイはすぐさま女兵士の正体を見破ってしまった。

「ぺトラか……」

やはり鍵を握るのはぺトラのようだった。ただぺトラは調査兵団本部の研究棟にいるであろうから、早馬で伝令を聞いて駆けつけてくるには今しばらく時間がかかるだろう。

 

「それとな、訓練兵アッカーマン。彼女は後衛におったのじゃが、巨人化する前の容疑者……と戦ったそうじゃ。奴らに致命傷を負わせたにも拘らず巨人化したと言っておったの」

「なるほどな、どうやら巨人化能力は人間体をも再生する力があるということか。仕損じは許されないという事だな」

 ミカサの一件で判明したことは、巨人化能力を持つ敵兵を殺すには一撃で即死させる必要があるという事だった。

 

「そうじゃな。そして訓練兵アッカーマンはの、容疑者どもの会話を盗み聞きしておったらしい」

 人類を侮蔑するような発言や、巨人を操っているような発言があったという。アルミンの予想では巨人は敵勢力の兵器として使われているらしいとの事だった。

 

 人類を滅ぼそうとする敵勢力の存在。つまり巨人はただの害獣ではないという事だった。知性を持った存在に率いられているとすれば相当厄介である。人類は思ったより遥かに危険な状態におかれているようだ。例の新兵器がなければ、本当に危なかっただろう。新兵器の詳細について是が非でも知る必要があった。

 

「訓練兵アルミン達に会ってみるか?」

「そうだな? 興味深い話が聞けるかもしれない」

 ピクシス司令は衛兵にアルミン達を呼んでくるように伝えた。

 

 

 

 リタとハンジは、雌の獣巨人(ボス)の死骸や人質となった人々の遺体を調査していた。敵陣営に関する情報を少しでも得る為だった。周辺警戒は生体戦車(ギタイ)のタマ達、盗聴作業はシャスタが引き継いでいる。

 

 リタは雌の獣巨人の本体の死骸を調べているハンジに話しかけた。

「ハンジ、人質のいた荷馬車だが、中にはダイズや絵本、裁縫道具などが積まれていた」

 リタは自分が調査した結果と推察を述べる。

「人質とはいえ、さほど劣悪な環境下ではなかったようだ。遊具などがあるところを見ると、人質に一定の配慮はされているようだな。戦士が成果を挙げれば会わせるつもりだったのかもしれない」

「なるほどね。飴と鞭といったところね」

ハンジは頷いている。

 

「そっちは何かわかったか?」

「ええ、わたしの方もいくつかわかった。まずこの猿だけど、甲冑を着込んでいる。そして腰には剣を帯刀し、水筒や食料まで所持しているわ」

「知性があるのは確実。甲冑のせいで即死に至らなかったのも頷けるな」

 甲冑を着込んだまま巨人化する。うなじが弱点なのだからそれを保護する意味では、単純ながら優れた方法かもしれない。立体機動とブレードで巨人討伐を行うこの世界の兵士達にとって、この事実を知らなければ思わぬ不覚を取った可能性があった。

 

「水や食料を持参しているのは巨人体のままでも摂取するという事か……。本体はさすがに水や食料無しには何日も生きていられないからな」

 巨人体のまま行動半径を広げるという意味だろう。となるとかなり遠くからやってきた可能性もあった。

 

「立体機動装置は?」

「それはなかった」

「奴らには必要ないものかもしれないな」

 立体機動装置が必要なのは、超大型巨人の容疑者のように壁を登ったりする必要がある時だけだろう。そもそも立体機動を使いこなすには相当な訓練が必要だった。

 

 

「リタ、いい知らせがありますよぅ」

 通信機からシャスタの明るい声が聞こえてきた。

「なんだ?」

「巨人達の行動が無秩序になりました。以前のように街には向かっていません」

振動センサーによる索敵網からの分析だった。(トロスト区から南方50キロの範囲でおよその巨人の群れが二次元分布がわかる)

「動きを止めている奴はいないか?」

「大丈夫ですよぅ。ちゃんと履歴も確認しましたよぅ。あっ、でも街の傍にいる巨人は引き続き街を目指しています」

「だとしても街に流入する巨人の数はたかが知れている。わかった。引き続き周囲を警戒してくれ」

 

 リタはハンジに話しかけた。

「ハンジ、巨人の群れが街に向かうのを止めたそうだ」

「リタ、やったじゃない! やっぱり、こいつが誘導していたんだね」

ハンジは嬉しそうに答えた。

「チェスでいえば敵のキングを討ち取ったようなものだからね。これ以上巨人が流入しないのであればトロスト区奪還もなんとかなりそうだね」

「いや、まだだ。チェスと違って敵を全滅させるまで戦いは終わらない。敵には大駒が最低でも1枚残っている」

「アニ・レオンハートね。……仕方ないわね。転向はまあ……無理でしょうね。家族を人質にされていたとはいえ、洗脳もされているでしょうし……」

 

 アニを転向させる事が出来れば、強力な味方となるだろうが、人質が全員死亡している状況では交渉材料(カード)がなかった。もしアニを慕う少女リーゼを救えていれば可能性はあったかもしれないが、仮定の話をしても仕方がない。すでにぺトラを通じて謀殺の手配は整えていた。

 

「奴以外にも工作員はいると思うが、どうする?」

「そうねぇ、それが一番の問題なのよね」

「……とりあえずは情報封鎖だな。街から南方向へ向かう人間、もしくは巨人がいれば、それは敵の連絡役だ。絶対に逃がしてはならないだろう」

 リタは今のところ、それしか対策が浮かばなかった。




【あとがき】
団長と司令の会見。やはりぺトラは追求される立場のようです。(いろいろと動いていますから)

リタ達が誘導役のボスを倒した事で、巨人の流入が止まり、トロスト区奪還の目処が立ちました。現時点ではリタ達しか知りませんが重要な情報です。

また、雌の獣巨人の本体(猿)は甲冑を身に纏ったまま巨人化しています。巨人化能力に精通している勢力ですから、うなじの弱点を補強する手段はとっているはずと考察しました。
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