進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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 戦士(知性巨人)が全て討伐され、人類優勢下の奪還作戦なので、見所があまり無いため、詳細は省きます。

作戦終了後、団長と司令は総統府に赴き、ザックレー総統と謁見します。



第4章 反攻準備
第31話、次回壁外調査


 日没後、トロスト区から北西20キロ地点のある集落において、50人近い村人が殺戮されるという虐殺事件が発生した。突如、1体の巨人が出現、10m級と思われるその巨人は農家を片っ端から破壊していき、逃げ惑う村人を踏み潰していったという。

 

 この虐殺から逃れた人が触れ回った事で、トロスト区の内門が破られたとのデマが広がり、避難する人が避難する人を呼び込み、集団パニックに近い状態となった。混乱の最中、多数の略奪事件や強盗傷害事件などを発生する異常事態となった。混乱の最中、多数の負傷者が出たが、巨人による虐殺事件以外に死者が出なかったのは幸いといっていいだろう。

 事態を悟った南側領土の全権を持つピクシス司令は直ちに戒厳令を施行、夜にも関わらず兵士達を各村に派遣し、事態の沈静化に努めた。

 

 また司令部より虐殺事件は民衆の不安心理に付け込んだ強盗団が偽装したものであると発表された。この虐殺を引き起こした真犯人たる知性巨人(アニと密会していた謎の男)は、追跡していたイアンら精鋭班によって壁外へ逃亡した事が確認されていたからである。(人類側は知らなかったが、リタ達秘密結社軍によりこの巨人は討伐されていた)

 

 第104期訓練兵は、男女別に主に班単位で分散して、近くの研修施設や集会場に軟禁されていた。

 

 翌日早朝、トロスト区奪還作戦が再開されたが、訓練兵達は待機を命じられたままだった。昼過ぎには、トロスト区内に侵入していた巨人の全てが、調査兵団と駐屯兵団により掃討された。また掃討戦の最中、巨人5体が捕獲された。(7m級1体、5m級2体、3m級2体) 掃討戦完了直後、事前に北門付近に待機させていた大量の資材を積んだ荷馬車群を南門へと運び込み、急ピッチで穴の閉塞工事が行われる事となった。また作戦終了後、訓練兵は軟禁を解かれ、遺体回収などの後処理に動員させられていた。

 

 トロスト区攻防戦は、人類が初めて巨人に勝利した戦いと言われる。奪還戦における損失はおよそ百名、防衛戦を含む攻防戦全体の損失は九百人近くとなる。犠牲自体は大きかったものの、人類の怨敵たる超大型巨人ならびに鎧の巨人を討伐している事で、世間一般には歴史的大勝と発表された。

 

 ただし、人類単独で巨人達に勝利できたわけでなかった事が後に大きな波紋を呼ぶ事になる。すなわち”ユーエス軍”なる壁外勢力の存在だった。

 

 

 奪還作戦完了後、ピクシス司令とスミス団長は、戦況報告のためにただちに王都ミットラスに向かった。ユーエス軍と接触した二人のうちの一人、モブリットを同行させている。もう一人のハンジは同行せず報告書のみを団長に提出していた。ハンジは巨人研究の第一人者でもあり、捕獲した巨人の生体実験を行うには無くてはならない人物だったからである。巨人を捕獲したその日から、ハンジ主導による生体実験が行われていた。

 

 総統府にて、ピクシス司令とスミス団長はダリス・ザックレー総統に報告書を提出。戦闘経過、巨人化能力者、潜入工作員(スパイ)、敵勢力、偵察気球、ユーエス軍、村落における虐殺事件など、報告事項は多岐に渡った。

 

 

(side:エルヴィン)

 

 王都ミットラス内において調査兵団団長のエルヴィン・スミスは、ピクシス司令と共に馬車に乗り込んでいた。総統府から再出頭を求められたからだ。馬車の中で二人は話していた。

 

「ユーエス軍の事は、世間一般にはまだ公表してはいないようだな」

「決められん事が多すぎるからじゃろな」

 

 王都の新聞各紙には、巨人によるトロスト区襲撃の記事が依然としてトップに載っていた。既に奪還作戦が完了して3日が過ぎていた。調査兵団ならびに駐屯兵団工兵部の活躍により、巨人達を街の壁際に誘き出して、主に大砲で仕留めた事などが書かれていた。

 

 やはり英雄的に書かれていたのは、リヴァイ達調査兵団主力部隊だった。巨人を百体以上討伐とある。全く嘘というわけではなかったが実際よりもかなり誇張して書かれていた。市街地は立体機動装置の性能を十分に発揮できる環境で、絶好の狩場である事は確かだった。リヴァイをはじめとする精鋭班は自分達の戦績よりも兵団全体の技量向上を優先して、経験の浅い兵に実戦経験を積ませる為にサポートに徹していたのだった。

 

 鎧の巨人、超大型巨人を倒したのは、極秘開発された新兵器であると記事には書かれている。ユーエス軍の事は一言も触れていない。彼らの存在こそが人類の命運を左右するかもしれないのだが、友好的勢力とは言い切れない所に、総統府の迷いがあるようだった。

 

 ユーエス軍と接触したモブリットは拘束されて、ほとんど目隠しされたままだったが、数秒だけ目隠しが外れた事があったらしい。そのときにユーエス軍の姿を目撃していた。彼が描いたスケッチによると、彼らは全身を覆う鎧を纏った兵士達が幾人もいて、大型の刀剣類で武装しているようだった。ただ立体機動装置らしきものが見当たらなかったという。

 

「ユーエス軍か? どうもよくわからない相手だな。巨人相手に鎧などが役に立つのか?」

「役に立つから着ておるのじゃろ?」

「そうだとは思うが、ユーエス軍に関しては謎が多すぎるな。例の特務兵を発見することはできなかった」

 奪還作戦を実行するに当たって、全兵士には怪しげな人物が街中にいれば報告するように命じていたが、結局、何も発見できなかった。新兵器を装備した特務兵がいたのは確実だが、その姿を一切目撃されていない。まるで煙のように消えてしまったといっていいだろう。

 

 馬車が総統府に到達後、二人はさっそく総統の待つ執務室へと赴いた。ザックレー総統は、すぐさまエルヴィン達を迎え入れて面談する運びとなった。

 

「まず結論から言わせてもらおう。調査兵団は早急に壁外調査を実施し、ユーエス軍と接触を図ってもらいたい」

「壁外調査ですか?」

「そうだ。現状ではユーエス軍に関する情報があまりにも不足している。かといって彼らを無視することはできまい。巨人を操る敵勢力の存在がある以上、彼らの意図を正確に探る必要があるだろう。可能ならばその新兵器を我々人類に提供してもらいたいが、無償でくれるほどお人よしな連中だとは思えん。どのような交渉が可能なのかを探るのが目的だ」

「わかりました」

 エルヴィンは答えた。ザックレー総統の判断は納得のいくものだった。敵勢力に対する軍略上、最重要事項は友好的勢力との連携であるのは間違いない。

 

「ピクシス、トロスト区の門は完全に塞いでしまったのか?」

「ああ、もう二度と使えんじゃろ?」

「遠回りになりますが、カラネス区からの出発を希望します」

「わかった。それは認めよう。それと全区の第104期生をその壁外調査に参加させたまえ。兵科選択問わずだ。拒否する者は兵籍剥奪処分とせよ」

「なっ?」

 さすがのエルヴィンも驚いた。兵科を問わず新兵全員を参加させる壁外調査なぞ過去に聞いた事がないからである。全区の第104期生というと再起不能の傷病兵を除けば総勢500人程になるだろう。新兵全員を壁外調査に同行させよ。およそ正気とは思えない措置だった。

 

「南側領土の第104期訓練兵のうち、4人が巨人だったと報告を受けておる。この事実から鑑みて巨人側の潜入工作員(スパイ)は訓練兵に紛れ込んでいる可能性が一番高い。そのふるいを掛けるためだ。ユーエス軍はどうやらスパイを識別する方法を持っているようだ。ユーエス軍と接触して生きて帰ってくれば、スパイ疑惑は晴れたものとしよう」

「し、しかし、新兵がそれほど多くては巨人の襲撃があった場合……」

「死ぬだろう。だが壁内に巨人側の潜入工作員(スパイ)が居続ける方が遥かに人類にとって有害であると考える。新兵全員を調査兵団の一時預かりとするように命令を出す。彼らに通達する方法などはお前達に任せよう」

 ザックレー総統の言葉に迷いはなかった。彼の判断基準は人類にとって利か害かである。潜入工作員(スパイ)の洗浄を何よりも優先するつもりらしかった。

 

 その他の事案については、概ねエルヴィン達の主張が認められたものとなった。偵察気球についてはトロスト区の駐屯兵団で試験運用が開始する運びとなった。試験結果が良好なら他地区の駐屯兵団でも採用される事になるだろう。

 調査兵団への予算も大幅に増額された。さらに偵察気球を駐屯兵団が調査兵団から購入するという形が認められたため、ハンジ達技術班への予算割り当ても期待以上のものとなった。また次回の壁外調査には駐屯兵団側からの兵員の貸し出しも認められた。

 

 

 総統府を退出した後、エルヴィンはピクシス司令と共に馬車で宿舎へと戻った。予算面での厚遇はともかく、最大の懸念は次回の壁外調査についてだった。新兵五百人を伴った壁外調査、うち調査兵団志望者は1割もいるかどうかで、ほとんどは士気の低い者たちだ。高度な連携が必要な長距離索敵陣形を教え込む時間もなく、また嫌々参加させられる彼らは習得する気すらもないだろう。新兵なので戦闘力もほとんど期待できない。つまり大量のお荷物を抱えて壁外調査を行わなければならないのだ。困難な壁外調査になることは容易に想像がついた。

 

「異常としかいいようがないな」

「それでもやるしかないじゃろ? 駐屯兵団(ウチ)からも腕利きを貸そう。一人でも多くの新兵が戻って来られるよう努力はするべきじゃろな」

「それは助かる。後はユーエス軍の出方次第か?」

「そうじゃな。文言はともかくさほど悪い奴らには思えんのじゃが……」

「かといって、総統も仰ったように無償で助けてくれるほどお人よしな連中ではないだろう。人類(こちら)に彼らを満足させる事ができる取引材料があるのかすらもわからない」

 

 未知の壁外勢力――ユーエス軍。情報が少なすぎるため、現在は正体不明の存在だった。

 

 

(side:???)

 

 王都ミットラスのとある場所で、影達が話し合っていた。

 

「甘すぎるのではないか? 調査兵団や駐屯兵団の連中の名声が高まるばかりではないか?」

「仕方あるまい。今はユーエス軍とやらを壁内に引き込む事が肝要だ。壁外にいては手が出せない」

「ったく厄介な連中だ。壁の中に入ってくればいかほどでも料理しようものがあるものを……」

「そのための次回の壁外調査だ。新兵の少年少女五百人、ユーエス軍の出方を見る餌というわけだ。見殺しにされたところで主に貧民出身の者たちだ。痛くも痒くもない。大勢の犠牲者が出れば調査兵団は評判を落す事になるだろう」

「なるほどな。うまく考えたな」

 潜入工作員(スパイ)洗浄を名目に、お荷物となる新兵五百人を調査兵団に押し付けて壁外へと追いやる。死のうが生きようがどちらにしても自分達の益になるという謀略だった。




【あとがき】
王政府の保守派?は、潜入工作員(スパイ)洗浄を名目に、お荷物となる新兵五百人を調査兵団に押し付けて壁外へと追いやる事を企む。犠牲が大勢出れば調査兵団の名声が失墜することを見越している。ある程度、意図を知っているはずの総統もスパイ洗浄を最優先と考えているので、受け入れて正式に命令を下した。

これにより、クリスタ、アルミン、ミーナ達訓練兵全員ならびに他地区の訓練兵も全て第57回壁外調査に強制参加させられる流れとなった。

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